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講演者
高橋 浩
ユースキャリア研究所代表、日本キャリア開発協会理事、法政大学/目白大学大学院講師
フォーラム名
第95回労働政策フォーラム「企業内キャリアコンサルティングの現在と未来」(2018年2月16日)名古屋開催

皆様のお話をききまして、キャリアコンサルティングの中で重要だと感じるところが、いくつかございました。

伊藤忠商事の一之瀬様のお話では、何よりも、人材を大切にしているというメッセージを、トップが強く出しています。実際に面談をしている人たちも、人材を大事にする視点を非常に強く持っています。これらをあらためて、実感いたしました。人材を大切にするということは、キャリアコンサルティングを導入している組織の大きな特徴ではないかと思います。逆にいえば、キャリアコンサルティングを入れると、いくら儲かるのか。こういう視点で考えていると、キャリアコンサルティングのメリットは見えてこないと思います。NEXCO中日本様もそうでしたが、人を財産、宝として見る。こういう視点が、キャリアコンサルティングを導入して、うまくいくポイントと感じました。

それから、面談を研修と抱き合わせで必須化していることも、重要ではないかと感じております。つまり、問題があるから、相談に来ているわけではないのです。自分は問題がないと思っている非自発的な来談者。キャリアコンサルタントがこうした人たちと、いかに面談をしていくかが重要です。

話を聞いていくなかで、本人が気づかなかった課題が出てくる。あるいは、よく聞いていくことで、「実は」という話が出てくることもあります。問題がある方は、自分で問題を意識して相談に来るので、そのことについて話し合われます。それは当然なことですが、一方、非自発的に来ているからこそ、自分では気がつかなかった問題、あるいは、人に話さなかった問題。そういったものが、本音で語られます。

本音で語る内容は、サーベイでは知り得ない、従業員の課題感が見えてきます。サーベイだと、すこし良いことを書こう。あるいは、不安感が強ければ、すこし悪いことを書こう。このように、かなりの意図が入ります。そこには、本音というのは、必ずしも、あらわれていません。相談室を設けることで、本音が見え、従業員の課題が見え、さらにはフィードバックという話がありました。経営の課題が見える。あるいは、社内の本当の問題が見えてくる。そういうことを知るきっかけにもなるかと思います。そういったことを、伊藤忠様のほうでされていると感じました。

NEXCO中日本の原様のお話では、伊藤忠様と共通して、人材、人を大切にしているという視点があります。さらに、各種制度、人材育成が体系化されています。もちろん、すべて最初から、体系的にできているわけではありません。下村先生からもお話がありましたように、最初は、手をつけやすいところから進めていく。こういう視点も大事ではないかと思います。

原様のお話から、キャリアコンサルタント窓口が、ワンストップ的な機能を備えていると感じました。ワンストップ的な機能であれば、雑多な問題が持ち込まれていく場になり、そこから必要なところにリファーしていくことも可能になる。そういった姿も、何となくうかがわせていただきました。

最後に、宮地先生からは、さすがカウンセラーというお話を聞かせていただきました。なかでも、成長・発達という視点です。別な言い方をすると、従業員をエンパワーメントしていくことです。その人が持っている能力を開発していく視点があるのではないかと思います。カウンセリングは学問上、教育学に分類されます。ですから、カウンセリングは教育なのです。単なる悩み事の相談ではなく、教育なので、人を成長させていくものです。こういった支援について、お話しされていたと思います。

宮地先生のお話のなかで、大変重要だと感じたのは、第三者の介入のお話です。状況によっては、第三者が入ったほうがいい場合もあります。面談は面談として、従業員一人一人が行動変容し、開始されていくことは、重要なことです。ただ、それだけでは、なかなかうまくいかないこともあります。本人の了解の上、情報を共有しながら、関係者の力をかりていく。これは重要なことではないかと思っております。

3名のお話を聞いて、そのいずれもが、企業内キャリアコンサルタントの重要なポイントをご指摘いただいていると感じました。私からは、以上です。