パネルディスカッション:第11回労働政策フォーラム
NPOは雇用の場になり得るか?
(2005年5月25日)

開催日:平成 17 年5 月 25 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

【小野】 ただいまからパネルディスカッションに入らせていただきます。最近、NPOが認知されるようになり、やりがいや生きがいを求めてNPOで働きたいという人たちが増えてきています。今回のフォーラムは、「NPOは雇用の場になり得るか?」という大胆なテーマになっておりますが、そうはいってもNPOと雇用というのはまだ少しかけ離れているような気もいたします。まずは、パネリストの皆様に、自己紹介を兼ねて、「NPOは雇用の場になり得るか?」という大きなテーマをぶつけて伺ってみたいと思います。

1.最初に

NPOで働きながら家庭生活を両立させる難しさ・厳しさ

林 大介NPO法人 21 世紀教育研究所新しいウィンドウ 事務局長

はじめまして。 21 世紀教育研究所の事務局長の林です。よろしくお願いいたします。 21 世紀教育研究所は 1994 年に設立された団体で、 99 年にNPO法人格を取得しています。私自身は 2001 年 9 月から同研究所で働いています。教育分野の活動のうち、ずっとやってきていることとして、フリースクールやフリースペースなど学校以外の学びの場に関する情報を収集して出版物を出したり、最近ではホームページ上のデータベースを無料で公開し、全国どこにいても自由に検索できるサービスを提供しています。また、教育改革についてもいろいろ取り組んでおり、教育特区の問題などに関してセミナー・視察なども行っている団体です。

私自身は先ほども言いましたように、 2001 年 9 月から働いているわけですが、大学を卒業した後、地元の町田市で障害児介助員という仕事に3年間携わりました。非常勤嘱託という立場で、更新2回・最大3年間という契約で働きながら次の仕事を探していたときに、21世紀教育研究所が人を探しているという話を聞いたので、応募したら運よく採用されたということです。私は高校3年生ぐらいのときから「子どもの権利条約」というものの普及活動に関わっていたこともあり、当時の採用者がそうした活動を評価してくださったということと、そこで働かれていた方もたまたま私のことをよくご存じだったというご縁もありまして、今現在働いている次第です。

本日のテーマについて、個人的にはNPOは確かに雇用の場になり得るとは思いますが、単にやる気があるだけではNPOで働いていくことは難しく、待遇面の問題~後ほど話をすることになると思いますが、私自身は結婚して子供もおりますが、NPOで働きながらどのように家庭生活を両立させていくかという課題もあり~、NPOで働く人たちのための制度整備の問題を考えていかなくてはなりません。とくに私自身が現在、事務局長という立場にいますので、今後、一緒に活動する人が働きやすい環境を自分自身がつくっていかなければならないと考えると、単純に「NPOは雇用の場になる」と言うのは難しいかと感じています。

NPOを多様な就業の場に/社会を変えるお金の流れをつくりたい

岸本 幸子NPO法人パブリックリソースセンター新しいウィンドウ 事務局長

パブリックリソースセンターの事務局長をしております岸本と申します。NPOは雇用の場になり得るのか?――パブリックリソースセンターという私が運営している組織は、多様な就業の場にしていきたいと思っております。その中の一つとして、きちんとした雇用関係も結べるようになりたいと考えているところです。これは後でお話しいたしますが、いろいろな方がいろいろな働き方をしています。その中には賃金の問題もあるけれど、やりがいの問題もある。さまざまなバランスの上に成り立っている組織だと思っていますので、雇用の場になり得るのかということに関しては、一つ、まず大前提として多様な就業の場にしたいというのが、私の立場です。

パブリックリソースセンターというのは、2000 年に、私と 14 人の理事メンバーで立ち上げた調査研究をするNPOです。現在のところ、4人のフルタイム職員とさまざまな形でセンターを支えてくれている人たちで成り立っている場です。やっていることの半分は企業の社会的責任についての評価活動。それを投資行動につなげるというSRI(社会的責任投資)のための企業評価活動というのが半分、残りの半分がNPOの資金基盤の整備やマネジメント支援、ということで両方合わせて、私どもは社会を変えるお金の流れをつくりたいというミッションで動いている組織です。

大変格好よく聞こえますが、職員の立場としては非常にいろいろな問題があります。 1つだけ最初にお話ししますが、例えばスタッフが家を借りるとき、この賃金で東京で借りられる部屋を見つけるのは大変です。きちんとした生活を送るための賃金をどうやって確保するかという非常に重要な問題を抱えているという点と、それから、アパートを探すとき、収入だけ尋ねられるかと思っていると実はそうではなく、「NPOって何?」という質問を出されてしまう場合も結構多い。要するにアパートの貸主さんとしては、暴力団ではない、宗教団体ではないということを確認しないと入居させたくないわけですから、きちんとした活動をしているところですか?まっとうな職業の方ですか?という点をお尋ねになります。ということで、社会のNPOに対する理解は、けっこう初歩的なものにとどまっているのかなという気もいたします。

NPOも自助努力を/相当する人件費確保は当然 (PDF:8KB)

田中 尚輝NPO法人市民福祉団体全国協議会新しいウィンドウ 事務局長

市民福祉団体全国協議会という、福祉系の主にホームヘルプサービスを提供している団体の全国的な組織(中間支援団体)の事務局長をしております。私どもの対象としているNPOは 1,600 から 1,700 ぐらいありますが、そのうちの約半数の 800 団体が会員になっています。雇用の場になり得るかというテーマですが、雇用の場にしなければNPOは発展しませんし、かつ、日本の社会を変えていくことにならない。企業やマーケットの失敗と政府の失敗を乗り越えるためにNPOは存在するのですから、例えば、事務所に電話しても誰も出てこないようなNPOでは信用されませんので、NPOも自ら努力して雇用の場を作っていかなければならないと思います。

私は、介護系という比較的恵まれている分野のNPO法人のとりまとめ役を担っております。正確な数値はありませんが、介護保険事業に参入しているNPO法人は 1300 程度、事業所としては 3000 ぐらいあるだろうと言われています。1カ所に 10 人として~中には 100 人、200 人も働いている事業所もあるでしょうが~、大体2~3万人ぐらいが介護系のNPO法人で雇用されていると思われます。

