2012年7月の図書紹介(2012年6月受け入れ図書)

1.山田昌弘他著『家族の衰退が招く未来』東洋経済新報社(239頁,四六判)

 現在の日本停滞の大きな原因は、高度成長期に作られたモデルから離れられないことにあると強調している。なかでも、「家族形成力の不足」「家族の消費マインドの低迷」「パラサイト・シングルの増大」を問題視。「短時間正社員制度」を軸にしたいわゆるオランダ・モデルの導入と、同一価値労働同一賃金の徹底を解決策として提示している。

2.塚本隆敏著『中国の労働問題』創成社(x+259頁,A5判)

 世界第二位の経済大国となった中国で現在、どのような労働問題が発生しているのか。本書で特徴的なのは現場の労使関係の変化の分析だ。市場経済化の進展とともに労働者の経済的権利意識が向上し、企業制度の改革要求をも含む集団的なストライキが発生。最近では中国でも「過労問題」が一部で注目されつつあることも指摘している。

3.西山昭彦編著『好きなことで70歳まで働こう!』PHP研究所(313頁,文庫判)

 会社引退後の第二の人生をいかに生きるべきか。本書は、「70歳まで働く」ことで、「家族から尊敬される」「友人が増える」「使えるお金が増える」「ボケない」などの効用があると説明。現役時代の45歳から将来の専門スキルとビジネスプランを作るべきだと強調する。介護職員に転身した70歳の元商社マンなど、豊富な実例が参考になる。

4.山村りつ著『精神障害者のための効果的就労支援モデルと制度』ミネルヴァ書房(v+373+19頁,A5判)

 知的障害者や身体障害者と比べて対応が難しいのが精神障害者の就労支援。本書は、就労上の課題として「作業能力」「服薬や医療中断による体調管理」「コミュニケーション」「障害の非開示」などを挙げ、問題解決には、援助付き雇用に代表されるような実際の職場に入って行う就業支援が効果的であり、現在必要でもある、と強調している。

5.山口周著『天職は寝て待て』光文社(215頁,B6判)

 本書は、自らの経験を基に、最良のキャリアにめぐり会う方法を具体的に解き明かしている。外資系企業での勤務実績も長いため、人材の流動化を礼賛するのかと思えば、「転職は、結婚と並んでミスが大変高いコストにつく意思決定なので、拙速に『目的化』しようとする態度は戒めるべき」と主張するなど、内容は意外に正統的でもある。

6.ヘンリー・ミンツバーグ著『マネジャーの実像』日経BP社(xxiv+444頁,A5判)

 世界各地の管理職29人の仕事を追跡。マネジャーの特徴を探ると、「いつも時間に追われている」「仕事が細切れで、頻繁に中断する」「沈思黙考するのでなく、自分で実際に行動し、対応する」などが浮かび上がった。本書によれば、インターネットの普及で行動に自由が増えたとは言えず、情報処理の時間が増え、自由が減っているようだ。

7.竹信三恵子著『ルポ賃金差別』筑摩書房(222頁,新書判)

 本書は、日本では性別や労働時間の長短、採用形態、雇用形態の違いなど偏見に基づく恣意的な評価で働き手の賃金を差別化していると指摘。同一価値労働同一賃金を実現するには、市場ルールの整備や、実施状況を監視する労働組合、労働基準監督官の強化が不可欠と主張。労使の視点を取り込んだ国際的基準による職務分析も有効としている。

8.阿部和光著『生活保護の法的課題』成文堂(5+v+282頁,A5判)

 施行から60年を迎えた生活保護法。日本経済が長期に低迷するなかで、最後のセーフティーネットとして今後も重要なのは言うまでもない。しかし、申請時の資産保有による受給断念や、預金残高があることによる保護の拒否など運用が旧態依然の面もある。本書は、生活保護法が改正の必要がないほど完全無欠ではないことを強調している。

9.樋口美雄編著『グローバル社会の人材育成・活用』勁草書房(xiv+356頁,A5判)

 副題は「就学から就業への移行課題」とある。人材の育成・活用問題に造詣の深い識者が執筆した論文をまとめている。大学進学率が5割を超え、高学歴化が進んだかに見えるが、本書は、1990年代まで通用した男性大卒正社員の典型的なキャリア形成モデルが、長期雇用の見直しや非正規雇用の拡大などにより岐路に立っていると分析している。

10.田中滋編著『介護イノベーション』第一法規(9+314頁,四六判)

 2025年には団塊の世代全員が75歳を超え、35年には全人口に占める高齢者数がピークを迎えるなど、わが国の高齢化は今後一段と本格化する。本書は、介護ビジネスをイノベーションの視点からとらえ、これからの高齢化社会で優良な介護サービスの担い手となるにはどのような事業運営が求められるのかなど、多様な角度から検討している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年4月-2012年5月に労働図書館受け入れ

  1. 山崎友丈他著『メンタルヘルス経営学』金子書房(164頁,B6判)
  2. 吉川徹編著『長期追跡調査でみる日本人の意識変容』ミネルヴァ書房(vii+229頁,A5判)
  3. 小西國友著『国際労働法』信山社(xv+331頁,A5判)
  4. 野田進他著『解雇と退職の法務』商事法務(xxiv+448頁,A5判)
  5. 秋田成就著『雇用関係法Ⅱ』信山社(xii+389頁,A5判)
  6. 土田道夫著『労働法概説』弘文堂(xvi+465頁,A5判)
  7. 内田貴著『民法改正』筑摩書房(237頁,新書判)
  8. 李洙任編著『在日コリアンの経済活動』不二出版(269頁,A5判)
  9. 青木昌彦著『コーポレーションの進化多様性』NTT出版(xiv+278頁,A5版)
  10. 奥村宏著『トップの暴走はなぜ止められないのか』東洋経済新報社(231頁,A5判)
  11. ムン・ヒョンジュン著『サムスン式仕事の流儀』サンマーク出版(281頁,四六判)
  12. 北居明著『組織文化の定量的研究』大阪府立大学経済学部(iv+173頁,AB判)
  13. 佐竹隆幸著『「地」的経営のすすめ』神戸新聞総合出版センター(235頁,B6判)
  14. 木元仁他著『永続発展する価値ある企業の条件』ダイヤモンド社(250頁,A5判)
  15. 土井哲他著『「なぜか成果が出てしまう人」の習慣術』東洋経済新報社(174頁,B6判)
  16. 水町勇一郎著『労働法』有斐閣(xviii+524頁,A5判)
  17. 土田道夫編著『ケースブック労働法』弘文堂(xxi+609頁,A5判)
  18. 安西明毅他著『アジア労働法の実務Q&A』商事法務(xii+516頁,A5判)
  19. 水沼英樹監『年代別女性の健康と働き方マニュアル』SCICUS(xiii+199頁,菊判)
  20. 児美川孝一郎編著『これが論点!就職問題』日本図書センター(301頁,四六判)