開催報告:第42回労働政策フォーラム
高度外国人材の活用促進に向けて
(2009年11月24日)

労働政策研究・研修機構(JILPT)は昨年11月24日、都内で労働政策フォーラムを開催した。テーマは「高度外国人材の活用促進に向けて―人口減少社会下での経済活力維持のために」。

労働政策フォーラム(2009年11月24日)開催報告/高度外国人材の活用促進に向けて―人口減少社会下での経済活力維持のために―

まだ少ない高度外国人材の活用

冒頭の基調講演で山田雅彦厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長は高度外国人材を活用する意義について「単に語学力だけではなく、異なる教育、文化などを背景にした外国人ならではの発想力・企画力はわが国経済社会の活性化・国際を図るうえで有効」と強調した。

政府は国際競争力強化の観点から、専門的・技術的分野の外国人の就業を積極的に推進している。2007年10月1日に施行された改正雇用対策法では高度の専門的な知識・技術を有する外国人の雇用対策を国として講ずべきことが盛り込まれ、外国人雇用対策にはじめて法的な位置づけが与えられた。また、2008年には2020年度までに日本で学ぶ留学生を30万人に増やすことをめざした政府目標「留学生30万人計画」が策定されたほか、2009年には内閣府の「高度人材受入推進会議」の報告書が発表されるなど高度外国人材の受け入れは国家戦略レベルでも推進されている。

だが、こうした状況にもかかわらず、高度外国人材を活用している企業はまだ少なく、日本を代表するような有名企業ほどその傾向は強いという。

「異なる文化を受容し、さらなるイノベーションを図るため、社内の環境整備と留学生の採用を積極的に行うことが必要だ」と山田課長は主張する。さらに、日本の学校で学んだ専門性や外国人ならではの技能・発想という観点から、高度外国人材を活用するための適切な人事管理、教育訓練の必要性を訴えた。

次に渡邊博顕JILPT副統括研究員から厚生労働省委託調査「企業における人材の多様化(外国人活用)の取り組み実態把握のためのアンケート調査」(実施は株式会社富士通総研)の結果を説明した。調査は2009年10月に上場企業や有力企業など3,978社を対象に行い、813社から回答があった。

調査結果によると、企業はきびしいコスト制約の下で既存事業を維持、拡大し、新商品や技術開発の強化のために「人材育成の強化」が必要と考えている。そのためには「高いマネジメント能力」や「高い専門能力」をもった人材が求められている。だが、こうした経営課題解決のために必要な人材が確保できている企業は全体の3分の1程度に過ぎない。それにもかかわらず、経営課題解決のために高度外国人材の活用が重要と考えている企業の割合は約2割にとどまっている。実際に高度外国人人材を雇用している企業の割合も3割程度だ。

高度外国人材の採用活動の成果をたずねたところ、半数近くの企業が「期待どおりには採用できなかった」と回答した。渡邊副統括研究員はその背景として、企業の高度外国人材の採用が必ずしも戦略的ではないことを指摘する。採用時に日本語能力をどの程度重視するか企業に聞いたところ、3分の2が「日本人と同程度」と回答している。渡邊氏は「日本にきて数年程度で日本人と同程度の語学力を身につけるのは困難。専門能力を重視した戦略的な採用を行うのであれば、そのあたりを考慮したうえで採用するのが重要ではないか」と主張した。

企業側の情報不足がネックに

高度外国人材の採用ノウハウの蓄積やリクルート体制の整備なども今後の課題だ。渡邊氏は高度外国人材の採用が進まない要因として、留学生に対する企業側の情報発信の不足を指摘した。「留学生に対してアンケート調査を実施すると『企業側に留学生を採用する気があるのかわからない』といった意見が多数見られる。実際に留学生に話を聞いてみても、会社説明会が日本人と一緒に開催されることが多く、企業側に採用の意思があるのか伝わってこないという話が聞かれた」という。

企業の戦略的採用が進まないことは、高度外国人材の企業内での活用にも影響をおよぼしているようだ。「高度外国人材を期待通りに活用できていない」と答えた企業の割合は約3割にも達している。

渡邊氏は高度外国人材活用のために実施されている施策と実際に効果がある施策にギャップがあると説明。その背景として、研修費用やノウハウの不足に加え、社内の受け入れ部署が限定されている点なども指摘した。

後半のパネルディスカッションでは、企業側と高度外国人材の間に起きているミスマッチをテーマに議論が行われた。ここでも留学生などに与えられる企業側の情報量の少なさが、まず論点になった。

そもそも留学生を採用する意志があるのか不明確な企業が多いという。早稲田大学の西尾昌樹キャリアセンター課長は「以前、当大学が作っていた求人票のフォーマットには留学生の採用について『可』『不可』を記載する欄があった。『可』に○をつける企業が多いのだが、実際に採用が行われているかは別の話だ」と語る。拓殖大学の落合欣一就職部長によれば「採用の過程をオープンにしている企業も決して多くない」という。

さらに入社した後、留学生が社内でどの程度活躍しているかといった情報となると大学側でもあまり把握していないのが実情だ。

「日本企業のなかで自分の能力がどう活かされるか、どの程度まで昇進できるのか留学生は興味をもっているが、企業側から情報が与えられない」(落合氏)

