2012年10月の図書紹介(2012年9月受け入れ図書)

1.福田順著『コーポレート・ガバナンスの進化と日本経済』京都大学学術出版会(xi+213頁,A5判)

 昨年、著名企業のコーポレート・ガバナンスに関する不祥事が相次いで発覚した。大王製紙の場合、支配株主である元会長と少数株主との間に「エージェンシー問題」が生じていたという。本書では、1990年代以降の日本の株主構成がどのように変化したのかを米独との国際比較等により分析、雇用調整や配当政策、買収防衛策への影響を明らかにしている。

2.佐藤博樹著『人材活用進化論』日本経済新聞出版社(xi+295頁,A5判)

 日本型雇用処遇制度の何が残り、何が変わるのか。本書は、日本の特徴である長期雇用は今後も維持されるとしつつも、コア人材は減少、外部労働市場依存型人材活用との組み合わせが不可欠としている。業務内容・勤務地限定の正社員や多様な就業形態、労使関係にも言及、企業の人事管理における選択と適応による進化の実態を実証的に追究している。

3.森和昭他著『日本人はなぜ海外で通用しないのか?』日経BPコンサルティング(222頁,四六判)

 副題は「国際競争力向上のカギはグローバル人材の育成にあり」。著者は、日本企業の競争力低下の真の理由は、人材採用、評価・育成のプロセスにあると強調。「明確な採用基準がない」「職務遂行能力というあいまいな基準で人材を評価する」などのマイナス面を克服するため、欧米諸国のような透明性の高い評価基準を導入すべきと述べている。

4.大山博著『福祉政策の形成と国家の役割』ミネルヴァ書房(vi+332頁,A5判)

 少子高齢化による年金問題や介護問題における世代間の根深い不均衡、グローバル化によるリスクの拡大などにより、日本の福祉政策全体が揺らいでいると指摘。問題解決に向けて、英国の福祉モデルなどを参考にしつつ、「規範理論の重要性」「福祉政策における利己心と利他心の両立の必要性」「社会的企業の法制度化」などが求められると説く。

5.谷沢英夫著『スウェーデンの少子化対策』日本評論社(v+173頁,A5判)

 イクメンという言葉が浸透し、男性の育児参加が目立ってきた日本。しかし、男性の育児休業取得率が70%台のスウェーデンに比べれば、まだ緒についた段階だ。本書は、スウェーデンがいかに少子化を克服してきたかについて、歴史的経緯を踏まえながら家族政策と男女均等政策を中心に分析。出生力回復促進策などユニークな政策にも言及。

6.宮本みち子著『若者が無縁化する』筑摩書房(214頁,新書判)

 若者問題に造詣の深い著者が若者を孤立させない方法を提示。ニートになった若者の半数近くが人間関係で問題を抱えている一方、ニート状態にもかかわらず、就職を希望しない若者(非希望型ニート)は低学歴、低所得家庭出身者に多い点に注意すべきと主張。若者を受け入れるコミュニティーと自立を保障する社会システムの構築が必要と述べている。

7.片桐恵子著『退職シニアと社会参加』東京大学出版会(viii+260頁,A5判)

 定年年齢を迎えた後の人たちを指す言葉である「退職シニア」。本書では、こうしたシニアの社会参加をアンケートとインタビューにより分析、「サクセスフル」な高齢期を探っている。結果として、長寿社会にはなったものの、「残りの人生をどう生きればいいのかのモデルがいない」「豊かな人的資源であるシニアを活用できていない」などの問題点を指摘。

8.西村修三監修『日本社会の生活不安』慶應義塾大学出版会(xvi+304頁,A5判)

 本書は、国立社会保障・人口問題研究所が実施した「社会保障実態調査」の結果に基づき、個人や家族が直面する生活困難の実態を多面的に分析。「自助」努力のみでは克服できない要因の存在を指摘する一方、社会保険に未加入・未納である者の急増から「公助」の衰退を訴えるとともに、家族の助け合いによる次代の「共助」のあり方を展望している。

9.西山昭彦著『西山ゼミ就活の奇跡』プレジデント社(189頁,四六判)

 東京女学館大学の西山ゼミの就職内定率は、95.4%という驚異的結果を引き出している。就活をゲームと位置づけ、考える力、見せる力、自分が動く力の重要性を強調。成否を決める自己認識力、自己表現力、現場対応力等の「6つのチカラ」を紹介、ゼミ生の就活奮闘事例で発揮した力を検証し着目点を提示している。採用担当者へのインタビューも掲載。

10.藤本修著『職場のメンタルヘルス』ミネルヴァ書房(xiii+191頁,四六判)

 うつ病患者が100万人を超え、自殺者が14年間3万人を超える日本。本書は、精神科医として労働者のメンタルヘルスに長年取り組んできた著者が、職場で発生する心の病について豊富な事例を挙げて解説。うつ病の場合、病気に対する正しい理解と休養、薬物療養が必要と主張、回復期にはカウンセリングなど精神療法が重要であると訴える。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年7月-2012年8月に労働図書館受け入れ

  1. 国吉空著『徒然にメンタルヘルス』日本生産性本部生産性労働情報センター(115頁,文庫判)
  2. 三木英他編著『日本に生きる移民たちの宗教生活』ミネルヴァ書房(xiv+296+iv頁,A5判)
  3. 田沼肇全活動・著作集編集委員会編『田沼肇全活動』日本評論社(255頁,A5判)
  4. 尾形健著『福祉国家と憲法構造』有斐閣(342+v頁,A5判)
  5. ハイン・ケッツ他著『ドイツ不法行為法』法律文化社(xxi+398頁,A5判)
  6. 神田秀樹著『会社法』弘文堂(x+386頁,A5判)
  7. 「倒産と労働」実務研究会編『概説倒産と労働』商事法務(xiv+320頁,A5判)
  8. 神前禎他著『国際私法』有斐閣(xii+375頁,四六判)
  9. 近藤健児他編著『現代経済理論と政策の諸問題』中京大学経済学部付属経済研究所(viii+178頁,A5判)
  10. 沖公祐著『余剰の政治経済学』日本経済評論社(x+209頁,A5判)
  11. 森岡孝二編『貧困社会ニッポンの断層』桜井書店(286頁,A5判)
  12. 野口悠紀雄著『製造業が日本を滅ぼす』ダイヤモンド社(xix+291頁,四六判)
  13. 高田亮爾著『現代中小企業の動態分析』ミネルヴァ書房(ix+249頁,A5判)
  14. 諏訪茂樹著『コミュニケーション・トレーニング』経団連出版(202頁,A5判)
  15. 武川正吾著『政策志向の社会学』有斐閣(xiv+340頁,A5判)
  16. 菊池馨実編『社会保険の法原理』法律文化社(vi+255頁,A5判)
  17. 野瀬正治編著『変化する労働社会関係と統合プロセス』晃洋書房(v+215頁,A5判)
  18. 古市憲寿著『絶望の国の幸福な若者たち』講談社(301頁,A5判)
  19. ヒュー・ローダー他編『市場と労働の教育社会学』東京大学出版会(viii+354頁,A5判)
  20. 渡辺峻編著『女子学生のためのキャリア・ガイダンス』中央経済社(iii+ii+134頁,AB判)