パネルディスカッション

パネリスト
藤原 知広、陶山 浩一朗、割石 正紀
コーディネーター
藤本 真
コメンテーター
鹿生 治行
フォーラム名
第123回労働政策フォーラム「高齢者の雇用・就業について考える」(2022年12月7日-12日)

論点整理

藤本 まず、コメンテーターである高齢・障害・求職者雇用支援機構の鹿生さんに、ディスカッションにおける論点や報告に対するコメントをお願いいたします。

65歳以降の雇用は未知の領域、非常にチャレンジング

鹿生 今日は65歳以降の雇用という非常にチャレンジングな、世の中にあまりノウハウがない未知の領域に踏み込んだテーマで、なかなか先進的な企業を探すのも大変ななか、このようなフォーラムが開催されたのは喜ばしいと思っています。65歳以降の人材活用時に何が課題になりそうなのか、そこで必要な人事施策についてお話しします。

70歳までの雇用や就業確保の努力義務が課されることになりましたが、いまだ対応している割合は25%ぐらいで、一歩進んで希望者全員を70歳まで、となるとかなりハードルが高いでしょう。まずは65歳以上の人を1人でも雇ってみて、人数を増やしていくアプローチが必要と考えています。日本社会では、生産年齢人口がかなり減少し、同時に新規採用が厳しいなか、真剣に高齢者を雇用せざるを得ない状況にあると感じています。

変化する期待役割への対応や短時間勤務普及などが鍵

パネルディスカッションの論点整理のため、この報告では、65歳以上の人材活用上の課題を示したいと思います。70歳まで、また70歳を超えて雇用する仕組みの導入に必要な人事施策を考える場合、65歳以上の雇用では60歳で雇用区分や活用戦略が変わり、59歳以下の正社員と異なる区分や活用戦略を前提としますので、従来の60代前半層の蓄積、つまり2004年の法改正以降、日本企業が培ってきたノウハウを65歳以上の雇用に転用できると考えています。

人事管理上の課題の1点目は「配置管理」です。65歳以降、期待役割が大きく変わるなかで、59歳以下の正社員の支援や補助業務、もしくはその世代が担当できない仕事を開発しながら配置することになります。期待役割の変化に高齢者がどう対応するか、と同時に、管理職がいかにマネジメントして世代交代を図れるか、この2つの問題が高齢者の活用の成否を大きく左右すると考えられます。

2点目は「労働時間管理」についてです。年齢を重ねると健康上の課題が増えますので、多様な働き方を提示できるかが1つのポイントになります。2004年の改正高齢法以降、短時間勤務やワークシェアリングの議論が頻繁にありましたが、実態はほとんどフルタイム勤務でした。おそらく分業の難しさ、マネジメントの大変さを物語っていると思います。短時間勤務をどう普及させていくのかが、課題になるだろうと思います。

3点目は「能力開発管理」です。新しい技術への対応は大きな課題ですが、能力開発の意欲を上手に刺激することが重要になります。

4点目が「報酬管理」です。65歳以降は非常に非正社員の働き方に近づいてくると思われます。非正社員との処遇上の均等・均衡に配慮する必要がありますので、今の仕事の価値や職責に応じた基本給の改定に着手する必要があると思います。かなり知恵が必要で、ここまで踏み込めるかが課題になると思います。

調整制度で労働条件を調整し、労働意欲を向上できる

高齢者の活躍を促す人事施策として、すべての課題に対応できるわけではないのですが、「調整制度」、つまり「知る仕組み・知らせる仕組み・調整する仕組み」が有効であると考えています。定年後に、働き方や労働条件を労使で調整・交渉しながら決めることが重要になります。

この仕組みは、期待役割が大きく変化する場面に、非常に有効な人事施策となります。具体的には、現場レベルで現場の管理職と高齢者で労働条件を調整し、そこに人事が関与します。この調整を60歳以降に始めるのでは遅いので、同時に50代、40代からキャリア自律に向けて支援することが必要になります。

この調整制度の効果ですが、高齢者が役割を決定する機会があるために労働意欲を維持・向上する効果が期待できます。また、仕事の創出面の効果もあります。高齢者側が交渉で自分のやりたい仕事、できる仕事を提案していくので、人事が気づかないような仕事を発見できる可能性もあります。人事主導ではなく、現場に知恵が多いため、現場から意見を収集する仕組みが重要になると思います。

