伴走的な支援を通して求職者の自己理解や自己肯定感を高め、正社員就職につなげる
 ――ハローワーク新宿での就職氷河期世代への個別支援

企業・行政取材

東京都新宿区にある新宿公共職業安定所(ハローワーク新宿)は、2020年度から就職氷河期世代専門窓口(ミドル世代チャレンジコーナー)を設置している。正社員としての就業経験がなく、非正規雇用での就業経験しかないなどの就職氷河期世代に対し、最大6カ月間の個別支援や就職支援セミナーを実施し、正社員就職へのサポートをしている。窓口を訪れる人が自己理解を深め、ポジティブに就職活動をしてもらうために、その人のこれまでの経歴や興味がある職種・業務内容を整理するなど、伴走的に支援。その結果、相談者のおよそ5割が最終的に正社員での就職を果たしている。

<求職者支援の内容>

3人体制で窓口での個別相談や応募書類・面接対策指導にあたる

政府の就職氷河期世代支援プログラムにもとづき、2019年度から就職氷河期世代専門窓口(ミドル世代チャレンジコーナー)が設置されはじめ、2020年度にハローワーク新宿にも設置された。35歳~54歳までの正社員就職希望者を対象に、求職者支援を行っている。以前は一般窓口や、「わかものハローワーク」(2020年度以前は主に44歳以下の求職者が対象、2020年度以降は主に34歳以下の求職者が対象の窓口)で対応していたが、ミドル世代チャレンジコーナーができたことにより、就職氷河期世代に特化した支援を行うことができるようになっている。

支援のメインは窓口での個別相談や応募書類・面接対策指導などで、ハローワーク新宿では3人体制で対応にあたっている。3人のうち1人が、初めて窓口を訪れた求職者とのプレ相談に応じ、あとの2人がプレ相談を経た求職者に対して本格的に個別相談を行う流れだ。

窓口を担当するハローワーク新宿の職業相談第二部門によると、「求職者のなかには『自身の世代に特化した就職支援を受けられるならぜひ話を聞いてみたい』と直接窓口を訪れる人もいれば、一般窓口で専門窓口があることを知って訪れる人もいる」。年齢層は40代が最も多く、前の職場を離職して通う人もいれば、非正規雇用で働きながら通う人もいる。

就職氷河期世代向けの就職支援セミナーも実施

相談のほか、同窓口では毎月1回、「就職氷河期世代就職支援セミナー」も開催している。

セミナーでは、同世代の労働市場や支援内容、ハローワークの活用方法、書類・面接対策の基本などを情報提供している。1回の定員は20人(コロナ禍は15人)となっており、ハローワーク新宿に登録している求職者はもちろんのこと、ミドル世代チャレンジコーナーがない別地域のハローワークに登録している人でも電話で申し込むことができる。定員は毎回ほぼ満員になるといい、「参加者からは好評で、セミナーを介して個別支援につながる事例もある」(職業相談第二部門)そうだ。

ほかにも、求職者の希望に合わせて、合同就職面接会や、職業訓練校への斡旋なども行っている。

<求職者の特徴と支援のポイント>

非正規雇用で働き続けることに違和感を持たない人や自己肯定感の低い人が多い傾向に

窓口を訪れる求職者の就業形態は様々で、正社員の就業経験がある人もいれば、派遣社員や契約社員といった非正規雇用の経験だけという人も非常に多くなっている。職業相談第二部門に、訪れる求職者の印象を尋ねると、「派遣コーディネーターに希望を伝えるだけで仕事の斡旋があったため、今まで能動的な就職活動は行って来ておらず、非正規雇用で働き続けることに違和感を持っていなかった人や、応募から採用までに時間を要することや様々なハードルの高さから正社員就職に踏み切れなかった人も多い」との返答。

また、「自己肯定感が低い人も多い」とし、「就業形態にかかわらず、最初の就職先でうまくいかなかったり、希望に沿わないけれどとりあえず正社員になった結果、描いていた理想とは違うと感じて退職してしまう。短期間に離転職を繰り返すと、自分に自信が持てなかったり、強みがないと思い込んでしまう傾向がある」と話す。

窓口を最初に訪れる段階では、すでに進みたい職種・業種が決まっている人や、取得済みの資格を活かして転職したい人などが一定数いるものの、先述した傾向から、ほとんどがどういった方向性で不安を克服しながら就職活動をしていいかわからないそうだ。

また、正社員の経験がある人の場合は、すでにさまざまな業態で実務経験を積んでいることも多いが、派遣社員・契約社員の経験しかない人の場合は、これまで限定的な内容の業務しか経験していないため、年齢が上がるほど、就職にも苦戦することが多くなっている。

