多くの学生が内定を得る一方、企業は採用拡大のなかで採用・選考終了が見通せない状況
 ――民間企業、経済団体、労働組合の調査結果からみる来春卒業予定の学生の就職活動状況

国内トピックス

来春卒業予定の学生の就職活動がピークを迎えており、6月1日からは、政府の要請する採用選考活動期間に入っている。民間企業が発表した大学生の内定率はすでに約8割に達している一方、東京商工会議所の調査によれば、人材の奪い合いの影響からか、採用活動期間の終了を見通せない企業割合が昨年よりも高くなっている。こうしたなか、労働組合の連合が、いわゆる就職差別の状況を調査したところ、法が認めていない個人情報の記入を求められた人が少なくない状況が浮き彫りとなっている。各種調査結果から、就職活動の現状をまとめた。

大学生の内定率は昨年同時期より6.5ポイント高い79.6%/リクルート「就職プロセス調査(2024年卒)」6月1日時点内定状況

リクルートが発表する「就職プロセス調査(2024年卒)」の6月1日時点の内定状況によると、大学生(大学院生除く)の就職内定率は79.6%で、昨年同時期より6.5ポイント高い。文系・理系別にみると、文系は78.3%で昨年同時期に比べ9.4ポイント増、理系は82.6%で、同0.1ポイント増となっている。

地域別にみると、「関東」が前年同期比7.7ポイント増の82.8%、「中部」が同7.6ポイント増の82.3%、「近畿」が同8.7ポイント増の80.1%、「その他地域」が同0.1ポイント減の69.7%となっており、大都市圏とそれ以外の地域との間で差がみられる。

内定取得先企業の業種は「情報通信業」がトップ

大学生の内定取得先企業の業種をみると(複数回答)、「情報通信業」が29.5%で最も回答割合が高く、次いで「製造業(機械以外)」(16.4%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(14.9%)、「機械器具製造業」(14.2%)、「金融・保険業」(11.8%)、「小売業」(10.7%)、「運輸業」(6.6%)、「医療・福祉業」(6.2%)、「飲食店・宿泊業」(6.1%)などの順で高くなっている。

内定取得先企業の従業員規模をみると(複数回答)、「100人未満」が10.4%、「100人~299人」が22.7%、「300人~999人」が43.5%、「1,000人~4,999人」が45.7%、「5,000人以上」が33.2%で、300人以上の企業を中心に内定出しが進んでいる状況が垣間見れる。

5月末までの大学生の各活動の実施状況をみると(複数回答)、「エントリーシートなどの種類を提出した」(82.9%)、「適性検査や筆記試験を受けた」(81.9%)、「就職に関する情報を収集した」(81.4%)、「面接など対面での選考を受けた」(75.9%)、「Web上での面接を受けた」(75.4%)、「自己分析をした」(67.8%)、「インターンシップに参加した」(65.7%)などの順で実施割合が高くなっており、対面での選考を受けている学生が7割を超える。

進路確定率は58.6%で、前年同期よりも3.5ポイント高い。一方、就職内定辞退率は53.1%で、前年同期より2.0ポイント高くなっている。

2社以上内定を得ている大学生が約6割

内定取得企業数については、「1社」が38.9%、「2社」が24.0%、「3社」が19.2%、「4社」が8.8%、「5社」が5.2%、「6社以上」が3.9%で、2社以上内定を得ている大学生が61.1%と約6割を占める。平均内定社数は2.32で、昨年同時期よりも0.03高い。一方、内定辞退企業数をみると、2社以上が27.7%と3割弱に及ぶ。

就職活動実施率は45.6%。内定をまだ獲得していない大学生では90.2%が活動を実施している。

9月までには採用・選考活動を終わらせるとする企業の割合が昨年から低下/東京商工会議所「2024年新卒者の採用、インターンシップに関する調査」

東京商工会議所が実施した「2024年新卒者の採用、インターンシップに関する調査」の結果から、企業が、2024年新卒者の採用・選考活動をいつ頃まで実施する予定か尋ねた結果をみると、「2023年6月まで」が10.1%、「2023年7月~9月」が19.8%、「2023年10月~12月」が31.6%、「2024年1月~3月」が19.0%、「未定、分からない」が19.4%となっている。

昨年同時期に行った調査結果と比べると、6月と7月~9月のそれぞれの回答割合を合わせた割合が、今年のほうが17.5ポイント低くなっており、採用・選考活動の終了予定時期を見通せない企業が増えていることをうかがわせた。

