パネリストからの紹介2 NPOの取組 誰でもできる仕事と介護の両立の方法とは?

当法人が提供するサポートは、「誰でもできる仕事と介護の両立」でなければ意味がないと考えています。「テレワークができないと」とか、「工場の現場で働く人はできない」というのは違うのではないかと思いながら、さまざまな発信をしています。このタイトルに込められた思いです。

両立のためにやってはいけない介護とは?

当法人では年に700件ほど、個別の介護相談を受けており、「これをやると両立できないんだろうな」と思うことがわかってきました。

1つは、見守り・介護をきっかけとした同居。ひとり暮らしで物忘れがあっても、親戚や本人が求めても、やめたほうがいいでしょう。2つ目は、日常的に家族が直接介護に関わる。介護状態がより促進されますし、公的な介護保険も含めた介護サービスの拒否の原因になります。3つ目は、テレワークを活用した仕事と介護の両立です。何度も話しかけられてウェブ会議に乱入され、家族の関係が壊れてしまい、大変です。

4つ目は、育児と同様に、介護休暇・休職を利用して介護する。介護休暇・休職はあくまでも介護の体制づくりのためのもので、直接関わるための支援ではありません。5つ目は、介護費用を兄弟で分担して負担する。お金をかけてもいい介護にはならず、むしろ兄弟間のトラブルの火種になりがちです。

こういった誤解を引きずり、その結果、離職に追い込まれている人が多いことが、相談の中でわかってきました。仕事と介護の両立、家族介護において重要なことは、丁寧におむつ交換する方法でも、認知症の方に優しく声かけする方法でもありません。「人に話ができているかどうか」、これが最大のソリューションだと考えています。

私たちの心理は、人に話すことで不安や悩みが整理できるようにできています。また、会社の中でもいろいろな話ができていると、結果としてさまざまな支援を集めることができている人が多い。しかし、勤務先に介護のことを相談できている人はほとんどいない(シート1)。いわゆる隠れ介護の状況の人が非常に多いです。

なぜ、今、介護支援施策が必要なのか?

今、なぜ介護の支援策が必要なのか。1980年には、7.4人に1人で高齢者を支えればよかった。しかし、今や2人に1人になってしまった。こんなハイスピードで超高齢社会になった国はありません。私たちの頭はこのスピード感についていけているでしょうか。おじいちゃん、おばあちゃんをお父さんやお母さんが、ああやって介護していたから、「自分も介護できる」と思っていないでしょうか。無理ですよね。

シート2は、要介護認定を受けている人の割合を年代別に示しています。85歳以上になると、ほぼ6割の人が何らかの要介護認定を受けています。介護が必要になる家族は自分の親だけではない。配偶者の親や、意外と知られていませんが、子どものいないおじさん、おばさんの介護までいきなり自分に降ってくることまで考えたら、働いている間に家族の介護と全く無関係で生きていられる人はほとんどいない。日本人は今、そういう社会に住んでいるのです。

どういった原因の疾患や病気で要介護認定を受けたのか、介護が必要になる理由をみると、「その他」を除けば、男性は「脳卒中」が、女性は「認知症」がそれぞれ1位にあがっていますが、理由は多岐にわたっています(シート3)。実は、疾患の種類によって、やらなければいけない介護は異なります。タスクは全く異なり、多様性があるのに、家族だからといってやるのは相当無理な話だと考えています。

当法人が独自に行った介護に関する意識調査の結果(当法人『介護離職白書』から)をみると、「介護を自分の手で行うことは親孝行になる」と思っている人は6割を超えると同時に、認知症になったら1人で置いておいてはだめだと思っている人もやはり、6割を超えています。

また、介護を始めてから、いつ介護離職を選択したかをみると、長く介護を続けて「もう無理だ」と考えてから辞めるのではなく、1年未満や2年未満で辞めている人が半数近くを占め、本当に多い。逆に言うと、この期間さえうまく乗り越えられたら、自然と両立に向かっていく人も多い。

介護の全体像を、大雑把に4つのフェーズに分けました(シート4)。フェーズ1で初期体制をつくり、フェーズ2で体制強化し、フェーズ3で安定運用し、そして最後に 看取りを迎えていく。

このフェーズ1の初期体制をつくる前に、自分で介護にはまっていって辞める人が多い。この話をすると、「人間の血が流れていないのか」と怒られるので言い訳をすると、高齢者にとってよい介護になるなら何の文句もないのですが、フェーズ4の看取りのところまで家族の関係性が残っていないケースが、初期体制をつくれないケースにやはり多いのです。

最後はけんかしたっていいと思うのですが、もはやそんな関係も残っていなくて、「亡くなってから電話してもらえればいいですから」というような状況になると、高齢の方はどれだけ辛く寂しいか、想像いただけるかと思います。

