事例報告3 トッパン・フォームズの新卒採用の取り組み
Dynamic Change and Challenge
第69回労働政策フォーラム

大学新卒者の就職問題を考える
(2013年9月10日)

坂田 甲一
トッパン・フォームズ株式会社取締役総務本部長

写真:坂田氏

印刷会社で32年間、私は人事労務の仕事に携わってきました。新卒採用に関して、どんなことに悩み、何を感じてきたかについて、今日はお話したいと思います。

情報ソリューション企業へ

まず会社の概要を申し上げますと、トッパングループの一社ですが、東京証券取引所第一部に上場しています。

従業員は約7,800人(2013年3月末)。ほぼ同人数のパートタイマーなどの方々が働いています。

売上高は2,437億円、経常利益が122億円、利益率は5%です(2013年3月期)。

国内拠点は75カ所、グループ企業14社で運営しております。

具体的な製品・サービスの内容は、大きく「印刷」「ICT」「商品」とカテゴリー分けできます。

印刷は、一般帳票類/ラベルフォーム/多機能フォーム/エコロジーフォーム/セキュリティーフォームなどのビジネスフォーム類。また、ビジネスメール/ダイレクトメール/バリアブルプリント/プリントオンデマンドなども取り扱っています。

最近伸びている印刷周辺の事業に、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)があります。これは、文書スキャニングやコールセンター業務、事務局運営など、印刷の前後の工程で必要になる業務を一括して受託する事業です。情報は紙に載せて届ける時代から、ウェブに載せて届ける時代へと急激に変化しています。弊社も、紙媒体の印刷会社から電子媒体のIT企業へと大きく舵を切ろうとしています。紙の印刷そのものの需要は減っていますが、こうした周辺事業にビジネスチャンスを見い出しています。

ICTのソリューションビジネスに注力

ICT分野では「インターネット」「カード」「タグ」に注力しています。インターネットはウェブコンテンツ制作/クラウドサービスなど。カードというのはIDカード/電子マネー。タグとは、ICタグ/物流管理システム/来場者管理システムなど、RFID(バーコードに代わり電波を発信する無線チップで物品を識別管理する)技術を使ったシステムのことです。

商品としては、オフィス用紙/文房具/プリンターサプライなどのオフィス備品。フォーム処理機/システム機器などの事務機器。また、次世代商品として温度管理システムやフィルム加工品など新分野にも挑戦しています。

この3つの事業分野は海外でもネットワーク展開しています。中国と東南アジアが主体です。

中国に連結子会社と持分法対象関連会社が6社(北京、上海、浙江、深セン、広州)。連結子会社が香港、マカオに4社、シンガポールに1社。タイ、マレーシア、スリランカには持分法対象関連会社が1社ずつあります。

印刷、ICT、商品、そして国際事業。これらが弊社の事業の4本柱です。

ダイバーシティ&インクルージョン

採用選考のテーマに入る前に、その前提として、弊社の人事労政の基本的な考え方を紹介しておきましょう。

第一に、価値創造の時代に向けて、「ダイバーシティ&インクルージョン」と、「ワーク・ライフ・バランス」を推進し、強さと品格を兼ね備えた、働きがいに満ちた環境づくりを支援します。

ざっくばらんにいうと、印刷会社というのは体力勝負の男の世界でした。しかしこれからは多様性とその受容(ダイバーシティ&インクルージョン)が大切です。女性、高齢者、外国人、障がいのある方……さまざまな幅広い属性の方々に力を発揮してもらえるような環境づくりに努める、ということです。

労使自治による人事処遇制度の構築

第二に、働き方のルールが大きく変わりつつあるなか、コミュニケーションの充実に努め、「労使自治」を推し進めることにより、透明性、公平性、納得性の高い人事処遇制度の構築をめざします。

私からこういうことを申し上げるのはどうかとも思いますが、弊社の労働組合は前向きにさまざまな課題に取り組む団体です。その労働組合の力も借りて、いろいろと相談しながら、いわゆるPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回して、私たちにとって望ましい人事処遇制度を築き上げ、「働きがいに満ちた」職場環境をめざす、ということです。