ただ、その雇用形態は、岸本さんがおっしゃったようにバラバラでありまして、私が知っているNPO法人の理事長の中には年収 1,500万円という人もいます。ある田舎で、NPOの理事長の給料が 800 万というのはおかしいんじゃないかという意見が周辺の住民からあったらしく、それについて執筆してほしいと日経新聞から頼まれたことがありましたが、営利企業と同じような仕事をしているのだったら、見合うだけの人件費を確保しても何らおかしくないと書いたことがあります。問題は支払い能力がないから支払えないわけでありまして、それについては、今後、それぞれの団体のマネジメント能力をどのように向上させていくのかという問題になるのだと思います。一つだけご紹介しますと、三重県の熊野市に、年収2億強のNPOがあります。社会保険まで加入しているスタッフは半分ぐらいですが、120 人を雇用しており、従業員数では熊野市役所に次ぐ雇用主になっています。商工会議所からも是非会員になってほしいと言われているようなNPOもあるということを知っていただきたいと思います。

学生のNPOに対する意識は?−就職先の選択肢には入っておらず

山内 直人 大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授

私は大学で教えていますので、学生の意識面から少しお話ししたいのですが、学部生と大学院生では少し違うかもしれませんが、学部生に関しては、今まさに就職活動シーズンで、金融機関がだいたい目途がついて、メーカーが最前線ぐらいでしょうか、そんな感じだと思いますが、新卒の学生が就職の場として、選択肢としてNPOを考えているかという意味では「ノー」だと思います。しかし、私が聞いている範囲では、学生時代にNPOで働いていたことがある卒業生や、NPOでボランティアをしているという学生は結構多いですね。ボランティアまで入れると 2 人に 1人か、それ以上、NPOにかかわっているかもしれません。しかし、大学を卒業して企業に就職すると、その時点でNPOの活動を辞めてしまい、そのまま企業人生活に入っていく学生も結構います。大学院生の場合、我々の大学院ではNPOのマネジメントも多少教えていますので、そうした意識を持って入学する人が多いのですが、NPOの労働市場が非常に狭いので、なかなか求人もなく結局あきらめて営利企業に入ったり公務員になったりする人が多くいます。ですから、働く場として潜在的に拡大する可能性はあると思いますが、少なくとも新卒の労働市場では重要な位置を占めるには至っていないというのが私の実感です。

2.アメリカのNPO
−厚い人材層、高い雇用流動性、NPOが雇用創出のメカニズムに

【小野】  ありがとうございました。NPOを雇用の場にしたい、しなければいけないというパネリストの皆さんの考えが伝わってきましたし、岸本さんからは、NPOを多様な就業の場にしていきたいというお話をいただきました。日本では、NPOの労働市場は未熟で賃金もまだまだ低いようですが、一方、欧米諸国、例えばアメリカでは相当な雇用の場になっているようです。今後、日本でNPOが雇用の場として発展していくために、参考になるべきものがあるのではないでしょうか。岸本さんは、アメリカの大学院を卒業されNPOでも働いていた経験がおありです。その辺りの事情をお伺いしてみたいと思います。

【岸本】  私はアメリカでNPOマネジメントの大学院を卒業した後、助成機関、つまりNPOの寄附を集めて助成する組織におりました。そこでは、助成を与える側と受ける側のいろいろな福祉団体の現場を見てきましたので、その経験からお話しさせていただきますが、3点ほど特色があるのではないかと思っています。

1つ目は、セクター間の雇用流動性があるということです。よく言われるように、企業で働いていた人がNPOに入ってくる、あるいはNPOで働いていた人が学者になる、または行政の人がNPOに流れてくるといったような、いわゆる3つのセクターの間で動く人材の層があることを確かに実感いたしました。

2点目としては、非常にプロフェッショナルな人材が(もちろん全員ではありませんが)マネージャー層に育っているのを見て、このことが日本のNPOで働くということを考えた際の目標・課題なのではないかと思いました。プロフェッショナルというのは事務局長としてのプロフェッショナル、マネージャーとしてのプロフェッショナルという意味もありますし、その他にもいろいろな職能、例えば寄附金を調達するという職能、あるいはボランティアコーディネートなどの人材が、日本ではまだ育ってきているとは思いません。 一方、ボランティアに非常に多くの人がいるという点も、日本と異なるところかと思います。特に違うと感じた部分は、企業のマネジメント層が、例えば理事等としてNPOに参加するということが日本ではほとんどありません。ボランティアという言葉を聞くと、まさに体を使って動くことがボランティアと連想しがちですが、それ以外の知恵を出すところのボランティア、あるいは人脈を紹介する、資金を調達する、いろいろなボランティアがあるわけで、それが理事会の機能でもあるわけです。そうした理事会にボランティアとして参画する層が、アメリカのほうが広がっており日本ではまだ非常に限られていると感じたことがあります。

3番目のポイントとして、アメリカのNPOは、まさに今日のテーマである雇用創出の装置になっているという点です。どのようなことかと言うと、例えばホームレスの方々の職業訓練を行政からの受託でやっている、青少年の職業訓練の場を提供する、あるいは企業の支援をするというような、自分で雇うだけではなく、雇われる人をトレーニングするような職業訓練、雇用創出をするメカニズムの1つとなっている。それをNPOが引き受けることが大変多いというのがおもしろいと思います。特に3番目のポイントが、NPOが果たす社会的役割という意味では大きいのではないかと思っています。

【小野】  まだまだアメリカに学ぶところが多いということですね。山内先生も欧米諸国の事情に精通されていらっしゃいますので、ご意見を伺いたいと思います。

【山内】  さきほどの小野さんのプレゼンテーションで使われた スライドの1枚目 に、各国の労働人口に占めるNPOで働く人の割合がグラフが出ていましたが、日本の4%に比べて、高い国としてはオランダやベルギーなどのヨーロッパの小さな国で 10 %前半になります。相対的な規模で言うと日本の3~4倍です。岸本さんのお話の中に、例えば家を借りるときのエピソードがありましたが、今の日本では「NPOで働いています」と言うと、「ちょっと変わったところで働いているんですね」という反応が返ってくると思います。それがオランダやベルギー、アメリカぐらいに増えれば、そういう反応は減ってくるでしょう。例えば学校で、「両親のどちらかがNPOで働いている人」に手を挙げてもらうと、30人ぐらいのクラスだとおそらく10 人ぐらいは手を挙げると思いますが、そういう状況になれば、NPO=変わったところというイメージがだいぶ払拭されるのではないでしょうか。そうした点でも、日本とヨーロッパ、あるいはアメリカとの差はまだまだあると思います。ただし、ある閾値(いきち)のようなものがあって、そこを超えると随分違ってくるのではないかという感じはしています。

