2016年9月の図書紹介(2016年8月受け入れ図書)

1.猪木 武徳著『自由の思想史』新潮社

(239頁,四六判)

自由は本当に「善きもの」なのか。著者の思考はそこからスタートする。市場経済が暴走し、民主主義が機能不全に陥るのは、自由が足りないせいなのか、過剰のせいなのか。古代ギリシア・ローマに始まり、中世ヨーロッパ、近代日本、さらには現代グローバル社会。経済学の第一人者としての視点から古今東西の歴史と思想を行き来し、人間精神の自由、政治経済体制としての自由のあり方を問う。そして、自由への問いかけは「神聖なもの」の観想となり、真の自由論の最初の一歩となると導く。ただ、西洋では権力が多元的である一方、日本の権力は一元的で、いまだ権威主義から抜け切れていないと解き明かす。新潮社の雑誌『考える人』に書きためたものをまとめた。

請求番号:331.1/jiy
書誌番号:JB00106792
ISBN:9784106037856

2.大内 伸哉著『勤勉は美徳か?』光文社

(260頁,新書判)

労働法学者である著者は「労働法の遵守は、幸福な仕事人生の必要条件だが、十分条件ではない」と言う。例えば「厳しいノルマや納期の設定」「家族を引き離す転勤命令」「社員間の過当競争」などの事例はいずれも労働者に主体性がない。会社に雇われる形態である「雇用」を選択する限り、労働者の主体性とは相いれないと説く。では、日本の労働者が幸福になる道はないのか。著者は、まず仕事の内側に入り、自分の「作品」をつくり出すことを提案。また、働く者が「時間主権」を回復させる重要性も強調する。さらに人事と評価、ワーク・ライフ・バランス、日本特有の雇用・休暇文化を見直しながら、主体性を発揮させるために情報の収集、分析、行動が不可欠だと解説する。

請求番号:366/kin
書誌番号:JB00106793
ISBN:9784334039080

3.町田 祐一著『近代日本の就職難物語』吉川弘文館

(6+222頁,四六判)

まだ大卒者が珍しかった明治末期の日本では、一定の職業に就いていない者は「高等遊民」と呼ばれ、「危険思想化」や「左傾化」の浸透も相まって社会不安を助長した。一方、就職難を批判する経済界の自己責任論の主張や就職マニュアル本の隆盛など現代とあまり変わらない面も指摘。著者は採用実態の多数が日本特有の「縁故」であることも見い出す。高等遊民の就職難は、日露戦争後、明治末期にかけて次第に拡大したものの、大戦景気の到来で事態は急変、当時の就活戦線は好転した。このように就職は好不況に非常に影響される問題であり、その時々の社会情勢に大きく左右される。著者は就職そのものを問い直すことは、社会のあり方を考える契機になると主張する。

請求番号:366.29/kin
書誌番号:JB00106882
ISBN:9784642058285

4.小池 和男著『「非正規労働」を考える』名古屋大学出版会

(xi+215+8頁,四六判)

労働経済学の大家が、戦後労働史の視角から「非正規労働」問題にメスを入れる。現在の非正規労働をめぐる議論は、市場での競争力を無視しているのでないかとの懸念を持ったのが、本書執筆の出発点だという。正規と同じ仕事をしているのに、安い賃金の非正規が急増しているのは、決して市場競争が不徹底であるからではないと指摘。非正規労働者が存在する根拠には、人材選別機能と雇用調節機能、加えて低技能分野の担い手としての機能があるとする。そのうえで中下位職の場合の人材選別機能面での提案としては ① 非正規労働者の正規への昇格制の整備 ② 査定の恣意性の制限――をあげる。② に関しては、「仕事表」を貼り出すことで「非正規の熟練化」につながると説く。

請求番号:366.8/his
書誌番号:JB00106745
ISBN:9784815808389

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2016年6月~2016年7月の労働図書館受け入れ図書

  1. 新井 健一著『いらない課長、すごい課長』 日本経済新聞出版社(243頁,新書判)
  2. 内藤 勲他編著『表象の組織論』 中央経済社(iii+iv+212頁,A5判)
  3. 本間 浩輔他著『会社の中はジレンマだらけ』 光文社(217頁,新書判)
  4. ナイラ・カビール著『選択する力』 ハーベスト社(xvi+436頁,A5判)
  5. 加藤 久和他編著『超高齢社会の介護制度』 中央経済社(5+v+266頁,A5判)
  6. 片 山悠樹著『「ものづくり」と職業教育』 岩波書店(vi+219+10頁,四六判)
  7. 児美川 孝一郎著『夢があふれる社会に希望はあるか』 ベストセラーズ(190頁,新書判)
  8. 石川 善樹著『疲れない脳をつくる生活習慣』 プレジデント社(165頁,新書判)
  9. 大山 泰弘著『日本でいちばん温かい会社』 WAVE出版(189頁,新書判)
  10. 藤本 耕平著『「つくす」若者が「つくる」新しい社会』 ベストセラーズ(222頁,新書判)