公務での人材確保や働き方の多様化に対応するための具体策を提示、「選択的週休3日」導入も勧告
 ――人事院が公表した「公務員人事管理に関する報告」と職員の勤務時間改定の勧告

国家公務員の職場整備

人事院(川本裕子総裁)は8月7日、給与勧告とあわせ、国家公務員として働く職員一人ひとりが躍動し、Well-beingが実現される公務を目指すための取り組みをまとめた「公務員人事管理に関する報告」を公表した。人材確保や組織パフォーマンスの向上、ワーク・ライフスタイルの多様化に対応した環境整備について、方針や具体策を示した。あわせて、職員の勤務時間の改定も勧告し、希望する職員が、1カ月の総労働時間は維持したうえで、週1日を限度に勤務時間を割り振らない「ゼロ割振り日」を設ける、いわゆる「選択的週休3日」の働き方ができるよう求めた。

<報告の基本的な考え方>

公務に有為な人材を誘致・育成するために人材確保や環境整備施策が不可欠

「公務員人事管理に関する報告」ははじめに、現状を踏まえた公務員人事管理の基本的な考え方を整理。そのうえで、課題解決に向けた取り組みとして、大きく3点を提示している。

基本的な考え方では、社会経済情勢や国際情勢が激変するなかで、国民の利益を守り、世界最高水準のサービスを提供し、活力ある社会を実現するために、「行政の経済管理力、さらには国家を運営する力を高め、行政を担う公務組織の各層において有為な人材を誘致し、育成することが不可欠」だと指摘。しかし、現場では国家公務員採用試験の申込者数減少や若年層職員の離職増加が進むなど、公務における人材マネジメントに関する課題が山積していることから、「課題解決の鍵は、異なるバックグラウンド、キャリア意識及び人生設計を持つ職員一人一人が高い意欲とやりがいを持って躍動でき、Well-beingが実現される環境を整備すること」だと言及した。

そのうえで、課題解決に向けた取り組みとして、①公務組織を支える多様で有為な人材の確保のための一体的な取り組み②職員個々の成長を通じた組織パフォーマンスの向上施策③多様なワークスタイル・ライフスタイル実現とWell-beingの土台となる環境整備――の3点を提示。また、データ・デジタルの人材マネジメントへの効果的な活用にも着目し、民間の活用実態を把握・分析しつつ、「データ・デジタルの活用の在り方について、内閣人事局やデジタル庁、各府省とも緊密に連携しながら検討を深めていく」とした。

なお、公務員人事管理のあり方については、「聖域を設けることなく骨太かつ課題横断的な議論を行うため、各界有識者による会議を設置し、2024年秋を目途に最終提言を得る」として、議論・提言を踏まえて抜本的なアップグレードを実行していくとしている。

<取り組みの大枠>

民間と公務の知の融合や採用試験方法など3点に整理

報告は続いて、課題解決に向けた取り組みの大枠3点についてそれぞれ、施策の方向性と具体的な対応方法を整理している。

公務組織を支える多様で有為な人材の確保のための一体的な取り組みについては、採用試験を通じた新規学卒者などの確保・育成だけでなく、民間企業などでの多様な経験、高度な専門性を持つ人材をより一層公務に誘致するために、「採用手法、人材育成、給与等の在り方について一体的な取り組みを推進していく必要がある」との方向性を提示。

具体的な対応方法を、(1)民間と公務の知の融合の推進(2)採用試験の実施方法の見直し(3)今後の公務に求められる人材の戦略的確保に向けた取り組み――の3点にまとめた。

民間人材を政策・事業の実施を担う係長級で採用する試験を創設

順にみていくと、民間と公務の知の融合の推進では、民間人材を政策・事業の実施を担う係長級の職員として採用する試験を創設するなど、実務の中核を担う人材を積極的に誘致したり、官民人事交流で得られる効果等を経験者へのアンケートをもとに把握し、官民双方に向けた積極的な情報発信を強化することなどを示した。また、民間人材が早期に職場や業務の遂行に適応し、能力や知見を発揮できるよう、オンボーディング研修の拡充や好事例の共有の実施も打ち出している。

採用試験の実施方法の見直しでは、現在実施している対面での採用試験について、社会的にデジタル化が進むなかで受験しやすい方法を実現する観点から、オンライン方式を活用した採用試験の実施に向けて、課題などを整理しつつ検討するとしている。

今後の公務に求められる人材の戦略的確保に向けた取り組みでは、優秀な新規学卒者や民間人材、理系人材などを獲得するために必要な採用戦略のあり方を多角的な観点から議論する場として、有識者を交えた意見交換スキームを創設することを提案。

また、潜在的志望者層が公務員給与に対して抱く従来のイメージを変えるため、新卒初任給の引き上げや係長から本府省課長補佐級までの俸給表の最低水準の引き上げといった、給与水準の改善とその後の役割・活躍に応じた給与上昇の拡大の重要性などを提言している。なお、2024年に向けて、本報告事項を骨格とする措置を講じられるよう、一体的に検討作業を進めることも注記した。

