スカウトマッチング型面接やインターンシップ付きセミナーで、就職活動に不安を抱える人も足を運びやすいイベントに
 ――富山県の就職氷河期世代の就職支援の取り組み

企業・行政取材

富山県では、2020年度からミドル世代を対象にした「スカウトマッチング型」の面接会や、インターンシップを盛り込んだ就職活動の支援セミナーを開催。就職氷河期世代をはじめ、長期間無業だった人や病気・介護に不安を抱える人、新型コロナウイルスの影響により離職を余儀なくされた人でも参加しやすくなるよう、工夫をこらした支援を企画してきた。3年間の活動を通じて、求職者それぞれが抱える個人の課題にあわせた手厚い支援の必要性を改めて認識したことから、今後はハローワークなど支援機関の存在やそれぞれの機関が行うサポート内容の周知などにも力を入れていく考えだ。

<就職支援の内容>

事前に就業状況調査を実施して必要な支援を確認

同県では支援の実施に先立ち、2019年度に県内の就職氷河期世代に対して、就業状況調査を実施した。現在の就業状況を確認したところ、パートタイマーやアルバイト等の非正規雇用者が22.0%、無業者も6.9%おり、非正規雇用者、無業者ともに、そのうち4割近くが正規雇用での就職・転職を希望。調査結果を確認した富山県商工労働部労働政策課は「多くの人が支援の対象となっていることを認識した」という。

また、行政に求める支援策についての回答では、非正規雇用や無業者の回答の上位に、30代、40代向けの充実した就職・転職情報の提供や、企業への働きかけ、研修支援などがあがっていたため、そのニーズに応えられるような支援策を検討してきた。

マッチングシステムと連携させてスカウト型面接会を実施

調査結果を踏まえ、2020年度から新たに取り組んできた支援の1つが、「スカウト型面接会」。30代~50代の正社員就職を目指す人を参加対象者に絞った合同企業説明会で、年2回開催している。出展する県内企業は1回につき15社ほどで、希望する人がそれぞれのブースで企業担当者の説明を受ける流れとなっている。

特徴はその名の通り、企業からスカウト形式で声をかけてもらえる点だ。

富山県では同年から、正社員就職を目指す求職者向けのサポートサイト「ジャンプUPナビ」を運営しており、このサイトと連携することで、スカウトを受けることが可能となっている。ジャンプUPナビにはスカウトマッチングシステムが導入されており、求職者は会員登録後、マイページに自身のプロフィールや経歴などを書き込むことができる。その情報を見た登録企業が直接、その人にオファーする仕組み。

また、スカウト型説明会をはじめ、さまざまな支援プログラムの情報もこのサイトから配信されており、参加希望者は申し込むことができる。

スカウト型面接会の参加企業は、同サイトで、スカウト型面接会に申し込んだ求職者のプロフィールを事前に閲覧できる。話をしてみたい求職者がいる場合、参加企業は面接会当日に会場に設置されたホワイトボードに、オファーしたい求職者の登録ID等を掲載。会場を訪れた求職者にそのホワイトボードを確認してもらうことで、ジャンプUPナビと類似した形式で、スカウトマッチングを行うことができるという流れだ。

なお、スカウト型面接会はジャンプUPナビに登録していない人でも参加は可能。ホワイトボードによるオファーは受けられないが、ブースで企業担当者と話したうえで、マッチングにまで至れば、選考に進む可能性がある。

スカウトを受けることで就職へのモチベーションを高める

どうしてスカウト形式の面接会としたのか。労働政策課によれば、「就職氷河期世代のなかには自身が持つスキルやノウハウが少ないことへの不安や、エントリーシートなどを使った通常の選考に心理的なハードルを感じている人もいるので、それ以外のところを見てもらえる仕組みがあれば良いと考えた」とのこと。求職者にとっては、「スカウトの連絡が来ることで、『求められるならやってみようか』と思ってもらうことを意図した」そうだ。

結果として、求職者の年度ごとの延べ参加者数(年2回の合計)は、2020年度が27人、2021年度が26人で、2022年度が15人。このうち、採用に結びついたのは、2020年度が5人、2021年度が7人となっている(2022年度は調査中)。コロナ禍の影響もあり、想定よりも少ない人数になったという。

