2019年12月の新着図書紹介

1.鈴木 信行著『同窓会に行けない症候群』日経ＢＰ社

（2019年8月刊，236頁，四六判）

ある会社の調査によれば、年齢が低いほど、同窓会に行かない社会人が増えるという。70代の同窓会に参加する率が62.2％であるのに対し、60代は42.5％、50代は24.8％だった。本書はその背景として、SNS(交流サイト)が普及した結果、容易に幼なじみと会えることや名簿づくりが個人情報保護法によって困難になったことをあげる。そのうえで、最大の理由は「自分に自信がないから」だと指摘。とくに50代以下の「平成世代」は右肩上がりの時代が過ぎ、バブルの残り香も消えるなか、理想の地位にはつけず、収入も頭打ちだ。本書では、こうした同窓会に背を向ける人たちの理由を掘り下げて紹介する一方、行かないことによる「孤立化」のリスクについても言及している。

2.兵藤 釗著『戦後史を生きる―労働問題研究私史』同時代社

（2019年7月刊，548頁，四六判）

労働問題研究の長老である著者が、これまで取り組んできた研究の成果をオーラルヒストリー形式で振り返り、自らの思考の軌跡と時代精神を語る。本書は、第二次大戦の敗北から「連合」の発足に至るまでの時間を労働の「戦後史」の対象として位置づけている。大学に入り、大河内一男氏のゼミで労働問題研究の洗礼を受け、大学院では氏原正次郎氏に師事したという。その後、自らの研究を深めつつ、大学紛争にも巻き込まれていく。また国鉄労働運動への提言を行ったほか、総評四十年史編さんに参加し、「労働の戦後史」も取りまとめた。著者は「自らの生きる課題を託しうるような仕事に恵まれたことは幸いでもあり、その時々になした選択に後悔はしていない」と述べている。

3.新井 健一著『働かない技術』日本経済新聞出版社

（2019年8月刊，245頁，新書判）

著者は、働き方改革が叫ばれ、欧米流の仕事のやり方や生産性の高さが称賛されるいまこそ、日本人のキャリアや可能性を点検すべきときだと主張。とくに30代後半から40代のミドル世代で、働き方改革のキーマンとなる課長世代を想定し、「働かない技術」（業務削減・効率化）のための考え方や「真の働く技術」を解説する。今後、管理職の働き方は、大きく二つに分かれると指摘。職務範囲が限定されず、職場のメンバーを育成していく「役割給人材」と、ポストが固定され、求められる職務の範囲内で自ら働く「職務給人材」だ。日本人は全員が同様に多能工化しようとするので、長時間労働になりがち。二分化したミドル世代にはこうした非効率化の解決が求められそうだ。

4.石蔵 文信著『定年不調』集英社

（2019年8月刊，221頁，新書判）

著者は、仕事中心にバリバリと働いてきた50～60代の定年前後の男性にみられる心身の不調を「定年不調」と名づけた。メンタルの危機を迎え、生活環境も変化するなか、体と精神が悲鳴を上げる男性は少なくないらしい。更年期という言葉に抵抗感や違和感を覚える人もいるようだが、女性と同様、男性にも「更年期障害」があると述べ、多様な不調の症候群に警鐘を鳴らす。著者は定年不調の諸症状は「男性ホルモンの低下が主な原因ではない」とし、① 夫婦でカウンセリングを受ける ② 「セロトニン」を増やす ③ 「認知行動療法」を行う――などを治療の柱にするとの考えだ。また、老後の不安のなかでもとりわけ重大な「男性の孤独」の解決が喫緊の課題との見方を示した。