基調講演:第11回労働政策フォーラム
NPOは雇用の場になり得るか?
(2005年5月25日)

開催日:平成 17 年5 月 25 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

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基調講演  「岐路に立つ日本のNPO」

山内直人 大阪大学大学院国際公共政策研究科 教授

はじめに

皆さん、こんにちは。大阪大学の山内と申します。今日はトップバッターということで、日本のNPOの現状についてお話をさせていただきます。講演のテーマに「岐路に立つ日本のNPO」というタイトルをつけましたが、少し問題点をえぐり出すようなお話をさせていただければと思っています。

私がNPOの研究を始めたのは 90 年代の初めごろです。今から15 年ぐらい前ですが、その頃はNPOといっても「何ですか?」と聞き返されるようなことが多くて、例えば、外の会場を借りて研究会を主催する場合でも、看板のNPOという文字が正しく表記されないこともしばしばありました。それが、 1995 年、ちょうど 10 年前に阪神大震災が起こり、その頃を境にNPOという言葉が一般の人の間でも広く使われるようになりました。今では、新聞やテレビでNPOの活動が頻繁に取り上げられていますので、NPOという言葉を知らない人はおそらくいないでしょうし、最近は大学入試センター試験でも、NPOに関する問題が出ますので、高校生でもNPOがどういうものかについては知っている時代になったと思います。そういう意味で、この 10 年で、NPOをめぐる状況が非常に大きく変わったと考えています。

期待と現実のギャップ

この 10 年ぐらいの間にNPOに対する期待が非常に高まってきています。行政の期待も大きくなっていますし、NPOとの協働を考える民間企業も増えています。しかしながら、社会の期待が大きくなっている一方、じつはNPOの現状はそれほど変わっていないのではないかと考えています。

バブル崩壊後の経済が停滞した 1990 年代は「失われた 10 年」と言われ、政府も企業も自信を喪失していた時期ですが、じつはその反動として、NPOに対する過度の期待が生まれることになったのではないかと考えています。既に15 年ぐらい経っているわけですが、依然としてNPOの状況に大きな変化は見られないと思います。

1995 年の阪神大震災から 10 年経ったこれまでを振り返ってみると、日本のNPOは今、大きな岐路に立たされているのではないかという認識を持っています。このままいくと、場合によったら期待倒れに終わってしまうかもしれない。しかし、NPO自身も努力し、制度の整備も進めば、成熟した市民社会の主役になるかもしれないという意味で、非常に重要な局面を迎えているというのが私の基本的な認識であります。

NPO台頭の背景

それでは、なぜNPOが注目されるようになったかということを振り返ると、日本の場合は、先ほど言いましたように 10 年前の震災を契機にNPOが注目されるようになったわけですが、もう少し長期的に考えてみると幾つかの要因が挙げられます。日本特有なものもありますし、ある程度は世界に共通した要因もあると思います。

一つは、公共サービスの需要の多様化です。昔は役所の仕事は画一的でも我慢していましたが、生活水準が上がって豊かになってくると、公共サービスについてもいろいろなニーズが出てきます。例えば、学校教育について考えてみても、単に公立学校が提供する画一的な教育サービスだけでは満足しなくなり、いろいろなタイプの子供に対してきめ細かいサービスが求められるようになっていますし、お 年寄りの介護についてもつきっきりの濃密なサービスを期待する人もいれば、少し距離を置いて間接的に見守ってあげるというようなタイプのサービスを欲する人もいるでしょう。そういう公共的なサービス、社会的なサービスに対する需要の多様化というものがあり、そういう需要に対しては、行政よりNPOの方が機動的かつ先見性を持って対応できるのではないかといえます。こうした公共サービス需要の多様化が進み、NPOの役割が相対的に注目されるようになったのではないかと考えられます。

2点目は、官から民へという大きな流れがあるということです。日本の場合、小泉政権が非常に明確な立場を打ち出していますが、諸外国では 1980 年代頃から「小さな政府」をキャッチコピーにした同じような動きが起こりました。西ヨーロッパの福祉国家の場合、高福祉・高負担で行き詰まってしまいましたが、負担を抑えつつ良いサービスをするにはどうしたらいいか、解決の糸口にサービスの供給者としてNPOの存在が注目をされたという経緯があります。東ヨーロッパや旧社会主義国においては、1990 年前後に中央集権の計画経済が破綻し、それまで政府が直轄していた福祉サービスなどを誰が担うのかという議論の中で、NPOが俄かに注目されるようになったという背景があります。余談になりますが、東欧のNPOの成長・発展に貢献した人として、ジョージ・ソロスという投資家がいます。アジアの通貨危機では悪名をはせた人物ですが、東欧にはソロスの名前がついた財団が各国にあり、東欧の民主化支援あるいは非営利セクター、NPOの成長のために資金を供給し、ソロス財団が非常に大きな役割を果たしてきたと言われています。

