2013年5月の図書紹介(2013年4月受け入れ図書)

1.ブランコ・ミラノヴィッチ著『不平等について』みすず書房(195+xxxvii頁,四六判)

 日常生活のさまざまな場面での所得と富の不平等問題を、過去の歴史までさかのぼって考えるのが本書の目的。パレートやクズネッツも援用し、不平等を、国家内の個人間の不平等、国や民族間の所得の不平等、世界のすべての市民の間に存在する不平等に分類。多くの不平等は、市場ではなく、政治的な力によって決定づけられると主張する。

2.今野晴貴著『ブラック企業』文藝春秋(245頁,新書判)

 副題は「日本を食いつぶす妖怪」。ブラック企業とは、違法な労働条件で若者を働かせ、人格が崩壊するまで使いつぶす企業をいう。若者の雇用問題に詳しいNPO法人「POSSE」の代表が相談で寄せられた内容を基に選別型、使い捨て型、無秩序型と問題企業を類型化。「自分が悪いと思わない」等個人的対処法を伝授し、社会的対策も提示。

3.柴田昌治他著『どうやって社員が会社を変えたのか』日本経済新聞出版社(270頁,四六判)

 いすゞ自動車が主軸の企業再建ストーリーを、改革の中心人物であった著者らが公開したドキュメンタリー。倒産寸前に追い込まれた同社の問題に挑戦。目標の共有と信頼関係に基づくチームワークを重視、役員を含めた社員の内発的動機が会社を変えると説く。ひいては日本企業の課題解決策まで説き明かそうとする試み。金井壽宏教授が解説。

4.倉本由香利著『グローバル・エリートの時代』講談社(301頁,四六判)

 本書は、日本が世界のグローバル化をリードするグローバル企業を生み、「グローバル・エリート」を輩出するのに有利な国であるとの見方を提示。日本人が「個」ではなく、全体最適の「和」を考え、チームワークを重視する姿勢は、国内技術を多国籍の人材と結びつけてグローバル化するのに適しているのではないかと問題提起。成功事例も掲載。

5.野川忍著『労働法原理の再構成』成文堂(xi+276頁,A5判)

 労働法制の展開過程と労働法学の主要議題に関する既発表論文に大幅に加筆。戦後から現在に至る労働法制全体の動きを俯瞰するとともに、労働組合法上の労働者性や合意によらない労働契約の内容の規律などを検討。日本ではあまり理解されていない海上労働契約の意義を紹介し、雇用政策のあり方も検証している。戦後労働法の諸原理を再考。

6.遠藤功著『現場女子』日本経済新聞出版社(247頁,四六判)

 本書は、整備や飼育、商品開発など7つの現場で活躍する8人の女性へのインタビューを通じて、現場目線で女性の活用について考察。現場は企業の最前線であり、男性社会が色濃く残るなかで、女性が活躍するためのポイントや女性自身の課題を検討。今後の企業の課題として、女子の「母数」の増加、「上司力」を磨くことなど環境整備を提言。

7.原尻淳一他著『「キャリア未来地図」の描き方』ダイヤモンド社(269頁,四六判)

 著者らは、日々の糧を得るための本業か、やりたいことを選ぶかという二者択一のキャリアではなく、双方を積極的に追求する「AND」キャリアの模索と実践を提唱。「キャリア未来地図」というツールを生み出し、「ライスワーク(食べるための仕事)」と「ライフワーク(生きがい、やりたいこと)」の2軸で新しい働き方を考えるよう説く。

8.熊沢誠著『労働組合運動とはなにか』岩波書店(x+225頁,四六判)

 労働組合組織率が17.9%と過去最低を更新した。著者はそんな今こそ労働組合運動が必要だとし、①社会保障論②格差社会の顕在化③新自由主義の台頭の三面から復権を要請。現在のリスク社会のなか、平凡に地味な仕事を続けていこうとする人々の尊厳を守るのが労組だという。労組の思想・機能・形態・歴史論を展開した連続講座を編集。

9.岡田昌毅著『働くひとの心理学』ナカニシヤ出版(252頁,四六判)

 本書は、具体的に仕事への取り組みがどのようにキャリア発達と関わっていくのか、さらにキャリア発達と心理・社会的発達の関係がどのようなものかを軸に解明。理論編、著者の研究報告とともに、組織におけるキャリア形成支援の実践的応用についても提言している。研究者へ転進を果たしたビジネス界出身者が博士論文をわかりやすく解説。

10.村上龍著『55歳からのハローライフ』幻冬舎(333頁,四六判)

 初老を迎えた50代以降の男女が織り成す5つの中篇小説集。主人公は、婚活にいそしむバツイチの婦人、ホームレスの幼なじみを助ける元出版社勤務の男、早期退職後に再就職を目指す元中堅家具メーカーの営業マン、 ペットロスに悩む主婦など。人生の折り返し点を過ぎ、会社や家庭を離れたときに、人々に何が残るのかを繊細 なタッチで描く。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年2月-2013年4月に労働図書館受け入れ

  1. 中村貞裕著『中村貞裕式ミーハー仕事術』ディスカヴァー・トゥエンティワン(207頁,四六判)
  2. 常木淳著『「法と経済学」による公共政策分析』岩波書店(xiii+178頁,A5判)
  3. 水谷重秋著『厚生経済学と社会的選択の理論』日本経済評論社(iii+53頁,A5判)
  4. 星岳雄他著『何が日本の経済成長を止めたのか』日本経済新聞出版社(xi+207頁,A5判)
  5. 奥山忠信他編著『現代社会における組織と企業行動』社会評論社(vi+208頁,A5判)
  6. 福谷正信著『技術者人事論』泉文堂(262頁,A5判)
  7. 五木田桂子他著『海外赴任者の労務』税務経理協会(viii+251頁,A5判)
  8. 山口毅著『労使紛争リスク回避のポイント』労働調査会(343頁,A5判)
  9. 武田邦彦著『新聞・テレビは「データ」でウソをつく』日本文芸社(295頁,四六判)
  10. 藤田和恵著『ルポ労働格差とポピュリズム』岩波書店(63頁,A5判)
  11. 田原咲世著『改正派遣法Q&A』労働開発研究会(169頁,A5判)
  12. 秋田成就編『労使関係法・比較法』信山社(412頁,A5判)
  13. 西谷敏著『労働組合法』有斐閣(xxvi+510頁,A5判)
  14. 岸政彦著『同化と他者化』ナカニシヤ出版(448頁,四六判)
  15. 木曽順子著『インドの経済発展と人・労働』日本評論社(vi+208頁,A5判)
  16. 小林昌之編『アジアの障害者雇用法制』日本貿易振興機構アジア経済研究所(vi+205頁,A5判)
  17. 岩崎馨編著『産業別労働組合の組織と機能』日本生産性本部生産性労働情報センター(vi+139頁,A5判)
  18. 森岡孝二編著『過労死のない社会を』岩波書店(61頁,A5判)
  19. 柊直里著『育夫ノススメ』どりむ社(255頁,四六判)
  20. 高山恵子著『発達障害に気づかなかったあなたが自分らしく働き続ける方法』すばる舎(239頁,四六判)