2012年6月の図書紹介(2012年5月受け入れ図書)

1.五石敬路編『東アジアにおける都市の高齢化問題』国際書院(199頁,A5判)

 本書は、急速な高齢化に伴う介護や税制の問題、所得分配への影響などに対処する中国、韓国の実情を紹介している。これらの問題で日本を追随する韓国では、定年延長や年金受給時期の繰り下げの問題に直面していると指摘。上海市では「計画出産」政策、低い死亡率を背景に、中国の先頭を切って少子高齢化が進展していると述べている。

2.M・バーチェル他著『最高の職場』ミネルヴァ書房(xxxii+267頁+19頁,四六判)

 全米で最も働きがいのある会社ベスト100に選ばれる職場にはどのような共通点があるのだろうか。本書はその解答として、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」の5つの要素を挙げ、多数のケーススタディを基に最高の職場がいかに創られるかを探った。全員に対する公正な報酬を求めるなどいかにも米国流の分析となっている。

3.ロベール・カステル著『社会問題の変容』ナカニシヤ出版(xxix+566頁+xxxii,A5判)

 社会学者であり、歴史学者でもある著者がフランス社会を14世紀まで遡り、賃金労働者の歴史を分析する。今後の同国のあり方を提示する最終章では「希少な『労働』とそれに伴う社会的権利・利益をワークシェアリングで国民に再分配する」ことを提唱し、完全雇用に代わる政策として重視する。労働と雇用を人類史的に追求した書。

4.徳住堅治著『解雇・退職』中央経済社(3+11+255頁,A5判)

 労働者にとって死活問題である「解雇」。本書は、約40年間、一貫して労働側の立場から解雇事件に対応してきた弁護士である著者が、退職勧奨や解雇通告を受けてから解決に至るまでに生じる問題点や注意点を取り上げる。具体的な解決方法が示されるほか、600件以上の判例が掲載されるなど解雇を実践的に学ぶには格好の1冊。

5.林弘子著『労働法』法律文化社(xiv+351頁,A5判)

 単に条文の解釈を並べ立てるわけではなく、労働法の沿革から最新の労働問題に関するトピックまでをわかりやすく紹介。「女性労働問題」ではパパ・ママ育休プラス制度、「非正規労働者問題」では偽装請負問題、「労働紛争の多様化」では裁判外紛争解決手続(ADR)を解説。1ページに収まるコンパクトな重要判例も有用である。

6.大内伸哉他著『法と経済で読みとく雇用の世界』有斐閣(xi+320頁,四六判)

 タイトル通り、法学と経済学の2つの視点から雇用問題を分析している。例えば労働時間。法律では、長時間労働を抑制するために割増賃金が規定されているが、経済学的には、長時間労働による所得増を求めて残業が増える「代替効果」を誘発する可能性があるという。13のテーマがストーリー仕立ての読みやすい内容になっている。

7.渡邉幸義著『雇用創造革命』ダイヤモンド社(247頁,四六判)

 著者は、2020年には1,000人の障害者を雇用し、月給25万円を支給すると宣言して注目を集めた。雇用弱者に働く場を提供することを信念とし、「特例子会社では障害者も全員スーツ姿で出勤する」「起業カフェから障害者のバリスタ世界一を輩出する」などのユニークな経営スタイルが有名。履歴書を見ない採用方法も示唆に富む。

8.女性労働問題研究会編『女性労働研究 震災と女性労働』青木書店(192頁,A5判)

 今年度の『女性労働研究』は「被災地が問いかける女性労働」を特集。東日本大震災では、仕事を求める女性が多いにもかかわらず、求人はいずれも男性向けの肉体労働であることや、介護と仕事の二重の負担に苦しむ女性など特有の問題が明らかになった。国際NGOの支援を受けて、女性支援の団体が誕生した事例も紹介している。

9.小﨑敏男他編著『少子化と若者の就業行動』原書房(ⅷ+226頁,A5判)

 本書は、人口減少下における若者の就業行動、婚姻と出生率の関係を分析している。若者の就業行動が現在の人口減少にどの程度関わっているかを明らかにしたうえで、教育現場でのキャリア教育や消費行動、政府の若者向け雇用政策にも言及。若者の就業・雇用状態の悪化は婚姻率を低下させ、出生率の低下を招いていると述べている。

10.寿山泰二著『エンプロイアビリティにみる大学生のキャリア発達論』金子書房(ⅳ+225頁,A5判)

 副題に「新時代の大学キャリア教育のあり方」とある。就職できずに大学を卒業する学生や留年して就職を1年先送りする学生が増えるなか、大学側の就職指導だけでは対応できない問題も少なくない。本書は、学生のエンプロイアビリティ(雇用される能力)をいかに引き上げるかを多様な角度から考察し、実践的な内容になっている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年3月-2012年4月に労働図書館受け入れ

  1. 野口均著『会社員負けない生き方』平凡社(236頁,B6判)
  2. 石川真作他著『周縁から照射するEU社会』世界思想社(ⅴ+272頁,A5判)
  3. みずほ総合研究所他著『グループ内組織再編』東洋経済新報社(226頁,A5判)
  4. 野中郁次郎他著『知識創造経営のプリンシプル』東洋経済新報社(349頁,A5判)
  5. D・テュルパン他著『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』日本経済新聞出版社(211頁,A5判)
  6. グラントソントン太陽ASG税理士法人著『国境なき人事』税務経理協会(182頁,B5判)
  7. 大久保幸夫著『30歳から成長する!「基礎力」の磨き方』PHP研究所(206頁,B6判)
  8. 有田帝馬著『入門季節調整』東洋経済新報社(255頁,A5判)
  9. 中谷彰宏『会社で自由に生きる法』日本経済新聞出版社(219頁,A5版)
  10. 村田毅之著『労働法の原点』晃洋書房(ⅷ+228頁,A5判)
  11. 向井蘭著『社長は労働法をこう使え!』ダイヤモンド社(248頁,A5判)
  12. 木村進著『自分で切り開くキャリア・デザイン』中央経済社(ⅱ+ⅷ+219頁,A5判)
  13. 竹中恵美子著『女性の賃金問題とジェンダー』明石書店(352頁,A5判)
  14. 佐久間大輔著『精神疾患・過労死』中央経済社(281頁,A5判)
  15. 佐藤正弘著『就活のための自分マーケティング』中央経済社(ⅳ+ⅲ+151頁,A5判)
  16. 瓜生原葉子著『医療の組織イノベーション』中央経済社(ⅹ+ⅵ+313頁,A5判)
  17. 木下幹彌著『モノづくりの経営思想』東洋経済新報社(ⅹⅲ+324頁,A5判)
  18. ローナ・フィリン他著『現場安全の技術』海文堂出版(ⅶ+417頁,A5判)
  19. 井上忠著『質的一流企業への挑戦』ダイヤモンド社(251頁,A5判)
  20. 東渕則之他著『地域と事業再生』松山大学地域研究センター(ⅳ+208頁,A5判)