2016年10月の図書紹介(2016年9月受け入れ図書)

1.大森 信著『掃除と経営』光文社

(260頁,新書判)

まず、タイトルが意表を突くが、「掃除」の経営への効用を歴史的に解き明かす。古今東西の経営者が従業員をいかに規律正しく働かせ続けるかに悩み、それが企業成長の足かせになっていた。この課題にいち早く対応したのが社会学者のマックス・ウェーバー。「神による監視」という新しい概念で、コストが非常に安く済む説を唱えた。しかし、神の監視を恐れない日本では、代わりに社員を掃除や整理整頓で熱心にしつけるようになった。本田宗一郎や松下幸之助といったカリスマ経営者が掃除の効用を説いたことで、職場あげての掃除が拡大。最終的に経営学の新しい接近法として広まり始めた「実践としての経営戦略」が説く「スロー・マネジメント」の重要性と関連づけた。

請求番号:336.47/soj
書誌番号:JB00106887
ISBN:9784334039196

2.ガイ・スタンディング著『プレカリアート』法律文化社

(xv+289頁,A5判)

経済のグローバル化と新自由主義経済の進展に伴って、失業者に加え、不安定な就労形態に置かれる人々の数が世界中で増大。現在、多くの国々の成人人口の少なくとも4分の1が不安定雇用の状態だという。このように底辺に追いやられ、生きづらさを抱えている新たな「プレカリアート」という階級の実態を考察し、不平等社会の問題の根源を分析。さらに、不安定化する社会の変革方法と将来展望を提起し、この階層をどのように位置づけ、対処していくべきかを明示している。著者は長年、国際労働機関(ILO)でエコノミストとして勤務後、現在、ベーシック・インカム研究の国際学界の創設メンバー。最後に平等の復活に向けてベーシック・インカムの導入を提案する。

請求番号:361.85/pre
書誌番号:JB00106895
ISBN:9784589037800

3.東條 由紀彦編著『「労働力」の成立と現代市民社会』ミネルヴァ書房

(vi+436+5頁,A5判)

市民社会における労働と人格の様相について、近代から現代の移行期を中心に、事例研究とそこから導き出された理論を解説する。世紀転換期、資本が市民社会に対立した結果、労働者は、工場のなかで従来の市民から無一文のプロレタリアに転落。その過程で、人々は自己を「労働力」と「人格」に分裂させ、「外なるモノとしての『労働力』とその人格的『所有者』」に自己を再編したという。この典型は産業民主主義体制であるが、日本の「ヘゲモニー」は固有なものとして展開。その諸相を後半の事例編として、終戦直後に起きた東宝争議、戦後占領期の中小炭鉱の組夫と従業員などを取り上げて、労働力の成立過程を論じている。前作『近代・労働・市民社会』の続刊。

請求番号:362.1/rod
書誌番号:JB00106750
ISBN:9784623076321

4.和田 肇著『労働法の復権』日本評論社

(xvi+289頁,A5判)

日本では、働き方が多様化していると言われる。しかし、利用者がひとケタのフレックスタイム制や専門職型裁量労働制、1週間前の辞令でも全国どこへでも異動する単身赴任など労働時間と職場について、依然として働く人本位に決定できていない現状を描出。著者は、その背景として労働者の孤立化、他者依存、権利意識の弱体化が進行しており、労働者の従属性は一段と強まっていると指摘する。このため、① 不完全雇用の持続的な減少 ② 労働における基本原則の尊重 ③ 貧困の削減を目指す雇用政策の実施――に取り組み、質の高い雇用を創出する必要性を訴える。非正規雇用に関しては、均等待遇の重要性を説く。

請求番号:366.14/rod
書誌番号:JB00106795
ISBN:9784535521919

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2016年7月~2016年8月の労働図書館受け入れ図書

  1. ナカムラクニオ著『パラレルキャリア』晶文社(236頁,四六判)
  2. 大西 広編著『中成長を模索する中国』慶應義塾大学出版(194頁,A5判)
  3. 山極 清子著『女性活躍の推進』経団連出版(205頁,四六判)
  4. 坂本 光司他著『日本でいちばん社員のやる気が上がる会社』筑摩書房(249頁,四六判)
  5. 石崎 浩著『年金改革の基礎知識』信山社(xiv+218頁,四六判)
  6. 山口 理栄他著『さあ、育休後からはじめよう』労働調査会(216+41頁,四六判)
  7. 和気 美枝著『介護離職しない、させない』毎日新聞出版(221頁,四六判)
  8. 寺谷 篤志著『定年後、京都で始めた第二の人生』岩波書店(x+155頁,四六判)
  9. 三宮 貞雄著『コンビニ店長の残酷日記』小学館(189頁,四六判)
  10. 橘木 俊詔著『プロ野球の経済学』東洋経済新報社(215頁,四六判)