3点目に「第三の道」の模索が挙げられます。さきほど、官から民へという流れがあると申し上げましたが、一足飛びに市場メカニズムで全て解決できるかというと、そうではないことが歴史的な経験で明らかになってきました。イギリスのサッチャー政権、あるいはアメリカのレーガン政権、いずれも 1980 年代に非常に注目され、ある人はそれを礼賛したわけですが、イギリスにしてもアメリカにしても行き過ぎた市場経済が、その後問題を残しました。イギリスでは、サッチャー政権の規制改革や民営化の結果として、確かに経済的な成果は目覚ましく改善しました。英国病と言われていた国が立ち直ったわけですから、その意味では成果は非常にあったわけですけれども、逆に貧富の差が拡大し、成長のひずみが表面に出てくるようになりました。つい最近の総選挙で現政権の続投が決まりましたが、ブレア政権は発足当時から第三の道をスローガンに掲げてきました。第三の道とは、公的セクターのような政府主導の体制でも、市場メカニズムだけでも上手くいかないので、その他の道、すなわち「第三の道(The Third Way)」というものを掲げたわけです。その主役としてNPO(イギリスでは「ボランタリー・セクター」とか「ボランタリー組織」または「ボランタリー・オーガニゼーション」という言葉を使いますが)が注目され、第三の道を模索するようになったと言われています。

それから、4番目にITの普及があります。ITはNPOの活動範囲を広げるのに非常に大きな力があったと考えています。もともとNPOというのは非常に小回りのきく小さな組織が多いわけですが、そういう小規模な組織でもITをうまく使うことによって、大きな組織に対抗できるような情報の獲得や情報発信が可能になったわけで、そういう意味で、NPOにとってITの普及は非常にプラスの面があったと考えます。

ソーシャル・キャピタルとNPO

最近、ソーシャル・キャピタルという概念が使われるようになっています。これは地域社会における人々の信頼であるとか、日常的に隣近所とどのぐらい緊密につき合っているかとか、あるいはそういうコミュニティーの中のネットワーク(フォーマルなもの、インフォーマルなものを含めて)がどの程度緊密に張られているか、そうしたものをソーシャル・キャピタルと呼んでいます。このソーシャル・キャピタルとNPOの関係が最近、盛んに議論されており、先日、アイルランドとイギリスに調査に行ってきましたが、どちらの国でもソーシャル・キャピタルを政策評価の一つの柱として使っています。先ほど貧富の格差が拡大していると申しましたが、貧困層やマイノリティーの人たちが社会から排斥されること(=ソーシャル・エクスクルージョン)を防ぐにはどうしたらいいのか、エクスクルージョン(排除)からインクルージョン(包含)に変えるための対策を、イギリス政府もアイルランド政府も検討しています。その重要なキーワードとして、ソーシャル・キャピタルが使われており、ソーシャル・キャピタルを豊かにするためにNPOの活動やボランティア活動が非常に重要であり、また、市民活動が活性化すればソーシャル・キャピタルが培養されるという、双方向の非常に緊密な関係にあるということを触れておきたいと思います。

様々なNPO、 重層構造のNPOセクター

今までNPOという言葉を、なにげなく定義せずに使ってきましたが、実はいろいろな範囲のNPOがありまして、狭義のNPOとしては草の根団体やNPO法人が挙げられます。もう少し広く、財団法人、社団法人、あるいは社会福祉法人や学校法人のように多少制度的に伝統のある組織、このような公益法人まで含めると、広義のNPOと言えるかと思います。さらに、生協、農協、企業組合などの協同組合組織、あるいはコミュニティ・ビジネス、つまり営利と非営利の境目に存在するような活動を含めたものまで広げると、一番広いNPOの定義として使うことができるかと考えています。

