2012年4月の図書紹介(2012年3月受け入れ図書)

1.シバ・マリヤム・ジョージ著『女が先に移り住むとき』有信堂高文社(ⅹⅵ+292+ⅹⅹⅰ頁,A5判)

 インドネシア等からの日本の看護師受け入れ事業は、困難に逢着しているが、本書は、インドからアメリカへ、妻が看護師という専門職で先行的に移住し、夫・家族を呼び寄せた事例を、労働、家庭、コミュニティのジェンダー階層について、インサイダーの視点から詳述。日本の教訓とするには、彼我の差は大きすぎるようである。

2.松尾睦著『職場が生きる 人が育つ「経験学習」入門』ダイヤモンド社(220頁,A5判)

 「経験から学ぶ力」を分析・検討した書。優れたマネジャーへのインタビュー調査により、挑戦し、振り返り、楽しみ学ぶことが、知識やスキルの獲得を促進し、仕事への思い・こだわり、他者とのつながりが、これを高める原動力となる、という。部下を育てる指導者や診断ツールにも言及、経験学習について総体的に検討している。

3.小宮文人他編『社会法の再構築』旬報社(252頁,A5判)

 道幸哲也教授の薫陶を受けた研究者と、北海道大学労働判例研究会メンバーによる道幸教授退官記念論文集。労働法の課題と社会保障法の課題の二部で編集。混沌・格差が渦巻く時代の中で、社会法の存在意義が問われているが、わが国が直面する集団的及び個別的労働法と社会法に関する基本的問題を理論的に考察している。

4.高橋賢司著『解雇の研究』法律文化社(ⅳ+353頁,A5判)

 効率と正義をともに実現するため、労働法も他の社会科学との総合的研究が必要となっている。本書は、経済学者から要望が強い解雇規制の緩和について、ドイツの経験を通して実証分析するとともに、解雇の金銭解決や被解雇者の人選基準をも検討。新自由主義を批判的に考察し、解雇権濫用法理の原理的検討を試みている。

5.小杉礼子他編著『非正規雇用のキャリア形成』勁草書房(ⅷ+277+ⅳ頁,B6判)

 編者たちは、正社員に比して、非正規社員の職業能力開発機会が極端に少ないことを問題視し、対策を検討。実践的な能力開発機会の提供と、職業能力評価制度の普及を提言。特に後者に関しては、関係者間の共通認識醸成の仕かけでもあり、非正規から正社員への移行支援政策でもあるジョブ・カード制度の課題を分析している。

6.上野加代子著『国境を越えるアジアの家事労働者』世界思想社(ⅳ+258頁,B6判)

 シンガポールで住み込みで働くインドネシアとフィリピン人女性家事労働者を10年近くに渡り追跡。労働者へのインタビューと観察、労働者のシェルターであるNGOへのヒアリング、出身国調査等を駆使。出国、生活戦略、アイデンティティ、NGO利用、家族関係等を総合的に分析。労働者の時系列的姿も明らかにされている。

7.脇坂明著『労働経済学入門』日本評論社(ⅹⅰ+186頁,A5判)

 新興国におされぎみの日本企業の国際競争力維持のため、新しい働き方が求められている。ワーク・ライフ・バランスやワーク・シェアリング、若者・女性・高齢者の働き方の実態と、それらを理解するための基礎知識の二部構成。労働経済学のテキストだが、国際比較も加え、労働問題を理論的に理解するための入門書ともなっている。

8.五石敬路編『東アジアにおける都市の貧困』国際書院(252頁,A5判)

 (財)東京市政調査会、ソウル市立大学、中国復旦大学共催の国際シンポジウム提出論文を編集。日本、韓国、中国、台湾及び上海における貧困とそれに対する社会保障政策が取り上げられている。ワーキングプアや貧困層への金銭支給のみでなく、アクティベーション等自立を促す仕組導入が新興国・先進国共に重視されてきている。

9.阿部彩著『弱者の居場所がない社会』講談社(216頁,新書判)