退職のマネジメント(世代交代)では、管理職は短期的な視野を持って業務にあたる可能性が高いため、(長期的な視点を持つ)人事が関与すると、世代交代の仕掛け、働きかけもできるでしょう。他の部署への異動も前提に、自分が挑戦的にしたい仕事を任せる機会があると、高齢者も今の仕事を進んで若手に継承することが期待できます。労働時間管理も、マネジメントや調整の問題があると思います。調整機会があると、意思疎通を図れるようになりますから、短時間勤務を導入しやすくなると思います。

能力開発管理については、仕事やキャリアを自分で決める機会が増えると、能力開発の投資が増えるかもしれません。また、報酬管理では、高齢者が交渉して仕事内容を自ら決める機会があれば、今の貢献を算定基準とした基本給を選んでも納得感が高まりやすくなります。

65歳以上の雇用を進める場合、会社主導の人事管理から緩やかに脱却していくことが必要になります。調整の機会があれば会社のリスク軽減だけでなく、高齢者が新たな付加価値を会社にもたらしてくれるなど、競争優位性の獲得に効果がある可能性もあります。

60代前半層の人材活用レベルを上げて戦力化

続いて、60~64歳の人事管理についてです。60代前半層の人材活用のレベルを上げていかないと、60~70歳までの10年間、調整や支援が必要な人たちが増えることになります。藤本さんの報告にもありましたように、60代前半層の戦力化の強化が必要になると思います。

最後に50代の人事管理の変化です。65歳以上の人たちが増え、60代前半層の人材活用が進んだ場合、どうなるかを少し予測したいと思います。おそらく、2つの変化があるかと思います。

1つは賃金カーブです。キャリアが伸びていくと、賃金カーブに少し調整が入ることが予想されます。このとき、社員間で個人差がつく昇進管理と賃金管理の選択が進むのではないかと考えています。もう1つは、中高年期のキャリア研修です。現在は、60歳を節目に期待役割の大幅な変化に対応する研修がメインですが、これが仮に65歳が節目になる場合は、この対策が5年後ろになります。また、昇進できない人が増える可能性もありますから、キャリアが上がらない人への支援も非常に重要になると考えています。

今回、ぜひ3社の皆様に、65歳以降の雇用を考えた時の報酬管理をどうしているのか、お聞きしたいと思います。そして、これまでは60歳が1つの節目でキャリアのシフトチェンジ、特に定年は大きな節目でしたが、キャリアが伸びた場合、正社員時代の、例えば45歳とか50歳で社員区分を変更しながら格付基準を変えるところも出てくるのではないかと思われます。これらの点についてもおうかがいしたいところです。

藤本 いろいろなポイント、新しい方向性に向けた提起をいただきました。同時に、これは結構、難しい話でもあるのかなと思いながら聞いていました。提起いただいた論点と、各企業の報告を踏まえ、ディスカッションでは以下の4点について議論したいと思っています。

1点目は、65歳以降の活躍の場を広げていくうえで、各社とも65歳まで一層の活躍を実現するための取り組みを進めていますが、各社どのようなことに留意しているのか。

2番目は、65歳以降の雇用については各社ともある程度条件を設けていたと思いますが、希望者全員の雇用が果たして可能なのかどうか。あるいは希望者全員でなくても、現状雇用されている65歳以上の従業員の枠や範囲を広げることが可能なのか、可能であるとすれば、どういう取り組みや環境がそろえば可能になるのか。

3番目としては、70歳までと雇用期間が長くなり、雇用人数も増える時に、個々のシニアの仕事に対するニーズや仕事に関わる能力、期待されている役割、あるいは健康や介護などの状況でかなり個人差が目立ってくると思いますが、こうした個人差に対応する際にどのような点に留意して取り組んでいけばよいのか、うかがいたいと思います。

最後の4番目としては、今日のご登壇企業ではまだ取り組んでいるという話はありませんでしたが、改正法の70歳までの就業確保措置のなかに、創業等支援措置という、フリーランスやNPOを活用する仕組みが設けられましたが、各社が導入や実施を検討したことがあるか、また、今後導入の可能性があるのかどうかについておうかがいできればと思います。

論点 1:65歳までの活躍促進の取り組みについて

活躍できる仕事とそれに見合った賃金処遇が重要

藤原 一般的には、一定の年齢で一律にサポート的な役割に変更し、処遇を引き下げる取り扱いをしている会社が多いと思います。それでは能力を発揮する場が限られてしまうため、高齢者が活躍できる仕事と、それに見合った賃金処遇を提供することが重要と考えています。

