2013年12月の図書紹介(2013年11月受け入れ図書)

1.山重慎二著『家族と社会の経済分析』東京大学出版会(v+309頁,A5判)

 家族や共同体に関する経済学的分析に基づき、変容する日本社会における政府の役割を議論する。少子・高齢化、生活や地域の格差という社会問題に対し、ゲーム理論により分析。男女ともに無理なく労働と子育てに参加できる家族のため、高福祉・高負担の社会保障制度を推奨する。社会変容と政策的対応に関する著者の長年の研究活動の成果。

2.太田肇著『組織を強くする人材活用戦略』日本経済新聞出版社(190頁,新書判)

 日本企業のV字回復には、プロ型の組織と社員が必要と指摘。30年間、組織の中で個人の意欲と能力をいかに引き出すかを研究してきた著者は、組織の枠組みを転換する必要性を主張。具体的には、D(組織の分化)、I(社員の自立)、S(タテ方向の組織の単純化)、C(ヨコ方向の制度の乱雑化)、O(外部資源の活用)の5つの視点から解説。

3.榎本博明著『お子様上司の時代』日本経済新聞出版社(221頁,新書判)

 自分の苦労話や主義・主張を語るだけで、部下の言うことには耳を貸さない未成熟な上司(お子様上司)が増加中だという。本書は、社会人の人間関係には心理学の世界で流行しているナラティブ(語り)の概念が必要だと強調。コーチングに応用し、語りを引き出すとともに本人の気づきを促し、納得のいく生き方や働き方の再構築を支援する。

4.高橋弘幸著『企業競争力と人材技能』早稲田大学出版部(xvi+351頁,A5判)

 人材が企業の競争力にどのように影響を及ぼすのか、そのメカニズムを技能面から探求。小池和男教授の知的熟練論を援用、ホワイトカラーの不確実性をこなすノウハウに着目。著者が30年勤務した三井物産の明治・大正期のパネルデータを含む詳細な情報を分析。次々導入された同社の教育制度を検証し、技能は主にOJTで形成されたと結論。

5.玄田有史著『孤立無業(SNEP)』日本経済新聞出版社(236頁,四六判)

 20歳以上59歳以下の在学中を除く未婚無業者のうち、通常ずっと一人か、一緒にいるのが家族だけの人々を孤立無業者(スネップ)と定義。その数162万人。社会生活基本調査に基づき実態を解明、対策を提示するとともに、本人・家族にもアドバイス。スネップ問題を解決しなければ、生活保護受給者増や働き手の減少につながると警告する。

6.濱口桂一郎著『若者と労働』中央公論新社(290頁,新書判)

 著者は、日本型雇用システムや教育制度についての議論を踏まえ、若者雇用問題とそれに対する政策の推移を概観。日本の採用メカニズムは1990年代に機能不全に陥っていると指摘、漸進的戦略として正社員でも非正規社員でもない第3類型としての「ジョブ型正社員」の推進を提唱。ブラック企業現象に対しては、労働教育の復活を強調する。

7.高原壯夫他編著『危機に直面する労働運動』労働大学出版センター(197頁,A5判)

 不安定雇用と低賃金の非正規労働者の増加、格差の拡大などを前に、労働者の雇用、労働条件を守るべき労働組合の存在感は薄くなっている。本書は、企業を超えた中小企業労働者の組織である全国一般(2006年に自治労と統合)の12年間のオルグ養成研修会のエッセンスである。中小労働運動、合同労組運動、争議・権利闘争についての実践書。

8.水谷英夫著『感情労働とは何か』信山社(xiv+225頁,新書判)

 従来、職場など公の場では喜怒哀楽の感情を抑制し、理性を働かせるのが常識だったが、仕事の多くが「人対モノ」から「人対人」に移行、コミュニケーションの役割が飛躍的に増大。著者は、労働法との関わりを分析・検討、当事者双方が感情を適切に抑制することによって、セクハラやパワハラ、いじめにつながらない職場づくりを求めている。

9.森杲著『アメリカ<主婦>の仕事史』ミネルヴァ書房(ix+369+19頁,A5判)

 米国が男女の機会均等の達成度で先陣を切っているというのは、今や多くの人々の常識。しかし、今日の状況が昔からの民主的伝統の発現ではなく、多くがかなり最近の変化であると指摘。庶民階層の主婦たちが、男性優位社会の中で仕事と家庭との新しい関係を生み出してきたが、本書は、主婦の仕事の変転から米国社会経済史をとらえ直す試み。

10.藤村正之編『協働性の福祉社会学』東京大学出版会(xvii+264頁,A5判)

 世界に例を見ないと編者たちが認識する「福祉社会学」シリーズ全4巻の第3巻。本巻は、個人化が進む社会での連帯の可能性を追求。ひとりで生きていく実態を明らかにし、共生的な関わりの可能性を考察、社会関係資本や社会的企業等の連帯の方法を検討する、という3部構成。福祉社会学に関わる精鋭研究者を総動員したと編者たちは自負。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年9月-2013年10月に労働図書館受け入れ

  1. 古市今日子著『女性社員の心得』労働調査会(199頁,新書判)
  2. 谷本真由美著『キャリアポルノは人生の無駄だ』朝日新聞出版(227頁,新書判)
  3. 佐保圭著『どがんね:古賀常次郎詳伝』日経BPマーケティング(263頁,A5判)
  4. 石田雄著『日本の社会科学』東京大学出版会(iii+315+10頁,四六判)
  5. 猪口孝編著『アジアの情報分析大事典』西村書店(ix+477頁,B5判)
  6. 牛島信著『「雇用」が日本を強くする』幻冬舎(189頁,四六判)
  7. 日下渉著『反市民の政治学:フィリピンの民主主義と道徳』法政大学出版局(xiii+380+47頁,A5判)
  8. 武藤博己他編著『東アジアの公務員制度』法政大学出版局(xiv+340頁,A5判)
  9. 利谷信義著『日本の法を考える』東京大学出版会(ix+213頁,四六判)
  10. 「倒産と労働」実務研究会編『詳説倒産と労働』商事法務(xxv+481頁,A5判)
  11. ポール・J・ザック著『経済は「競争」では繁栄しない』ダイヤモンド社(308頁,四六判)
  12. ヨシュア・アングリスト他著『「ほとんど無害」な計量経済学』NTT出版(x+373頁,A5判)
  13. 奥村宏著『会社の哲学』東洋経済新報社(255頁,A5判)
  14. 梅本迪夫著『少子高齢化時代を生き抜く賃金評価制度の構築』日本生産性本部生産性労働情報センター(iv+247頁,A5判)
  15. 高橋潔著『評価の急所(へそ)』日本生産性本部生産性労働情報センター(100頁,四六判)
  16. 武部純子著『脱・不機嫌な女』柏書房(245頁,四六判)
  17. 樋口義雄他編『働き方と幸福感のダイナミズム』慶應義塾大学出版会(xi+231頁,A5判)
  18. 障害福祉青年フォーラム編『障害のある人が社会で生きる国ニュージーランド』ミネルヴァ書房(xii+195+3頁,A5判)
  19. OECD編著『メンタルヘルスと仕事』明石書店(249頁,B5判)
  20. 丹羽美之他編『メディアが震えた:テレビ・ラジオと東日本大震災』東京大学出版会(vii+400頁,A5判)