2013年1月の図書紹介(2012年12月受け入れ図書)

1.島田晴雄著『盛衰』東洋経済新報社(xvii+370頁,四六判)

 小泉内閣のブレーンを務めた著者による日本経済再生への提言の書。震災復興、年金、エネルギー戦略、農業、医療、住宅、観光のメガトレンドについて、わかりやすく解説・提言し、「成長の可能性はある」と指摘。労働分野では、同一労働・同一賃金の原則導入と解雇法制の見直し、教育訓練の充実、雇用保険の非正規労働者への拡充などを提示する。

2.佐藤智恵著『外資系の流儀』新潮社(222頁,新書判)

 「これから就職・転職する人には外資系を勧めたい」。大手グローバル企業日本法人に勤務した50人超の社員の多くから返ってきた言葉だ。しかし、面接では、歯並びが悪い人、太りすぎの人は自己管理力のない人として拒否されるという。採用後は「初日からフル稼働」させられ、会社の悪口を言ったら即アウト。外資系企業特有の流儀を具体的に紹介。

3.日本経済新聞社編『突撃取材!こちら就活探偵団』日本経済新聞出版社(245頁,四六判)

 「就職活動のことなら、どんなご相談にも応じます」をうたい文句に、企業取材の経験が豊富な日経記者が学生に代わって就職情報をかき集めた。「志望理由に悩んだときどうする?」との問いには「飾らず、本音を語ればいい。事前の勉強で入社後の仕事のイメージは持っておこう」とアドバイス。違法インターンシップや採用代行業の実態も紹介する。

4.水島治郎著『反転する福祉国家』岩波書店(xiv+237+3頁,四六判)

 非正規労働者と正社員との時間当たり賃金及び社会保険の格差をなくし、ワークシェアリングを実現したオランダ。非正規労働者の労働市場への「包摂」を積極的に進めてきた同国だが、近年では外国人や移民の「排除」を推進。その背景には、新右翼の躍進と移民政策の転回があるとし、同じような現象が他の先進各国でも見られると言及する。

5.竹信三恵子著『しあわせに働ける社会へ』岩波書店(xvi+191+3頁,新書判)

 大手新聞社の編集委員として労働問題を取材してきた著者が、誰もがしあわせに働ける社会に必要な仕組みとは何かを説いている。「現場の声を偉い人に聞こえる活動を組んでいくことなしには、働きやすさは生まれない」と強調し、労働の権利や働くルールを知る必要があると主張。労組や反貧困団体、過労死防止ネットワークとの連携に望みをつなぐ。

6.遠藤公嗣他著『仕事と暮らしを取りもどす』岩波書店(xix+146頁,四六判)

 労働組合が従来の役割を担えなくなるなか、米国で社会正義を実現しようと立ち上がったのが、ソーシャルネットワーク化した新しい労働組織である。雇用の劣化と社会保障の弱体化という現実を、社会の底辺から覆そうという運動が形成され、広がりつつあるという。本書は、労働政策研究・研修機構が実施した米国調査に基づき、まとめられている。

7.石水喜夫著『現代日本の労働経済』岩波書店(xii+271頁,A5判)

 『労働経済白書』の執筆を6年間担当した著者が、労働経済学を主流派の市場経済学ではなく、「働く人達のための政治経済学」としてとらえ直しを試みている。現代の切実な労働問題である失業と所得分配を、豊富な統計データを用い、現状分析するとともに、ケインズ理論を人口減少社会の経済学と読み直し、新たな基礎理論の提示を模索する。

8.永濱利廣著『男性不況』東洋経済新報社(235頁,四六判)

 「男性不況」とは米国生まれの言葉で、男性の失業率が女性を上回り、その差が拡大する不況下の状況を指す。著者は、日本でも過去十数年間に「男性向きの仕事が減り、女性向きが増え、男性の価値が低下した」と指摘。男女の賃金格差が縮小することで、世帯間の所得格差が拡大すると強調、法人税や関税率の見直し、円高対策、労働規制緩和を提唱。

9.アンドルー・ゴードン著『日本労使関係史 1853-2010』岩波書店(xvii+537頁,A5判)

 米国の著名な歴史学者が日本の江戸末期から現代までの労使関係を丁寧に描写。20世紀の前半を通じ、労使双方は対立と妥協を通じて変化を繰り返し、戦後に長期雇用や年功賃金などの日本型雇用システムを確立した。しかし、経営側が進めた改革は、非正規労働者を劇的に増加させるなど「日本の雇用制度を大きく変えたことは否定しがたい」と主張。

10.石蔵文信著『「男のうつ」治らなくても働ける!』日本経済新聞出版社(238頁,四六判)

 うつ病と診断されると十分な休養をとらせるため、休職させるのが一般的。これにより症状は軽減するが、休職が長引くほど会社に戻れるかと不安が高まり、休職期限が迫ってくると一段と焦り、復職を妨げる。著者は、病気の克服ではなく、病気とつき合いながら症状をコントロールすることを重視。職場に通いつつの治療「リハビリ出社」をすすめる。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年9月-2012年11月に労働図書館受け入れ

  1. ティナ・シーリグ著『未来を発明するためにいまできること』阪急コミュニケーションズ(254頁,A5判)
  2. 瀧本哲史著『僕は君たちに武器を配りたい』講談社(293頁,四六判)
  3. 小熊英二著『社会を変えるには』講談社(517頁,B6判)
  4. 宮脇昇他編著『コンプライアンス論から規範競合論へ』晃洋書房(vi+204頁,A5判)
  5. 町山智浩著『99%対1%アメリカ格差ウォーズ』講談社(301頁,四六判)
  6. 杉村章三郎他監修『旧労組法・改正労組法立法関係原資料3』信山社(644頁,A4判)
  7. 杉村章三郎他監修『旧労組法・改正労組法立法関係原資料4』信山社(552頁,A4判)
  8. 杉村章三郎他監修『旧労組法・改正労組法立法関係原資料5』信山社(320頁,A4判)
  9. 樋口直人編『日本のエスニック・ビジネス』世界思想社(v+286頁,A5判)
  10. 小暮真久著『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』ダイヤモンド社(251頁,四六判)
  11. 田島弓子著『女子社員マネジメントの教科書』ダイヤモンド社(230頁,四六判)
  12. 樋口美雄他編『親子関係と家計行動のダイナミズム』慶應義塾大学出版会(xii+263頁,A5判)
  13. ウインズ望月恭子と就活中の主婦たち編著『主婦が、仕事を、探すということ。』東洋経済新報社(239頁,四六判)
  14. 伊藤洋志著『ナリワイをつくる』東京書籍(241頁,四六判)
  15. 菊池富士夫編著『労働組合運動の二つの潮流とその「未来」』かもがわ出版(183頁,四六判)
  16. 上林陽治著『非正規公務員』日本評論社(299頁,四六判)
  17. 湯沢雍彦著『昭和後期の家族問題』ミネルヴァ書房(xvi+356+6頁,A5判)
  18. 都留民子編著『「大量失業社会」の労働と家族生活』大月書店(286頁,四六判)
  19. 中邑賢龍他編『バリアフリー・コンフリクト』東京大学出版会(ix+246頁,A5判)
  20. 三菱総合研究所編『3万人調査で読み解く日本の生活者市場』日本経済新聞出版社(xvi+191頁,A5判)