2013年9月の図書紹介(2013年8月受け入れ図書)

1.友原章典著『幸福の経済学』創成社(ⅹ+196頁,A5判)

 近年、豊かさと幸福の関係についての経済学的論究が増えている。豊かさはGDPのみでは測りきれず、主観的な幸福も、哲学や心理学だけのテーマではないと考えられるようになってきた。本書は、公平の観点を重視、幸福の要因、豊かさの指標、仕事と幸福、日本のかかえる幸福をめぐる問題点について言及している幸福の経済学の入門書。

2.松田茂樹著『少子化論』勁草書房(ⅹ+246+ⅹ頁,B6判)

 最近における少子化問題への関心の低下、これまでの少子化対策の有効性に対する疑問、等の問題意識の下、少子化の現状、その背景要因を再分析し、対策を提示。特に、若年層の雇用劣化を問題視、彼らの雇用環境の改善、子育て・教育負担の軽減、子育てと仕事との両立支援の充実等を提言。少子化の総合的分析と政策提言を目指している。

3.木谷宏著『社会的人事論』労働調査会(247頁,A5判)

 著者は、日本の社会と企業は時代の分岐点に立っており、従来の人事管理は限界に達していると主張。全人的雇用契約、企業利益の最大化、一所一斉的管理からの脱却を求める。年功、成果主義の経済的合理性ではなく、社会的企業や多様な働き方を前提とする社会的合理性に基づく「社会的人事論」を提唱。20の問いを立て、主張を展開する。

4.荒井勝彦著『現代の労働経済学』梓出版社(xⅰ+639頁,A5判)

 現代の労働経済学の主要な領域について理論的発展を研究するとともに、わが国社会における労働経済の実態とその特徴を、各種の統計資料を利用して明らかにすることを目指した労働経済学の教科書。本文597頁、参考文献・索引41頁の大著。全12章中に、差別と労働市場、労働市場と労働法制の2章を含んでいることが特徴である。

5.小倉一哉著『「正社員」の研究』日本経済新聞出版社(ⅹⅰ+297頁,B6判)

 雇用労働者の3分の2を占める正社員の雇用の安定、転職と定着、人事評価、労働条件を研究成果や統計デー タ、マイクロデータの分析によって検討し、現代日本の正社員の特徴、問題点、展望を描写。終章で著者は、雇用の安定、賃金の伸びなどの正社員の特徴が徐々に弱まり、一方で高評価を求められ、長時間労働化する姿を慨嘆している。

6.和田肇他編著『労働者派遣と法』日本評論社(ⅹ+404頁,A5判)

 本書は、リーマン・ショックで大きなしわ寄せを受けた非正規雇用のうち、労働者派遣に焦点を当て、裁判例における法的問題や、立法規制の理論的課題等を明らかにしようとするもの。28人を数える執筆陣のうち、その3分の1強を弁護士が占める、学者と実務家の共同作業の書。執筆者の1人、古希を迎えた萬井隆令教授に捧げられている。

7.石水喜夫著『日本型雇用の真実』筑摩書房(222頁,新書判)

 著者は日本型雇用は雇用安定機能と人材育成機能を持つ、と持論を展開。日本型雇用を再評価するとともに、 新古典派経済学を批判。労働は商品ではなく、職業は会社とともにある、と大企業、経営者団体、人材ビジネス界、経済官庁、理論経済学者の提唱する雇用流動化論に反論。著者のこれまでの著書の内容を大学の講義風に口述的に記述。

8.上田信一郎著『「社畜」と言われようと会社は辞めるな!』角川マガジンズ(206頁,新書判)

 改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用を義務づけられた企業は、人件費の固定費化回避策を追求。モチベーションを維持しつつ、生産性に対応した人事・賃金制度も探求している。著者は労働者の立場にたち、安心して60歳以降も働き続けるために強みを持つことを推奨。タイトルは刺激的だが、まっとうな議論展開である。

9.後藤道夫他編『失業・半失業者が暮らせる制度の構築』大月書店(ⅹⅳ+254頁,B6判)

 構造改革路線に対し、福祉国家型構想の策定を目指す「福祉国家構想研究会」の「シリーズ新福祉国家構想」の第三弾。本書の課題は、失業情勢の総合的な理解と失業補償のあり方の検討。生活可能な職を必要としながら就けていない状態、と失業を広く定義。半失業、潜在的失業まで含めれば、日本の実質的失業は先進国中で低くないと強調。

10.猿田正機著『日本的労使関係と「福祉国家」』税務経理協会(ⅵ+572頁,A5判)

 本文554頁の大著。1985年刊行の前著『戦後日本における労務管理と労働政策』に大幅な加筆修正を加えるとともに、既発表論文の補筆と書き下ろし原稿を追加、さらに他論文も所収するという多彩な編集。中心は、終戦直後から長期経済不況期の労務管理・労働政策史だが、福祉国家と規模別賃金格差に関する論文も含む構成となっている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年6月-2013年7月に労働図書館受け入れ

  1. 岡芹健夫著『取締役の教科書』経団連出版(176頁,A5判)
  2. 伊丹敬之著『日本企業は何で食っていくのか』日本経済新聞出版社(261頁,新書判)
  3. 兪成華著『日中合弁企業のマネジメント』ミネルヴァ書房(ⅲ+254頁,A5判)
  4. ビバリー・シュワルツ著『静かなるイノベーション』英治出版(315頁,A5判)
  5. 斎藤孝著『人はチームで磨かれる』日本経済新聞出版社(230頁,B6判)
  6. 島森俊央他著『ダイアローグ型人事制度のすすめ』日本生産性本部生産性労働情報センター(ⅵ+180頁,A5判)
  7. 加藤雅彦他著『お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか?』日経BP社(207頁,B6判)
  8. 横山俊宏著『鍛えよこころの免震軸』東京図書出版(162頁,B6判)
  9. 川口啓子著『職場づくりと民主主義』文理閣(148頁,A5判)
  10. ジョン・マエダ他著『リーダーシップをデザインする』東洋経済新報社(xⅴiii+110頁,B6判)
  11. 労働運動総合研究所編『「提言」ディーセントワークの実現へ』新日本出版社(138頁,A5判)
  12. 水谷英夫著『身近な労働相談』日本加除出版(ⅹ+283頁,A5判)
  13. 荒木尚志著『労働法(第2版)』有斐閣(40+768頁,A5判)
  14. 道幸哲也他著『ワークルール検定』旬報社(159頁,B6判)
  15. 高井伸夫他著『労使の視点で読む最高裁重要労働判例 改訂版』産労総合研究所出版部経営書院(362頁,B6判)
  16. 楊世英著『なぜアジアは豊かにならなかったのか』現代図書(ⅹⅱ+230頁,B6判)
  17. 柴田拓也著『今日はダメでも明日なら』アーク出版(238頁,B6判)
  18. 額賀美紗子著『越境する日本人家族と教育』勁草書房 (ⅷ+224頁,A5判)
  19. 岡田豊編著『地域活性化ビジネス』東洋経済新報社(ⅹ+228頁,B6判)
  20. 藤田晋著『起業家』幻冬社(295頁,B6判