成長戦略の検討について:第43回労働政策フォーラム
産業政策と雇用を考える
—あるべき雇用・労働社会の実現に向けて—
(2009年12月16日)

新川 達也 経済産業省経済産業政策局産業人材政策室長/:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

新川 達也 経済産業省経済産業政策局産業人材政策室長

今日お配りしている資料につきましては、個人的見解を含んでいるということについてあらかじめご承知おき願います。

成長戦略の検討

成長戦略の検討ですが、2009年9月16日の新内閣発足後、直嶋経済産業大臣に対しまして、鳩山総理から、「アジアを視野に入れ、技術や人材など、日本の強みを最大限に生かすとともに、今後の経済を牽引する新たな成長産業を育て、雇用を創出するための戦略を構築する」という指示をいただいているところです。

これを受けて、経済産業省では成長戦略検討会議を10月21日から開始しております。経済産業省の政務三役が直接延べ9回、約50人の方から意見をいただいています。12月中に骨子を取りまとめ、2010年5月までに最終的に取りまとめる方向でしたが、政府一体として成長戦略を策定することとなり、昨日(12月15日)、成長戦略策定会議が開催されました。総理を議長、副総理を議長代行、官房長官と経済産業大臣を副議長とする枠組みです。年内に成長戦略の「骨格」をとりまとめ、肉付けを年明け以降進めていく予定となっています。

この成長戦略によって、日本の持つ潜在力と知恵を引き出していく、また、将来世代を含めて国民の暮らしの豊かさや地域の発展等を実現するものとする、例えば環境や少子高齢化を制約要因ととらえるのではなく、成長のテコととらえて、グリーンイノベーションやシルバーイノベーションなどを通じて日本に輝きを取り戻す。また、その成長モデルを新しい成長モデルとしてアジア全体の活力ある発展を促すことも重要であると位置付けられている、と伺っています。経済産業省としては、これまで積み上げてきたものを更に政府全体の取り組みにつなげていくものと考えており、大いに貢献する所存です。

経済産業省の成長戦略検討会議での論点

したがって、今からお話しする論点は、あくまで経済産業省の成長戦略検討会議で有識者のご意見を伺うに当たっての論点であり、政府全体のものではないことをご承知おき願います。成長戦略検討会議はまだ骨子の取りまとめを行っておりませんので、本日は成長戦略の背景となる論点についてご説明します。論点としては9点あります。

1 わが国の低成長の要因分析、今後の経済成長シナリオ(図1)

これまで日本の経済成長の牽引役は何だったのかということについて説明させていただきます。わが国の景気は、80年代は消費と設備投資、そして90年代は公需、2000年代は外需と設備投資がそれぞれ牽引役となってきております。リーマン・ショック後は外需が大きくマイナスに転じており、それが景気の落ち込みを示しているわけです。足元は外需が大きくプラスに転換しておりまして、成長率も回復しております。このまま回復することを願っていますが、雇用者報酬の低下が続いており、消費の本格的な回復が難しい中、外需の落ち込みによる二番底が懸念される状況です。

図1 日本の経済成長の牽引役の推移

図1 日本の経済成長の牽引役の推移:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

2 成長戦略としての「少子化対策」について(図2)

少子化の問題を経済成長の観点からとらえることについては、デリケートな問題であることは承知していますが、それでも人口が減っていく中で、経済成長の観点からそこを無視したまま議論していいのかという論点があります。

図2 成長戦略としての少子化対策

図2 成長戦略としての少子化対策:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

3 多様な働き方について(図3)(図4)

企業特殊型の技能が重視されてきたわが国では、高い雇用保障等、国際的には相対的に低い失業保護の組み合わせでした。企業が一般的技能について非正規雇用を活用していく中で、景気後退が、この低い失業保護を直撃した形になりました。経済対策でセーフティネットを大幅に拡充したと理解しておりますが、さらなる検証を続けていくべきと考えています。

図3 失業とセーフティネット

図3 失業とセーフティネット:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

また、若者の雇用環境と職業能力育成ということですが、若年者は、他の年齢階層に比べて失業率が高い状態にあります。若年の就業は、知識やスキルを蓄積する観点からも非常に重要だと考えております。若いうちに苦労を積んでおかないとその後が伸びないということだろうと思っております。他方、若年者の有効求人倍率は他の年齢層に比べて高いので、若年雇用で労働需給のミスマッチが生じているのではないかと思っています。

図4 若年者の雇用環境と職業能力育成

図4 若年者の雇用環境と職業能力育成:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

4 今後の成長に向けた内需拡大策について

5 「将来不安」の解消について(図5)

4番目と5番目は、まとめてご説明させていただきます。今後の成長に向けた内需拡大策と将来不安の解消です。中長期的な経済成長を達成するためには、経済全体の生産性の向上を図る経済政策が必要だと考えております。他方、需給ギャップが大きい現状を踏まえると、需要サイドを起点とした経済政策も志向することが可能ではないかという論点です。

図5 将来不安と予備的貯蓄の関係

図5 将来不安と予備的貯蓄の関係:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

将来不安に伴う過剰貯蓄の問題がありますが、それに限らず、安全、安心の仕組みである社会保障の維持と経済成長は相互に関連するものだと思っております。社会保障としての負担の水準や負担のあり方という直接的な問題、それから安心が需要を喚起するという論点。雇用、医療、生活のセーフティネットに携わる人たちの人的資本の蓄積が経済成長を生むという考え方。また、雇用機会の創出であるという考え方。そして、民間部門の経営力、技術力、資金力が社会保障サービスに入ってくることで、そのサービスの水準が向上するという効果。そして、社会保障財源を維持するためには経済成長が必要ということで、この2つは相互に関連したテーマであろうと思っております。

なかでも、将来不安を感じた家計が、所得や支出の変動に対して備える予備的貯蓄というのが、ある意味での過剰な貯蓄と考えますと、社会保障の制度の充実、制度の信頼感の醸成ということで、この予備的貯蓄が減少して、個人消費の下支えに寄与するという考え方があるのではないか。しかし、どうすればこの不安の解消に有効かというのが論点です。

6 アジアを視野にいれた外需獲得策について

外需を考えたときに、どこの外需を考えるのかということがあると思います。日本がここ数年輸出を伸ばしてきたのは、高付加価値製品をアメリカやヨーロッパの富裕層に向けて売ることに成功してきたからです。しかし、リーマン・ショック後、特にそこの部分の需要が喪失した状態になっています。

他方、特にアジアの市場をねらいにいった場合に、現地での生産も当然あると思いますが、生産のみならず、開発も含めて海外を視野に入れている企業が多い中で、コア技術、人材といった付加価値の源泉を国内にとどめておくことのために必要なことは何かという論点があると思っています。

7 地球温暖化対策と経済成長について(略)

8 災害・事故等のリスクへの対応について(略)

9 国民が成長を実感できる経済成長について

国民1人ひとりが豊かさを実感できるようにするシステムが必要だとは思いますが、どのような取り組みが必要かという論点です。例えば労働参加のインセンティブと社会保障が両立する仕組み、例えば給付つき税額控除ですが、こういうものをどのように考えるのかという論点があると思っています。