2012年5月の図書紹介(2012年4月受け入れ図書)

1.岩﨑馨他編著『賃金・人事制度改革の軌跡』ミネルヴァ書房(ⅶ+277頁,A5判)

 本書は、バブル後の経営環境の下で、企業が進めている賃金・人事制度の特質を個別企業の実証研究によって明示。ややもすると、成果主義賃金を啓蒙する書籍や実用書になりがちだが、著者らは企業や労働組合への聞き取り調査を基に、賃金制度がいかにして短期的な成果を重視するようになったかを分析している。

2.山西均著『日本企業のグローバル人事戦略』日本経済新聞出版社(247頁,A5判)

 世界経済が混とんとするなか、ここ数年企業活動のグローバル化が注目されている。本書は、国際畑の長い証券マンが経験に基づき、日本企業の人事制度が国際化する際の注意点を解説。賃金面では、米国型の「随時雇用」を導入しなければ、財務上どのような影響が出るかをシミュレーションを用いて詳述している。

3.河野順一他編著『時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題』経営書院(755頁,A5判)

 5人の弁護士等による書。退職した労働者から請求される残業代をめぐる問題がクローズアップされるなか、日ごろの業務で直面した事件を中心に各論考がまとめられている。残業代請求事件を3タイプに類型化し、後に生じる大きなトラブルの予兆である「試金石型紛争」をもっとも重視すべきタイプと指摘している。

4.浅野幸弘他編著『長生きリスクと年金運用』日本経済新聞出版社(238頁,A5判)

 人生80年時代。長い老後生活を経済的につつがなくまっとうできる確率を「長生きリスク」と定義し、個人、企業、社会の各レベルでいかに対応していくべきかを述べている。公的年金に関して根本的な問題は、人口の長寿化にあり、解決するには、平均寿命の伸長に応じた支給開始年齢の引き上げしかないと強調する。

5.山森亮編著『労働と生存権』大月書店(261頁,A5判)

 「労働再審」シリーズ第6巻。生存権が保障されるためには、長時間労働や非正規雇用、男女賃金格差、低い女性の労働力率などを解決する必要があると主張。こうした問題の背後にジェンダーによる格差があるとし、解決策として、雇用契約を職務モデルに転換し、同一労働同一賃金の成立につなげるよう提唱する。

6.菅野和夫他編著『労働法が目指すべきもの』信山社(ⅹⅹⅰ+344頁,A5判)

 渡辺章筑波大学名誉教授の古希を記念して、労働法の最前線にいる執筆陣が最新のトピックについて分析した論文をまとめた。雇用契約によらない請負型労働者の増加や、実務でトラブルの多い定年後の再雇用制度の問題、セクハラを原因とするメンタルヘルスが労災補償の問題になっている点などを指摘している。

7.神吉知郁子著『最低賃金と最低生活保障の法規制』信山社(303頁,A5判)

 法学的視点から最低賃金制度の正当性を考察した論考は少ないというのが執筆の動機。雇用による生活保障を大前提とし、稼働年齢世帯への社会保障制度が充実していない日本では最賃に期待される役割と限界が明確ではないと強調している。失業者の就労意欲を上げるため、最賃の生活保護費以上への引き上げを提唱。

8.小池和男著『高品質日本の起源』日本経済新聞出版社(ⅹⅹⅰ+395頁,A5判)

 製品・サービスが「安かろう、悪かろう」では、低賃金国にすぐに追いつかれる。日本が国際競争に生き抜いてきたのは、仕事を工夫し、職場の範囲を超え企業の競争力の根幹に関わる事柄にも発言する中堅層の存在があったためと指摘。後半では労働組合に注目し、戦前の労組が労働者の発言を後押ししたと分析する。

9.山川隆一著『労働紛争処理法』弘文堂(354頁,A5判)

 労働紛争の解決をめぐる制度や手続きなど総合的な解説と検討を試みている。労働紛争解決システムの中で、都道府県労働局による紛争解決制度は、労働審判よりも迅速であるとともにコストがかからず、よりアクセスしやすいシステムであると強調。半面、強制力がないため、合意による解決率は高くないとしている。

10.小杉礼子他編著『二極化する若者と自立支援』明石書店(186頁,四六判)

 日本学術会議と労働政策研究・研修機構が2010、11年に開催した「労働政策フォーラム――若者問題への接近」を基にした著書。2000年代に入り、安定した仕事につけない若者が急増し、日本は「不完全雇用社会」に転換したと指摘。若者への支援不足による低学力・低スキルが不安定雇用の原因になっているという。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年2月-2012年3月に労働図書館受け入れ

  1. 林久美他著『最新IT業界の人事・労務管理と就業規則』日本法令(240頁,A5判)
  2. 渡辺太著『愛とユーモアの社会運動論』北大路書房(ⅱ+224頁,A5判)
  3. 山田光男他著『日中経済発展の計量分析』中京大学経済学部(ix+258頁,A5判)
  4. 塩見英治編著『人口減少下の制度改革と地域政策』中央大学出版部(xv+325頁,A5判)
  5. 田中素香編著『世界経済の新潮流』中央大学出版部(xii+344頁,A5判)
  6. 徳川家広著『なぜ日本経済が21世紀をリードするのか』NHK出版(241頁,B6判)
  7. 仁木一彦著『儲からないCSRはやめなさい!』日本経済新聞出版社(261頁,B6判)
  8. 石川晃弘編著『グローバル化のなかの企業文化』中央大学出版部(X+382頁,A5判)
  9. 日本経済新聞社編『それでも社長になりました!』日本経済新聞出版社(268頁,文庫版)
  10. 内山力著『課長になれない人の特徴』PHP研究所(251頁,B6判)
  11. 後藤将史著『グローバルで勝てる組織をつくる7つの鍵』東洋経済新報社(215頁,A5判)
  12. M.バーチェル他著『最高の職場』ミネルヴァ書房(xxxii+267+19頁,A5判)
  13. 木田修著『雇い方の徹底研究』労働調査会(271頁,A5判)
  14. 古川章好著『市町村人口規模と財政』中京大学経済学部(xiii+185+iii頁,A5判)
  15. 徳住堅治著『解雇・退職』中央経済社(3+11+255頁,A5判)
  16. 秋田成就著『雇用関係法Ⅰ』信山社(xii+558頁,A5判)
  17. 山口幸雄編著『労働事件審理ノート』判例タイムズ社(xi+224頁,A5判)
  18. 労働問題研究会著『労働相談マニュアルブック』労働教育センター(327頁,B5判)
  19. 渡邉美樹著『14歳と学ぶ「働く」ための教科書』日本経済新聞出版社(226頁,文庫版)
  20. 村山涼一著『就活を採用者視点で科学する』日本経済新聞出版社(171頁,A5判)