以上2つの考え方に基づき、人事労務政策を展開しています。

人材育成は採用選考から

以下、採用選考について述べます。

いうまでもなく、企業を構成するのは人です。企業の現在も将来も、どのような人がどういった能力を蓄え、発揮できるかによって決まります。

したがって人材育成が非常に重要です。人材育成はいつから始まるのでしょうか。入社後ではありません。そのスタートは採用からと考えています。

なぜなら、採用とは人材の発掘にほかならないからです。新卒市場は「宝の山」。磨けば玉になる人材がたくさん隠れています。ある程度年齢を重ねた経験者では、残念ながら磨けば玉になる余地は、もちろん例外はありますが、あまり大きいとは言えないでしょう。

素直に“まねぶ”ことができるのは若さの特権

新入社員に話をする機会があると、必ず言うことがあります。「“まなぶ”とは“まねぶ”だ。まず先輩のまねをしよう。すべてのオリジナリティは模倣より始まる」と。素直に“まねぶ”ことができるのは、私の皮膚感覚でいうと、20代前半がピークではないかと思います。まさに「鉄は熱いうちに打て」が鉄則なのです。

弊社を志望する学生さんは5,000人。このうち45人前後を採用するわけで、内定率約0.9%。磨けば玉になる人材の選考は大変な作業です。

弊社はBtoBの会社なので、一般的な知名度が必ずしも高いわけではありません。学生さんの間でも同様です。

そこで、先輩社員を大量に会社説明会では動員します。入社数年目の社員に説明役や回答役を引き受けてもらうわけです。

すると、前もって勉強が必要ですから、自分自身の学びにつながります。教えることで教えられる。新人研修のとき教わったはずの会社のいろいろなことが、このとき初めて身についた、と感想を述べる社員もいます。

志望者5,000人全員と対話する

ミスマッチをどう防ぐか。これが採用選考では大きな課題です。

  1. 実績校に絞り込む。
  2. 学校にこだわらない。

この2つは一見矛盾するようですが、実は両方とも必要なのです。

こんなはずではなかった――互いに後悔しないためには、やはり実績校の先輩から後輩へのつながりの中で採用するのが間違いは少ない。正直なところ、それは確かにあります。

一方で、「宝の山」と自ら言っているわけですから、実績校だけにこだわっていたら、優れた人材とめぐりあうチャンスを逸するかもしれません。

実績校を絞り込みながらも、学校にはこだわらない。つまり、採用戦略・戦術を策定するにあたっては、どの学校を主なターゲットにするか、毎年きちんとゼロから練り直す、ということです(図表1)。

図表1 採用における基本的な考え方(1)

図表1画像

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ミスマッチを防ぐには、互いをよく知ることが大切です。

そのために活用しているのがインターシップ制度。理系の学生さんを中心に2週間、実施しています。冒頭で述べたように、弊社は印刷会社からIT企業へと大きく舵を切っている最中なので、その実態をよく知っていただくために、きっちり2週間という時間をかけて実習を行っています。

採用選考のスタートは、どうしてもこの時代、ウェブからです。出会いの始まりはそれで仕方ないのですが、真剣に弊社を受験したいという5,000人とは、全員と会うことにしています。対話を重視しながら理解を深める作業をていねいに積み重ねたい。そう考えて実践しています。

人事労務政策のところで触れた「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する採用での具体的な取り組みについて紹介しましょう。

まず女性の比率ですが、50%を数値目標にしています。

実際問題として、多数の応募者があるので、どうしても足切りせざるを得ません。ところが筆記試験でスパッと線を引くと、見事に女性しか残らない。実のところ、それが現実です。

となると「女性比率50%」とは何を意味するのでしょうか。

逆に「女性は50%しか採用しない、男性もしっかりすくいあげる」という意味なのかな、と個人的には思ったりしているのですが……。

既卒者には失敗から学んでほしい

新卒にこだわらず既卒者にも門戸を開いています。ただし現実には、先ほど述べた「鉄は熱いうちに打て」の経験則からすると、3年くらいがいいところではないかと思います。

既卒者は1回か2回、就活に失敗しているわけです。失敗は決して恥ずかしいことではありません。つまずいても、そこから何らかのことを学んで、私どもと会う場に臨んでほしいのです。