 EU諸国では、貧困から社会的排除に政策的関心が移りつつあり、日本も生活資源の欠如でなく社会関係制度からの排除が問題視されるようになってきた。著者は、貧困の実態を統計に基づき報告、さらに自身のボランティア活動経験を基に社会的つながり、役割、居場所の重要性を強調、社会のユニバーサル・デザイン化を主張。

10.永松伸吾著『キャッシュ・フォー・ワーク』岩波書店(87頁,A5判)

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から1年、生活と雇用の場を破壊され、有効な支援も届かず、立ち直るきっかけをつかめずにいる人も多い。収入獲得と社会的つながりのためのキャッシュ・フォー・ワーク(CFW)は、「仕事をつくり、あしたをつくる」ための有力な仕組みである。CFW-Japan代表も務める著者によるCFW紹介本。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年1月-2012年2月に労働図書館受け入れ

  1. 加瀬和俊編『戦間期日本の新聞産業』東京大学社会科学研究所(ⅲ+208頁,B5判)
  2. 法政大学大原社会問題研究所編『棚橋小虎日記(昭和17年)』法政大学大原社会問題研究所(107頁,A4判)
  3. 馬渕浩二著『世界はなぜマルクス化するのか』ナカニシヤ出版(ⅹⅷ+234頁,B6判)
  4. 西川俊作著『長州の経済構造』東洋経済新報社(ⅹⅷ+267頁,A5判)
  5. 水野和夫著『終わりなき危機』日本経済新聞出版社(536頁,B6判)
  6. 林総著『つぶれる会社には「わけ」がある』日本経済新聞出版社(212頁,文庫版)
  7. 山修著『ホンダ式一点バカ』朝日新聞出版(237頁,新書判)
  8. 三富圭著『あなたがデキる人か否かを決めるのは、人事部です。』幻冬舎ルネッサンス(198頁,B6判)
  9. 岩崎馨他編著『賃金・人事制度の軌跡』ミネルヴァ書房(ⅶ+277頁,A5判)
  10. 新将命著『伝説の外資トップが説く働き方の教科書』ダイヤモンド社(253頁,B6判)
  11. 天野雅晴著『180日でグローバル人材になる方法』東洋経済新報社(197頁,B6判)
  12. 相原孝夫著『会社人生は「評判」で決まる』日本経済新聞出版社(215頁,新書判)
  13. 三谷宏幸著『世界で通用するリーダーシップ』東洋経済新報社(235頁,B6判)
  14. 熊谷文枝編著『日本の地縁と地域力』ミネルヴァ書房(ⅷ+261+7頁,A5判)
  15. 渡辺章著『労使関係法・雇用関係法』信山社出版(ⅹⅹⅶ+608頁,A5判)
  16. 西村佳哲著『わたしのはたらき』弘文堂(254頁,B6判)
  17. 渡邉正裕著『10年後に食える仕事食えない仕事』東洋経済新報社(221頁,B6判)
  18. 鳥居里至著『「会社×複業」シナジー仕事術ノート』東洋経済新報社(163頁,B6判)
  19. 山口俊一著『理不尽な給料』ぱる出版(207頁,B6判)
  20. 楠田丘編『人材社会学』産労総合研究所出版部経営書院(199頁,A5判)
  21. 海老原嗣生他著『日本人はどのように仕事をしてきたか』中央公論新社(310頁,新書判)
  22. 櫻田大造著『大学教員採用・人事のカラクリ』中央公論新社(286頁,新書判)
  23. 本章紀著『坂本流「就職」の教科書』日本経済新聞出版社(222頁,B6判)
  24. 異業種交流安全研究会著『命を支える現場力』海文堂出版(179頁,B6判)
  25. 島西智輝著『日本石炭産業の戦後史』慶應義塾大学出版会(ⅹⅷ+374頁,A5判)
  26. 早稲田大学産業経営研究所編『観光による復興への提言』早稲田大学産業経営研究所(129頁,A4判)