当社では、建設業特有の人手不足への対応もあり、ベテラン社員が全力で働ける環境の整備を目的に、65歳の定年まで連続性のある処遇とするとともに、定年時あるいはそれ以前に役割を変更せず、65歳まで事業の最前線で業務を継続できる仕組みにしています。高齢者に限りませんが、個々人の役割と処遇が一致して、適切な賃金が支払われていることが、会社にも従業員にも重要と考えています。

藤本 以前の高齢者雇用をテーマとした労働政策フォーラムで、65歳定年にすると60歳になった人が「まだ65歳まで働くのか」と、モチベーションややる気が課題になるという話が出ていたことを思い出しました。そのあたりの点はいかがですか。

藤原 むしろ、これまでは、60歳以降の再雇用の人が、一生懸命働こうとしても賃金が下がりモチベーションが保てない、という問題のほうが大きかったと思っています。現在の枠組みでは、社員のモチベーションに賃金で応えることができるようになったと考えています。

藤本 陶山さんいかがですか。

陶山 65歳まで、より一層の活躍を実現させるために、4点が必要だと思っています。1つは、適切な役割を付与できるかどうか。2つ目はモチベーションを維持できる処遇と評価が与えられるかどうか。3つ目は、活躍に必要な教育的機会の提供。そして4つ目は、従業員が元気に長く働ける環境の整備です。こうした点に着目しながら、さまざま制度を取り揃えています。

最初の適切な役割の付与ですが、今まで当社も60歳定年の場合、50歳を過ぎるとほぼ業務が固定化していました。しかし、65歳に延ばし、また57歳の役職定年制度も廃止した結果、50歳から15年間、役割を固定化することなくキャリアを広げ、伸ばすことが必要になり、人事部では人事ローテーションについても、本人の適性や希望を聞きながら実施しています。

藤本 50歳から15年間、65歳まで働くことを考えると、キャリアを広げたり、求められるキャリアや役割が変わっていくなかで、キャリアチェンジも起こり得る。おそらくそれを実現するために重要なのが教育機会です。65歳定年を導入するにあたって、50歳あたりから上の年齢の人たちを対象にした教育機会のあり方を変えたということはありましたか。

陶山 2022年度から取り組んでいるところで、リスキリングとリカレントをキーワードに整理しています。当社は保険会社ですが、対面だけでなくデジタルの世界も使い、DXに資するリスキリングの機会を提供しています。リカレント教育では、シニアの社員に現場に出てもらう時に、昔培った顧客対応業務や、1万人近くいる営業職員の管理をするティーチング・コーチングについて、もう一度学び直してもらう機会を提供しようとしています。

トップの思いや方針を一人ひとりに伝えることも大事

割石 会社として取り組みを進めていくうえで4つ、大事にしていることがあります。1つ目は、やはり会社としてトップとしての方針、思いです。2つ目が、提供する人事制度や労働環境で、3つ目が人材育成、4つ目が社員一人ひとりに対する対話です。

トップからも一人ひとりの従業員に対して、私たちは小売業ですので、お店が全て、お店が大事だということ、そして働いている人への感謝、ここをきちんと伝えるようにしています。そのうえで、年齢を重ねてくると体力面やいろいろなところに影響が出てきますので、店舗のDXを進め、労働環境の改善等を行っています。

人材育成では、各種施策、育成施策に落とし込んでいます。4つ目の対話が、実は最も重要と思って取り組んでいます。年齢を重ね、いろいろな段階でライフステージの変化に合わせる時に、やはり一人ひとりが思い描くライフプランとキャリアプランに向き合い、なぜ働くのか、どのように働いていきたいのか、話し合っています。当社では、正社員と、正社員から嘱託社員になった人全員を対象に、自己申告制度を行い、将来的、短期と中長期で就きたい仕事を申告してもらうようにしています。自己申告を通してキャリアを描いてもらい、それに見合う支援ができればと取り組んでいます。

藤本 ありがとうございました。鹿生さんから、何かお感じになったことはありますか。

人事が併走し対話しながらキャリアプランを構築

鹿生 重要なのは、能力開発とキャリア支援のところだと思います。割石さんがおっしゃったように、人事が併走しながらキャリアプランを立てて一緒に考えていくというやり方が1つのポイントになると感じました。