3.依然として低いNPOの賃金水準

【小野】  数的にも拡大しなければいけないというご指摘ですが、そのためにもNPOで働く人の労働条件の向上が必要になってきます。いまNPOの正規職員の平均年収は 200 万円台と言われておりますが、賃金が低い状況をどのように考えたらよいのか、ご自身の経験なども含めて林さんからご意見をいただきたいと思います。

【林】  そうですね。私自身の給料は交通費等すべて込みで月 22 万円ぐらいです。おそらく他のNPO法人も同じだと思いますがボーナスはありません。私は結婚して 2 年半で 10 カ月になる娘がおりますが、私だけの収入で生活していくのは厳しいということもあり、ずっと共働きでやっています。パートナーは民間企業に勤めており、最初は一般職として入社したのですが、総合職との垣根がなくなって条件はだいぶ良くなったみたいです。そういうところを見ると民間企業で働くことを羨ましいと思うこともあります。じつは1年ほど前からNPOの仕事とは別に中学校で非常勤という形で授業を持たせていただいていますので、その収入を合わせると年収は 350 ~ 360 万ぐらいにはなっているかと思いますが、それでも、このままで生活していけるのかということはすごく感じますね。

【小野】  林さんはまだ 20 代ですよね。働き盛りの年齢の男性が有給職員としてNPOで働く場合、給料のことは誰でも悩む共通の問題だと思います。ただ、NPOというところは従来から女性が非常に多い職場で、女性の市場賃金は非常に低いことから何か関係があると思われますが、山内先生はどのようにお考えでしょうか?

【山内】  NPOで女性が活躍していることは、この業界に関わっている人なら誰しも同意するところでしょうが、私は基本的に、NPO以外の世界が男社会であることの反映というか、その未来イメージだと思います。夫が役所や企業で働いて家計を支えてくれるという前提があるから、妻はNPOで働くことが可能だという、あまり喜べない現実があると思います。NPOの側にも、家計の補助的な収入に甘んじている主婦に頼っている面もあるかと思いますので、そうした関係をどこかで断ち切らなければならないという感じは持っています。

【小野】  介護の分野には多くの女性が働いています。また高齢者の方も多いかと思いますが、田中さんから賃金について少し詳しくお伺いできればと思います。

【田中】  NPOの中でも中心的なメンバーの年収は、 300 万円から 400 万円が多い、中には 500 万円という人もいます。理事長の場合、NPOによって差はありますが 400 万円ぐらいはあるのではないかと思います。その他の常用雇用の人については、200 万円から 250 万が一番多く、まだ非常に低い。 400 万円台ぐらいを出さないと良い人材を集められませんので、そこが一番の検討課題です。

4.多様な人材の活用―有給職員、パート、有償・無償ボランティア

【小野】  財政的に苦しい状況でも良い人材は必要だということですね。人材面について少し掘り下げていきたいと思いますが、NPOで働く人たちは実に多様です。岸本さんは、NPOで働く人たちの就業形態についてどのように見ていらっしゃいますか?

【岸本】  実際に、パブリックリソースセンターのようなNPOで働いている人の層を見ると、3つぐらいあるかと思っています。

1つは、私自身もそうですが、スピンアウト組。企業や行政で働いてきて 40歳ぐらいで飛び出したようなスピンアウト組と呼ばれる人たちがいる。この人たちはリタイアメントではないんですね。今まで培ってきた能力とか人脈とか思いというものをここで爆発させるというようなタイプの人たち。

2 番目が、50 代、 60 代のリタイアメント組、もしくはリタイアメントを視野に入れた方たち。今までのサラリーマン生活の最後の思いを爆発させて、濡れ落ち葉になる前に飛び出した――濡れ落ち葉にならないためにと否定的に言っちゃいけませんね。そうではなく、まさに生きがいのある場を求めていらっしゃるような人たち。賃金も必要だけど、働いている証として、ある意味で言えばプライドなり生きがいがすごく重要だというパターンの方々。

最後に、 20 代の若い層が挙げられます。自らNPOをつくる人もいれば、別に職業を持ちながら立ち上げる人もいる。あるいは職業を持ちながら関わっていく人たちも 20 代の中にはいます。 以上申し上げたように、3つぐらいの層に分かれているのではないかと思います。NPOは女性主流、主婦主流、高齢者主流と言われる中でも、こうした層が徐々に増えているのではないかと。

そのような人たちの雇用形態が非常に多様なために、パブリックリソースセンターでは複数の就業規則があります。まず、いわゆる有給スタッフでは、(1) 正規職員=フルタイム職員で月給制、兼業を基本として許さないタイプの就業規則、(2) フルタイムでコアスタッフですが年俸制で兼業が可能であるタイプの人、(3) いわゆるアルバイト・パートに相当する人たち、以上の 3 種類の就業規則があります。それに加えて実費しか弁償しないボランティアの就業規則と、合計4つの就業規則があります。

【小野】  パブリックリソースセンターでは就業形態別に就業規則を作っておられますが、このように就業規則をきちんと整備しているNPO法人はまだ少ないかと思われます。

介護分野では「人が足りない」という声をよく聞きますが、田中さん、実際はどうなんでしょうか?

【田中】  やはり足りないですね。全体的に人手不足ですし、特に優秀な方が足りない。これから介護保険も大変難しい段階に入っていきますが、介護保険以外の収益事業をやるだけのリーダーシップを持っている人が現状では殆どいません。介護保険だけでは3割ぐらいの事業所が倒産してしまいますので、私どもはNPOが倒産しないように研修会を開いていますが、対応できる人材が足りません。

数量的には、無償ボランティア、有償ボランティアまで含めるとかなり確保できますが、リーダーが不足しているんです。例えば、ボランティアの中には、雇用関係を結びたくない、自分が好きなときにしか行きたくないというような人が結構いて、そのような人たちを上手くコントロールできる質の高い人材がなかなかいないということです。

【小野】  企業であれば基本的には全員、有給社員ですが、NPOにはボランティアがいますので、そういう人まで上手く活用するのは確かに難しいでしょうね。ただ、財政不足の中、やはりボランティアも活用していかなくてはならない、その場合、有給スタッフとの棲み分けをどうするのかということは、それぞれお考えをお持ちだと思います。教育分野では有給職員とボランティアの活用はどうしているのでしょうか、林さんから伺いたいと思います。

【林】  教育分野ですから、子供と関わりたいとか教育に関心がある、熱意があるというボランティアの方が多くいます。ただ、その思いが微妙にずれてきたりする部分がありますので、先ほど田中さんが仰っていたように、どのように調整していくかが大切なんだろうと思います。ですから、ボランティアの方を含めた会議や打ち合わせを開いたりしています。特にフリースクール等の場合、実際に来る子供も入って、どのようなプログラムがいいのかボランティアも一緒になって考える、団体の運営も含め、そうした創意工夫をしているところが結構あると聞いています。

【小野】  有給職員の仕事、ボランティアが中心にやる仕事など、その辺りは比較的明確に分かれているのですか?