伊藤実JILPT特任研究員は「日本ほど情報量が少ない求人票も珍しい」とこぼす。

「スタンフォード大学の就職部へ行ったとき、日系自動車メーカーの求人票をみせてもらったのだが、A4の紙で20ページほどの分量があった。求められる能力要件が事細かに記載されており、それを読めば求職者側も自分が採用されるかどうかほぼ判断できる」

一方、日本では求人票はA4用紙1枚程度が一般的だ。

企業は日本人と同じ枠での採用が一般的

外国人留学生を採用するとしている企業でも選考は日本人と同じ枠で行われるのが一般的だ。こうした現状について、落合氏は問題点を指摘する。

「日本語で同時に入社試験を受ければ、当然日本人より点数が低くなる。結果的に留学生の採用がないことについて、企業は『差別ではない』というかもしれない。だが、私どもにいわせれば『落ちて当たり前』だ」

では、高度外国人材の採用に積極的な企業では日本語のハンディキャップについてどう考えているのだろうか。バーコードや二次元コードなど自動認識システム総合メーカー株式会社サトーの碇明生経営企画本部人事部専門部長によれば、選考時点で日本語能力に「下駄を履かせる」ことはしていないという。日本語能力は日本人社員と一緒に仕事をするうえで必須だからだ。だが、日本人とコミュニケーションがとれるレベルにあれば、それ以上は求めていない。入社時の選考も筆記試験やSPI(総合適性検査)は行わず、面接のみだ。

総合ブレーキ国内最大手の曙ブレーキ工業株式会社でも、採用選考は面接のみで行われる。前上亮子人事・総務部門人事部エキスパートによると、同社では能力があり、英語が話せれば日本語能力が多少低くても採用しているという。だが、仕事を進めるうえで問題がなくても同僚の日本人が何を話しているかわからず不安を感じる外国人社員も多いことから、日本語研修を行っている。また、同社では製品開発上、どうしても必要な用語の一覧表をつくり、優先的に覚えさせているそうだ。

先輩が入社した企業に就職する傾向

企業の情報が不足するなか、留学生はどのように応募先を選ぶのだろうか。西尾氏によると「ハローワークインターネットサービスなどの公的なサポートシステムを学生に紹介しても就職活動の早い段階では使わず、自分の興味のある企業に直接アクセスするケースが多い」という。

西尾氏は「企業を選ぶ最初の時点では留学生は日本人学生以上に大手志向」という印象を抱いている。そうした背景について、落合氏は「大学生レベルで知っている企業は非常に限られている。学生が普段身の回りで目にする製品をつくっている企業しか知らないということでいえば、留学生の場合、日本での経験が少ないぶん、日本人以上に知識が限られてしまう」と分析する。

だが、落合氏は「彼らは就職先が絶対に大手企業でなければならないという意識を持っているわけではない。外国人の採用実績があり、自分の知識や技術が活かせるのであれば、地方の中小企業であっても応募すると思う」と続けた。

実際、留学生の就職先をみると、中小企業がほとんどだという。「留学生は大企業、有名企業よりも先輩留学生が入社しているかどうかを重視している。したがって、留学生を採用する企業ということで情報提供した方が応募は増えるかもしれない」(落合氏)。

説明能力が必要とされる雇用管理

パネルディスカッションの後半では曙ブレーキ工業とサトーから高度外国人材の雇用管理の実情が報告された。

前上氏は「外国人はキャリアの志向について、日本人よりシビアな目を持っている」と感じている。面接で留学生に「弊社では10年かけて人を育てている」と説明したところ、その場で「さようなら」と言われたこともあるそうだ。

「ローテーションを行うにもキャリアパスを示したうえで、何のために異動するのか、それがどのように自分のキャリアに影響するのかを説明してやらないと辞めてしまう可能性がある」

同様の経験は碇氏にもある。「将来、現地子会社のトップになってもらうという前提で中国人を営業職として採用したが、異動の直前で『日本で働きたいので他の会社を見つけます』と辞められたケースが2度もあった」と苦笑いする。

前上氏によると、外国人社員は自分がどれだけ仕事に貢献しているかいつも気にしているという。「手空きの時間があれば、『今、何もやることがないんですが、仕事はありませんか』とアピールしてくる。非常にポジティブだ」。

外国人社員は主張がはっきりしており、日本人なら曖昧にしてしまうこともはっきり質問をぶつけてくるという。「彼らと話すときは日本人社員と話すとき以上に説明責任を意識させられる」(碇氏)。

外国人が増えていくなかで、日本人社員との間に摩擦は起きないのだろうか。

「これから企業を伸ばしていくために試行的に外国人を増やしながら、社内に波及させていくという方法を取っているので、慣れてきているのではないか」と前上氏は語る。

高度外国人材を入れるうえで、「まずは雇用管理の体制を整えてからではないと」と躊躇する企業もあろう。だが、厚生労働省の山田課長は言う。

「専門能力を身につけ、日本語も話せて、なおかつ4年間日本で生活経験がある人材を無駄にする手はない。企業にはとにかく高度外国人材を雇ってみて欲しい。異質な人材が入ることで摩擦が起きるが、組織も活性化する。雇用管理もその中でわかっていくだろう。まずは最初の一歩を踏み出して欲しい」


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