2013年4月の図書紹介(2013年3月受け入れ図書)

1.早川征一郎他著『国・地方自治体の非正規職員』旬報社(203頁,A5判)

 国・地方自治体を合わせて約74万人と言われる非正規労働者の実態、法制、歴史的由来、職務内容、労働条件、労使関係などにメスを入れた。任用(採用)は期限付き、年収は多くが200万円未満、退職金支給も差別されている。「官製ワーキングプア」と呼ばれる非正規職員問題解決のための課題を提起、組織化の強化の必要性 を強調している。

2.猪木武徳著『経済学に何ができるか』中央公論新社(v+254頁,新書判)

 本書の目的は、個人・社会の価値の相克と分裂を意識しながら、経済社会の制度や慣行を学び直す材料を提供することだという。序章及び終章と、自由と責任、平等と偶然、中庸と幸福の3部で構成。経済学会の泰斗が経済学の役割をやさしく教授するとともに、中央銀行の責任、格差と貧困、TPP参加問題などについても解説している。

3.古市憲寿著『僕たちの前途』講談社(333頁,四六判)

 新進気鋭の社会学者が現代の「起業家・起業論」を展開。著者は、現役の大学院生でありながら、友人たちとIT関連のベンチャー企業を立ち上げた。本書は、バリバリの起業家精神を解き明かすものではなく、慎重に事を起こすよう強調。若手が事業で成功するには、専門性と人脈、さらにいかに「トランポリン」に恵まれるかにかかるという。

4.伊賀泰代著『採用基準』ダイヤモンド社(243頁,四六判)

 著者は、外資系コンサルティング会社に17年勤務し、コンサルタント業務から自発的に職種転換。採用、人材育成のマネジャーとして12年の経歴を持つ。求められる人材は、「グローバルリーダーとして活躍できる人」と主張。リーダーのタスク、育てる仕組みを紹介し、自分自身の生き方の追求のためにもリーダーシップは不可欠と強調する。

5.今野浩一郎著『正社員消滅時代の人事改革』日本経済新聞出版社(294頁,四六判)

 「失われた20年」の下で、終身雇用や年功制などに代表される従来の日本的経営が機能不全に陥り、新しい人事管理モデルが求められている。著者は、制約のない少数派の「無制約社員」と何らかの制約のある多数派の「制約社員」、交渉化・市場化ベースの雇用管理、仕事基準の報酬管理などの改革案を提示。現時点でのモデルの一端を伝えた。

6.西久保浩二著『戦略的福利厚生の新展開』日本生産性本部生産性労働情報センター(291頁,A5判)

 「戦略的福利厚生」を「企業の生存と成長のための環境適応に貢献するもの」と定義。現在の日本企業にとって福利厚生は、経営上本当に必要なものかを自問。わが国の福利厚生を再評価する一方、厳しい経営環境にある企業の持続的競争優位に貢献できる「人的資源への投資としての福利厚生」を導き出している。巻末に先進的な事例を掲載。

7.鈴木剛著『解雇最前線』旬報社(127頁,四六判)

 PIP(パフォーマンス・インプルーブメント・プラン:業績改善計画)という新手の解雇手段がばっこしている。過大な要求や過小な課題を指示し、退職勧奨すらせずに、PIPの未達成を理由に退職届を書かせたり、解雇に追い込んだりする。本書は、キャリアコンサルタントや産業医を巻き込む場合もあるPIPの実態と解決 策を提示する。

8.石田光男他編著『労働時間の決定』ミネルヴァ書房(viii+270頁,A5判)

 なぜ労働時間は、賃金のように明確な要因によって決定されないのか。本書は、職場において職掌別に時間管理のルールがいかに決定されているか、労働時間に関し労働組合がどのような役割を果たしているのか、その実態を記述するとともに、人的資源管理、労使関係論、労働法学によって、個人の労働時間決定に理論的にアプローチする。

9.外尾健一著『労働契約法の形成と展開』信山社(viii+177頁,四六判)

 雇い止め法理が法定化されるなど改正労働契約法が注目を集めている。本書は、労働契約法の形成過程を改めて概観し、どのような問題が提起され、どのように立法的に解決されたか、どのような意味と今後の課題を持つのかを明らかにすることを目的にしている。導入をめぐって労使が激しく対立したホワイトカラー・エグゼンプションにも言及。

10.村田裕之著『シニアシフトの衝撃』ダイヤモンド社(xiv+205頁,四六判)

 団塊世代の大量退職などを背景に、企業活動のターゲットのシニア化が加速。高齢者ビジネスで生き残るために求められるのは、「賢いシニアの消費を見誤らないこと」や「身近な不安・不満・不便に目を向けること」だと強調。商品・サービスを提示する場合、年齢訴求には注意を喚起し、後期高年齢者医療制度を失敗例に挙げながら解説する。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2013年1月-2013年3月に労働図書館受け入れ

  1. 坂東眞理子著『働く女性が知っておくべきこと』角川書店(199頁,新書判)
  2. 荒川龍著『自分を生きる働き方』学芸出版社(246頁,四六判)
  3. 猪木武徳著『公智と実学』慶応義塾大学出版会(14+224頁,A5判)
  4. ヨルゲン・ランダース著『2052:今後40年のグローバル予測』日経BP社(510頁,A5判)
  5. 矢崎栄司著『僕ら地域おこし協力隊』学芸出版社(202頁,四六判)
  6. 根本祐二著『「豊かな地域」はどこがちがうのか』筑摩書房(270頁,新書判)
  7. 森永卓郎著『大貧民』アーク出版(237頁,四六判)
  8. 吉川洋著『デフレーション』日本経済新聞出版社(vii+236頁,A5判)
  9. 朽木昭文著『日本の再生はアジアから始まる』農林統計協会(x+227頁,A5判)
  10. 萩原道雄著『企業倫理を考える』(vi+279頁,A5判)
  11. 田尾雅夫著『現代組織論』勁草書房(viii+311頁,A5判)
  12. 本名信行他編『企業・大学はグローバル人材をどう育てるか』アスク出版(245頁,A5判)
  13. 山崎将志著『仕事ダイエット』PHP研究所(206頁,新書判)
  14. 小林俊哉『リーダーシップ3.0』祥伝社(268頁,新書判)
  15. 橘木俊詔他著『夫婦格差社会』中央公論社(iv+196頁,新書判)
  16. 良永彌太郎他編『労働関係と社会保障法』法律文化社(vi+284頁,A5判)
  17. 日本能率協会総合研究所『中国生活者トレンドデータ年報』日本能率協会総合研究所(528頁,A4判)
  18. OECD編著『OECD幸福度白書』明石書店(331頁,B5判)
  19. 大澤真幸他編『現代社会学事典』弘文堂(xlviii+1,590頁,A5判)
  20. 大内伸哉著『歴史からみた労働法』日本法令(246頁,A5判)