【林】  日常的な部分については有給職員がやらざるを得ない部分があると思います。ですから、ボランティアに何をやってもらうのか、責任の問題もありますので、やってもらえる部分とやってもらえない部分を考えてピックアップする、こうした作業には時間を取られたりします。

5.組織のミッションと個人の思い―両者の兼ね合い

【岸本】 さきほどボランティアの中には雇用契約を結びたくない、自分の好きなときに来る人がいて管理が難しいという話がありましたが、ちょっと異論を申し上げたいと思います。仰っているような実態があることは理解できるのですが、NPOでは、たとえフルタイムの有給職員であっても「雇う−雇われる」といった雇用関係を第一に意識しているとは言えないと感じています。給料を払うとか、就業規則に従うとか、そういう関係はありますが、その前段階として「採用される」のではなく「参画する」という感覚・意識が一番必要なのではないかと思います。それはボランティアであっても有給スタッフであっても、あるいは有償ボランティアであっても、基本的にすべてに通じるポイントだと思っています。

また、有給スタッフとボランティアとの役割分担については、そもそも役割分担という意識を形成するためには、ミッションに対する共感や参画の意識がある、あるいは自分のミッションと組織のミッションが重ね合っているという大前提がないと成り立たない議論かと思い、―田中さんは十分ご存じでいらっしゃると思いますが―敢えてつけ加えさせていただきます。

【田中】  NPOに参加するボランティアの方というのは、ある思いを持って来られますが、その思いが顧客の生活向上にどう結びつくかはあまり関係がないんです。例えば介護サービスですと、食事づくりがうまいとか、掃除のやり方がうまいとか、時間をちゃんと守って来るとか、そうしたことが必要なんです。単なるボランティア団体とNPO法人とどこが違うのかというのは、金銭の契約をする、取引をするために法人格が必要であり、NPO法人は、これまでのボランティア団体の延長で考えていたら駄目だということです。つまり、ボランティアサービスをする側の、「してあげる」という自己満足型ではないものが、NPOには求められているわけです。

例えば、お年寄りの世話をする無償ボランティアや有償ボランティア―雇用関係がなくて最低賃金以下で働く方ですが―の層はものすごくいます。両者を比較すると、幾ばくかのお金を介在した方が責任感は出てくる傾向にあります。

全員がミッションを共有することは勿論良いことですが、実際にやっている人たちに必要なものは執念です。ミッションだけ共有して「良いことをやっている」と互いに慰め合っても仕方ない。特に介護分野は、これから民間企業との競合が激しくなっていきますから、民間企業より素晴らしいサービスを、人間味あふるサービスを提供していかなくてはいけないんです。それは一方で、従来のボランティア的な良さを抑制していかなければならない場合もありますので、リーダーが上手くコーディネートしていかなければならない。現場ではなかなか難しい問題ですね。

【岸本】  もう一点、ボランティアでなくスタッフの問題の話をしたいと思いますが、今、NPOで働こうという人の特色には、NPOという業態を選択して働くという点があります。これはアメリカの調査でも出ていますし、おそらく日本でも調査をすれば同じような結果が出てくると思います。ですから、NPOで働こうという人たちには、どちらかといえば「組織への忠誠心」でなく「問題への関心」というのが強いとよく言われます。つまり、「私は国際協力に関心がある」あるいは「不登校に関心がある。だからこの職場を選んだ。」という人たちが多いかと思いますので、そういう人たちに対し、プロフェッショナルとして質の高いサービスの提供を求めて管理を強化していくのか、それとも、個人の考えと組織の目的をいかに重ね合わせられるか考えようと議論するのか、そのやり方の違いであって、どちらを強調するのかという問題だと思います。おそらくミッションを共有することが出来なければ、これだけの賃金でそれだけのことを要求されてたまるものかと、あるいは自分のやりたいことは違うと言って飛び出ていく人もいるのではないでしょうか。だから、リーダーシップのあり方というものが大事なポイントになるのだと思います。

6.NPOに対する社会の期待―若者・高齢者が働く場として

【小野】  現状は、個人と組織の考え・目的が重なり合う部分を見つけて活動していくということになるかと思いますが、特に若い方々の中には、NPOという場所を、自分の能力が発揮でき、経験が蓄積されキャリアの形成につながる場になってほしいと願う人が多いかと思います。今、定年退職の問題= 2007 年問題、または若年層のニート問題が語られる際、NPOはいかにも問題解決の突破口であるかのように語られます。それだけNPOに対する社会の期待が非常に大きいということでしょうが、田中さんはこの点についてどのように考えておられますか?

【田中】   狭い意味でのNPOにおける雇用の場という議論ではなく、岸本さんが仰っているような多様な働き方、家庭内労働、地域における助け合いなども含め、労働法で遵守される賃金労働以外の部分をどのように有機的に作り連携させていくのか、そういう大局的な視点も必要かと思います。なぜニートが生まれたのか?なぜ就職しない若い人たちがいるのか――?今、自分の会社に誇りを持って働いている人がどれくらい多いか分りませんが、魅力ある民間企業が少ないからというのも理由の一つではないでしょうか?給料が安くても自分自身にプラスであり、世の中の役にも立っているという場としてNPOが登場してきたわけですから、行政も企業もNPOをもっと応援してほしいと思います。

行政がNPOに事業を委託する場合、時給 700 円ぐらいで使おうとする自治体があります。年収はたった150万~200万円にしかなりません。そういう自治体には、自分たちがする仕事をNPOに委託するのだから、どうしてこれほど賃金が違うのかを説明してほしいと言っています。単にコスト削減のためにNPOに委託するケースが多く見られるからです。あまりに賃金が低いので、生活保護世帯になってNPOをやったほうがいい、なんて言う人まで出てくるわけです。ですから、行政がNPOに委託するときの考え方や、企業とNPOの結びつき方など、社会全体でNPOを支えて発展させていこうという意識形成が望まれます。

【小野】  岸本さん、いかがでしょうか?

