2018年11月の新着図書紹介

1.山本 寛著『なぜ、御社は若手が辞めるのか』日本経済新聞出版社

（227頁，新書判）

近年、転職者が300万人を突破し、右肩上がりで増えるなか、わが国は本格的な転職社会に突入している。その反面、少子高齢化が進み、企業は恒常的な採用難、人手不足というのが現状。こうした企業では、採用した若手社員に長く働き続けてもらう「リテンション」（定着・引き留め）の促進が喫緊の課題となっている。転職した労働者に辞めた「本音の理由」をたずねたところ、「労働時間・環境に不満」「人間関係」「給与」の順に続いた。今後若手を辞めさせないための施策としては、労使ともに「希望を活かした部署への配置」を重視するものの、労働者が次に求めるのは「賃金水準の向上」「休日の確保」であるのに対し、企業側は「企業内訓練」を挙げるなどズレも目立った。

2.小谷 敏著『怠ける権利！』高文研

（350頁，四六判）

「過労死」という言葉が生まれてから、すでに四半世紀以上が経過した。しかし、依然としてわが国では過労死は解消されていない。こうしたなか、著者は怠惰を称揚する。書名は、19世紀フランスの社会主義者ポール・ラファルグに由来。彼は当時の労働者階級が10時間をはるかに超える過酷な労働をしている際に、「1日3時間以上働くと人間は不幸になる」と説き、過剰労働による過剰生産を批判したという。本書は「死に至るまでの労働を人々に強いる、日本の社会構造と人々の価値観の歪みはなぜ生まれたのか」をラファルグ、ケインズ、ラッセル、ヴェブレン、水木しげるらの思想をひもときながら、過労死を生み出す「自発的隷従」を克服する“処方箋”を提示する。

3.イリス・ボネット著『ワークデザイン』ＮＴＴ出版

（435頁，四六判）

米ハーバード大学で女性行動経済学者として教べんをとる著者が、男女平等を実現するためには何が有効かを解く。事例としてあげたのは、米国のオーケストラにおける演奏家の採用試験のエピソード。試験で「ブラインド・オーディション」が実施される前は女性演奏家の割合が5％だったのが、実施後は35％以上になったことを紹介。女性の社会進出が進んだ米国でもこの結果だ。われわれの頭のなかには様々なバイアス（偏り）が無意識のうちに行動に影響を与えているが、取り除くのは非常に難しい。著者は「慣行とプロセスを変える」「交渉の機会を等しく確保する」「能力を磨く」「等しい条件で競い合う」などをジェンダー平等のためのデザインとして男女に呼びかける。

4.中村 高康著『暴走する能力主義』筑摩書房

（237+v頁，新書判）

ことし、高等学校の学習指導要領が改訂された。新しい時代に身につけるべき「能力」が想定され、教育内容が大きく変更されている。本書は、その背景に教育の大衆化という事態があると指摘。大学教育が普及することによって、逆に学歴や学力といった従来型の能力指標の正当性が失われ始めたことが影響しているという。その反面、人々は「新しい能力」を渇望し、例えば他者とのコミュニケーション能力や協調性、問題解決能力など抽象的能力を求めがちだ。当然これらは厳密には測定できない。このため、これまで抑制されていた能力への疑問が噴出し、「能力不安」があおられるようになった。本書では、気鋭の教育社会学者が能力のあり方の揺らぐ現代社会を分析した。