チームワーク主義による「人づくり」で社員の早い成長を促す
 ――オリジナルグッズ制作会社のアイグッズ

企業取材

オリジナルグッズを企画制作するアイグッズ(東京都・渋谷区)では、人の入れ替わりが激しいグッズ業界のなかで、チームワーク主義の考え方のもと、社員の成長を会社の成長につなげる豊富な取り組みを実践している。新人社員でもすぐにチームメンバーに組み入れたり、経験が浅い社員でも大きな仕事を「まずはやらせてみる」文化が根付いている一方、頻繁な先輩社員との面談と自分の仕事を振り返る機会によって、社員どうしで互いの成長を支え合っている。

2016年設立だがすでに7,000社以上の納品実績

アイグッズは、フルオーダーメイドのオリジナル販売用グッズやノベルティ(無償アイテム)の企画生産事業やマーケティング支援事業などを展開しており、2016年に設立した比較的新しい会社だ。

ただ、グッズの企画生産では、すでに大手企業も含め7,000社以上の納品実績がある。取り扱ったグッズの種類は、アパレル、化粧品、エンターテインメント、飲料、キャラクターなどさまざま。

同社の強みは、企画・デザインから製造・品質管理まで社内一貫体制であることを生かし、独自の品質管理システムで高品質を実現・維持できることだ。社内に専門デザイナーがおり、アジアの製造工場では現地駐在社員が自ら生産管理を行っている。例えば、グッズ製造に使う素材や生地は、グッズディレクターの社員が現地に赴いて品質をチェックしながら直接収集する場合もある。

社内一貫体制により、無駄なコストや工期を圧縮できるだけでなく、顧客企業は何度もサンプルの試作を依頼することができ、要望に添ったグッズを安心して制作してもらうことができる。「お客さまリピート率」90%という高い数字がこのことを裏付けている。

すでに「働きがいがある」「成長できる」企業として数々の受賞

売り上げは右肩上がりで推移しているが、社員規模は、アルバイトなどを含めて60人程度。社員の7割は女性で、平均年齢は28歳と若手が多い。社員の職種割合は、「企画営業」が45%で、「デザイナー」が20%、「広報・マーケティング」が15%などとなっている。同社のグッズ制作では、企画営業やデザイナーなどの社員で5人程度のチームを編成して進めるというのが、標準的な仕事の仕方のイメージだという。

設立からまだ7年足らずしか経っていないにもかかわらず、すでに「働きがいのある会社」として外部機関から数々の表彰を受けるとともに、社員が成長できる会社として知られるようになってきている。その理由は、同社の理念をみるとよくわかる。

理念は「あふれる愛で、想いをカタチに。」 。アイグッズの「アイ」は「愛」の意味が含まれていることにここで気づく。同社は、仲間どうしが「愛」を持って協力し、チームとして成長していく組織体制をとることを宣言しており、「信念」や「愛」を持った育成をすることで、若手にも早くから挑戦の機会を与えるとうたう。

近年は、人事管理の世界でも「自律」といった言葉が流行するが、同社も新しい企業だから、やはり「個人」重視かと思えばむしろその反対の考え方であり、チームワーク主義で、社員がお互いに協力することを重視する。社員の行動指針には、会社・チームのために考え、発言・行動するという意味の「利他成長」という言葉もみられる。

会社も成長するにはチームワークで社員全員が成長していくことが不可欠

どうしてチームワークを重視するのか。同社はこう説明する。

「グッズ業界は本来、即戦力が求められる業界で、新卒社員がいきなり活躍するようなことはめずらしい。しかし、人材の入れ替わりが激しい業界だからこそ、私たちは新卒社員からの人づくりに力を入れている。私たちが新卒を採用して1から会社を作る理由は、根底に『お金儲けできれば良い』『会社をただ大きくしたい』と思っていないから。ゆっくりでもいいので、木の年輪のように永く(=社会にずっと求められる)太く(=社会に強く求められる)あり続けたいという思いがある。また、そういった会社に成長できなければ、私たちがめざす社会貢献の幅も広がらない。全員が全員の目標を達成させることで、社員とともに会社も成長するというのが当社の基本的な考え方」(クリエイティブセクション広報・PRチーム)

同社が考えていることは、採用活動ページをみるとわかりやすい。そこには三木章平代表のこんなメッセージが掲載されている。

「終身雇用が崩壊し転職が当たり前の時代、もはや新卒でどの会社に入社するかという選択が、人生の大きな選択ではなくなってきているのかもしれません。会社側は人をスキルで判断し、何をもたらしてくれるかという短期的なメリットで採否を決める。求職者は会社で何を得られ、自分自身がどんな成長ができるかで判断する。そこに共に人と組織が成長していくという未来を描いている人が果たしてどのくらいいるのでしょうか。即戦力という聞こえの良い言葉に私は違和感を感じずにはいられません」「人が頻繁に入れ替わる前提の社内では、2・3年後の話しかされず、研修は実務のみの短期スパンで組まれ、評価は成果主義一辺倒。確かに、雇用の流動化は企業にとって他社の技術を取り込み、研究を加速させ、業績は伸びるかも知れません。しかし、アイグッズはこれらの世間の大波にはのまれません」