【岸本】  今の点については全く同感で意見の一致を見ました(笑)。大きな社会構造変化の中で、NPOが雇用の受け皿になるかどうかの問題が提起されているという視点を持つべきだと感じます。小さな政府への流れがあることは山内先生のお話にもありましたが、これからの日本の社会は競争原理が強まる方向にあるかと思います。そうしたとき、競争原理がもたらす負の側面を支える非営利セクターを強くしていかないと、とても生きづらい世の中になるのではないかと思っています。

先日、ニートの所得階層別の発生率を目にしましたが、所得階層の低いところで一貫して発生率が高いという調査結果が出ています。それはヨーロッパで 90 年代の後半以降、ソーシャル・エクスクルージョン―社会的排除とか社会的阻害と言われているものが、1億総中流と言われていた日本でも実は起こりつつあることを明らかにしていると思われます。ですから、NPOの役割というのは、これからまさにそうした最も弱い部分を支えていくハードな期待が寄せられているだろうと思います。さきほど申し上げた雇用を創出するメカニズムになっていくとか、雇用を吸収できる層になっていくことが、社会的に求められているのだと考えています。

【小野】  NPOに対する社会的役割や人々の期待が大きくなれば、NPOで働く人が真剣に仕事に取り組むことのできる環境整備が必要になってきます。 20 代の林さんには、民間企業で働いている同世代の友人が大勢いらっしゃるかと思いますが、そのような方たちと全く違うキャリアを歩んでこられた、あるいは今後も歩んでいこうと考える際、相当の覚悟が必要だったと思うのですが、どうなのでしょうか?

【林】  私自身は、やりたいことをやって生きていきたいなと思っており、ある程度稼げれば―最低でも死なない程度に稼いでいければ―まずは良いのかなと、ある意味、楽天的に考えていました。ただ、現在の私には家族がいますので、共稼ぎを続けていかなければならないとは思っています。自分自身の将来については、どうなるのか分からないですが、こうしたNPOで働いていることが社会的に認められていってほしいと思います。私自身は結婚してNPOで働いていますが、逆に、NPOで働いている若い男性が結婚すると(その男性が)寿退社をして一般企業の就職活動をせざるを得ないというケースをよく聞きます。ですから、今の状況で働き続けるのは結構厳しいと感じています。

【小野】  今までパネリストの方々からご意見などを伺いましたが、山内先生にコメントをお願いしたいと思います。

【山内】  じつは「NPOは雇用の場になり得るか?」という表現に何か違和感があると思っていたのですが、「雇用」という言葉は「雇う・雇われる」という縦の関係をイメージしがちですが、NPOの働き方には、岸本さんが言われているように多様性があるわけです。雇用という言葉に収まらない働き方というのは幾つもあります。例えば、大学や高校を卒業した後、しばらく働く場としてもあり得るし、それから二足のわらじ、三足のわらじをはく、 1 つのわらじとしてもあり得るし、それから会社組織を辞めて次の人生を考えるつなぎとしてもあり得るかもしれない。じつに様々な働き方がNPOの場合には可能になるので、その可能性を1つ1つ掘り起こしていくと、結構大きなマーケットになり得るんじゃないかなということを今までの話を伺って感じました。そのための制度的なサポートも必要だと思います。

例えば企業の人などに、NPOの理事になってくれませんかと頼むと、会社の規定上、引っかかりそうだとかいう話が結構あります。企業は兼職規定が厳しくて、たとえ無給であっても制約されるケースもあるようです。企業がNPOと協働していく、パートナーシップを結ぶ、いろいろなやり方があると思いますが、従業員が企業で働いている以外の時間、夜とか週末の時間をNPOでも活動できるような社内規定の見直しなど、そうしたものも必要なのではないかと感じました。

7.参加者からの質問コーナー

【小野】  ありがとうございました。さて、ここからは、会場の皆様から寄せていただいた質問の中から3点ほど選ばせていただき、それについてパネリストの方にお答えいただきたいと思います。

それでは、林さんから順番に可能な範囲でお答えいただければと思います。

(1) 失敗するNPOの経営者の資質・原因とは?

(2) NPOの信頼性向上のためのPR対策は?

(3) NPOで 50 代以上の採用が多いのは、高齢者=賃金・報酬が低くても構わないから?

【林】  最初の2つのご質問に関して述べさせていただきたいと思います。私は21世紀教育研究所以外にも幾つかのNPOで活動しているのですが、人間関係というものが大切だと思っています。いろいろな関わり合いを持つメンバーが同じ目標に向かってやっていくためには、自分だけの思いや考えで進めていくわけにはいきませんので、やはり周囲との人間関係を大切にしていくことが重要だと思います。また、特に子供に関わる仕事なので――引きこもりやニートの問題などいろいろありますが――誰でも関わってよいというわけでもありません。ある意味、センスが問われる部分がありますので、経営者がそのセンスをどう活かすかということも結構大変な問題だと考えます。

2 点目のNPOに対する信頼回復に関しては、自分たちの活動を自己満足のためにPRするのではなく、それが社会に対してどういう意味があるのかということを打ち出していく必要があると感じています。私の団体には、不登校の問題に関心を寄せてくれる民間企業やボランティアの方が時々いらっしゃいますが、不登校という言葉をマイナスイメージで捉える場合が多く、なぜ14万人近い不登校の子供、あるいは高校中退者が生み出されてしまうのか、不登校そのものより、背後にある社会全体に問題があるということを訴えていかなければ、正しく理解され、また信用もされないのではないかと考えています。

【岸本】  失敗する組織などは出来れば考えたくないところですが、敢えて申し上げれば、ナンバー2をつくれるかどうかというのが1つの分かれ目、 1つの現象として見受けられます。というのは、創始者の思いだけで滑らないということですから、ナンバー2=若頭がいるということは、その人たちにその思いが伝わっているということだし、彼らが定着していることは事業がきちんと回せるということを意味していますので、若頭をつくれるかつくれないか、これが分かれ目だと考えます。

それから、NPOに中高年の方が多いということに関しては、従来のNPOは女性主流・主婦主流というお話がありましたが、それと同じように高齢者に対しても需要が出て、目に見える形として需給がマッチしていると考えられます。定年退職が視野に入ってきた段階で、あるいは定年退職した後、地域にソフトランディングしたい、今までやりたいと思っていたことをしたいという方々と、生活の面倒はみなくてもいいという期待を込めて、その方の能力を活用させていただきたいと思うNPO側の需給がマッチしているということでしょう。ただ、安くこき使っているのではないかと指摘されるかもしれませんが、中高年の方は今まで企業で働いて確かに知見はあるのですが、正直申し上げて、NPOで働くというときには、それなりのトレーニングと受け入れ体制も必要になりますので、賃金ではない形でコストを支払っているNPOが多いのではないかと思います。