求職者の学齢期からの経験などを聞き取って整理し、特性を見つけ出す

そこで、同窓口では支援の取っ掛かりとして、求職者の学齢期から現在までの業務経験や個人の要素を聞き取り、棚卸しするところから始めている。

「学生時代から前職までの経験を聞き取り、経歴を整理して、個人ごとの強みや活かせる能力を引き出している。聞いてみるとその人が、例えば人とかかわることが好きだったり、こつこつと研究することが好きだったりして、どのような人かわかってくることがある」

すべて話してもらうことで、求職者自身も好きなことや得意なことに気がつくことができ、自己肯定感の向上につながっている。「担当者がその人の適性を見つけて、『すごいことだよ』と伝えてあげることも、大切な役割だ」と言う。

ジョブタグを活用し職種・業種への理解促進や関心度合いを確認

また、求職者のなかには、職種・業種についての理解が不足している人も多いことから、厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト(通称ジョブタグ)」を活用し、職種・業種への理解を深めてもらったり、どのような仕事に関心があるのかを考えてもらうよう促している。

「自身の価値観や各職業への関心度などを考えてもらうことで、進みたい方向性が見えてくれば、就職活動を前向きに捉えてくれるようになるし、人によっては職業訓練の受講あっせんに対し、実務経験を補強しようと積極的に取り組むようになる」

こうした取り組みは、1回の窓口相談だけでは終わらないことがほとんどなので、ハローワークインターネットサービスも活用し、求職者のマイページに、興味を持ちそうな仕事内容の求人票を情報提供している。求人票には企業ホームページのURLも掲載されているので、内容を一緒に確認し、次に窓口に来る前に、進みたい方向性や気になる職種・業種を検討してもらっている。

応募書類・面接対策も求職者自身が主体的に行動することにつながる

進みたい方向性を把握し、応募する企業が決まれば、応募書類の作成指導や面接対策へ進むことになる。職業相談第二部門は、「書類選考は、転職回数や経験のハードルが高いので、求人内容の理解を深めたうえで、採用側にわかりやすい書類作成を行うことを心掛けている」と話す。

応募書類・面接対策を通しても求職者の自己理解が進むといい、「『自分は今までこんなことを経験してきたんだ』と感じてもらうことでポジティブに考えてもらうようになり、『頑張ってここも応募してみよう』と思ってくれたり、求職者自身が進んで企業を検索するようにもなる」そうだ。

<成果と課題>

窓口利用者の約5割が正社員での就職を達成

ハローワーク新宿のミドル世代チャレンジコーナーでは現在、年間延べ約140人の個別支援対象者を見ているが、約5割が最終的に正社員で就職しているという。職業相談第二部門では、同窓口の設置によって、「正社員での就職を諦めて非正規雇用に流れていた人たちがある程度減少したのではないか」とみる。

近年では、「事務経験がない非正規雇用出身の人でも、MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)の資格を取得し、事務・営業職への就職に結びつけた人」や、「ハローワークでの相談や身内の経験者の話を通して介護職に興味を持ち、職業訓練校に通ったのちに就職した人」などがいたという。非正規雇用の経験しかない場合でも、多くの人が正社員での就職を達成している。

これまでの支援を通して、「就職氷河期世代はこれまでにもさまざまな業界での業務経験があり、コアの業務経験や知識不足はあっても、OJTや研修で、ポテンシャルが引き出されることにより活躍が期待できる」と感じており、今後も企業に採用活動の強化をお願いしていく考えだ。

なお、2021年度の東京都内の就職氷河期限定求人および歓迎求人の合計数は延べ約1万9,500件にのぼっており、全常用雇用の求人のおよそ2%を占めている。全国的に、就職氷河期世代専門窓口を利用した結果、2021年度中に正社員で就職した人数は約1万2,500人にのぼっている。

オンライン職業相談を活用して在職しながら正社員を目指す人にも活動しやすい環境を

今後に向けた支援での課題を尋ねると、職業相談第二部門は、「オンライン職業相談の拡充・整備」をあげた。「在職のまま正社員を目指している人は、平日に窓口に来ることが難しいことが多いので、現在も実施しているオンライン職業相談をさらに活用すれば相談がしやすくなるのではないかと考えている」という。

一方で、定期的な対面による就職支援は依然として有効であり、無業状態で就職活動をする人にとっては通信料などの問題で、オンラインを活用しづらい場面も出てくるため、「ハローワークに来所する形式を基本としつつ、対応を模索していきたい」と話している。

(田中瑞穂、荒川創太)