ですから、NPOと言ってもどの範囲のNPOを指しているのか、議論がすれ違わないように注意を払う必要があるでしょう。例えば、経済全体に占めるNPOの地位について議論するときも、狭義のNPO、つまり草の根組織やNPO法人だけでは、有給で働いている人はおそらく 10 万人ぐらいと推測されます。しかし、広義のNPOでは、 200 万人、300 万人ぐらいの桁になるかと思いますし、最広義の協同組合、コミュニティ・ビジネスを含めると、さらに数十万人から百万人ぐらいプラスされるのではないかと思いますので、そうなると 300 万人、350 万人、場合によると400万人ぐらいの雇用規模になるかもしれない。そこは正確な統計がないのでかなり大雑把な数ですが、一番狭く定義すると 10 万人ぐらいの数が、真ん中の定義を使うと200 ~300万になり、最広義を使うと 300 ~ 400 万になるということであれば、どの範囲のNPOを指しているかによってイメージがかなり違ってくるわけです。

日本の労働市場の規模を例えば 7,000 万人ぐらいだとすると、広義のNPOでは3% ~ 4%の割合になりますが、狭義のNPOは僅か 10 万人と非常に微々たるものだということになります。ですから、NPOセクターに雇用吸収力があるかどうかの議論をするときに、一番狭い定義のNPOだけを取り上げるとかなりピント外れな議論になる可能性もあります。NPOといってもいろいろな定義がある、いろいろな範囲を取り得るということを頭に入れておいていただければと思います。

NPOの 10 年を振り返る

ここで日本のNPOの 10 年を振り返ってみたいと思います。

1995 年に阪神・淡路大震災が起こり、NPOによる災害の救援や復興活動が非常に注目されました。しかし、そのときに活動したNPOというのは、草の根組織、草の根NPOであり、法人としての地位は持っていなかったわけです。

そうした団体が法人として活動ができるように体制・制度を整備しようということで、 1998 年にNPO法が施行されました。

2000 年には介護保険がスタートしましたが、NPO法が施行された2 年後に介護保険制度が始まったことは重要な出来事だったかと思います。

2001 年には認定NPO法人の寄附控除制度が始まりました。それまではNPO法人に寄附をしても、個人が寄附をした場合には税制上のメリットがありませんでしたが、2001 年にようやく認定NPO法人制度という寄附控除が可能となる法人の制度がスタートしました。

それから、 2003 年には改正NPO法が施行されました。NPO法というのは、当初は 12 分野限定でしたが、活動分野を5つ追加して 17 分野で再出発をしたというのが2003 年であります。その頃から、NPO法人ではなく民法上の財団法人、社団法人に関する改革が、行政改革の一環として論じられるようになってきました。

2004 年には公益法人改革に関する有識者懇談会の報告書が公表されましたが、この内容については後で触れたいと思います。2005 年には、1998 年のNPO法に基づいて活動しているNPO法人の数が2万を超えました。ですから、NPO法人は量的にかなりのスピードで拡大をしてきたというのがこの数 年の動きと言えます。

NPO法の特徴

NPO法がどういうものかを確認しておきたいと思います。NPO法は、阪神大震災のときに活動したような、非常に小規模のNPOに法人化の道を開くものでありました。従来、そうした小さな組織が法人格を取得するのは非常に難しかったわけです。内閣府あるいは都道府県が認証することによって法人になることができる。認証とは非常に聞きなれない言葉ですが、法律上定められた書類を提出し、形式的に充足されていれば基本的に法人になることができるという形式審査主義です。行政側の裁量が非常に少なく、準則主義と言われますが、ルールに則って審査をし、認めるという形です。

それまでの公益法人制度というのは主務官庁というのがあって、法人をつくりたい場合には主務官庁に相談し、公益性があると認められれば許可をするという許可主義でした。役所が非常に強い権限を持っていたので、その反省として準則主義に近い制度ができたということです。

先ほど、当初 12 分野で、改正後は 17 分野になったと言いましたが、じつは事実上ほとんどの非営利分野をカバーしています。例えば、まちづくりという分野が法律上に明記されていますが、まちづくりというのはそれまでの法律用語には無かった言葉です。NPOは地域に根差した活動をしている団体が非常に多く、ほとんどの団体は直接・間接的にまちづくりに関係しているので、まちづくりという類型が入っていればかなりの部分をカバーできます。17 分野全部合わせると、それほど大きな制約はないという法人制度ができたということです。

増加するNPO法人・NPO法人の推移

最新の統計では、認証されたNPO法人の数は 2万 2,000 弱、審査の過程で認証されなかったものは 136 です。ほとんどは形式審査ですから書類が満たされていれば認めるということで、不認証の数は非常に少ないです。ただし、形式上活動していることになっているけれど、実際は休眠しているような団体が結構あるようです。全国の小学校の数は 2 万3,000 ~4,000 ぐらいだったと思いますので、NPO法人の数はほぼそれに匹敵します。小学校の数と同じぐらいあるNPOは、全国どこにでも見られるありふれた団体になっていると言えるかもしれませんが、小学校と違うのは大都市部に偏在しているという点です。東京都と大阪府が認証した団体だけで全体の3割近くありますし、全国の市町村のうち、NPO法人が全く活動していない、NPO法人の事務所がないという市町村が3分の1ぐらいはあります。