組織パフォーマンスの向上では自律的なキャリア形成と、個々の力を組織の力につなげることを目指す

大枠の2つめの職員個々の成長を通じた組織パフォーマンスの向上施策については、職員が持つ自身のキャリア形成に対する意識を成長意欲や仕事へのモチベーションにつなげ、組織全体の活力やパフォーマンス向上の原動力にしていくために、「職員一人一人が目指すキャリアの明確化」や、「能力・実績に基づく登用やメリハリのある給与処遇等の推進」などが必要であるとの方向性を示した。

具体的な対応方法は、(1)職員の自律的なキャリア形成・主体的な学びの促進(2)個々の力を組織の力へつなげる取り組み――の2点にまとめた。

20歳台、30歳台の若手職員を対象としたキャリア支援研修を拡充する

職員の自律的なキャリア形成・主体的な学びの促進では、20歳台および30歳台の若手職員を対象としたキャリア支援研修の拡充や、マネジメント層のキャリア支援力向上への取り組みの拡充のほか、職員の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを行える環境づくりの一環として、職員が学びに利用できる研修や研修教材等を内閣人事局や各府省と協力して整理・一覧化することなどを示している。

個々の力を組織の力へつなげる取り組みでは、人事評価により職員の能力・実績を的確に把握して任用・給与などへ適切に反映することや、職員の納得感を向上させるために制度内容を周知するなど、必要な指導・支援を実施することを提起。職員の人事評価等の管理におけるデジタル活用についても、内閣人事局などと緊密に連携を深めて検討するとしている。

そのほか、管理職員における俸給体系のさらなる職責重視化や超過勤務に対する手当支給拡大など、職務上の役割の重さなどを給与に反映し組織への貢献にふさわしい処遇を確保する施策を提言した。

今年度から段階的に定年が引き上げられるなかで、65歳定年の完成を視野に入れた60歳前・60歳超の給与水準のあり方については、2024年以降も見据え、他の人事管理制度と一体で、引き続き検討するとしている。

多様なワークスタイルに向けた取り組みと職員のWell-beingの土台づくりを打ち出す

多様なワークスタイル・ライフスタイル実現とWell-beingの土台となる環境整備については、個々の職員の事情を尊重した働き方を可能とする人事・給与制度の整備を推進することは、職員がやりがいを持って生き生きと働くことができる環境づくりや公務職場の魅力の向上にも資するとして、「職員の希望や事情に応じた時間や場所での勤務を可能とする、より柔軟な働き方を推進する取り組み等も求められる」との方向性を提示。

具体的な対応方法は、(1)多様なワークスタイル・ライフスタイルを可能とする取り組み(2)職員のWell-beingの土台づくりに資する取り組み――の2点にまとめた。

職員の健康確保、希望に応じた働き方を可能とするフレックスタイム制の見直しなどを提言

多様なワークスタイル・ライフスタイルを可能とする取り組みでは、職員の健康確保および希望・事情に応じた働き方を一層可能とするためのフレックスタイム制の見直しや、勤務間インターバルの確保といった制度改革の推進、仕事と生活の両立支援制度の整備・周知などを指摘。また、職員の選択を後押しする給与制度上の措置として、扶養手当の見直しや、今回の給与勧告で言及されたテレワーク関連手当の新設も示した(※給与勧告の内容については本号の別記事で紹介)。

職員のWell-beingの土台づくりに資する取り組みでは、国家公務員の職場環境における長時間の超過勤務という負のイメージの払拭に向け、2022年4月に新設した勤務時間調査・指導室における超過勤務時間の適正管理等の調査・指導の推進や、国会対応業務の改善などを実施し、超過勤務の縮減に努めることを強調した。

また、官民調査による公務の健康管理体制状況の分析などを通して、各官署における健康管理体制の充実や効果的な健康管理施策の推進に向けた検討を行ったり、ゼロ・ハラスメントに向けて、本府省・地方機関の課長級以上の職員などに対し、ハラスメント防止対策に関する自身の役割の重要性の理解促進を図る研修を実施することなどを示した。

フレックスタイムは対象を一般職員まで拡大

なお、この報告で述べたフレックスタイム制の見直し事項の1つとして、人事院は同日に「職員の勤務時間の改定に関する勧告」を行った。

現行ではフレックスタイム制が適用される職員のうち、子の養育または配偶者等の介護をする職員等(育児介護等職員)に限定して、勤務時間の総量は維持したうえで、週1日を限度に勤務時間を割り振らない日(ゼロ割振り日)を設けることができるとしてきたが、この対象を一般職員まで拡大する。勧告は、その実現に向け、「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律」の改正を行い、2025年4月1日から実施するとしている。

改定後は、希望する職員は、フレックスタイムを活用して1カ月の総労働時間を維持しつつ、週1日を限度に、土日祝日以外に休暇を取得する、「選択的週休3日」の働き方ができるようになる(休暇を取得した分は、他の勤務日の労働時間を長くすることで総労働時間を維持する)。

人事行政のあらゆる施策を総動員して重層的な取り組みを/川本総裁

川本総裁は同日の談話で、公務における人材確保の危機的な状況に触れ、「これまでの取り組みを不断に検証する」と述べるとともに、報告で述べた課題について、「人事行政のあらゆる施策を総動員して重層的な取り組みを進め、最大限のシナジーを創り出していく」としている。

(調査部)

2023年10月号 国家公務員の職場整備の記事一覧