自由に使える水曜日「cocone my time / my day」制度導入で、勤務日の週1日を自由に過ごせるように制度改正
 ――ウェルビーイングに取り組むココネ

企業取材

ココネ(東京都・世田谷区)は、「いい会社を作る」という創業者の経営理念を受け継ぎ、社員に「報酬」「やりがい」「健康」「時間」の4つの軸において、成果を還元するウェルビーイング施策に取り組んでいる。2023年1月には、「社員に時間を還元する」との考えから、新制度「自由に使える水曜日『cocone my time / my day』」を導入した。

グローバル化、ブロックチェーン化を強化

近年、インターネット上の仮想空間(メタバース)に、アバター(デジタル空間におけるユーザーの分身ともいえるキャラクター)を作成することで、リアルな現実世界に加えて、デジタル世界での生活を楽しむ者が増えている。ココネは、2008年創業。「メタバース」という言葉が世に流通する前から、スマートフォン向けのアバター着せ替えアプリ『ポケコロ』()などのサービスを提供してきた。企画から開発・デザイン・マーケティングを全て一貫して自社で運営(内製化)しているのが強みだ。現在、同社グループが制作してきたファッションアイテム(デジタル資産)は100万種、その流通数は166億個を超え、全世界の顧客累計は1億3,000万人に及ぶ。

画像:図

アバター着せ替えアプリ『ポケコロ』は、7万点以上のアイテムからファッションや部屋などをコーディネートできる(図は同社提供)

近年では、事業のグローバル化に向けて、ブロックチェーン技術の開発にも注力。ブロックチェーン技術とは、ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースのこと。もともとは「ビットコイン」等の暗号資産     のために開発された技術だ。同社グループでは、ユーザー同士のデジタル資産の取引拡大を見据え、2022年6月に、ブロックチェーン『MOOI Network』を自主開発し、サービスを開始。さらに、グローバル化に対応するため、2023年5月には、グループを再編しホールディングス化し、持株会社cocone ONEを設立した。同グループは、日本国内の他、韓国、シンガポール、アメリカなど7カ国8都市に拠点を展開している。その中核企業である同社は、サービス部門の開発運営を担っている。

同社の社員数は、2023年8月時点で534人。職種内訳でみると、デザイナーが44.6%、企画・運営が24.3%、エンジニアが19.3%、コーポレート(財務等)のバックオフィス系が11.8%となっている。各種サービスを制作するデザイナーやエンジニアの比率が高いことが特徴だが、ここ数年は、グローバル展開、ブロックチェーン技術の開発を踏まえ、企画・運営の比率も高まっている。社員の女性比率が高いことも特徴だ。正社員の男女比は6割弱が女性で、とくにデザイナーでは9割以上を占める。

ウェルビーイング施策で、社員に「報酬」「やりがい」「健康」「時間」を還元

創業当初から、同社は、社員のウェルビーイング施策に注力してきた。これは、創業者である千 龍ノ介氏(現・取締役会長)の「いい会社を作りたい」との想いから始まっている。「いい会社を作ればいい人が来る。いい人が来ればいいサービスができる。いいサービスができればお客様が集まってくださる」

創業以来、この想いを実現するため、「報酬」「やりがい」「健康」「時間」の4つを社員に還元する、というウェルビーイング施策に取り組んできた。オフィスにある社員食堂「ココネデリ」は、ウェルビーイング施策の中核だ(2015年に運営を開始)。調理スタッフは委託ではなく、直接雇用で、社員の健康に配慮したランチメニューが無料で提供されている。社員食堂の1日あたり平均利用者数は約300人と盛況だ。社員食堂には、カフェ、Barも併設されている。カフェのバリスタやBarのバーテンダーも直接雇用。カフェのコーヒー等は無料。夕方からオープンするBarではオリジナルカクテルなども安価で提供されている。その他にも、就業時間内に利用可能なジムやマッサージルームも設置(所属トレーナー、施術者は15名)。専任のトレーナーや施術者が常駐し、社員の健康指導やトレーニングを行っている。全社員の約7割がこれまで1度はジムの利用経験があり、身体面でのウェルビーイング施策の要となっている。これらの場は、社員の語らいやコミュニケーションの活性化にも寄与している。