推移をみると、最近は毎 年 5,000 ぐらい増えており、かなりのスピードで上がっています。

NPO法人の活動分野、活動分野の広がり

17 分野のうち、多いのは保健・医療・福祉です。 2000 年の介護保険のスタートを契機に、NPO法人でも訪問介護サービスなどを手がけるようなところが増えてきています。全体の 56 %、6割弱のNPO法人が、主たる仕事かどうかわかりませんが何らかの形で、保健・医療・福祉の仕事を手がけています(複数回答)。社会教育やまちづくり、子供の健全育成という分野においても、かなり多くのNPO法人が活動しており、活動分野の広がりを見せています。

経営基盤は零細・脆弱

一方で、経営基盤が非常に脆弱なNPOが多い。この問題は後半のディスカッションで取り上げられると思いますが、 年間の収入が 100 万円未満のNPOが全体の3割を、また 1,000 万円未満が全体の 7 割を占めているという統計があります。 年間収入が 100 万円未満だと常勤スタッフを1人も雇うことはできません。1,000 万円でも常勤フルタイムの職員を2人雇ったら、収入の半分は人件費に消えてしまうでしょう。そうした団体が全体の7割を占めている状況ですから、経営的には非常に零細で脆弱であると言えます。 (参照:NPO法人の 年間収入規模の円グラフ)

典型的なNPO法人というのは、有給スタッフが2 ~3人いて、ボランティアが数名出入りしている。専用の事務所はなく共用しており、パソコン数台、電話1本で活動しているようなところが典型的なNPO法人と言えると思います。経営基盤の脆弱さをどのように克服するかが今、大きな課題になっています。

NPOをとりまく3つの危機

現時点でNPOの活動を評価するとき、3つの危機というキーワードが挙げられるかと思います。

(1) 信頼性の危機

一つは信頼性の危機ということ。NPOというのは基本的に信用商売で、人々が信頼するからNPOは存在意義があると言えます。営利企業と比べ、例えばNPOはサービスがきめ細かいなどという信頼・信用で成り立っています。しかし、今、2万数千にも増えたNPO法人の中には、新聞の社会面をにぎわすような悪徳NPOというものも出てきている。ヤミ金融とか暴力団などが関わっているようなNPOは、内閣総理大臣の認証を受けましたとか、東京都知事の認証を受けましたなどという名刺を持ち歩き、お墨つきを得たというような宣伝をしているNPOが現にあります。そうした行き過ぎた活動のため認証が取り消されたNPOも少しずつ増えているのではないかと思います。

また、NPO法では毎 年、事業報告書を提出しなければならないのですが、提出しないNPO法人が3割ぐらいはあると言われています。はっきりした統計はありませんが、都道府県の担当者等に聞いてみると、だいたい2 ~3割は事業報告書を提出しないそうです。3 年間提出しないと罰金を課すなどの罰則規定があり、それを適用している都道府県も出てきているようです。

一方、事業報告書は提出しているけど、「前 年度においては特段の活動をしていない」などと一言だけ書いて事業報告書にしている、休眠しているNPO法人も見受けられます。そういう団体が増えると、NPOセクター全体の信用が失墜する恐れもあるのではないか。アメリカのようにNPOが社会に根をおろしている国でも、かつてNPOのスキャンダルは幾つかありました。そうするとスキャンダルを起こした団体だけではなく、NPOセクター全体が傷ついて寄附が激減するなどということが、かつては起こったそうですので、日本も同じようなリスクを抱えているのではないかと思います。

(2) 協働の危機

特に行政とNPOの間で、いわゆるパートナーシップとか協働と言われている関係が広がりを見せています。どこの自治体でもNPOに業務委託をしたり補助を出したりしています。そのこと自体は非常に結構なことですが、行政はNPOを安価な業務委託先と考えがちですし、NPOの中にはそれほど専門的なノウハウを持っていないところも多くありますので、対等な関係を構築するのはなかなか難しい部分があります。一部のNPOは、いろいろな役所や自治体から仕事を引き受け、組織の規模に比べると過大な補助や委託業務を受けて十分消化し切れない、消化不良を起こしているようなNPOも出てきているそうです。ある意味では、行政の下請化のリスクというものがつきまとっていると考えています。そういう意味で、2番目に協働の危機というキーワードを挙げておきたいと思います。