住友電設、太陽生命では、キャリア研修や能力開発投資ではどんなことをされていますか。

藤原 専門的な技能知識については各部門で重点的に研修をしています。会社全体では、50歳を過ぎた後、もう一度ねじを巻き直してモチベーションを持って定年まで働こう、という研修を設定しています。

陶山 基本的には、「年齢にかかわらず」というキーワードを、65歳定年制度になってから人事部でもよく使っています。平等に、eラーニングのような教育システムや映像教材、いつでもどこでも誰からも学べる教材を、全社員の希望制で提供しています。また、シニア特有ということでは、リスキリング、リカレントを考えています。

論点 2:65歳以降の雇用のあり方

重要な仕事だが人手不足なので希望者全員を雇用

藤本 2つ目の論点、65歳以降の雇用のありようです。各社、今のところは60歳以降や65歳以降も雇用する際には一定の条件があると思いますが、将来的には希望者全員とすることが可能なのか、あるいは可能になるためには、より一層の環境整備や取り組みを進めていくことが必要なのか。まず、割石さんに、御社は現時点でも70歳あるいは75歳まで、希望すれば全員働けるということですが、なぜ可能なのかおうかがいします。

割石 おそらく、業界特性も大きいと思っています。国勢調査や職業安定業務統計等でも出ているデータですが、やはり年齢を重ねると、基本的に事務職が減っていき、農・水産業や販売職の比率が高くなってきます。私たち小売業は、コロナの頃からエッセンシャルワーカーと言われてきましたが、お客様に豊かな生活を提供する重要な仕事で人手不足ですので、現状、会社としても、個人の事情はありますが、基本的には希望する人は全て雇用することとしています。

藤本 希望者全員を雇用する時に、何かハードルはないのですか。健康面のケアなど検討しましたか。

割石 やはり年齢を重ねるごとに、体力面や家庭の事情、ワークやライフプランによって、4時間労働の契約にしてほしいというような希望が出てくるので、会社としても、生産性向上施策やDX等の対応が必要だと思っています。

各種制度をマネジャーが管理できるか人事部も目配り

陶山 希望者全員の雇用は基本的には可能だと考えています。ただし、能力開発や、本人にキャリアをどれだけ与えられるか、会社の姿勢が大事だと思います。働く側の価値観が非常に多様化していることに対して、在宅勤務やフレックスタイム制度、短時間勤務や週3日・4日勤務制度と、箱だけは用意していますが、マネジャーが管理できるかも踏まえて、人事部としても運用をしっかり見ていかないといけないと感じています。

藤原 当社は2021年4月に制度変更し、それ以降に65歳を迎えた人のうち、73%が再雇用になっています。再雇用になっていない人の多くは、間接部門の人でした。

純粋な間接業務だと市場価値が低下し、給与とパフォーマンスのバランスがとれなくなるケースが出てきます。これをカバーするためには、会社として、65歳になるまでにリスキリングで再雇用を望まれる能力をつける必要がある。これが今後の課題と認識しています。

藤本 確かに、市場価値がネックになるのかと思います。鹿生さん、65~70歳まで、あるいは70歳超の雇用・就業の機会を広げていくために何が必要になるか、各社の話を聞いてどのようにお考えですか。

鹿生 「なくてはならない人」ということが、キーワードになるのだと感じました。一方、再雇用基準を撤廃する難しさがあろうかと思いますが、基準撤廃を進めるには、どのあたりがポイントになるのか、非常に難しい質問ですが、おうかがいできますか。

意向の不一致は必ず発生するので対話を繰り返す

割石 やはり本人の希望と会社の意向が合致しないケースも当然あります。労働条件、会社から本人に対する評価でもそういった不一致が発生します。やはり本人の希望を聞き、そのうえで会社としての条件を提示し、本人との対話を繰り返し、労使双方がともに満足する条件で継続しなければお互いが不幸になりますので、そこはきちんと繰り返すようにしています。

陶山 これからバブル期入社の従業員が60歳を超えてきて、いよいよ難しい人事の舵取りが必要になってきます。給与体系は資格給と職位手当に大きく分かれており、それに成果給という形ですが、やはり年齢が高くなれば資格も高くなり、ある程度、身分保障がついてきます。60歳を超えた人の資格が高止まりしないように、資格に求められる役割を年に2回、丁寧に従業員に説明する場を設けています。