【田中】  今、岸本さんがおっしゃったように、一番のポイントはミッションリーダーと実務リーダーの2人がいないと駄目なんですね。これは相反しますから 1人の人間ではできません。だから、自分がミッションリーダーだなと思ったら、第2の実務型リーダーを置くことが重要です。血液型で言ったら怒られるかもしれませんが、A型タイプが事務局長に座っていないと、私のように飛んで跳ねているような人間が事務局長だと潰れてしまいます。

リーダーに求められる資質とは、アンバランスの中のバランスを持てることです。そもそもNPOを立ち上げようなんていう人間には変わったタイプが多いわけです。世の中はお金の価値で動いて、学歴がモノを言う社会だったりするのに、そこを拒否するわけですから少数派なんです。そういう変わった人たちがそのままの路線で行っても受けとめてもらえない、多くの人の支持を得られません。ただし、世の中を変えるのがNPOだから、アンバランスのままでいい部分もあります。アンバランスの中のバランスを持つということが重要なんですね。

これは利己と利他の世界の問題になってきて、利己心でやっているリーダーは必ず失敗します。つまり、お金だとか権力だとか名誉というものを自分に集めたい、それで目立ちたいというタイプは利己心でリーダーをやっているわけですから、そこを利他主義に変えながらどうやって自分の人間的な向上を図っていくのか、自己コントロールできるかどうかにかかっています。誘惑は沢山ありますからね。率直に言えば、企業から今の 3倍ぐらいの給料を出すから来てほしいというケースもあるでしょう。たった3分の1で、生活保護世帯水準程度でなぜ頑張れるのかは、人生の生き方の問題で哲学的な部分があります。ただ、そんなことばかり言っていても仕方ないので、組織の中にはミッションリーダーと実務派のリーダーが必ず要ります。それがないところが潰れていったり分裂したりということになっていますね。

【小野】  ありがとうございました。山内先生からは、特にNPOの信頼性回復についてご意見をいただきたいと思います。

【山内】  日本のNPO法人のホームページを見ていると、財務諸表をアップしていないような団体が結構あります。あるいはホームページは持っているけれど半年以上更新していないところもあり、どのNPOと付き合ってよいか判断が難しい。それは行政にとってもそうでしょうし、我々が寄附をしようと思っても同じことで、的確な情報が開示されていないと付き合う相手も選べません。このように、NPO法で規定された最小限のことしかやっていない団体が結構あるのではないかという気がします。

高齢社会の日本には、子供がいなくてお金の使い道に困っているお年寄りが、何か良いことに使いたいと市役所に寄附したりするケースが多くあります。他の使い道を知らないために、潜在的にNPOに回るべきお金が行政に流れてしまったりする。すごくもったいないと思うんです。もっとNPO側が積極的に取り組む必要があるのではないかと思いますので、データをきちんと開示することが大事でしょう。できればNPOの世界でも『会社四季報』に相当するようなものがあって、どういうNPOが何をしているかが大体わかるような情報ソースが載っているといいと思います。そういう地道な努力が信頼性の確保や向上につながるのではないかと思いました。

8.財政基盤の安定には―積極的な情報発信、寄附税制の見直し、行政との対等な関係を

【小野】  今、参加者から寄せられた質問を3つほど挙げてパネリストの方々に答えていただいたわけですが、NPOにはまだ課題が多く残っているようです。ここからは最終テーマとして今後の展望について話を進めていきたいと思います。NPOに雇用の場、就業の場を増やすためにはどのような課題があるのか、今後の展望をどう考えておられるのかパネリストの皆さんに伺っていきたいと思います。

NPOと言えば、今までも話に出てきましたが、どうやってお金を確保するか、財政基盤を安定させるかという問題が中心になるかと思います。財政が安定することで初めて、雇用の場をつくり信用される運営にも繋がっていくと思います。財政基盤の安定が本日の議論の「本丸」のようなものですが、どのような取り組みが必要だとお考えですか?林さんから順に伺いたいと思います。

【林】  私のいるNPOも財政的にそれほど安定している団体ではありません。基本的に会費や寄附金で運営し、助成申請をして助成金が下りることもあります。そうした状況で財政基盤を安定させていくのは結構厳しいです。先ほど話したとおり、不登校やフリースクールに対する社会のイメージがまだ否定的な部分があるため、同じ寄附をするなら児童虐待の問題に取り組んでいるNPOや、放課後・週末に子供が遊べる場所をつくっているような団体にした方が、企業のイメージにも良いと考えてしまうことも確かにあると思います。こうしたネガティブなイメージを払拭するためには、不登校問題に対する理解を深めてもらう活動を広げていかなくてはと考えています。意外に思われるかもしれませんが、不登校児の中には、能力が高すぎて現在通っている学校では満足できないという子供もいるんです。そうした誤解も含め、現状を知っていただくよう広報に力を入れていきたいです。

【小野】  活動を充実させ、広く社会に認知してもらうことで財政基盤も安定させていこうということですね。

【林】  そうです。特にフリースクール等に関しては、最近、行政も変わってきています。NPOも単に行政を批判するだけではなく、行政とうまく付き合っていく工夫がもっと必要なのかと思います。最近、不登校に関して文科省が支援していくという動きがありましたが、NPOにとって行政からの財政的支援は非常に重要ですから、今後、行政との関係を緊密にしていくことも求められると思っています。もちろん、行政にはできない部分がありますので、他の団体とも協働したりフォローし合ってネットワークを広げていきたいと思います。

【小野】  岸本さんのところではいかがでしょうか?