コロナ離職者や第二新卒者なども対象にした合同説明会も開催

また、同県ではあわせて、20代~50代前半の正社員就職を目指す人が対象の、通常の合同企業説明会も年3回開催した。就職氷河期世代のほか、コロナ禍で離職を余儀なくされた人や、今まであまりフォーカスが当てられていなかった第二新卒世代などへの就職支援事業として、一体的に実施している。参加企業は1回につき20~30社程度で、スカウト型面接会より規模が大きいイベントとなっている。

年度ごとの求職者の延べ参加人数(年3回の合計)は、2020年度が99人、2021年度が85人、2022年度が116人にのぼっており、年齢層も20代に限らず、30代~50代までと幅広い。

ジャンプUPセミナーでスキルアップや実習を経験

ほかにも、スキルやノウハウに不安を抱える人に対する研修として、2020年度から「ジャンプUPセミナー」を実施している。

ジャンプUPセミナーは、就職氷河期世代や第二新卒世代など、おおむね20歳~54歳の人を対象に年4回開講。自己分析やキャリアプランの作成、面接対策や履歴書作成方法など基礎的なスキルを学ぶ「正社員就職希望コース」(1日3時間×3日間のカリキュラム)と、これにインターンシップに必要なビジネスマナーとインターンシップ実習を追加したインターンシップコースを設置している(1日3時間×4日間のカリキュラム+セミナー修了後に1日~5日のインターンシップ実習を行う)。

定員は毎回約20人としていたが、コロナ禍の影響もあり「定員を超えることはほぼなく、時には1桁台しか集まらなかったこともあった」(労働政策課)。一方で、少人数でできたからこそ一人ひとりに合わせた指導・相談につながり、結果として「参加者の満足度も非常に高かった」という。

この事業でのインターンシップは、長期間無業の人に就業体験の機会を与え自信を持ってもらうこと、また、自身の可能性を試すことなどを目的としているため、受け入れ企業には必ずしも採用することを求めてはいなかったが、結果的に、インターンシップ先で採用にまで至ったケースもあった。セミナーでスキルやノウハウを習得したことをきっかけに、スカウト型面接会に足を運ぶようになった事例も多数見受けられ、効果的に利用されたことがうかがえた。

視野を広げて採用を検討してもらえるよう企業を説得

各プログラムへの参加企業は、支援事業の委託先だった求人企業が持つネットワークを活用して広げていった。「『人材不足をカバーできるプログラムなら話を聞いてみたい』と、興味を示す企業自体は少なくなく、募集はすぐに埋まった」(労働政策課)そうだ。

一方で、最初の時点では、若年層や、すでに同業種で経験がある即戦力人材の獲得を念頭に置く企業も少なくなかったが、そうした企業には視野を広げてもらうことを意識して説明した。

「新卒採用者における就職後3年以内の離職率は、全国的にみても3割以上と高く、即戦力はすぐに獲得できないことも多い。一方で、例えば65歳定年の企業が40歳の人を中途採用すれば、25年間社内で活躍してもらえることも期待できる。若い人を採用することに特別な理由があれば別だが、『すぐに人材不足を解消したい』『この事業に必要で人材を確保したい』という考えなら、就職氷河期世代を活用するのがベストな方法になることもあるのではないか、などとお伝えすると『そうかもしれない』と感じてもらえることもあったと思う」

労働政策課では、年齢や経歴を抜きにしても、求める人材としてマッチするようであれば、まずはそういった世代と話をする機会を開いてほしいと考えている。

<定着支援と情報発信>

2020年度の課題をふまえ、定着支援プログラムも開催

2020年度の事業実施後には、採用後の人材定着がうまくいかず、離職するケースも散見されたため、2021年度からは、企業が活用できる定着支援プログラムも実施している。ストレスとの向き合い方を学ぶレジリエンス研修や、自身のキャリアプランについて考えるキャリアデザイン研修のほか、希望者がキャリアカウンセリングを受ける機会も設けるなど、採用から定着までトータルで支援する方向性に切り替えた。