約37%の企業が採用計画人数を拡大

「2023年新卒者の採用人数」と比較した「2024年新卒者の採用計画人数」をみると、「大幅に増やす(50%以上)」が9.7%、「増やす(20%以上~50%未満)」が27.0%、「同水準(同数・20%未満の増減)」が54.0%などとなっており、「大幅に増やす」と「増やす」の割合を合わせた増やす企業の割合が36.7%に達した。

新卒者の採用・選考活動における課題では(複数回答)、「希望者が集まらない」(69.6%)がトップにあがり、「求める人材からの応募がない」(54.4%)、「人員不足で採用に満足な時間が確保できない」(40.1%)などと続く。辞退を課題とする企業も少なくなく、「内々定・内定後の辞退が多い」(33.3%)、「選考中の辞退が多い」(31.6%)をあげる企業が3割以上に達している。

職業安定法で認めていない個人情報の記入を求めるケースも/連合「就職差別に関する調査2023」

連合が全国の15歳~29歳の男女1,000人を対象にインターネット調査した「就職差別に関する調査2023」によると、採用試験に際し、応募書類やエントリーシートで記入を求められた内容は(項目ごとに単一回答)、「性別」(80.5%)に次いで「本籍地や出生地に関すること」(43.6%)の割合が高く、「家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)」(37.2%)、「生活環境・家庭環境などに関すること」(24.8%)などが続いた。「労働組合活動に関すること」(18.9%)や「思想に関すること」(16.6%)、「支持政党に関すること」(9.9%)をあげる人もいた。

職業安定法では、本籍・出生地、思想・信条、労働組合への加入状況など、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などの収集は原則として認められていない。

結婚後、出産後の就労を聞かれた女性が2割以上

採用試験の面接で質問されたことでは(項目ごとに単一回答)、「転職できるかどうか」(43.3%)と「残業や休日出勤ができるかどうか」(42.8%)が特に高く、「家族に関すること」(37.7%)も3割を超える回答割合だった。女性では、「結婚後や出産後の継続就労希望の有無」(25.5%)、「結婚の予定」(20.5%)の回答がそれぞれ2割以上あった。

採用試験の面接で、不適切だと思う質問や発言をされたことがあるか尋ねたところ、男性は18.3%が、女性は20.5%がそれぞれ「ある」と回答した。自由回答形式で、その内容を記述したもらったところ、女性では「結婚観について聞かれた」(22歳)、「彼氏の有無を聞かれた」(25歳)、「マスクを取ったほうがいいねと言われた」(26歳)などの回答があり、男性では「女性のほうが仕事が丁寧だからと言われた」(25歳)、「女っぽいと言われた」(29歳)などの回答があった。

女性の約35%が男女差別を感じる

就職活動をしていて、いわゆる男女差別を感じことがあるか尋ねると、男性では30.1%、女性では35.7%が「ある」と答え、ともに感じたことがある人が3割を超えた。

その内容をみると(複数回答)、「男女で採用職種が異なっていた」が男性43.2%、女性36.5%、「採用予定人数が男女で異なっていた」が男性45.3%、女性30.3%、「男性のみ、または女性のみの募集だった」が男性35.1%、女性27.5%、「男女で制限条件が異なっていた(婚姻の有無や自宅通勤など)」が男性23.0%、女性20.8%などとなっており、男女で職種や採用人数に差を設けるとの内容が比較的多かった。

採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査する旨の通知を受けたことがあるか尋ねたところ、「ある」と回答したのは11.7%だった。調査されたことがあるかについては、「ある」は10.7%だった。

【調査の概要】

○リクルート「就職プロセス調査(2024年卒)」

  • 調査方法:インターネット調査
  • 集計方法:大学生については文部科学省「学校基本調査」の数値を参照し、ウエイトバック集計。
  • 調査対象:2024年卒業予定の大学生および大学院生に対して、『リクナビ2024』で調査モニターを募集し、モニターに登録した4,567人(大学生3,574人、大学院生993人)。
  • 調査期間:2023年6月1日~5日
  • 集計対象:大学生1,134人、大学院生403人。

○東京商工会議所「2024年新卒者の採用、インターンシップに関する調査」

  • 調査方法:Webアンケートシステムを利用。
  • 調査対象:2023年度第1回「会員企業と学校法人との就職情報交換会」(4月21日開催)の参加企業258社、参加学校法人(大学・専門学校等)83校。
  • 調査期間:2023年4月21日~5月11日
  • 回答数:237社(回答率91.9%)、83校(同100%)

○連合「就職差別に関する調査2023」

  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査対象:ネットエイジアリサーチのモニター会員。最近3年以内に就職のための採用試験を受けた全国の男女15歳~29歳の男女。
  • 調査期間:2023年4月1日~4月4日
  • 有効回答数:1,000サンプル

(調査部)