【岸本】  NPOは、人がいないから事業ができなくて財政基盤が弱いのか、財政基盤が弱いから賃金が払えなくて人がいないのか、どちらが鶏でどちらが卵なのか、堂々巡りの状況があるわけです。どこかでこの悪循環を断ち切らなくてはならないと思います。NPOと一口に言いますが、大きく分けて事業収入が期待できるNPO、つまりクライアントというか受益者からお金を受け取るタイプのNPOと、どうしてもお金を受け取りにくいタイプのNPOと両方あると思います。したがって、財政基盤を安定させるための施策はそれぞれに打ち出されるべきだろうと思っています。

どう考えても事業収入に期待できない、例えば人権問題をやっているとか、あるいは環境問題に取り組んでいるというようなNPOなどは、基本的にお金を取りづらい。でも市民社会には必要な組織です。そういう組織の財政基盤の安定には、寄附税制の緩和という点が挙げられるでしょうし、寄附や会費を集めていく上で社会的信用力を高めていく、NPOの活動・情報をどんどん普通の人に知らせていくことが重要です。情報がないとお金は動きませんからね。例えば、「世界の車窓から」という番組がありますが、「日本のNPO」とか「神奈川のNPO」というように、 5分ずついろいろなNPOを紹介するようなプログラムがあってもいいじゃないか、「NPOアーカイブ」という番組が地域ごとにできてもいいじゃないかと思うんです。そうすれば、地域の人が地域のNPOを支えようという意識が起こるかもしれません。そうした情報を公開していく様々な広報活動が必要ではないんでしょうか。NPOの努力も必要だけれども、そうしたプログラムをつくることも必要だと思っています。寄附については、私どもでは、地域にいろいろな寄附ファンドを作ろうなどと話をしていますが、やはり募金の受け皿組織を立ち上げていくことも必要だろうと思います。

それから、事業型のNPOについては、 1つは、行政のアウトソーシングを適正な価格で出していくことが大きなマーケットになるだろうと思っています。決して安価な下請でなく、適正価格で、しかも新規の提案を受け入れるような形でパートナーシップ型の事業を増やしていくことが、NPOが財政的に安定していく上での1つのポイントになるのではないかと考えます。もう一つは、行政と関係なく様々な先駆的事業を立ち上げようとしている事業型NPOもあると思います。そうしたNPOの支援には、株式市場で言うところのエンジェル、つまりリスクはあるけれど事業に共感する人からお金を集める仕組みが必要なんです。現在、個々のNPOでは市民債のようなものを発行していますが、もう少しシステマティックに発行できるようになればと考えています。地域再生税制*というものがスタートしておりますが、例えばあのような仕組みを取り入れながら、雇用創出に効果のあったNPOに対して出資する人を介在させることはできます。ですから、NPOの事業を支援する人に対する税制優遇を与える地域ファンド(一種の投資ファンドになりますが)の創設も検討されるべきだと考えます。

*地域再生に資する事業を行う民間企業に対する投資に対して税制上の優遇措置を講じたもの

【小野】  いろいろなアイデアをありがとうございます。本日は、民間企業や行政、シンクタンクやマスコミの方も参加しています。先ほど岸本さんがおっしゃった「世界の車窓から」のNPO版は非常に良いアイディアですね。企業の方にスポンサーになっていただき、マスコミとそういう番組をつくることができれば素晴らしいなと思います。

それでは、田中さんもNPOの財政安定についてご意見を頂戴したいと思います。

【田中】   3点ほど申し上げたいと思います。 1つは、NPOの大前提として自立することです。自分たちで資金を確保し、寄附も集め、人材も集めるという自立型NPOがまだまだ少ないんですね。例えば、私どもでは会費収入だけでは足りませんので、今度、NPOでは初めて市民協が宅建業の免許を取ります。現在、 30 人ぐらいの高齢者の住宅斡旋をしていますが、宅建業の資格がなく広告収入としていただいているので、本来の半分ぐらいしか料金をもらっていません( 30人ぐらいで 150 万円ぐらいでしょうか)。それが来月には免許が取得できますので、今年の収入(予算)のうち 500 万円くらいは期待できるわけです。自分たちのミッションと馴染む分野で、営利収益事業をどうやって立ち上げていくのかがポイントです。10万、20万の補助金を当てにするばかりでなく、依存体質を持たずに自力でやってみることが肝要だと思っています。

2点目は、岸本さんが言われていたように社会的な環境整備が必要だという点です。例えば、道路運送法では白ナンバーの車は有償サービスができないので、NPOが働きかけ、何とかガイドラインを変更することで有償サービスが提供できるようになった。ところが、自治体によると運営協議会というものに諮らないといけないなんて話があり、こうしたハードルが幾つもあるわけです。また、我々は有償ボランティアという認識ですが、請負業に該当すると指摘され課税されてしまう。賃金として受け取れば問題ないのですが、賃金をもらわないでボランタリーにやりたいという人たちが有償ボランティアの主流ですから、ほんの少ないお金しか受け取らないのです。どうしても幾らかのお金が団体に残るのですが、このようなものにまで課税するなんていうことは無駄だと思います。ですから、税制も含めた基盤整備の必要性を感じています。

3 点目は、本日の議論に何度も出てきましたが、お金の流れをNPOへ向けていくにはどうしたらいいかということです。行政は税金で強制的にお金を徴収する権力を持っており、企業はより良い商品・サービスを提供して利潤を確保する。では、NPOの場合は何かと言うと、企業と同じように事業もやれば、行政の助成金を受ける場合もありますが、決定的に違うのは寄附なんです。日本の企業はアメリカ並みに寄附をしていますが、個人の寄附がまだまだ足りない。よくある話ですが、亡くなった後は家も資産もすべて寄附したいと言われるお年寄りがいらっしゃいますが、例えば、 5,000 万円を寄附したいと言っても2,000万円が税金で取られてしまいます。ですから個人の寄附をNPOにも集まるような構造を、行政や企業の方にもご協力いただき、作ってく必要があると考えています。そして、寄附税制の改革と同時に、アメリカのコミュニティファンドのように、労働金庫や全労済など地域に根ざす組織と協力し、地域の方に必要なサービスを提供することでNPOにお金が還流するような仕組みをできるだけ早く、3年ぐらいで作りたい。そうすれば人材の確保も進むだろうと考えています。

【小野】  岸本さんも田中さんもお金の流れが非常に重要だというご指摘がありましたが、山内先生はどう考えていらっしゃいますか?

