2019年4月の新着図書紹介

1.水島 治郎著『反転する福祉国家』岩波書店

(xi+282+4頁,文庫判)

歴史的に「寛容」な国として知られるオランダは近年、先駆的な社会経済モデルとして国際的に注目を集めている。1990年代後半からワークシェアリングによる雇用確保の試み、非正規労働の正規化を通じた雇用の安定化の進展、ワーク・ライフ・バランスの追求など積極的な「包摂」が進められている。しかし、その一方で、ここ10年ほどの間に大きく移民・難民政策を転換し、寛容から「移民排除」と「移民統合」へと大きく急速にカジを切った。本書は、こうした「光」と「影」の交差する現代のオランダ政治を取り上げ、その構造的な変容を分析するとともに、包摂と排除に通底する考えを解明。一見すれば対極にみえる政策の背後にある論理は何なのかを読み解いていく。

請求番号:312.359/han
書誌番号:JB00112375
ISBN:9784006003982

2.中原 淳他著『残業学』光文社

(331頁,新書判)

「日本人はなぜ長時間労働(残業)をするのか」――。この古くて新しい問題に対し、研究プロジェクトを設け2万人を超える調査データを駆使し、歴史、習慣、システムなどあらゆる角度から徹底的に残業の実態を分析した。日本で残業が根付いた背景には、職場に特有の「時間の無限性」と「仕事の無限性」という負の相乗効果があったためと指摘。キャリア育成面でも残業が人材の成長につながるという「残業成長神話」が職場に横たわっていたとみる。残業は個人の能力不足によって発生するのではなく、職場の雰囲気や人間関係のなかで生まれると解明。そのうえで、残業時間の「見える化」と「残業代の還元」という見返りを用意することで問題は解決すると断言する。

請求番号:366.32/zan
書誌番号:JB00112360
ISBN:9784334043865

3.浜田 敬子著『働く女子と罪悪感』集英社

(237頁,四六判)

本書は、朝日新聞の週刊誌、AERAの編集に17年間携わった著者が、今後社会に出て、長く働き続けようとしている女性たちを対象に、自らの経験を興味深いエピソードとともに綴ったエッセイである。取材した女性が就活時に「一生働く」と決意して就職したけれど辞めてしまった人もいれば、そんなに働くことに関心がなかった人が働き続けられてもいる。こうした働く女性を取材してきて思ったのは、仕事を続ける、辞めるの一線はどこにあるのかということ。AERA創刊以来初の女性編集長になり、新しいメディアで働き始めたいまでも著者が持ち続けている「宿題」だ。また、女性が仕事に夢中でも、罪悪感を持たずにすむ社会が早く来てほしい、との願望も本書の強調点。

請求番号:366.38/hat
書誌番号:JB00112039
ISBN:9784087880083

4.田中 恒行著『日経連の賃金政策』晃洋書房

(vi+215頁,A5判)

本書は、日経連および経団連の賃金政策、とりわけ定期昇給に関する考えを時系列に俯かんしたものだ。終戦時から1960年代末までにおいては、日経連が定昇を提起し、広く伝播した後、職務給と対峙、共存し、根付くまでの状況を解説。続く70年代はオイルショックによる急激な物価上昇とそれに伴う賃金上昇に対していかに対応するかが経営者の最大の関心事だったが、マクロ面では生産性基準原理の考えを打ち出す半面、ミクロでは支払い能力論を確立し、労働組合と向き合った。90年代には「成果主義」の導入が各社で試みられたが、その一方で、定昇の適応されない非正規労働者が従来にないペースで増加し、正社員と分断されるような構図となったことを指摘している。

請求番号:366.4/nik
書誌番号:JB00112456
ISBN:9784771031579

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2019年1月~2月の労働図書館受け入れ図書

  1. 坪田 信貴著『才能の正体』幻冬舎(313頁,四六判)
  2. 稲継 裕昭監修『キャリア教育に役立つ!官公庁の仕事』あかね書房(143頁,A4判)
  3. 柴田 彰著『エンゲージメント経営』日本能率協会マネジメントセンター(259頁,四六判)
  4. 鈴木 貴博著『格差と階級の未来』講談社(240頁,四六判)
  5. 高橋 秀直著『パワハラ不当解雇』旬報社(156頁,四六判)
  6. 岡田 良則著『退職・転職を考えたらこの1冊』自由国民社(182頁,A5判)
  7. 高嶋 直人著『公務員のためのハラスメント防止対策』ぎょうせい(9+196頁,A5判)
  8. 釜ヶ崎炊き出しの会編著『釜ヶ崎合唱団:労働者たちが波乱の人生を語った』ブレーンセンター(517頁,四六判)
  9. 斉藤 弥生他著『市場化のなかの北欧諸国と日本の介護』大阪大学出版会(iv+426頁,A5判)
  10. みさき じゅり著『ささいなことに動揺してしまう敏感すぎる人の「仕事の不安」がなくなる本』秀和システム(263頁,四六判)