社会的セーフティネットの強化と
新たな雇用創出:第43回労働政策フォーラム

産業政策と雇用を考える
—あるべき雇用・労働社会の実現に向けて—
(2009年12月16日)

小島 茂 日本労働組合総連合会総合政策局長/:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

小島 茂 日本労働組合総連合会総合政策局長

「社会的セーフティネットの強化と新たな雇用創出」という標題ですが、われわれも、これから新たな成長戦略、新たな雇用創出が必要だと思っています。しかし、その前に、まず足元をしっかりと見ておく必要があるという問題意識を持っています。まず足元の雇用、あるいは非正規労働者の増大など社会でさまざまな問題が起こっているので、それらをまず解決する。それと並行して新たな雇用をつくるという視点が必要ではないかと思っています。

労働組合の立場からいえば、この間の非正規労働者の急増は、極めて大きな問題があると思います。非正規労働者に対するさまざまなセーフティネットをもう1度再構築する視点が必要です。そういうことがあって初めて、新たな雇用創出あるいは新産業に結びつくと思います。

いくつかのデータを紹介したいと思います。これはよく使われていますが非正規労働者の推移をみると、すでに雇用労働者のうちの3分の1を超えて4割近くになっています。その一方、これは労働組合の組織率でありますけれども、非正規労働者の比率が高まるにしたがって、反比例的に組合組織率が下がってきています(図1)。

図1 非正規労働者と正規労働者の推移

図1 非正規労働者と正規労働者の推移:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

次は直近の失業率と有効求人倍率です。若干改善してきたと言われていますが、働く場がなく、就職活動をあきらめてしまう人の影響も多分あると思います。引き続き雇用環境は厳しい状況にあるということです。

もう1つ、正規労働者の長時間労働などの過酷な労働の結果として、過労死あるいは過労自殺の増大も、大きな問題です。その結果が、11年間連続で年間の自殺者が30,000人を超えるという実態になっている。今年も30,000人を超えそうですので12年連続という極めて悲惨な実態を直視しなければならないと思っています。

生活保護世帯も、昨年の4月は120万世帯で、受給者は160万ぐらいに増えており、日本も貧困の問題が大きな社会問題になってきている状況です。

図2 国民年金「第1号保険料」は全納付の45%程度

図2 国民年金「第1号保険料」は全納付の45%程度:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

次に、非正規労働者あるいはワーキングプアという人たちの増大によって、社会保障あるいはセーフティネットが十分に機能していないことを紹介したいと思います。まずは国民年金の加入者の状況です。国民年金の第1号被保険者の割合は、実質的に半分以上は雇用労働者の人たちです。本来は、こういう人たちは厚生年金に加入すべきです。問題はこの雇用労働者のグループが、国民年金の第1号被保険者に加入せざるを得ない点です。国民年金の保険料は、毎月10,4460円ですが、それが支払えず、保険料の納付率も近年大幅に下がってきている。これは、第1号被保険者の雇用が不安定で、収入が少ないことの影響が出ている。将来的には、無年金・低年金者が増大することを示すデータです(図2)。

図3 国民健康保険料の滞納世帯は約2割に増加
短期被保険者証等の交付世帯も増大
※「無保険の子」救済法案の成立(08.12.19)

図3 国民健康保険料の滞納世帯は約2割に増加 短期被保険者証等の交付世帯も増大  「無保険の子」救済法案の成立(08.12.19):2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

一方、医療保険ですけれども、雇用労働者は、基本的には健康保険、あるいは「協会けんぽ」(従来の政管健保)に加入しますが、それ以外の人たちは、市町村が運営する国民健康保険に入っています。その国民健康保険の加入者のうち、直近のところでいくと2割の世帯で保険料の滞納がある。なかには長期滞納していて保険証を使えない世帯も増えてきている。こうした実態も雇用の不安定化、低賃金の影響など、貧困の1つの反映ではないかと思っています(図3)。

つまり、雇用市場における非正規労働者が増えたということ、しかもワーキングプアという不安定、低賃金労働者が増えたことが、まず生活不安などを引き起こしている。また、非正規労働者、パート、派遣労働者の多くが、社会保険制度からも排除されてしまう実態にある。日本は国民皆年金、皆保険制度を標榜しておりますので、被用者グループの制度から外れれば、地域保険である国民年金、国民健康保険に入ることになっている。しかし、この人たちが不安定雇用、低賃金労働で、保険料が払えず、この制度からも排除されてしまっている。そういう人たちについては、セーフティネットの「最後の砦」と言われる生活保護がありますが、これも十分に機能していない。120万世帯まで受給世帯が増え、国も地方も財源対策が大変で、窓口で相当規制されるという実態があり、この制度からも排除されている人たちが相当増えています。

さまざまな経緯があるにしても、刑務所が今や最後のセーフティネットという実態になっている。今、全国の刑務所がどこも満杯と言われております。

図4 連合の「三層構造による社会的セーフティネット」構想

図4 連合の「三層構造による社会的セーフティネット」構想:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

その中でも、特に高齢者、心身に疾患を持っている方あるいは外国人労働者などで占められている。本来は社会的なセーフティネットで支えなければならない人たちが刑務所に行ってしまっているという現実がある。

このように、日本のセーフティネットが十分に機能していないということなので、これをまず十分に機能させる必要があるのではないかという問題意識であります。そのため、連合は雇用保険と生活保護との中間に、職業訓練中の生活支援給付を行う新たな制度(第2のセーフティネット)を創設するなど社会的セーフティネットの再構築を提案しています(図4)。

図5 連合「180万人雇用創出プラン」の実現

図5 連合「180万人雇用創出プラン」の実現:2009/12/16フォーラム開催報告(JILPT)

パネルディスカッションでも少し触れたいと思いますけれども、新たな成長戦略と雇用創出ということで、連合としては、やはり成長戦略、新たな雇用創出に当たっても、ディーセントワーク、働きがいのある人間らしい労働というものを基本に置いた持続的な成長という考え方をベースに置くべきだと考えております。

成長戦略の柱として、連合としても少子化対策との関係、それから、それを支える人材育成に力を入れるべきと考えております。今回の経済危機、あるいは環境、温暖化対策を好機ととらえる形で内需に転換していく視点、あるいはアジアマーケットを取り入れた内需拡大などを通じて、連合としては、直近の3年ぐらいで180万人ぐらいの新たな雇用創出が必要だという考え方を出しています(図5)。