この4つのフェーズの全体像から考えたとき、必要な制度の日数は、ピンポイントで短い日数で済む。介護での長期休業は、する側にとっても、される側にとってもハイリスクです。また、テレワークは危険だなと、いつも思っています。

仕事と介護の両立に向けた基本スタンス

どういうスタンスなら、仕事と介護の両立に自然と向かっていけるのでしょうか。仕事と介護は、いつの間にか天秤にかかっている。仕事を取るなら、もう親不孝になるしかない、介護を取るなら、もう自分のキャリアは捨てるしかない、と。

しかし、私はこの天秤は、今日を境にたたき壊したらいいと思います。どの相談を思い出しても、仕事と介護は絶対両立できる。そして、介護を受ける側にとっても、皆さんがお仕事をされているほうがうまくいく。家族ご本人にとって穏やかで、継続性のある介護体制ができると思います。

家族介護の効果的な関わりを整理してみました(シート5)。左が効果的な関わりです。「家族介護を受け入れる心構え」であり、「相談先を確保しておく」ことであり、「全体像を把握する」ことです。しかし、多くの方は、右を介護だと思っていないでしょうか。歩行、入浴、排せつの介護方法、認知症を進行させないための声かけ、介護保険制度の詳細を調べる、は専門職の役割です。

認知症を進行させないための声かけは、とても難しく、ただ話しかけるのではだめなんです。その人の記憶の状況に合わせて、例えば鶴田浩二が好きだったら、とにかく「ロイド眼鏡に燕尾服」と歌ったうえで、鶴田浩二がどういう人で、俳優としてどれだけすばらしかったかを熱く語り、「じゃあ、上原げんとは覚えています?」と話を広げることができるかどうかが重要なわけです。上原げんとの話で表情が曇るようなら、元の話に戻し、その人の適切な刺激を探していく。私はこれを自然にできるようになるまで3年ぐらいかかりました。なかなか難しいことです。

左側が効果的である理由は、事前準備ができますし、短時間で済むので仕事と両立できるからです。最も大事なのは、「優しくできる余裕が持てる」ことだと思います。家族を最も感情が直接伝わりやすい関係性と定義するならば、余裕がなくては家族に優しくなれません。だから、「私、認知症のお母さんにどうしてもどなってしまうんですが、どうしたらいいですか」と相談があったときは、「接触の頻度を下げませんか」と伝えています。

右側が非効果的な理由は、修得に時間と労力がかかりますし、親がどの症状を呈して介護認定を受けるかわからず、事前準備が難しいです。また、介護状態が深まると家族だけでは支えきれなくなり、変化に弱い体制になる。さらに、家族だからこそ強いメンタル負荷がかかる。元気だったときを知っているがゆえに、そうでなくなっていく姿を見て、つらくなっていく。

われわれ介護職でも、知識、経験、技術があっても自分の家族の介護をしてはいけないと習います。左側が家族の役割、右側は専門職の仕事で、多くの人がこれをイコールに見ていますが、全然違います。左側の家族の役割を担うことができれば、両立は絶対にできると思っています。

伝えたいメッセージは、とにかく「早い段階で相談してほしい」ということです。早く相談するには、企業が発信することがとても大事です。どうか企業の方にぜひ目を開いてほしいなと思っています。「早くというのはいつですか」と聞かれるので、チェックリスト(シート6)を作ってみました。青い欄に3つ以上チェックが入るようであれば、早く相談したほうがいいタイミングでしょう。

相談先としては、「地域包括支援センター」という地域の高齢者を対象とした何でも相談所が、人口3万人あたりに1つ、また中学校の区画に1つ、都市部であれば設置されています。スマートフォンで、実家の住所、町名を入れて、地域包括支援センターで検索できます。最初の相談は電話でいいので、お昼休みの10分でも電話していただくといいかなと思います。

「早く相談したら迷惑にならないか」と言われますが、そんなことはありません。地域包括支援センターの残業を増やすのは、ぎりぎりまで皆さんが介護して「もう無理だ」となってから通報するからです。早い段階で相談していただけると、きっと地域包括支援センターの職員もスキルアップできるような余裕のある職場になると思っています。

皆さんにやっていただきたいのは、介護よりも愛情を大事にするということです。介護と愛情を同じひとかたまりに見ている人が多いですが、私は、愛情を大事にするために、頼って任せるのがいいと思います。介護の「作業」の部分はアウトソースして、愛情表現できる余裕を持ち続けてほしい。自分の大切な家族がひつぎに納まったその瞬間まで、愛情表現できる余裕が必要だと思っていますので、だからこそ、早くご相談いただきたいのです。

プロフィール

川内 潤(かわうち・じゅん)

NPO法人となりのかいご 代表

1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。厚生労働省『令和4・5年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業』検討委員。社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。

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