2012年8月の図書紹介(2012年7月受け入れ図書)

1.A・V・バナジー他著『貧乏人の経済学』みすず書房(370+xxxii頁,四六判)

 本書によれば、貧困かどうかの日本円での目安は一人一日120円。しかし、貧困線を示す金額より重要なのは政策の評価である。貧困にはまってしまう方法が何万とあるわけではない。著者らは「貧乏な人を作り出す主要な要因はごく少数で、そういう問題を解決すれば彼らは解放され、富と投資を増やす美しいサイクルに入れる」と強調している。

2.山田久著『市場主義3.0』東洋経済新報社(322頁,四六判)

 タイトルは、日本が「新自由主義の米英モデル」(市場主義1.0)や「北欧モデル」(同2.0)を修正・進化させ、国家と市場の到達点となる新しい形を構築すべきとの考えによる。労働政策面では、これまでのいわゆる正社員だけではなく、「限定型正社員」(特定の職務・勤務地・労働時間が選べ、雇用も保障されるタイプ)の重要性を説いている。

3.五十嵐英憲著『個人、チーム、組織を伸ばす目標管理の教科書』ダイヤモンド社(214頁,B6判)

 著者は、目標管理研修やマネジメント・システムの専門家で、これまでの講演会の延べ受講者数は10万人超。今、なぜ目標管理が必要なのかをわかりやすく示している。中小企業でさえも、工場を新興国に移転している現在、労働の質的転換が迫られており、業種を問わず、目標管理により従業員一人ひとりが知識労働者になるべきだと主張。

4.黒田兼一他著『フレキシブル人事の失敗』旬報社(209頁,B6判)

 経済のグローバル化に伴い、日米ともに人事労務のフレキシブル化(弾力化)が叫ばれてきた。このため、市場が求める「働かせ方」に柔軟に対応できる働き方が必要とされていた。しかし、著者らは、両国の抱える課題が異なるのを指摘したうえで、今後は、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が欠かせないと展望している。

5.デレック・ボック著『幸福の研究』東洋経済新報社(vii+284+40頁,四六判)

 フランスや英国、カナダなどにみられるように、幸福を定量化する試みは世界中に広がっている。とはいえ、幸福は気分や感情の微妙な変化を含んだ幅広い意味を持つ言葉。意味するすべてを完全に表すような唯一の定義はない。そんな複雑なテーマについて、高名な法学者が経済学や政治学、心理学、哲学など多様な観点から分析し、政策提言する。

6.相澤美智子著『雇用差別への法的挑戦』創文社(519頁,A5判)

 本書は、法解釈学を目指したものではなく、米国の法制度を分析する図書でもない、と著者は言う。しかし、雇用差別を禁止する1964年公民権法第7編がいかに華々しく誕生し、一方で苦難の歴史を歩んだかを当時の歴史的背景とともに詳述。依然として差別が根強い米国では、第7編全体の改正を目指す動きがあり、関連する論文も紹介する。

7.橘木俊詔他著『働くための社会制度』東京大学出版会(x+240頁,A5判)

 解雇規制や雇用保険、最低賃金などの社会制度を分析し、労働者の働く意欲を重視した制度・政策の必要性を指摘している。日本の解雇規制は欧米諸国に比べて強いとされるものの、雇用保険制度が充実していないことが解雇規制の存在理由になっていると指摘。また、最低賃金が生活保護を下回っていることも問題視し、最賃アップを提唱する。

8.高橋俊介著『21世紀のキャリア論』東洋経済新報社(259頁,A5判)

 著者がリクルートワークス研究所と共催した「21世紀のキャリアを考える研究会」の成果をまとめた一冊。今後は専門性を深めつつ、想定外変化が起きても通用するような普遍性のある能力形成が不可欠と主張。人生・キャリアをあらかじめ定めるのではなく、常に柔軟に切り開いていく力をつけることが大切とのメッセージを発信している。

9.西多昌規著『水曜日に「疲れた」とつぶやかない50の方法』朝日新聞出版(218頁,新書判)

 人は誰でも「月曜はブルー」「水曜は疲れがたまる」などと曜日に対するイメージを持っているもの。本書が執筆されたのは、そうした週単位での仕事の進め方の工夫を確認するためだ。例えば、「ブルーマンデー対策のヒントは『残業も飲み会も入れない』」とアイデアは具体的。週初めに負荷をかけず、火曜以降のために余力を残すのがその心だ。

10.猿田正機他著『日本におけるトヨタ労働研究』文眞堂(x+267頁,A5判)

 世界の自動車メーカー、トヨタ自動車。本書は、同社の高成長が「下請け企業の低賃金とセットの高賃金」「残業・休日出勤込みの長時間過密労働」など雇用・賃金の格差構造と働き方・働かせ方の上に成立している、と解説。一方、「精神的労働」を搾取することで、労働者からこうしたトヨタシステムへの反対が起きていないことなども分析している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年5月-2012年6月に労働図書館受け入れ

  1. 岡田昌毅他著『個人と組織が成長するカウンセリング』サイエンス社(vi+316頁,A5判)
  2. 松田陽一他著『リーディングス組織経営』岡山大学出版会(vii+218頁,A5判)
  3. 米澤旦著『労働統合型社会的企業の可能性』ミネルヴァ書房(iv+213+18頁,A5判)
  4. 友松篤信編著『グローバルキャリア教育』ナカニシヤ出版(iv+192頁,B5判)
  5. 加賀博著『キャリアエンプロイアビリティ形成法』日経BP社(246頁,A5判)
  6. 西條剛央著『人を助けるすんごい仕組み』ダイヤモンド社(317頁,四六判)
  7. 寿山泰二著『社会人基礎力が身につくキャリアデザインブック 自己理解編』金子書房(viii+96頁,B5判)
  8. 佐藤昭夫著『国家的不当労働行為論 2』悠々社(xxiv+393頁,A5判)
  9. 高崎経済大学産業研究所編著『新高崎市の諸相と地域的課題』日本経済評論社(viii+306頁,A5版)
  10. 五野井郁夫著『「デモ」とは何か』NHK出版(213頁,新書判)
  11. 深尾京司著『「失われた20年」と日本経済』日本経済新聞出版社(xii+321頁,A5判)
  12. 経営行動科学学会著『経営行動科学ハンドブック』中央経済社(vii+ix+840頁,A5判)
  13. 今野晴貴他著『ブラック企業に負けない』旬報社(103頁,A5判)
  14. 林明文著『人事の定量分析』中央経済社(3+7+185頁,A5判)
  15. 日向咲嗣著『「58歳から65歳」こそ使えるハローワーク徹底活用術!』朝日新聞出版(237頁,A5判)
  16. 佐々木さつみ著『子育て期にみる女性のライフコース選択の困難』クリエイツかもがわ(205頁,A5判)
  17. 竹中恵美子著『戦間・戦後期の労働市場と女性労働』明石書店(342頁,A5判)
  18. 武川正吾編著『格差社会の福祉と意識』東京大学出版会(viii+214頁,A5判)
  19. 嵯峨生馬著『プロボノ』勁草書房(iv+188頁,四六判)
  20. 中央労働災害防止協会著『実践から学ぶ衛生管理』中央労働災害防止協会(117頁,B5判)