自由に使える水曜日「cocone my time / my day」を2023年1月に開始

同社は、創業の想いでもある「いい会社を作る」ことへの1つの解として、「社員に時間を返していく」との考えから、2022年6月、「週休2.5日制度」を導入した。正社員・契約社員を対象として、給与の減額等なしに、毎週水曜日の午後(14:30~18:30)を勤務したとみなす制度だ。導入理由は、社員が自由に使える時間を増やすこと。当初より、「休み」ではなく、勤務日とみなす制度として設計された。

2023年1月には週休2.5日制度を運用した経験から、新制度として、自由に使える水曜日「cocone my time / my day」が導入された。働いたとみなす時間を、午後半日から1日に拡大したのだ。ただし、新制度では、「週休」という言葉は使わなかった。

「会社としては、『週休2.5日制』という名前が誤解を与えたかもしれない、との反省もあった。当初から、『休み』ではなく、『働いたとみなして半日自由に使ってもよい』、という制度だった」(渡邉辰也・広報チーム長)。そのため、新制度では、「週休3日ではないけれど、水曜日を自由に使える新制度」として、社員に周知することにした。

「休みではない」という共通認識が重要であり、勤務日である以上、繁忙期や新サービスの開始時期等では、上司が出社を指示することも可能な仕組みとなっている。「『休みではない』という前提にしたのは、会社や事業には『ここが勝負時』のようなタイミングがある。時間は自由に使えるけれど、そういった勝負時にはみんなで一丸となれる強さを保てることが重要だった」

年間約40日が自由な時間として利用可能に

新制度の概要としては、正社員・契約社員を対象として、祝日がない週の水曜日を、就業以外にも自由に使ってよい1日としている。2023年では、その該当日は41日。所定労働時間として、対象の水曜日を8時間勤務したとみなすことから、給与減額等はない。同社の労働時間制度はフレックスタイム制だが、該当日はみなし制により、出退勤管理の打刻の必要はない。水曜日に設定されたのは、「週のちょうど中間にあたることから、働き方のメリハリをつけやすい」との意味もあるという。

これにより、年間約40日を、出社やリモートでの就業だけではなく、仕事以外でも自由に使えることとなる。制度設計上、家族との時間を増やすことや、役所や病院への用事を済ませること、美術鑑賞やセミナー参加など業務に還元できるような過ごし方も推奨されている。また、水曜日は会議がほとんど開催されないため、制作だけに集中できることや、その他に、デザイナーやエンジニアがそれぞれ集まり、勉強会を開催することで、他部署のメンバー交流の場としての活用も期待されている。

「自由に使える水曜日」で、仕事面で良い影響、仕事以外で心身的余裕も

では、新制度導入により、社員は、水曜日をどのように過ごしたのだろうか。社内アンケート(2023年2月時点。対象者(正社員・契約社員)471人のうち回答280人)によれば、該当日の過ごし方として、「フリータイムとして業務以外の過ごし方をしたことがある」のは71.1%、「フリータイム利用なし(基本的業務)」は28.9%だった。1度でも業務以外の過ごし方をした社員は7割に及んだ。

具体的な過ごし方(複数回答)としては、「通常業務をしていた」が7割強、「趣味の活動や友人と過ごすなどしていた」が4割強、「勉強やセミナーなどに参加していた」が4割弱、「家族と過ごしていた」が2割強、「会社の仲間と仕事以外のことをして過ごしていた」が2割弱だった。一方、制度開始以降の業務のアウトプットの変化としては、質の面では、「上がった」が39.4%、「変わらない」が57.6%、「下がった」が3.0%。量の面では、「増えた」が20.8%、「変わらない」が76.1%、「減った」が3.0%となっていた。

