公務員に求められる知識・スキルの可視化などに向けた検討を
 ――公務員白書がデジタルを活用した人材マネジメントに向けた論点を提示

国家公務員の職場整備

今年6月に人事院(川本裕子総裁)が発表した2022年度の年次報告書(公務員白書)では、第2部において、「公務組織の人材マネジメントにおけるデータやデジタルの活用の可能性」と題し、調査の再分析や、民間企業などにおけるデータやデジタルを活用して個々の職員の希望や事情に応じたきめ細かな人材マネジメントを実現している事例をもとに、公務員制度で検討すべき論点整理を行っている。業務分野や役職段階ごとに求められる知識・スキルをデータとして蓄積し、育成や配置することや、評価や育成など、複数の人事プロセスに関するデータを連動させて活用することなどを検討項目として提言した。

職場の満足の高低にかかわらず「業務内容」に高い関心

白書の第2部は、職場に対する若年層職員の意識を具体的に把握し、課題を浮き彫りにするため、2020年度「公務職場に関する意識調査」(一般職の国家公務員約28万人が対象)の結果を再分析した。具体的には、「府省庁の職場満足度」と「府省庁の職場推奨度」における回答者を、「低評価グループ」と「高評価グループ」に分類したうえで、それぞれ評定理由に直結する単語を、出現頻度などをもとに抽出した。

それによれば、「府省庁の職場満足度」の「低評価グループ」では、「業務量」が第1位に抽出され、「異動」「残業」「業務内容」と続いた。一方、「高評価グループ」では、「業務内容」が第1位で、「環境」「人間関係」「やりがい」などと続いた。いずれのグループにおいても「業務内容」の順位が高く、高い関心が持たれていることがうかがえた。

「公務の課題」に関する単語も抽出した。結果をみると、「低評価グループ」では、「評価」が第1位にあがり、「業務量」「環境」「残業」などと続いた。一方、「高評価グループ」では、「環境」が第1位で、「業務量」「職場環境」「効率化」などと続いた。

民間大企業の従業員よりも低い自分の職場を推奨する意識

また、今年3月に、国家公務員500人、民間企業従業員500人を対象に実施した「働く人の意識に関するアンケート――企業と公務の比較」の結果から、両者の職場や仕事に対する意識の比較を行った。

結果をみると、職場満足度については、両者で大きな違いは見られなかった。職場推奨度では、国家公務員は、従業員300人以上の企業の従業員に比べ肯定的回答の割合が低かった。

業務効率化への評価を問う設問への回答では、民間企業の従業員ではおおむね規模が大きくなるほど肯定的回答の割合が高かったが、国家公務員は、300人以上の民間企業に比べ、肯定的回答の割合が低かった。

人事配置については、国家公務員は、民間企業の従業員に比べ肯定的回答の割合が低く、否定的回答の割合が高い結果となった。

従業員を大切にする風土に対しての肯定的回答割合は民間大企業が高い

人事異動への納得感、人事評価への納得感については、ともに両者で大きな違いは見られなかった。従業員を大切にする風土については、従業員500人以上の民間企業は、肯定的回答の割合が国家公務員に比べ高く、否定的回答の割合は国家公務員よりも大幅に低かった。

転職に関する意向では、民間企業の従業員ではより若い層が積極的に転職を志向しており、国家公務員では、転職志向がある者の割合は、30歳台以下、60~65歳で大きかった。

「あなたは、業務に関する知識・スキルの保有状況を組織内で共有・公開したいと思う」という問いに対して、回答者全員を母集団とした結果で国家公務員と民間企業従業員を比較したところ、両者の回答はほぼ同じ傾向を示した。

「あなたは、上司や人事担当者には、従業員(職員)一人一人のキャリア志向、成した成果などについて、もっと丁寧に向き合ってほしいと思う」という問いに対する結果を積極的な転職志向がある者でみると、肯定的回答の割合は、国家公務員、民間企業従業員ともに、回答者全員を母集団とした結果よりも高かった。