仕事、そして人生を「自分で」コントロールする社風

では、どのようにチームワークを維持、構築しているのだろうか。最初に気付くのは、会社、部門、チームそれぞれの方針や戦略のなかで、自分が達成しなければならない目標や役割を何度も考える機会を設けたり、仕事や自分がとった行動などを振り返る機会がとても多いという点だ。

取り組みのメニューを一つひとつ紹介すると、会社の方針・戦略を共有するため、経営方針発表会を年に3回、開催している。これには、マネジメント社員だけでなく、社員全員が参加する。経営方針や戦略をきちんと社員に共有させるだけでなく、チームビルディングワークを行ったり、社内の情報共有を進めるために各プロジェクトの進捗状況の報告を行うときもある。

また、社員全員が参加する会議が毎週行われており、週はじめの月曜日に、Good Breakfast Meetingの略である「GBM」という、会社が用意したシェフがつくった朝食をとりながらの30分間の全社会議がある。ここでも、全社方針を確認しあい、業績の状況やプロジェクトの進捗状況の共有を図っている。

さらに、週2回、火曜日と金曜日の朝(始業時)に、毎回2人ずつの社員が3分程度のスピーチを行うという文化がある。全員が対象なので、必ず順番が回ってくる。現在はオンラインで行っている。

スピーチのテーマは会社が決めており、最近のテーマは例えば、「自分のチームの素敵なところ」「今、自分が担当している仕事のなかで、好きだと思っているところ」など。会社や仕事にかかわるテーマだが、ひとひねりしたユニークなテーマもある。スピーチする社員にとって、日頃の仕事や社会人生活を振り返るよい機会となる。一方、聞く側の社員にとっては、他部門、他プロジェクトの社員のスピーチを聞くことで、「日頃は業務でかかわらない人が、どんな気持ちで仕事をしているかが分かって、とても参考になる」(クリエイティブセクション広報・PRチーム)というメリットがある。

これらの取り組みによって、自分のことだけでなく、環境や周りで働く人たちも含めて、「自分の変えられること」に焦点を当てて、当事者意識を持って進みたい方向へ自ら舵取りをする社員になってほしいというのが会社の想いだ。

「会社や組織のせいにして足を引っ張り合うのではなく、一人ひとりが自らの目標に向かって自走し、時には互いの背中を預けるような信頼感で、強いチームワークが作れているのだと思う」(クリエイティブセクション広報・PRチーム)

入社してすぐに業務に組み入れられるからこそ先輩がサポート

実際に成長を支える研修・教育の仕組みや機会も充実している。

まず、同社独自の「エルター制度」がある。業務の進捗を後押しするという意味の「エルダー」と、精神的なケアを行う「メンター」を掛け合わせて、「エルター」という言葉を使っている。1人の新入社員につき、同じチームの1人の先輩社員が1年間付いて、アドバイスしたり、相談に乗ってくれる。同社では、新人といえども入社したらすぐに業務に組み入れ、チームの一員の自覚を早々と持たせられる。だからこそ、同じチームでいつもとなりにいるエルターの役割が重要で、新入社員が安心して働くことができる。

研修制度は、単に外部の研修会社から勧められた研修を行うのではなく、「将来のあるべき姿」から逆算して、段階的に何の研修を取り入れるべきかを考えてメニューを揃えている。社内研修、社外研修、自己研修、階層別研修、全社員共通研修それぞれにおいて、マナーから実務、マインド面などさまざまなメニューが用意されており、内定者もその対象に含まれる。1人あたり年間で20万円~200万円の経費をかけているという。

有志の勉強会を週に3回開催

「IGoods University」と同社で名付けている始業前の朝の勉強会を週に3回、有志の社員で行っている。内容はどちらかというと、業務につながる専門的なスキルなどを勉強するよりは、新入社員どうしが研修で学んだことを共有したり、本や動画を教材にしてマインド面で学ぶといったようなものが最近は多い。この勉強会は業務ではないが、参加するとスタンプカードにスタンプがもらえ、それが30個たまると2万円~6万円分が会社から個人へ支給されるようになっている。

土曜日は通常は勤務日ではないが、月に1回、土曜日に出社する日を設け、「個人と会社の成長の源泉」となることに限定して活用している。日頃行っている仕事をこの日にするのではなく、日頃は忙しくて手を付けられないのだけれども、重要な仕事や取り組みをする日と定めている。例えば、新卒採用活動の準備をする人もいれば、ロールプレイングなどを行う人もいる。また、チームで大型案件企画のミーティングをするなど未来の戦略を練る時間にもなっている。

人事制度を「人事成長制度」と呼んでいる

こうした取り組みによる社員の成長度合いは、人事労務管理上、どのように把握したり、管理しているのだろうか。

同社では、人事制度を「人事成長制度」と呼んでいる。評価のための制度ではなく、人の成長にコミットする制度として位置づけている。年度の上期と下期の最初に行う人事面談のほかに、月1回、1時間のマネジメント社員との面談を実施している。

