2013年7月の図書紹介(2013年6月受け入れ図書)

1.藤井敦史他編著『闘う社会的企業』勁草書房(xv+361頁,A5判)

 日米欧の社会的企業を理論的に考察してきた編者らが、日本における市場主義的な社会的企業観を見直し、欧 州型の市民参加や連帯を基礎としたモデルを提示。日本の労働統合型社会的企業、特に協同組合の系譜に位置する社会的企業を実践家の協力も得て実証的にも研究した。今後の課題として「労働の質」「地域づくり」「経済性」の3つを指摘。

2.富永晃一著『比較対象者の視点からみた労働法上の差別禁止法理』有斐閣(ix+409頁,A5判)

 本書は、妊娠を理由とした不利益取扱いに関する日米独の法制度を比較。日本では妊娠差別への性差別的禁止規定は採られていないとする一方、米独では直接的な性差別であるとみて規制していると紹介。妊娠差別法理の利用は「等しくないものを等しく扱う」一例だと強調。新しい差別禁止法制には同類型に属するものが多いことを指摘している。

3.中村まり他編『児童労働撤廃に向けて』アジア経済研究所(iii+250頁,A5判)

 近年、児童労働者数は減少しているが、15~17歳の危険有害労働は急増。本書は、法整備や教育の普及等の従来の児童労働撤廃施策のみでは不十分だと指摘する。この補完役として、子どもの身の回りの生産現場や学校を越え、より大きな社会構造やサプライ・チェーン等の生産構造にも着目する新しいアクター、新しいアプローチを紹介する。

4.川喜多喬著『元気な中堅企業の人材マネジメント』同友館(509頁,A5判)

 数誌に発表した記事を編集。現場に依拠して、元気な中堅企業から教訓を引き出している。例えば、一度会社を飛び出した「出戻り社員」を再び受け入れる会社、上司と新人とのブラザー制度でOJTを安価に抑える会社、会議室を廃止した会社など。経営行動、人材育成についての事例が満載、思い込みをしりぞけ、事例に学ぶ姿勢が一貫している。

5.武川正吾編『公共性の福祉社会学』東京大学出版会(xv+267頁,A5判)

 公共性、闘争性、協同性などの特徴的な視点からの社会学的方法で福祉を研究する全4巻の第1巻。本巻は、公正な社会の条件を探求、ワークフェア、ジェンダー、エクイティ、子どもにとっての公正さに注目。市民権との関係、国際的展開もカバー。「第Ⅳ部 福祉社会学への期待」には、錚々たる研究者が寄稿、期待の高さをうかがわせる。

6.村杉靖男著『企業内の労使関係 改訂版』公益財団法人日本生産性本部生産性労働情報センター(x+243頁,A5判)

 管理職と労働組合委員長の双方を経験した著者が、企業レベルと職場レベルの労使関係に焦点を絞り、実務上最低限熟知しておくべきことをまとめたのが本書。「法と労使関係」の章では、改正労働契約法の内容などもフォロー、今後条文化が求められる課題を提起している。統計データも最新版に改訂。著者は、労働組合の可能性を確信している。

7.第一東京弁護士会労働法制委員会著『改正労働契約法の詳解』労働調査会(xi+371頁,A5判)

 今回の労働契約法の主な改正点は、①5年を越えて反復更新される有期契約労働者による無期雇用転換申込権の新設②雇止め判例法理の法定化③労働条件の不合理な差別の禁止の3点。第一東京弁護士会は、労働法制委員会での調査研究、合宿での討論により、企業の実務対応をまとめた。著者らは、日本型安定雇用の崩壊を危惧している。

8.伊藤大一著『非正規雇用と労働運動』法律文化社(vi+201頁,A5判)

 本書は、2004年に徳島県の自動車部品会社に結成された請負労働者組合に対する7年間の調査記録。偽装請負の下で働いていた約25名の非正規社員が直接雇用を経て、いかに正社員化を勝ち取ったかを追究。聞き取り調査による具体的な事例も多数紹介し、単一の調査対象を多様な手法で立体的に描こうとしている。若者の主体性についても考察。

9.石井クンツ昌子著『「育メン」現象の社会学』ミネルヴァ書房(vi+307+5頁,四六判)

 1980年代初頭から父親の育児参加を研究してきた著者が、現在の育メン現象の歴史・文化的背景を明らかにするとともに、社会学理論・調査に基づき、家族への影響も含めて追究。父親が育児・子育てに関わる環境・意識、日本と海外の父親の育児・子育て参加状況、施策・制度を分析。これからの育メン現象を考察、研究課題を提示している。

10.田中萬年著『「職業教育」はなぜ根づかないのか』明石書店(255頁,四六判)

 著者は、近年の学校卒業者の就職難の主因は不況であるとしつつも、就職難に直面してキャリア教育や職業教育の推進が泥縄的に唱えられていると強調。教育が労働・職業問題を疎外してきた要因を解明し、新たな理論的枠組みの策定を試み、「第三の教育改革」を模索している。具体的には、自信と誇りをもって働くための「学習権」の確立を主張。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年4月-2013年5月に労働図書館受け入れ

  1. 小杉俊哉著『30代の働き方には挑戦だけが問われる』すばる舎(189頁,四六判)
  2. 渡辺靖著『アメリカン・コミュニティ』新潮社(251頁,A5判)
  3. 一ツ橋大学経済学部編『教養としての経済学』一橋大学経済学部(ix+314頁,四六判)
  4. 中林真幸編『日本経済の長い近代化』名古屋大学出版会(xi+383頁,A5判)
  5. ロン・リッチ他著『コラボレーション革命』日経BP社(247頁,A5判)
  6. 古我知史著『もう終わっている会社』ディスカヴァー・トゥエンティワン(276頁,四六判)
  7. アウスゲイル・ジョウンソン著『アイスランドからの警鐘』新泉社(332+xvii頁,A5判)
  8. 北村行伸他著『税制改革のミクロ実証分析』岩波書店(xxi+279頁,A5判)
  9. 城繁幸著『若者を殺すのは誰か?』扶桑社(215頁,新書判)
  10. 野村達朗著『アメリカ労働民衆の歴史』ミネルヴァ書房(vii+339+23頁,A5判)
  11. 安西愈著『雇用法改正』日本経済新聞出版社(252頁,文庫判)
  12. 近藤龍良編著『農福連携による障がい者就農』創森社(163頁,A5判)
  13. 中里弘穂編著『若者のキャリア形成を考える』晃洋書房(xii+203+3頁,四六判)
  14. 石橋洋著『判例の中の労働時間法』旬報社(167頁,A5判)
  15. 岩出誠編著『変貌する有期労働契約法制と企業の実務対応』日本法令(181頁,A5判)
  16. 吉田文著『大学と教養教育』岩波書店(vii+298+25,A5判)
  17. 朝日新聞社著『トヨタ新現場主義経営』朝日新聞社(279頁,A5判)
  18. 青木幹晴著『自動車工場のすべて』ダイヤモンド社(210頁,A5判)
  19. 片瀬京子他著『誰もやめない会社』日経BP社(229頁,A5判)
  20. 杉本淳他著『田舎の宝を掘り起こせ』学芸出版社(252頁,四六判)