65歳定年制をつくったときに、見合わない働きにはきちんと基準を設けて1、2年で資格を落とせる制度を導入しました。人が評価するものですから難しい部分もありますが、制度としてこれから運用していかないといけないと考えています。

藤原 もともと65歳まで全員雇用をしていたので、基準撤廃は判断さえすれば可能なことではありますが、働きがいを持って皆が活躍するという意味では、その人しかできないことをどうやってつくっていくか、会社側も従業員側も考えていかないといけないと思います。

論点 3:シニア雇用者のニーズなどの多様性への対応

多様性がモチベーションにかかわるなら、しっかりすりあわせを

藤本 シニアの従業員は、仕事に対するニーズなどの幅が若い人よりも大きいと思います。個人差や仕事に対するニーズなどへの対応を、どのように進めているのでしょうか。

藤原 70歳までの雇用ということで、従来よりも健康状態や家族の状況など、個々人の事情に対応する必要は間違いなく高まります。65歳以降の再雇用者について、当社では、勤務形態や業務内容、出張の有無、労働時間などフレキシブルに対応しています。

一方で、この多様性が、高齢者のモチベーションにかかわることであるとすると、高齢者と会社の双方のニーズをしっかりすり合わせて、ミスマッチが起きないようにしないといけないと思いますし、パフォーマンスに合わせた適切な報酬の設定をできる枠組みが非常に重要だと考えています。

藤本 モチベーションにかかわる多様性というのは、このような働き方がしたいということを、65歳定年を迎えてそれから再雇用になる人に尋ねているということですか。

藤原 65歳までの再雇用という枠組みだったときには、再雇用者全てが属する所属があり、そこの長が全員と面談していましたが、今の枠組みの中では、各部門が1年ごとの契約更新の際に、事前に面談をしています。

人事と従業員との間だけでなく、経営との対話、従業員どうしの対話も

陶山 割石さんの「対話」というキーワードに非常に共感します。3つの対話があると思っています。

1つは人事と従業員との対話。会社が求めるものを一方的に従業員に提供するのではなく、従業員の希望と、会社側からの期待を、しっかりと対話させる必要があると思います。また、「どのような職種がいいですか」「どのようなスキルを身につけたいと思っていますか」などとしっかり質問することで、従業員の考えていることを個々にキャッチアップすることが大事です。どんな職種で活躍を望むか、どんなスキルを身につけたいか、キャリアスキルをどういうふうに生かしていくかと、さまざまな質問を設けることによって、人事と従業員の対話を行っています。

2つ目が経営との対話です。社長や人事担当役員以外に対しても、人材の分布図や人事上の課題を提言するとともに、施策の必要性について説明しています。

3つ目は従業員どうしの対話です。少し話は違いますが、女性活躍やダイバーシティが求められるなかで、ロールモデルが少ないことが課題になるケースがあります。シニアの人でもさまざま特性を生かした働き方があるので、こうしたロールモデルをどう広報し、従業員に伝播していくか、いろいろな手を打っています。

藤本 経営との対話が必要だということは、もちろん高齢者雇用に限らないと思いますが、なぜ今まで以上に進めようとしているのですか。

陶山 当社の場合、人材の年齢の分布の問題があります。バブル期では大量の採用を行い、就職氷河期やリーマンショック時の採用は非常に少ない状況があり、今のバブル入社世代が抜けてしまうと、健全な管理職体制の維持が一気に困難になるという実情もあります。今からどういう手を打っていくのか、経営陣ともども考えていく必要があり、相当危機感を持って対話しています。

藤本 ベイシアではどのような形でコミュニケーションを進めているのですか。

割石 シニア従業員のなかには、仕事は一線を退いて趣味や地域活動をしたいという人も多くいますが、まだまだもっと働きたいという人もいます。会社としても、個々人の価値や思いを聞き取って一人ひとりの気持ちに寄り添うことも重要ですが、一方で、先ほど評価の話もありましたが、時には厳しいことも言う必要があると思っています。

各店舗の店長が1年ごとの契約更新の際に、きちんと本人の意向などを聞き取り、それに合わせた労働契約に変更するようにしています。1年間の労働契約ですが、その契約期間中にもさまざまなイベントや変化がありますので、契約期間中においても途中で転換できるような内容にしています。