また、2021年度からはあわせて、企業向けセミナーも年3回開催している。ここでは、就職氷河期世代の経験や能力の正しい評価方法や採用・定着につなげる方法、すでに活用が進んでいる企業の好事例などを紹介。就職氷河期世代の採用を検討している企業に、採用後どのように働いてもらうかを具体的にイメージしてもらう機会となっており、活用への理解を促進する場となっている。

情報発信も以前から積極的に実施していたが、2020年度の事業成果を受けてさらに拡大。委託業者が運営する求人ペーパー「Workin」や、新聞、公共交通機関への中吊りなどに広告を掲載したほか、対象者を絞り込んだSNSやインターネット広告も展開した。特にインターネット広告や求人ペーパー「Workin」は、興味を持つ人に対して広告が届くため、就職先を探している人の目に入りやすいこともあり、効果的だったそうだ。

さまざまな工夫を施し事業を進めた結果、2020年度~2021年度の就職氷河期世代等活躍支援事業における採用実績は計70人にのぼった(2022年度の実績については本稿執筆時点で調査中)。

<3年間の取り組みの成果と課題>

より気軽に参加できる仕組みを模索

3年間の取り組みに対する評価を聞くと、全体を通して参加者の満足度は高く、「スカウト型面接会はミドル層限定と明記して参加者を募集したことで参加しやすかったと好評だった」(労働政策課)という。一方、「スカウト」という言葉にハードルを感じる人もおり、「『自分はスカウトされるようなキャリアを積んできていない』と萎縮して参加しづらいという意見もあった」。

コロナ禍も影響して、求職者がイベントに足を運ばなかったり、企業が採用活動を取りやめることも多く、ニーズに沿った企画ができているのか不安に感じることもあったものの、感染拡大が落ち着いた直近(2023年1月末)の合同説明会は参加者が71人にのぼり、これまでに比べて多くの人が来訪した。20代だけでなく、30代~50代の人も多く参加していたことから、「ニーズがないわけではなかったと感じた」そうだ。

この合同説明会は服装を自由にしたり、記入事項も簡素化したうえで、参加特典も設けるなど、気軽に参加でき、参加意欲を促すような仕組みにしていた。マッチングの実績と連動しているか確認しつつ、足を運んでもらえる要素を今後も模索していく考えだ。

知られていなかった各就業支援機関にも目を向けてもらう

2023年度以降は、既存の就業支援機関などの周知にも重点を置く方針。「合同説明会などで求職者に話を聞くと、個人によって事情が全く異なるので、一般的に『これで就業に結びつく』という固定化したメニューを立てるのが難しいと感じた。そうした手厚い支援は既存の若者就業支援センター『ヤングジョブとやま』やハローワークの就職氷河期世代支援専門窓口などで受けられるが、それらの機関の存在や、どういったサポートがあるのか自体があまり知られていないこともあるので、まずは目を向けてもらう必要がある」

そのため、今後は各就業支援機関で受けられる支援を分かりやすく解説した動画を作成してPRすることを検討している。また、ジャンプUPセミナーについても、過去3年間の取り組みで個人ごとの支援が必要との認識に至ったことから、いったん取りやめ、各就業支援機関につないでいく考えだ。

求職者と企業の間の情報交換をフォローする面接会も検討

新たなイベントとして、マッチングフォロー付きの合同企業説明会の開催も検討している。導入しようと思ったきっかけは、合同説明会で立ち止まっていた参加者に話を聞いたことだった。

「『自分には資格がないから』『病気・介護を抱えていて難しいから』と企業ブースに行くことを躊躇していたため、会場の係から企業にその条件で対応できないか聞いてみると、企業側が『それでも大丈夫です』と返答してくれる場面があった。求職者がダメと思っていても、企業からみれば問題ないこともあるので、仲介者を立ててミスマッチをなくしていけばうまくいくのではないかと感じた」

実施方法やどういった人物を仲介役とするかなど、詳細についてはいま検討している。求職者の背中をそっと後押しするような施策により、各事業が効果的に働く方法を模索している。

(田中瑞穂、荒川創太)