2013年2月の図書紹介(2013年1月受け入れ図書)

1.ジョセフ・E・スティグリッツ著『世界の99%を貧困にする経済』徳間書店(415頁,四六判)

 著者は市場の不完全性、政治の不公平性を指摘、不平等の成長に及ぼす影響を強調する。米国では失業率など高水準の不平等が経済を弱体化させ、弱い経済がさらに不平等を悪化させる負の連鎖が発生。所得の再分配を主張するとともに、経済・税制・教育・医療・政治等について具体的な改革案を提示、持続可能な歪みのない世界の創出を目指している。

2.青島矢一他著『競争戦略論 第2版』東洋経済新報社(vi+251頁,A5判)

 本書の目的は「企業間で業績の違いはなぜ生まれるのか」という問いに対し、競争戦略論の基本的な考え方をわかりやすくまとめることである。1990年代以降の日本企業の不振の原因は「個別企業における経営戦略の欠如や誤謬にあるのではないか」と指摘。自社の戦略のクセについて見直す必要性を説いている。初版の事例をアップグレードした第2版。

3.李炳夏著『サムスンの戦略人事』日本経済新聞出版社(vii+238頁,四六判)

 地球規模で驚異的な成長をとげたサムスン電子。サムスングループの人事部に長年勤務した著者が、人的資源管理の面から同社の成功の秘密を説く。1987年の大規模な労使紛争後は家族主義の時代が到来し、福利厚生を拡充。97年のアジア通貨危機発生後には年俸制や、コア人材の確保を目指した破格なインセンティブ制度の導入へと転換したと解説する。

4.田宮寛之著『親子で勝つ就活』東洋経済新報社(191頁,四六判)

 就活とは「子育て最終決戦」である。著者は、昔とは社会環境が変化したので、親離れ・子離れの時期が遅くなっており、就活には親の支援が必要だと強調する。「金融業界は安定」「公務員は安心」などの昔の常識はもう通じないと指摘。「とにかく正社員として就職させる」「親のコネをフルに活用する」「親は前面に出すぎずにサポートしよう」と訴える。

5.中原淳著『経営学習論』東京大学出版会(ⅲ+267頁,A5判)

 副題は「人材育成を科学する」。グローバル化や情報化などの社会変化、経済不況に加え、長期雇用、年功賃金の見直しなどにより、従来の人材育成は機能不全に陥ったと指摘。日本企業の今後の経営課題は、引き続きグローバル化に対応した人材開発であると説く。外国人が日本企業で成果をあげ、日本人が海外で通用する人材育成のあり方を展望。

6.唐鎌直義著『脱貧困の社会保障』旬報社(324頁,四六判)

 著者は、近年、研究者の間で「社会保障とは何か」に関して合意形成することが難しくなってきたように感じるという。その典型例が社会保障の財源として、逆進性が強い消費税を引き上げる点。貧者ほど負担の度合いが高まる消費税が財源では、社会保障の使命は雲散霧消すると強調する。社会保障は、働く人々を貧困から守るためのものであると主張。

7.乾彰夫著『若者が働きはじめるとき』日本図書センター(308頁,四六判)

 本書は「フリーターが増え、若者の多くが安定した仕事、希望する仕事に就けないのは、そうした仕事そのものが減ってきたためである」と分析。にもかかわらず、いまのキャリア教育は「頑張ればいい仕事に就ける」ことを前提にしていると批判する。しかし、多くの人が望ましい仕事に就くことは可能だとし、ハローワークや労働組合の活用を助言。

8.由井義通編著『女性就業と生活空間』明石書店(262頁,A5判)

 女性の就業と生活について、地理学的アプローチにより明らかにするのが本書のねらい。男女雇用機会均等法の施行後、女性のライフコースはさまざまな要因によって多様化。サービス化に伴う女性就業の増加や晩婚化・非婚化で都心居住が増える一方、雇用の非正規化が都市部での生活を変容させる。最近では、グローバル化による海外留学・就職も増加。

9.新井田良子著『屈せざりし者たち』三一書房(157頁,四六判)

 国鉄分割・民営化に伴う不当解雇に反対を貫いた国労闘争団の一つ「国労紋別闘争団」の闘いの軌跡。国鉄労働者を標的にしたマスコミによる連日のネガティブキャンペーンや、経営側の不当労働行為に「JRに責任なし」と判決した司法判断を乗り越えた国労組合員の団結と連帯の闘いが、20余年後、人道的見地からの解決案を引き出したと主張する。

10.東京大学ジェロントロジー・コンソーシアム著『2030年超高齢未来 破綻を防ぐ10のプラン』東洋経済新報社(213頁,四六判)

 東京大学産学連携本部が生きがい就労や医療、介護などの分野ごとに2030年までのロードマップを策定。「円滑なリタイア支援」では、5年後に企業のリタイアメント研修が改善・充実し、10年後には高齢者と仕事のベストマッチングシステムが構築され、20年後には「人生100年時代にふさわしい自由な人生設計・就労機会の獲得が可能」と見通している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年11月-2012年12月に労働図書館受け入れ

  1. 猪木武徳他編著『新・日本学誕生』角川学芸出版(295+4頁,四六判)
  2. 勢古浩爾著『いつか見たしあわせ』草思社(239頁,四六判)
  3. 本田直之著『会社で不幸になる人、ならない人』日本経済新聞出版社(181頁,新書判)
  4. 家入一真著『もっと自由に働きたい』ディスカヴァー・トゥエンティワン(173頁,新書判)
  5. 岩田松雄著『ミッション』アスコム(285頁,四六判)
  6. 企業と社会フォーラム編『持続可能な発展とマルチ・ステイクホルダー』千倉書房(2+2+314頁,A5判)
  7. 日本政策金融公庫総合研究所編、鈴木正明著『新規開業企業の軌跡』勁草書房(vii+287頁,A5判)
  8. 金久保茂著『企業買収と労働者保護法理』信山社(xx+462頁,A5判)
  9. 多国籍企業学会著『多国籍企業と新興国市場』文眞堂(viii+361頁,A5判)
  10. 原正紀著『独活のススメ』同友館(219頁,四六判)
  11. P.F.ドラッカー著『経営の神髄:上』ダイヤモンド社(xiv+391頁,A5判)
  12. P.F.ドラッカー著『経営の神髄:下』ダイヤモンド社(v+459頁,A5判)
  13. 橘木俊詔編著『格差社会』ミネルヴァ書房(vii+171+3頁,AB判)
  14. 橋本努著『ロスト近代』弘文堂(vii+416頁,A5判)
  15. 宮本太郎編著『福祉政治』ミネルヴァ書房(x+190+3頁,AB判)
  16. 海老原嗣生著『雇用の常識』筑摩書房(302頁,文庫判)
  17. 梅永雄二著『発達障害者の雇用支援ノート』金剛出版(133頁,AB判)
  18. 海老原嗣生著『女子のキャリア』筑摩書房(ix+223頁,新書判)
  19. 労働運動総合研究所編『デフレ不況脱却の賃金政策』新日本出版(218+iv頁,A5判)
  20. 水谷英夫著『感情労働と法』信山社(vii+285頁,四六判