(3) 市場淘汰の危機

現在、官から民への流れで規制緩和が進んでいます。それはNPOにとってビジネスチャンスであると同時に、競争の激化を意味しています。アメリカでは、 90 年代以降、営利形態、株式会社形態の病院や健康保健組合が急増しています。日本では、まだ訪問介護サービス等々の幾つかのマーケット以外では、それほど熾烈な競争は起きていませんが、訪問介護に関しは、営利企業のシェアは既に 30 %以上に拡大しています。それに対してNPO法人のシェアはせいぜい 5 ~ 6 %にとどまっています。

そういうことで、先ほど組織が非常に脆弱だと申し上げましたけれども、営利企業と対等な条件で競争する市場においては、競争に敗れ、縮小・撤退を余儀なくされるケースも今後は増えてくるのではないかと考えています。現在、訪問介護がその典型ですけれど、やがて医療あるいは教育などの分野にも営利と非営利が真正面から競争するような時代が来るのではないでしょうか。

公益法人改革

以上、3つの危機についてご説明しましたが、これらを顕在化させないためには継続的な制度改革が必要でしょう。現在、見逃せない動きの一つとして公益法人制度改革があります。さきほど少し触れましたが、 2004 年11月に公益法人制度改革に関する有識者会議報告書というものが出されました。内容をごく簡単に要約しますと、今の公益法人制度を廃止し、その上で非営利法人を2階建ての制度に組み直すというものです。1階部分は、敷居を低くして法務局への登記だけで法人になれるようにする。これが一般的な非営利法人。ただ、このうち一定の要件を満たすものについては公益性を有する非営利法人として(この名称は決まっていませんが)、2階部分に区分する。公益性を有する非営利法人というのは、特定の大臣のもとに有識者会議を設け、そこで公益性の有無を判断し、認可するという手続きです。今まで話してきたNPO法人については、当面はこの制度の外に置く、つまり、現行制度を維持するということです。このような内容の報告書が去 年の 12 月に閣議決定され、それらの法人に対する税制について、現在、税制調査会が検討しています。ちょうど今朝の新聞に政府税調の動きが出ていましたが、公益性があると判断される非営利法人については、税を優遇するだけでなく、その法人に寄附をした個人や企業に対しても優遇措置を与えるということが検討されていると伝えられています。ただ、どの程度の割合の法人がそのような税制上の寄附控除を受けられるか、現在のところはまだ明らかになっていません。

日本法人マッピング

今、公益法人改革の中で検討されている非営利法人制度というものは、かなり縦割りで複雑になっており、そのうちのごく一部が対象になっているにすぎません。民法上の財団・社団等を中心に検討が進められていて、じつは社会福祉法人や学校法人は、今回の制度改革の外に置かれています。しかし、将来的には、こうした様々なタイプの法人も含め改革しなければならない時が来ると、私は考えています。同じマーケットの中で競争するのですから、税制または法制度の扱いが異なる団体が一緒に競争するのは公平ではありません。例えば、社会福祉法人などは税制上かなり優遇されています。そうした団体が併存するとなれば競争政策上は非常にまずいことではないかと思いますので、いずれ改革が必要になるだろうと思っております。

寄付税制改革の必要性

先ほど、新しい非営利法人制度における寄附税制について税制調査会で検討されていると申し上げましたが、現在、NPO法人のなかに「 認定NPO法人」 という特別の資格を持った法人があります。その法人に対しては寄附優遇税制が適用されますが、 30 法人程度しかありませんので、全体(2万数千)の僅か 0.1 %ほどにすぎません。せめて 5 ~ 10 %の法人が寄附控除資格を持てるように大幅な要件の緩和が必要だと思います。そうしないと、日本の非営利セクター、NPOに対する寄附がなかなか増えないのではないかと考えています。  

展望と課題

最後にもう一度課題を整理しておきたいと思います。日本のNPOというのは、まだまだ未成熟でありますが、大きな潜在成長力を持っているということは言えるのではないかと思います。

そして、阪神大震災から 10 年を経て、量的な拡大の時期から質的な充実の時期への転換が必要なのではないか。別の言い方をすると評価と競争を通じた選別淘汰の時代に入ってきているということです。

そうした中で、NPO自身の自助努力も当然必要ですが、法人制度や税制の継続的な改革が必要です。現在議論されている公益法人制度改革についても、日本のNPO、市民社会の将来に非常に大きな影響を及ぼすだろうと思いますので注視していきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。

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