【山内】  私も寄附は非常に重要だと考えています。寄附の源泉として所得と資産を考えた場合、やはり資産、それも遺産がその対象として重要になってくると思っています。やはり少子化・高齢化は、必然的に「子孫に美田を残さず」という現象に否応無く向かうわけですから、遺産を公共目的のために還流させるような仕組みをつくるべきだと思います。同時に、NPO側も、うまく寄附が流れてくるような仕掛け・工夫を考えていかなければなりません。小切手が発達している国では、小切手に書いて郵送すれば手続きが済むというところもあります。日本は小切手の制度が発達していないので、郵便振替やクレジットカードの引き落としが主流ですが、それ以外の選択肢も用意して寄附を募っていくという積極的姿勢・努力が今後、NPOに求められていくでしょう。

現在、NPO学会の事務局として会員をどうやって繋ぎとめるか、新規会員をどうやって開拓するかを日々考えているのですが、退会した会員がどうして辞めていったのかという分析を重視しています。それが今後の活動内容の見直しにもつながります。

本日のテーマはNPO=特定非営利活動法人に関してですが、非営利と営利の境目で活動しているような、コミュニティ・ビジネスの活動も非常に重要です。NPO的な活動をしている人が必ずNPO組織と取引しているとは限りませんから、そうしたところからの事業収入も、NPOの財政基盤の強化に有効だと考えています。政策的に期待するところは、自治体が基金をつくるなど様々な工夫をしていただきたい、例えば市川市のように 1%をNPOに還元するような仕組みをつくるなど、先進的な自治体の動きが国の政策にもいずれ影響を与えますので、NPOを育てるための制度上の工夫がもっと出てくれば良いと期待しています。

9.最後に

【小野】  これまでの皆さんのお話を伺って、幾つかのキーワードが浮かび上がってきました。まず「自立」という言葉です。財政的に自立するためには自己収益をあげる努力をする、その中には、山内先生が言われたように、会員の退会理由をきちんと把握・分析して活動の見直しにつなげていくという日々の努力も含まれるでしょう。また、人材面ではナンバー 2を育成していくという大事なポイントもご紹介いただきました。それから「お金の流れ」というキーワードも挙げられるかと思います。NPOにお金が還流するシステムをつくっていくためには、NPO側の努力に加え、企業、行政と協力・連携し、制度改革も含めて進めていかなければならない問題かと思います。日本では、NPO、企業、行政、そして個人の距離がもっと近づき、手を結べるぐらいになれば、お金の流れも変わっていくのではないかという期待を込めて、最後に、パネリストの方々の主張を伺いたいと思います。

政治への働きかけも

【林】  今日はお招きいただき有難うございました。私は他のパネリストの方のようなNPOのプロフェッショナルではありませんので、あまり深い内容のお話ができなかったかと思います。また、21世紀教育研究所は自分が設立したNPOではないので、組織と個人のミッションの関係に日々葛藤しておりますが、社会を変えていきたい、良いものにしたいという思いで続けております。そうしたなかで一番強く思うことは、もっと政治家に訴えていかなければならないということです。税制や他の制度の問題でも、最終的には政治が決定しますので、単なる要望や要請などを陳情するためでなく、政治にもっと働きかけていく必要があるかと思っています。

人材育成に行政も支援を/企業人、NPOとの距離をもっと身近に

【岸本】 本日の会場には、NPO、行政、企業などいろいろな方が参加されていると伺いましたので、最後は、NPOではなくて行政の方と企業の方に、NPOの立場としてぜひ考えていただきたいことを提案したいと思います。

まず行政の方には、「キャパシティー・ビルディング」という言葉がありますが、NPOの組織運営能力、経営能力を高めるための支援策をぜひ考えていただきたいということです。支援という言葉を使いましたが、基本的には人材育成を促進するということです。方法論としては、今後、委託をするときに、田中さんも言われていましたが人件費分はきちんと予算を立ててほしいということです。自分が仕事する代わりに外注するわけですから、それに相当する人件費を確保していただきたいというのが1つ目です。それから、助成金の中に、プログラム助成だけではなく、組織運営能力を高めるための助成金という考え方を入れていただきたい。その中には、例えばスタッフが研修に行くとか、あるいはコンサルティングを受けるというさまざまなパターンがあり得ると思いますが、人材育成の助成金というパターンを次に考えてみてはどうか、キャパシティー・ビルディングを考えようというのが、行政の方に対する提案です。

企業の方に対する提案としては、これから企業の社会的責任(CSR)が注目される中で、真の対等な関係、社会的にインパクトが与えられるような事業を行う相手が求められていると思います。そういう意味で、ぜひ継続的な社会貢献活動をもう一度考え直してみようという提案です。 2007 年問題では、定年退職後、地域にソフトランディングしたいと思っている人が多いと言われておりますが、そのためには、もっと若いときから企業とNPOとの人事交流などを通じ、NPOを身近に感じていくことができる仕組みが必要だと思います。単なるボランティアではなく、人事交流まで含めた方法、若年のときから企業、サラリーマン、サラリーウーマンとNPOを近づける方法を考えてみてはどうかということを申し上げたいと思います。

寄附に関しては、企業が寄附をするだけではなく、それに加えて企業の従業員がNPOに寄附をするための仕組みづくりを考えるべきではないでしょうか。例えば、職域募金、あるいは地域のコミュニティファンドや、私どもで運営している「GambaNPO.net」( http://www.gambanpo.net/ 新しいウィンドウ)というオンライン寄附サイト、そういうものを紹介していく。企業が寄附するのではなくて、従業員の方が寄附をする、従業員がNPOを選ぶ仕組みを広げていくことも、個人の寄附を増やすために企業ができる大きな社会貢献だと思います。

NPOは企業より良いサービスを

【田中】  私が関わっている事業型NPOは、企業よりも良いサービスを提供して収益率も高めていきたいと考えています。介護保険分野では最大手のニチイ学館という企業の取締役にお話を伺う機会を設けたり、厚生労働省には今度の介護保険の展望などを尋ねる機会を持つことを考えていますが、このように積極的に情報を集め、良いものを提供していくこと、これに尽きると思います。そうすれば人材の雇用促進にも繋がると考えています。

NPOの日本型ビジネスモデルを模索

【山内】  私は大学にいるので、やはり大学が日本の市民社会、あるいはNPOセクターの強化のために何ができるか、もう一度考えてみたいと思っています。どういうタイプの人材を育てればいいか、あるいはNPOのビジネスモデルみたいなものも考察したいと思います。日本で成功したNPOというのは、欧米のビジネスモデルを借りたケースが結構あるので、日本からビジネスモデルを発信できるようなユニークなものも考えてみたい、それが私自身への宿題ということで締めくくらせていただきます。

【小野】  本日は、「NPOは雇用の場になり得るか?」というテーマでディスカッションの場を設けました。パネリストの方から貴重なご示唆やユニークなお話を幾つもご紹介いただきましたが、参加されている皆様が本日、少しでも得るものがあったと感じていただけたら大変嬉しく思います。本日は、これで閉会とさせていただきます。長時間にわたりご清聴ありがとうございました。

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