事例報告①
ダイキン工業における高齢者雇用の取り組み

講演者
藏本 秀志
ダイキン工業株式会社
人事本部人事・労政・労務グループ担当課長
フォーラム名
第75回労働政策フォーラム「高齢者の多様な働き方と社会参加の実現に向けて~企業・行政・地域の取組み~」(2014年9月25日)

ダイキン工業の藏本です。当社の高齢者雇用の取り組みについて、ご説明させていただきます。

その前にまず、当社の事業概要を簡単にお話します。事業は、空調、化学、油圧機器・特機・電子システムが主になっています。先ほどの清家先生のお話にもありましたが、エアコンがあることが当たり前になるなか、空調はエアコンを中心とした事業展開をしています。化学事業ではフッ素化学分野を中心にやっています。そのほか、自社で培った技術をもとに、油圧機器や医療機器など、さまざまな事業を展開しているところです。

売り上げは2013年3月期で1兆7,830億円。2013年3月末の従業員数は単独で7,799人、連結では5万1,398人です。

拠点は、本社が大阪で、営業拠点として東京支社があります。工場は淀川製作所と鹿島製作所、堺製作所に金岡工場、臨海工場の2カ所、それと滋賀製作所の合計5つの工場があります。また、国内のグループ会社は28社です。

一方、海外拠点は、欧州、北米、中南米、中国、アジア・オセアニア、アフリカ・中近東にあり、グループ会社は海外では179社あります。

人・資本・情報をひきつける魅力ある企業の実現を

当社は、真の一流企業をめざそうということで、「人・資本・情報をひきつける魅力ある企業」の実現をめざしてきました。

当社グループの成長の原動力は「人を基軸に置いた経営」の実践だと考えています。具体的には、常に「半歩先」をめざした創造的破壊と言えるような改革をやろうということと、「実行につぐ実行」で挑戦し続けた全員の努力というものが会社の原動力だろうと捉えています。そして、これはすべて「人」の力であると認識しています。

当社グループの強みを「人を基軸に置いた経営」で説明すると、最初に「人の無限の可能性を信じる『性善説』」があげられます。最近、世の中でいろいろな不祥事があり、そのために弊社でもさまざまな仕組みを考え、問題が起こらないようにしていますが、基本的な考え方としては性善説をとっています。2つ目に、「多様な個性を活かし、それを組織の力とする『チームワーク』」を大切にしています。3つ目に、後述する「納得性とスピードを同時に追究する『フラット&スピード』の人と組織の運営の徹底」。「現場力の強さ」などがあります。

「人を基軸に置いた経営」を実践する5つの視点

「人を基軸に置いた経営」とは、「資本の論理」と「人を大切にする経営」を融合させて、「人・資本・情報をひきつける魅力ある企業の実現」を図っていくための1つの要素「人を大切にする経営」の別称で、大きく5つの視点があります。

多くの企業が同様な考え方であると思いますが、まず1つ目、「企業の競争力の源泉は人」であり、2つ目に、「企業と個人は対等な立場で互いに選択し合った関係」だということです。社内でもよく、「企業と個人は恋人同士のようなもので、会社が一所懸命、従業員に対して好きになってくれというだけではなかなかうまくいかない。互いに好かれるように努力が必要」というようなことが話されています。そして、3つ目として、「挑戦し、変革するチャンスの多い会社を目指す」があります。

4つ目は、「多様な個性を活かし組織の力とするチームワーク」。これはよく、老壮青とか男女とかいいますが、そういった多様な個性を活かして組織としてやっていくというようなことを指しています。

5つ目の「フラット&スピードの経営」では、全員が参画して、情報をタイムリーに共有化し、好きな意見を皆でいい合って、意見が十分出尽くしたところで集約して決めるべき人が「衆議独裁」ということで決める。それでもまだ、いろいろな意見や反論はあろうかと思いますが、一旦決まったら目標に向かって全員で邁進していくというのが当社のスタイルです。

定年・再雇用に関する制度の変遷

このような会社の背景のなか、当社が定年・再雇用に対し、どういった制度を採ってきたかをお話します。

まず、1977年に職能資格制度を大きく見直したのですが、その2年後の1979年に60歳までの定年延長を行いました。当時の定年は56歳でしたが、その時点での賃金を見直すことで60歳までの定年延長を行っています。56歳時点の賃金見直し制度は現在も続けていて、80~90%に賃金がダウンする仕組みです。ただし、例外的に100%で継続する従業員もいます。

1990年には「年齢給・勤続給」と「職能給」の比率を60:40から40:60に見直し、この翌年に60歳定年以降の再雇用制度を入れています。この時点では63歳までは希望者全員、64歳以降は会社選択による再雇用が可能としていました。

そして、2000年に、より成果主義の色合いを深める方向に人事・処遇制度を抜本的に改革して、その翌年、再雇用期間の延長を行いました。つまり、2001年時点で65歳まで希望者全員を再雇用する制度を導入したわけです。

振り返れば私自身、1991年に再雇用制度を導入した際には、再雇用された人のなかに、「窓際に座っておられて何をされているのかよくわからないな」「こういう年配の方がいてもいいのかな」などと思うこともありました。しかし、今では定年後再雇用で働くことが当たり前になっています。早くから制度を導入してきて、それが定着してきたということではないかと思っています。