論点 4:創業支援等措置の検討について

適切な取り組み事例が日本にはまだない

藤本 最後に、70歳までの就業確保措置のなかに、NPO・フリーランスを活用する創業支援等措置が設けられ、導入割合は2021年6月の報告で0.1%とまだまだ低いですが、こうした取り組みは検討しましたか。

藤原 当社は導入を検討したこともありませんし、今後もしないと思います。当社が定年延長や70歳までの雇用をしている目的には、施工力確保という観点が根幹にあり、当社の従業員として活躍できる方法を模索して、それを充実させていく方向で考えています。

陶山 当社も導入実施を検討したことはありません。ただ、今回こういう論点をいただきましたので、今後は人材確保の観点からさまざまな雇用形態を検討せざるを得ない時期も来ようかと感じています。

割石 今までは導入実施の検討はありませんでした。ただ、今後については、可能性はあるかなと思っています。やはりライフプランの変化に伴って、さまざまな自由な働き方を望む人が多くいます。自立したプロフェッショナル意識の醸成や思い描く一人ひとりのキャリアの実現、あるいは自由な働き方といったところを踏まえたうえで、今後導入の検討はしたいと思っています。

藤本 鹿生さん、この制度は正直なところ、どのぐらいの可能性を持っていると思いますか。

鹿生 現時点では、なかなか難しいのかなというのが感想です。適切な取り組み事例が日本にないということです。見方を変えると、法を遵守した優れた方法を採択する企業が、創業支援等措置のモデル、日本のスタンダードになり得るのではないかと感じています。

創業支援等措置は、多様な人材を会社につなぎ留めておく有効な手段の1つとなるので、今後の発展の可能性はおそらくあると思います。ただし、請負等の非雇用を選ぶ場合、適用される法律は雇用と異なるので、下請法をはじめとする法律をきちんとフォローすることが必要になります。一方で、創業支援等措置の場合は安定的に業務を出す必要もあることから、安定的な発注の難しさも、これから取り組む企業で対策を考えていく必要があると思います。

終わりに

高齢者が働きがいを持って長く働けるよう最適解をめざす

藤本 最後に、取り組みを進められているなかで、難しいと考える点や、もう少し検討しないといけない点なども含め、視聴者へメッセージをいただければと思います。

藤原 高齢者雇用の目的は高齢者が働きがいを持って長く働いて、社会に貢献していくことだと思いますので、当社もさらに一歩一歩、施策を進めていきたいと考えています。

陶山 やはり、5年後10年後も今いる人材でやりくりしなければいけませんので、会社側がいかに体制を整備できるかが課題です。体制について全従業員の理解促進を図るということはまだまだ課題ですので、人事を中心にしっかり尽くしていきたいと思っています。

割石 今回のテーマはチャレンジングで、まだあまり取り組み事例もなく、正解はないと思っています。ですので、最適解をいかに見つけ出すか。ただ、この最適解も各企業、業界、個人で違うと思いますので、「地道に勝る近道はなし」という言葉のように、一歩一歩着実に対話を繰り返し、いろいろな会社の事例を参考にしながら、より良い会社、より良い社会を引き続きつくっていきたいと思います。

藤本 鹿生さんからも、このフォーラムを締めくくるにあたり、これからの高齢者雇用についてお感じになったことなどお話しいただければと思います。

鹿生 日本社会では人材不足に直面していますので、高齢者の活用はマストになります。その状況を理解して、経営層が、高齢者の活用に本気になるかどうかが1つのポイントになろうかと思います。今日の3社のお話を聞いて、それは強く感じました。

その時にどのような制度とするか。ポイントの1つは、働きに見合った賃金、役割に応じた賃金を選択することです。それも比較的若い45歳以降ぐらいから制度の適用を考える必要があると感じました。

もう1つは、働き方が多様化しますので、労働条件やキャリアを、労使で対話を重ねながらすり合わせることです。そこに人事も関与し、社員のキャリア形成を支援することが重要になると感じました。

藤本 今日の議論が、高齢者雇用、特に65歳以降の雇用のあり方に関し皆さんが考えられたり、取り組みを進められたりするうえで、参考や手がかりになれば幸いです。どうもありがとうございました。

プロフィール

鹿生 治行(かのう・はるゆき)

高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 上席研究役

高齢者の人材活用に関わる調査研究活動に従事している。近時の業績としては、「継続雇用者の活用戦略は変化するのか―人事部による調整制度に着目して」(共著:『日本労働研究雑誌』No.749掲載)などがある。

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