自分の職場への評価が低い若年層はマネジメントに対する改善意識が強い

これらの調査結果と、各府省人事担当部局に対して行ったヒアリングの結果から、白書は、課題と対応の方向性を整理。明らかになった事実として「自らの職場を低く評価した若年層職員は、業務量に応じた人員の配置などの業務管理と評価やキャリア形成などの人材マネジメントに改善の余地があると強く捉えている」ことや、「積極的な転職意向がある若年層が働く上で重要視しているものは国家公務員と民間企業従業員との間で大きな差はなく、『自分の知識・スキルの専門性を高め、活用できること』と回答する者の割合が高い」こと、また、国家公務員も民間企業従業員も、若年層ほど、キャリア形成における人事担当部局や管理職員からの支援に対するニーズが強いことなどを指摘した。

また、積極的な転職意向がある者は、自身の知識・スキルを高めることを重要視していることから、「彼らに対しては、本人のスキル向上等、能力開発の支援というアプローチが人材流出防止の有効打となる可能性があると考えられ、その前提として一人一人のキャリアへの志向等を把握することが有効」と強調。人事異動や人事評価の際には、「その根拠や更なる成長のために期待することについて丁寧に説明・助言するなどのきめ細かい行動がより一層求められているものと考えられる」などと述べた。

効率的な人材マネジメントの必要性も訴え、職員個別の状況をふまえたきめ細かい人材マネジメントを効率的に行うための基礎として、過去の経験、当該職務経験を通して得られた知識・スキルの保有状況、短期的・中長期的なキャリア志向、評価期間中の評価事実などの、職員に関するさまざまな情報を蓄積し、職員本人と管理職員や人事担当部局が「職員のキャリア形成や育成等にそのデータを活用することができる状態にすることは有益」と強調した。

着手すべき論点は5項目を提示

最後に、民間企業の取り組み事例や外国の事例もふまえ、白書は、公務組織において検討に着手すべき論点として、①データを活用した組織改善②求められる知識・スキル等の可視化③府省内の職員情報を活用しやすくする環境整備④人事業務プロセス間におけるデータ共有・活用の強化⑤各府省人事担当部局の体制増強――の5項目を提示。

データを活用した組織改善については、公務組織においても、近年、エンゲージメントサーベイを実施する府省は増えてきているが、実施後の具体的な組織改善の取り組みに結び付けられている府省は一部だとし、自組織のエンゲージメントの経年変化に着目して組織ごとの課題を特定し、具体的な対応策を検討・実施し、その結果を次回のサーベイで評価するという「組織改善のPDCAサイクル」を実施していくことが重要だとした。

求められる知識・スキル等の可視化については、「知識・スキル等の可視化は、職員個別の状況を踏まえたきめ細かい人材マネジメントを行う基盤となる取組であり、公務組織における実施可能性についても探っていくべきである」とし、国家公務員に共通して求められる知識・スキル、あるいは府省内の業務分担や役職段階ごとに求められる知識・スキルの可視化や、職員各人が保有している知識・スキル、これまでの業務経験等についての情報を可視化することの是非やその方法等について、検討する必要があると提起した。

効率的なマネジメントの基盤として情報の電子的蓄積を

府省内の職員情報を活用しやすくする環境整備については、情報が容易に検索できる形で管理されていないことなどを問題にあげ、「職員個別の状況を踏まえたきめ細かい人材マネジメントを効率的に行う基礎として、職員に関する様々な情報が紙ではなく電子的に蓄積されること、上司・部下がそのデータをキャリア形成や育成等に容易に活用できる状態としておくこと等が重要」と強調した。

人事業務プロセス間におけるデータ共有・活用の強化では、人事評価、人材育成、キャリア開発、人事異動など、従来は個別に行っていた複数の人事業務プロセスによって得られるデータを連動させ、活用する動きなどの実施を、公務組織でも検討すべきと訴えた。

各府省人事担当部局の体制増強では、定期的なデータ収集・管理や、データ活用にかかる管理職員支援に要する各府省人事担当部局の人手が現在よりも増加すると考えられるとして、体制増強の必要性を強調した。

(調査部)

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