65歳までの再雇用制度

それでは、当社の再雇用制度について説明します。

雇用基準は本人希望により65歳まで。名称は、元管理職が「プロフェッショナルアソシエイト」、元一般社員は「シニアアソシエイト」となっています。

雇用方法については、定年退職日の6カ月前までに所属長が本人の意向を確認します。再雇用制度の中味を説明したうえで、本人同意を得て雇用契約を締結することになります。契約は60歳時点で65歳までの5年間を一括契約します。実際には、元の職場で同じような仕事もしくは少し内容を変えて働いてもらうというのが基本的な雇用形態になっています。

本人希望を反映させた4つの勤務形態を用意

勤務形態は、それぞれの勤務の必要性と本人希望を勘案し、個別に決めていきます。その際、体力面の衰えは個人差が大きいことがありますし、家庭の関係で介護があるとか実家の農業の手伝いがあるなどといった個人の事情もありますので、第二の人生として本人希望をより反映させられるように、4つの勤務形態を用意しています(図1)。

フル勤務は1日7.75時間、短時間勤務は1日6.5時間です。隔日勤務は2週間で5日間で普通の人の半分働けばいいという形です。あとは登録型。これはアルバイトのようなイメージで、希望する仕事があるときだけ来てもらいます。現在、9割以上がフル勤務を選択しています。

賃金・年収も勤務形態によって異なります。当社は56歳で賃金を見直しますので、55歳ぐらいが一番高い年収になるのですが、フル勤務で51~55歳の理論年収の約70%、大体500万円台半ばの金額を年金込みでモデル年収に設定しています。同様に、短時間勤務は理論年収の約60%、隔日勤務は理論年収の約50%で、登録型は職種ごとに人事担当部長が時間給を決める形になっています(図2)。

再雇用率は8割強で推移

再雇用者数と再雇用率の推移は図3のとおり、ずっと80%を超えています。先ほど清家先生から、70%半ばぐらいの高齢者が働き続けることを希望しているとのお話がありましたが、当社はそれを上回る比率で再雇用者が働いています。現在は655人が再雇用者で、国内単独の従業員の約8%を占める大きな集団になっています。

65歳超えて継続して働く制度も

当社では、2002年以降、65歳以上の雇用について「シニアスキルスペシャリスト契約社員制度」を設けています。これは、再雇用期間が終了した後、65歳を超えても余人をもって代えがたい人材には引き続き働いてもらうという制度です(図4)。

雇用基準は、熟練者や一定期間の仕事の経験に裏打ちされたスキル・ノウハウ・人脈などを有する余人をもって代えがたい人材で、年齢が65歳より上の人。契約期間は1年以内の雇用契約になります。勤務形態は、フル勤務と登録型勤務の2種類。処遇水準は、年金込みのモデル賃金で、再雇用より少し低めの金額を設定しています。

雇用実態は、いま全体で135人の65歳を超える契約社員がいて、そのうち65~69歳までが115人、70歳を超える人が20人います。原則、70歳を雇用上限年齢にしていますが、「この人にまだ働いてもらわないと、会社としてどうしても困る」といったようなケースがあり、所属から契約更新の延長申請があって、人事で検討して雇用継続を決めています。

図5に担当業務例を幾つかあげていますが、アメリカ子会社への生産ラインの溶接技術指導とか社史編纂などの*印の付いている仕事には、70歳を超えて働く人が就いています。

60歳以降にかかる労務費増への対応

最後に今後の課題認識について触れたいと思います。

再雇用者の増加が予想されるなか、60歳以降にかかる労務費が増加することが大きな課題です。当社は再雇用制度導入以降、60歳以降の人員数が増加傾向にあり、年金の受給開始年齢の引き上げやバブル世代の大量定年も見据えると、今後もさらなる増加が見込まれます。仮に再雇用率90%で試算すると、2001年には449人だった対象者が、2012年は660人、2019年642人、2025年には1,074人に達する計算になります。

また、当社の制度は年金込みで年収を設計していますので、年金の受給年齢の上昇とともに、国からの1人あたり年間約90万円の給付金相当額が、会社としての負担になってきます。これを2012年度比で試算すると、2013年度は約1.1億円、2019年度は約1.6億円、2025年度には約27億円の負担増になる計算です。

成果に報いる処遇制度や仕事の渡し方の検討を

当社の再雇用制度は現状、全員一律の設計になっていて、ベテラン層の活用といった観点よりも、本人のやりがいや収入面での安心感、就業機会の拡大といった面に重きを置いた内容になっており、勤労者福祉や生活保障の色合いが濃い制度です。この点について、これからの時代は高齢者についても、成果による報酬の分配をもっと考えていかなければいけないと思っています。

さらに、職場や個人による意欲の格差も見受けられます。仕事内容を明確に決めている部署ではバリバリ働いている人が多いです。しかし、比較的きちんと仕事が与えられていないというか、上司からこれをやれと明確化されていない人は、周囲から「何をしているのかよくわからない」といった声が出るようなこともあります。このあたりの仕事の質の格差をなくして、意欲を最大限引き出す仕事の渡し方を検討していかなければいけないと考えています。