2019年11月の新着図書紹介

1.小熊 英二著 『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社

(2019年7月刊,601頁,新書判)

著者は「雇用慣行が日本社会のすべてを規定していることが見えてきた」と指摘。日本の雇用慣行の特徴は「職種のメンバーシップ」の影響力が小さく、欧米のように企業横断的な自由労働市場も主流にならなかった点、との見方を示す。そのうえで、「社員の平等」を志向した日本の労働運動は、勤労意欲と技能蓄積の高い企業を作り出す一方、従業員同士の過当競争を生み、「正規」と「非正規」の二重構造を引き起こしたという。著者は、かつて何度も失敗してきた日本の雇用慣行の改革について、もっとも重要なのは労使が透明性を向上することだと主張。採用や昇進、人事異動、査定などは基準や過程を公表するとともに、少なくとも本人に選考過程を通知するよう求めている。

請求番号:302.1/nih
書誌番号:JB00112850
ISBN:9784065154298

2.各務 晶久著 『職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント』朝日新聞出版

(2019年7月刊,230頁,新書判)

著者は、これまで社内で解決できていた問題が、十分な話し合いもなく、突然、労働基準監督署に通告されたり、労働審判を申し立てられたり、裁判になるケースが増えている、と指摘。最近では個人の情報発信力が強くなり、企業内で発生した紛争がSNSなどを通じてすぐに拡散してしまう、と述べる。こうした点を踏まえ、職場の対立・葛藤を早期に解決する「コンフリクトマネジメント」に取り組む必要があると説く。本書では、6つの事例を用い、① (立場や役割の違いによる)条件の対立 ② 認知の対立 ③ 感情の対立――のどれによって対立が発生したかを分析。それに加えて、意見や価値観の対立を構造的にとらえたり、効果的解消法を組み立てたりする手法を紹介する。

請求番号:336.4/sho
書誌番号:JB00112945
ISBN:9784022950291

3.武藤 孝司著『プレゼンティーイズム その意義と研究のすすめ』星和書店

(2019年6月刊,iv+138頁,A5判)

日本でも近年、関心が高まっているプレゼンティーイズムは国内では従来「健康問題に関連した労働生産性損失」と解説されてきたが、欧米では「体調不良で出勤している状態」との考え方が一般的。また「病気を持ちながら出勤している状態」という定義を用いる研究も多い。欧米の場合、労働者の生産性は常に低下するのではなく、むしろ欠勤よりも生産性が高いこともあるとの考えを取る。著者は日本が ① 業務上で高度のストレスを抱える労働者が多い ② ガン、糖尿病、メンタルへルス不調などを持つ労働者の治療と職業生活の両立支援を目指している――ことなどから、この分野の研究推進のため、「健康問題を持ちながら出勤している状態」という定義を用いるべき、と提唱。

請求番号:366.99/pur
書誌番号:JB00112855
ISBN:9784791110186

4.周 燕飛著『貧困専業主婦』新潮社

(2019年7月刊,202頁,四六判)

本書は、労働政策研究・研修機構の研究員である著者が実施した大規模調査「子育て世帯全国調査」(2011年)をまとめたもの。専業主婦のうち、約8人に1人が貧困に陥っていることが判明し、著者は「専業主婦=高収入男性の妻」とのイメージが崩れたという。こうした主婦は友だちから家庭菜園の野菜をもらい、小学校のイベントの会食費の出費を拒むなどして食いつなぐ。著者は、少額でも働くほうが経済的に楽であると述べる半面、「日本女性を専業主婦モデルにしがみ付かせる文化的ルーツや制度的仕組みが存在しているのかもしれない」と解明。具体的には税制や社会保障制度が専業主婦であることを優遇している点により女性の就業の機会が奪われているとの見方を示した。

請求番号:367.3/hin
書誌番号:JB00112960
ISBN:9784106038440

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2019年8月~9月の労働図書館受け入れ図書

  1. 三戸 政和著『資本家マインドセット』幻冬舎(212頁,四六判)
  2. 翁 邦雄著『移民とAIは日本を変えるか』慶應義塾大学出版会(x+209頁,A5判)
  3. 沢渡 あまね著『仕事ごっこ』技術評論社(122頁,A5判)
  4. ジャスティン・ゲスト著『新たなマイノリティの誕生』弘文堂(xv+387頁,四六判)
  5. 倉重 公太朗著『雇用改革のファンファーレ』労働調査会(293頁,四六判)
  6. 東松 寛文著『休み方改革』徳間書店(221頁,四六判)
  7. 神坪 浩喜著『本当に怖いセクハラ・パワハラ問題』労働調査会(xii+283頁,四六判)
  8. 石井 妙子著『日本の天井』KADOKAWA(316頁,四六判)
  9. 岸見 一郎著『定年をどう生きるか』SBクリエイティブ(207頁,新書判)
  10. 池森 賢二著『企業存続のために知っておいてほしいこと』PHP研究所(429頁,四六判)