利用例では、仕事面で「水曜日が全て自分の時間となることで、それまで溜まっていたタスクが消化できた」など、制作に集中できたとの回答や、「同じ職種のメンバーと社内の勉強会・交流会に活用できた」というものもある。仕事以外でも、「映画鑑賞や美術鑑賞をしてインプットに努めた」「料理やお菓子作りなど新しいことにチャレンジして知見を広げた」「子どものお世話など家族と過ごす時間が増えた」などの活用もみられた。

社員の評価について、「アンケート結果からも、制度導入は、基本的に好評で、アウトプット面の質・量でみても、上がった、変わらないというものばかり。業務に集中しやすく、スケジューリングもとりやすくなり、心身ともに余裕がでてきたようだ。総じて、仕事面では良い影響が出た」などと、その効果を語る。

職種別共有会は、知見・スキルの共有にメリット

「職種別共有会」を、エンジニア、デザイナー職種において月1度、開催している。登壇者がテーマを決めて、数十分〜1時間程度のプレゼンを行ったり、各事業に配属されている担当者からの情報共有を行う。共有会は、全社的に周知され、正社員に限らずその職種全員の参加が基本となっている。自席でのオンライン傍聴が可能で、共有会の動画は事後も視聴できる。

エンジニアでは、2016年頃から自主的に共有会が行われてきた。もともとエンジニアには、職種柄、日進月歩の技術革新をフォローするために、自主的に学習し、その知見を共有する土壌があったという。デザイナーも2022年秋ごろから知見の共有のために、共有会が開催されるようになった。例えば、デザイナーのテーマでは、「Unity(ユニティ)における2Dアニメーションの作り方」など様々だ。Unityとは、ゲーム開発のためのエンジン(ゲームを作るための支援ツール)のこと。共有会では、Unityの使い方や、3Dデザインに関するテクニックを、登壇者が操作画面を投影しながら説明を行うこともあるという。

同社では、近年の事業拡大に伴い、提供するサービスも多様化し、事業内容(サービス)ごとにチームが分かれている。とくにデザイナーでは、事業内容(サービス)によって、使用するツール(道具)やスキルが異なることもある。企画から開発・デザイン・マーケティングまでを事業部内で一貫して行うのが同社の特徴だが、それゆえに、事業部内で業務が完結し、事業部間での社員の交流や、知見や情報の共有が難しい面があった。共有会は、各事業部を横串でつなぐ情報共有の仕組みとして活用され、社員の交流や、知見・スキルを共有するうえで重要な機会になっているという。

ウェルビーイングで社員への還元を強化し、働きたくなる環境整備を

今後のウェルビーイングの取り組みとして、渡邉氏は、「社員に還元するものを増やしていきたい。例えば、健康面で、オフィス内に保健室までは設けているが、社員の心身の相談に応えられる常駐の医師や保健師を配置できたらよい」などと語る。現在、同社では、事業のグローバル化に対応していくため、社員が一丸となって、成果を高めていく体制がいっそう求められている。社内食堂やジムの設置などのウェルビーイング施策は、社員の出社、対面での作業を促す仕組みとしても機能している。今後も、ウェルビーイング施策に取り組むことで、働きたくなる環境作りに注力していく。

(奥田栄二、田中瑞穂)

企業プロフィール

ココネ株式会社

本社所在地:
東京都世⽥⾕区若林3丁⽬1-18
代表:
代表取締役社長CEO 高谷慎太郎
従業員数:
ココネ株式会社(単体)534人(2023年8月時点現在)、ココネグループ全体:1,052人(2022年12月時点)
事業内容:
ソーシャルエンターテイメントサービス事業 、Web3サービス開発運営事業等
認定:
経産省「健康経営優良法人」認定企業(2022)など

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