面談に使われる個人シートには、数字で表した目標・達成状況のほか、行動や姿勢など定性的な目標・達成状況を記入する欄がある。この「定性的」な部分が半分のウェイトを占めているのが特徴で、同社が掲げている「行動指針」や「アイグッズマインド」に合致した行動・姿勢がとれているかを重点的に振り返る。月次面談までに本人が記入し、マネジメント社員がフィードバックする。数字など定量的な振り返りはもちろん、定性的な振り返りも時間をかけて行い、年次が若いうちは成果がすぐに出ずとも姿勢を評価されることもしばしばある。

毎月行われるからといって、けっして形式的に運用されていることはなく、本人と上司の熱いやりとりから「終わったら涙を流して部屋から出てくる社員もいる」(クリエイティブセクション広報・PRチーム)。また、この面談のおかげで1年目の新入社員は、早く同社の考えに沿った行動や仕事の仕方を覚えられるそうだ。

このように、同社の社員は、自分が仕事をしていて感じたり思ったりしたことを表現する場が多く、また、上司との面談や、他の社員とともに行動する研修、勉強会も頻繁にある。そのため、「自分が何を考えているか、どんなことを行っているのかも知られているので、他の社員に隠せる部分がない(笑)」(同)。

濃密なインターンシップで仕事の仕方や考え方は入社前に深く理解

ここで、会社の考え方に合わないという社員も何人かは出てこないのだろうか? という疑問も湧いてくる。その点を尋ねると、採用プロセスにその答えを見つけることができた。

同社では、就職準備をする大学生向けにインターンシップを実施しているが、インターンシップに参加した学生しか入社選考を受けることができない。インターンシップは、現場で本物の社員さながらに活動する実践型だ。

具体的にその内容をみると、説明会、1dayプログラム、5daysプログラムなどのステージが用意されており、順に進んでいく。説明会では、自己分析ワークも行われる。1dayプログラムでは、社員の仕事を疑似体験するが、やりがいだけでなく、悔しさも学べるとともに、時間内で成果を上げるということの厳しさも味わうことができる。5daysプログラムでは、企画営業の実務を学ぶことができ、難易度の高いミッションが課される。

5daysプログラムまでたどり着ける倍率はなんと140倍。ここまで参加すれば、ほぼ、同社の社員がどんな仕事をしているのかが理解できる。

「インターンシップでは、すべての期間を合わせると1週間近く一緒にいることになり、とにかくまずは『やってみてください』と。どんな動きをするのか見ることができるし、対話を通して本人がどんな感想を持ったかも聞く。こちらが評価しても学生さんの将来像に合わなければ不幸になってしまうし、そういったお互いが合うかどうかといった視点も大事にしている」(クリエイティブセクション広報・PRチーム)

2024年度のエントリーは1万人を超えており、入社倍率は約670倍になる。このなかで勝ち抜いて、内定をもらった新入社員で同社の考え方に合わない人や「イメージと違った」と思うような人はほとんどいないという。ちなみに、専門職であるデザイナーでも、インターンシップを経験しなければ入社することはできない。

もう1つの答えは、同社が原則としては中途採用を行わないという点だ。みな新入社員として、このプロセスをくぐり抜けて入社してくるため、入社した時点でアイグッズの考え方に賛同できないという人はまずいない。

社員を信じて任せる文化

新入社員でもすぐにチームの一員となって実戦に組み入れられることはすでに述べたが、同社には、上司からのやらされ感がなく、「自分で考えてやってみて」という、いい意味で社員を信じる文化があり、それも成長につながる取り組みとなる。「上司に何か質問しに行くと、『君はどう思っているの?』と逆に質問を貰うことが多い。魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるように」(クリエイティブセクション広報・PRチーム)

もちろん、失敗することもあるだろうが、経験の浅い社員をフォローする先輩社員の許容感も同社にはあるという。「先輩もそうやって育てられてきたので、それが当たり前の文化になっている」(同)

ものづくりの会社だが「人づくり」の会社

今後に向けて、同社は「ものづくりの会社でありながら、人づくりに注力しており、自分たちではものづくり業界ではあるが『人材業界』といっているほど、社員の成長にフォーカスしていて、その点は変わらない」と話す。ただ、会社が成長するなかで、新卒採用しかしないだけに、「今後も社員の成長速度を早めて、社員の底上げを続けていく必要がある」としている。

(荒川創太、田中瑞穂)

企業プロフィール

アイグッズ株式会社

所在地:
東京都渋谷区恵比寿1-23-23 恵比寿スクエア6F
設立日:
2016年1月20日
代表:
三木 章平
社員数:
約60名(アルバイト、派遣スタッフ含む)
事業内容:
フルオーダーメイドのオリジナル販売用グッズ・ノベルティの企画生産事業、マーケティング支援事業、衛生用品、サステナブルグッズのメーカー品製造・販売事業