2014年2月の図書紹介(2014年1月受け入れ図書)

1.長谷川英祐著『働くアリに幸せを』講談社(223頁,四六判)

 『働かないアリに意義がある』の著者が人間社会を映し出すために、再びアリの社会を用いて解説。リストラを取り上げた章では「人間の世界ではなぜ『組織の効率』が優先されやすいのか」「リストラは効率的か?」を生物学を用いて説く。短期的な効率の追求と長期的存続の関係を分析するなど、社会の構造とそこに働く力学を論じたエッセー。

2.常見陽平著『普通に働け』イースト・プレス(237頁,新書判)

 「普通に働け」とはどういうことか。著者は、グローバル人材ではない普通の人々の、ノマド的でない普通の働き方を考察。「意識高い系」の言説に対抗、目の前の現実に立ち向かおうと主張。データに基づき、ノンエリートの働き方を分析する。その前提には、世の中は普通の人で動いているという、等身大の希望を求める著者の問題意識がある。

3.海老原嗣生著『日本で働くのは本当に損なのか』PHP研究所(213頁,新書判)

 本書は、日本独自の雇用の特徴として、「給与は『仕事』ではなく、『人』で決まる」「正社員は幹部候補生」という二つの「公理」を指摘。日本では①なぜ上司が部下の面倒を見るのか②なぜ転職しないのか③なぜ女性活用が進まないのか――などを解説。日本社会の雇用の常識を批判してきた著者が、日本型雇用と欧米型とのベストバランスを模索。

4.森山たつを著『セカ就!』朝日出版社(278頁,四六判)

 タイトルは「日本人が働ける場所は、日本だけじゃない。世界を舞台にした就職にも目を向けてみよう!」という概念「世界就職」から。ブラック企業を辞めてインドネシアに渡った男性、シンガポールで楽しく働く女性など海外で働く人々の実話に基づく就活ノベル。著者は、セカ就が多くの人にチャレンジできる選択肢となったと指摘する。

5.竹信三恵子著『家事労働ハラスメント』岩波書店(xiv+238頁,新書判)

 誰にとっても必要でいやしの営みである家事労働がなぜ正当に評価されないのか。不公正な分配がいかに生きづらさや貧困を招くのか。著者は、終わりなき「見えない労働」を担う女性が社会から不当に締め出されていると強調。「無償労働(アンペイドワーク)」としてハラスメントされている家事労働の実態に光を当て、困難からの脱却を探る。

6.金子良事著『日本の賃金を歴史から考える』旬報社(207頁,四六判)

 著者は、かつて国民全体の生活にかかわる問題であった賃金が議論の中心にならなくなったことを残念に思い、賃金についての多様な考え方を多数紹介、背景にある社会の歴史を解説する。とくに企業にとっての生産と労働者にとっての生活に焦点を当て、生産管理や社会福祉の歴史にも言及する。今どき珍しい若手研究者による統計表のない賃金論。

7.柴沼俊一他著『知られざる職種 アグリゲーター』日経BP社(278頁,四六判)

 IT(情報技術)が急激に普及した後の「21世紀知識社会」では、「20世紀型工業社会」と異なり、個人の存在が大きくなり、企業と個人の関係が変わっていくと主張。新しい価値を生み出す力を備え、ビジョンを持って企業内外で活躍するアグリゲーターを重視し、企業と個人の同時変化の必要性を説く。自立した個人に立脚した未来論である。

8.石鍋仁美著『生きるためにつながる』日本経済新聞出版社(238頁,四六判)

 自分たちを取り巻く社会、待ち受ける未来は磐石ではない。そんな危機意識を土台に、自発的で前向きな若年層が横のつながりを生かし、成長と活躍の場を整備。コワーキングスペースやシェアハウス、ファブラボなど40歳以下の世代の働き方、暮らし方、生き方をルポ。芽生え始めた団塊ジュニア以下の世代の「ソーシャル志向」を丹念に探った。

9.みわよしこ著『生活保護リアル』日本評論社(x+220頁,四六判)

 生活保護制度の実態を解説するとともに、生活保護の当事者の生活をリアルに描写。生活保護世帯の子供の生活や福祉事務所・ケースワーカーの日常、貧困問題研究者の研究内容など生活保護の周辺分野にも取材に基づいて言及。制度の今後については、自民党・政府の検討状況を懸念、消費税増税による社会保障費の充実すら認められないと嘆く。

10.守島基博他著『人事と法の対話』有斐閣(x+307+vi頁,A5判)

 人事管理と労働法は、対立するものと捉えられている。企業の立場では、労働法は次々とハードルを設定し、人事管理をやりにくくし、労働法にすれば、企業の自由に任せていると、労働者の利益が損なわれると考える。明快な説明力を持つ人事研究者と、見識に満ちた労働法学者が、新たな人材マネジメント創造に向けて対話している刺激的な書。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年11月-2013年12月に労働図書館受け入れ

  1. 若宮啓文著『新聞記者』筑摩書房(234+iv頁,新書判)
  2. 三好祐輔著『法と紛争解決の実証分析』大阪大学出版会(iii+388頁,A5判)
  3. 吉原和男編著『現代における人の国際移動』慶應義塾大学出版会(ix+474頁,A5判)
  4. 河合克彦著『評価者になったら読む本』日本生産性本部生産性労働情報センター(vii+291頁,A5判)
  5. 川喜多喬著『社会調査屋気質』キューズ新翠舎出版(120頁,A5判)
  6. 森徹他編著『格差社会と公共政策』勁草書房(v+222頁,A5判)
  7. 西谷敏著『労働法』日本評論社(xxxii+717頁,A5判)
  8. 小幡績著『やわらかな雇用成長戦略』KADOKAWA(235頁,新書判)
  9. 翁貞瓊他著『中国民営企業の雇用関係と企業間関係』明石書店(193頁,A5判)
  10. 金子雅臣著『パワハラ・いじめ職場内解決の実践的手法』日本法令(206頁,A5判)
  11. 遠藤公嗣編著『同一価値労働同一賃金をめざす職務評価』旬報社(183頁,A5判)
  12. 庄司洋子編『親密性の福祉社会学』東京大学出版会(xv+263頁,A5判)
  13. 濱口桂一郎編著『福祉と労働・雇用』ミネルヴァ書房(viii+227+2頁,B5判)
  14. 中嶌洋著『日本における在宅介護福祉職形成史研究』みらい(347頁,A5判)
  15. 埋橋孝文編著『生活保護』ミネルヴァ書房(vii+270+7頁,B5判)
  16. 神原文子他編著『ひとり親家庭を支援するために』大阪大学出版会(xi+267頁,四六判)
  17. 堀内達夫他編『日本と世界の職業教育』法律文化社(iv+179頁,A5判)
  18. 谷村智康著『「就活」という広告ビジネス』リベルタ出版(140頁,四六判)
  19. 小関智弘著『どっこい大田の工匠たち』現代書館(238頁,A5判)
  20. 尾高煌之助他編著『幻の産業政策機振法』日本経済新聞出版社(xv+403頁,A5判)