2012年9月の図書紹介(2012年8月受け入れ図書)

1.武石彰他著『イノベーションの理由』有斐閣(xxii+506+xiii頁,四六判)

 イノベーションはどのようにして実現されるのか。本書は、「分析・理論編」と「事例編」からこの問題を解き明している。革新的な技術やアイデアを商品化・事業化するため、社内外の協力、生産設備や販売体制、資金とともに、資源動員の正当化が不可欠である。こうした過程を経て、イノベーションを達成した8社の事例を分析する。

2.白木三秀編著『チェンジング・チャイナの人的資源管理』白桃書房(vi+302頁,A5判)

 本書は、2000年代半ば以降の中国の経済社会におけるダイナミックな質的変化に焦点を当てている。特に注目しているのは、労働紛争の発生を抑制するため、2008年に施行された労働契約法。それまで立場が弱かった中国人労働者が保護される半面、企業は人件費増大を懸念した、と指摘。豊富なデータとともに日系企業の事例にも多数ページを割いている。

3.ジョセフ・E・スティグリッツ他著『暮らしの質を測る』金融財政事情研究会(34+153頁,A5判)

 新しい幸福度を軸にした経済・社会指標を探る一冊となる労作。サルコジ前フランス大統領が任命した「スティグリッツ委員会」は、議長である著者をはじめ、世界的な24名の経済学者、社会学者で構成され、GDPのような従来の代表的な経済指標の見直しなどについて議論し、成果をまとめた。フランスでは全公務員の研修用必読文献になった。

4.橘木俊詔他編『社会保障改革への提言』ミネルヴァ書房(x+225頁,A5判)

 本書は、なぜ社会保障制度改革が遅々として進まないのかを探るとともに、改革には発想の転換が必要と問題提起。特に現行の制度と全く異なる社会保障制度であるベーシック・インカム(BI)にページの3分の1を割いている。BIが転職を早めるため、人材確保に苦労してきた中小企業経営者は導入に否定的になるかもしれないとの指摘は興味深い。

5.川口美貴著『労働者概念の再構成』関西大学出版部(xlii+462頁,A5判)

 労働者の職務内容や就業形態が多様化するなか、その労働に従事している個人が労働基準法や労働契約法、労働組合法が対象とする「労働者」に当たるかどうかを争う事件が増えている。本書は、従来の学説・判例を批判、労働者性の判断基準から使用従属性を排除し、客観的で明確な労働者の定義を提示、その範囲を確定することを試みている。

6.大内伸哉著『労働の正義を考えよう』有斐閣(viii+469頁,A5判)

 副題は「労働法判例からみえるもの」。学生や社会人を対象に行った労働法と正義に関する架空講義録。労働に関するテーマを法的な観点で考えるとどうなるかを判例を用いながら説明。採用・解雇から始まって、労働時間、年次有給休暇、過労死など25のテーマをわかりやすく解説している。労働者性や大学生の就職活動などの新しい問題もカバー。

7.丹野勲著『日本的労働制度の歴史と戦略』泉文堂(256頁,A5判)

 江戸時代の奉公には、雇用主に「仕える」という意味があったという。日本的雇用慣行には、こうした奉公人制度が色濃く反映しているのではないかとし、その遺伝子が現代の「愛社精神」に脈々と受け継がれていると分析している。日本企業の雇用慣行の解説では、明治30年代にすでに定年制が一部大企業で行われていたと指摘している。

8.遠藤公嗣編著『個人加盟ユニオンと労働NPO』ミネルヴァ書房(v+253頁,A5判)

 バブル経済崩壊とともに、企業内組合が十分に役割を果たすことができなくなりつつあるが、新しい労働者組織である個人加盟ユニオンと労働NPOが代わりに注目を集めている。本書は、国内・海外における労働者組織の実態調査を分析し、国内組織がどのように発展していったのか、さらに韓国、中国の労働組合に関する最新の事例なども紹介している。

9.佐藤博樹他編『仕事の社会学』有斐閣(xiv+240頁,A5判)

 仕事に関する社会学の教科書。雇用労働に従事する人々の多様な働き方と、それらを取り巻く社会制度を取り上げている。学校を卒業し、就職してから定年を経て引退するまでの職業生活に沿ってキャリアを分析。今回、「雇われない働き方」の章を追加し、個人請負やフランチャイジーにも目配せしている。内外の基本文献も簡素に紹介。

10.宮台真司著『宮台教授の就活原論』太田出版(229頁,B6判)

 イメージ優先で就活する学生が多すぎる」「『仕事の中身』よりも周囲から承認されることを好む」「新聞やインターネットなどから流れる情報を真に受けず、社会的文脈を評価する能力を身につけていない学生が多い」と指摘。社会問題を幅広く論じる著者が、大学生の就活問題に持論を展開している。仕事での自己実現を目指す場合は中小企業を推薦。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年6月-2012年7月に労働図書館受け入れ

  1. 槙谷正人著『経営理念の機能』中央経済社(3+5+213頁,A5判)
  2. 林徹著『協働と躍動のマネジメント』中央経済社(5+6+229頁,A5判)
  3. 松田陽一著『組織変革のマネジメント』中央経済社(iv+ix+289頁,A5判)
  4. 松浦民恵著『営業職の人材マネジメント』中央経済社(v+x+293頁,A5判)
  5. 富澤芳亜編『近代中国を生きた日系企業』大阪大学出版会(vii+289頁,A5判)
  6. 立岩真也他著『差異と平等』青土社(342+xvii頁,A5判)
  7. 川人博他著『過労死・過労自殺労災認定マニュアル』旬報社(135頁,A5判)
  8. 木暮太一著『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』星海社(299頁,新書判)
  9. 久遠智彦著『ワーカーズ:労働をめぐるアジアの旅』現代書館(269頁,A5版)
  10. 岡芹健夫著『雇用と解雇の法律実務』弘文堂(xiii+357頁,A5版)
  11. 道脇正夫著『障害者の職業能力開発』雇用問題研究会(viii+446頁,AB判)
  12. 北浦正行編『実践キャリアデザイン30講』日本生産性本部生産性労働情報センター(xi+207頁,A5判)
  13. 金子壽宏他編『実践知・エキスパートの知性』有斐閣(xv+343+11頁,四六判)
  14. 守屋貴司編『日本の外国人留学生・労働者と雇用問題』晃洋書房(xi+257頁,A5判)
  15. 目黒依子他編『揺らぐ男性のジェンダー意識』新曜社(204頁,A5判)
  16. 後藤澄江著『ケア労働の配分と協働』東京大学出版会(vii+203頁,A5判)
  17. H・ローダー編『グローバル化・社会変動と教育1』東京大学出版会(viii+354頁,A5判)
  18. 小林富美子著『日本の薬剤師』書肆クラルテ(263頁,四六判)
  19. 畠中信夫著『労働安全衛生法令を読みこなす』中央労働災害防止協会(188頁,新書判)
  20. 島西智輝著『日本石炭産業の戦後史』慶應義塾大学出版会(xviii+374頁,A5判)