2013年10月の図書紹介(2013年9月受け入れ図書)

1.田原総一朗著『40歳以上はもういらない』PHP研究所(219頁,新書判)

 80歳を目前にしながらも、今最もアクティブなジャーナリストによる若者論。荻上チキ、駒崎弘樹、今野晴貴、古市憲寿、東浩紀等柔らかな感性をもつ若手論客8人にインタビュー。金にも車にも海外旅行にも関心が薄いと言われるロストジェネレーションの本音に激しく迫る。かわいそうなのは若者ではなく40歳以上の大人であると結論。

2.橘木俊詔著『「幸せ」の経済学』岩波書店(ⅹⅰ+178頁,B6判)

 ひそかに脚光をあびつつある、幸せの経済学の橘木教授版。最大所得⇒最大消費⇒最大効用⇒最大幸福、という固定観念からの脱却を説き、人はどういう分野でどうしているときに幸せか、を追究。本書の特徴は、心理的要因と幸福度の関係の重視、幸福度への格差の影響の分析である。政府の政策にも注目、教授自身の幸福観も披露している。

3.中嶋哲夫他編著『人事の統計分析』ミネルヴァ書房(vii+307頁,A5判)

 足かけ10年以上にわたる実務家と研究者の共同作業の成果を編集。複数の企業内人事マイクロデータと格闘し、人材マネジメントに関する知見を抽出。評価と処遇との関係に絞って検討、特に、評価者負担、評価結果と処遇決定ルール、従業員意識と人事制度の関係を分析する。実務家・企業と研究者の双方に貢献することが期待されている。

4.高巖著『ビジネスエシックス「企業倫理」』日本経済新聞出版社(xⅳ+552頁,A5判)

 社会の中で企業はどうあるべきか、どう行動すべきかという企業と社会との関係、企業のあるべき姿に対し、経営を総合芸術と捉える著者は、3つの視点からアプローチ。社会哲学と企業の社会的責任、企業をめぐるグローバルリスク、日本のビジネス社会における課題、である。企業のあるべき論として、新しいコミュニタリアニズムを提唱。

5.松尾睦著『成長する管理職』東洋経済新報社(223頁,A5判)

 経験と能力のつながり、経験を決定する要因を明らかにすることによって、マネジャー自身が成長していく道筋を探求する、というのが本書の目的。質問紙調査、自由記述式調査で得た個別事例、マネジャーへの長時間インタビューを材料に、パス解析等によって分析。経験と能力を分類、長期成長ストーリーと成長メカニズム・モデルを提示。

6.落合恵美子編『親密圏と公共圏の再編成』京都大学学術出版会(vii+356頁,A5判)

 シリーズ「変容する親密圏/公共圏」第一巻。アジア近代への社会科学的接近のためのキーコンセプト、理論的枠組を検討。現代アジアの親密圏(家族)、公共圏(市民社会・国家)を分析。人口ボーナス、正規非正規間賃金格差、外国人家事労働者、社会投資政策、家族法、フェミニズム等多彩なテーマを網羅。執筆者の半数近くが外国人研究者。

7.矢嶋里絵他編『人権としての社会保障』法律文化社(ⅵ+324頁,A5判)

 人権保障の視点と生活実態を重視し、金沢大学で長く社会保障研究・教育に携わってきた井上英夫教授の定年記念論文集。井上教授自身と教授に指導をうけた37人が寄稿。人権としての社会保障、医療保障、社会福祉サービス、医療・福祉の担い手、の4部構成に加え、教授の執筆論文「人権としての社会保障確立の課題」とエッセーも収録。

8.藤内和公著『ドイツの雇用調整』法律文化社(ⅹⅴ+284頁,A5判)

 本書の課題は、ドイツにおける労働時間口座・操業短縮等の雇用調整の実態と特徴を明らかにし、非正規雇止め、雇用調整助成金活用等による日本の雇用調整と比較、その改善のための示唆を得ること。雇用調整への従業員代表の関与にも注目。1990年代半ばから発表してきた論文を編集、3部構成全11章の本文と序章及び2つの補論で構成。

9.永野仁美著『障害者の雇用と所得保障』信山社出版(ⅹ+271頁,A5判)

 本書は、英米独の法制度の概況及びフランスの法制度の詳細な調査・検討によって、日本の障害者への所得保障のあり方に対して示唆を得ること、を目的とする。雇用保障による所得保障、社会保障制度による所得保障、障害に起因する特別な費用の保障方法を比較法的に分析するとともに、それらの相互関係性も追究。博士論文に加筆・修正。

10.小池和男著『強い現場の誕生』日本経済新聞出版社(ⅲ+287頁,B6判)

 著者は、組合幹部ではなく、心をくだいて仕事を工夫する人に光をあてた、やや風変わりな戦後労働史の試みだという。トヨタを深く観察、職場の中堅層が企業競争力の中枢にも発言する労働者像はどのような基盤に基づくのか、それは長続きするのか、海外日系企業にも通じるのか、を吟味。傘寿を越えてなお斬新な問題意識は驚愕に値する。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年7月に労働図書館受け入れ

  1. 寺島実郎著『何のために働くのか』文藝春秋(201頁,新書判)
  2. 森博嗣著『「やりがいのある仕事」という幻想』朝日新聞出版(223頁,新書判)
  3. 「ベトナム・カンボジア・ミャンマー進出マニュアル」編集部編『ベトナム・カンボジア・ミャンマー進出マニュアル』クラウンライン(454頁,A4判)
  4. 上林陽治著『非正規公務員という問題』岩波書店(63頁,A5判)
  5. 大野正男著『職業史としての弁護士および弁護士団体の歴史』日本評論社(ⅵ+174頁,B6判)
  6. 久保公二編『ミャンマーとベトナムの移行戦略と経済政策』アジア経済研究所(ⅳ+177頁,A5判)
  7. ロベール・ボワイエ著『ユーロ危機』藤原書店(201頁,B6判)
  8. 細谷功著『会社の老化は止められない』亜紀書房(240頁,B6判)
  9. 杉山秀文著『就業規則はこう使え』労働調査会(224頁,新書判)
  10. 小山好文他著『ミャンマー進出ガイドブック』プレジデント社(209頁,A5判)
  11. 谷本真由美著『日本に殺されずに幸せに生きる方法』あさ出版(222頁,B6判)
  12. 鈴木剛著『中高年正社員が危ない』小学館(188頁,新書判)
  13. 労務行政研究所編『労働者派遣法』労務行政(654頁,A5判)
  14. 原田芳裕著『パワハラ地獄敢闘記』日本評論社(203頁,B6判)
  15. 国鉄闘争を継承する会編『国鉄闘争の成果と教訓』スペース伽耶(218+28頁,B6判)
  16. 深笛義也著『労働貴族』鹿砦社(149頁,A5判)
  17. 岩本俊也著『労働紛争あっせん実例集』中央経済社(2+5+331頁,A5判)
  18. 本田直之著『あたらしい働き方』ダイヤモンド社(310頁,B6判)
  19. ちきりん著『未来の働き方を考えよう』文藝春秋(223頁,B6判)
  20. 児美川孝一郎著『キャリア教育のウソ』筑摩書房(190頁,新書判)