しかし残念ながら、浪人の間に何を学んだのか、改めて問いたくなるような人が多いのは事実で、なかなか採用に結びつきません。

したがって実態としては、公認会計士のような資格試験に合格するために時間を費やしてしまったが新規まきなおし、といった人の採用にとどまっているのが率直なところです。

グローバル化と採用チャネルの複線化

また、グローバル人材――典型例として外国人も一定数、採用しています。

海外赴任だけが前提ではありません。国際感覚を社員に身につけさせる「内なるグローバル化」推進のため国内勤務にも就いてもらっています。

さらに、採用チャネルの複線化も実践途上です。冒頭の概要説明で、パートタイマーなどの方々が正社員とほぼ同数と申し上げました。意欲と能力のある人については、定期採用の枠を割り振ってでも正社員への道を開くようにしています。

学生の本分は勉強

大学生に望むことを述べます。

学生の本分は勉強。勉強はしっかりしてほしいです。少なくとも語学と数学くらいは一定レベルに達していないと、入社後、非常に苦労します。

継続は力なり。これは確かなことだという実感があります。たとえば体育会系で、レギュラーにはなれなかったけれど、ずっとベンチで頑張った。こういう人はなかなか根性があってよろしいのではないでしょうか。

逆にいかがなものかと思うのは、1つにアルバイトやサークル活動の実績をアピールしすぎること。

店長を任せられ、潰れかかった店を復活させた。サークルを立ち上げ盛んに活動した――。このたぐいの自慢話は面接でイヤというほど聞かされます。発言と内容が伴っていないことも多く困った典型例です。

もう1つ、「自分探し」もあまり感心しません。自己分析と自分探しは違います。これはあくまでも私見ですが、「学生時代は自分探しの旅だった」という意味のことを言う人は、どちらかというと、いつまでたっても“ないものねだり”をする傾向があるような気がします。そういう人は、組織で働くということについて、一度じっくり考えてみたほうがよいでしょう(図表2)。

図表2 採用における基本的な考え方(2)

図表2画像

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期間長期化とピーク時対応に苦慮

弊社にとっての採用選考の課題が、いくつかあります。

ていねいな選考に努めると先に述べましたが、それゆえ期間が長期化することに悩んでいます。現状は一次試験から内定まで35日。これを何とか短縮できないか検討中です。

ピーク時の対応も課題です。全員に会うと言っておきながら、4月上旬には大変なことになるわけで、対面主義をきちんと貫けるかどうか。全員に会おうとして雑な面接になってもいけません。そのバランスにも苦慮しています(図表3)。

図表3 トッパンフォームズの課題

図表3画像

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内定辞退とウェブ選考での新課題

内定辞退の問題も大きいです。弊社では第一志望だと断言する学生以外に内定は出しません。ならば全員が入社するかといえば、必ず辞退者が出ます。

つまり嘘をつかれたわけで、学生さんがそんなことをせざるを得ない状況は何とかしなければと痛切に思います。しかし妙案なく困っているというのが本音のところです。

きわめて初歩的な手法ではありますが、学生さんと対面し、じっと目を見ながら「あなたは本当に入社するのですね」と問いかけます。これで目の動きを見ると、かなりの確率でわかります。現状では、そんなやり方ぐらいしか対応策がありません。

また、たとえば行政が中心となって推奨しているジョブ・カード制度などを有効活用して、効率的な採用活動を展開したいとも考えているところです。

最後に、ウェブ時代の新たな課題を指摘したいと思います。ウェブ上で選考する比重が高まると、誤解も多くなりがちです。ミスマッチの問題とも関係しますが、まだ私たちが出会っていない新たな問題と遭遇するかもしれません。そうした問題が顕在化する前に手を打つことを常に念頭に置きながら、採用活動を行っています。