2012年3月の図書紹介(2012年2月受け入れ図書)

1.大瀧雅之著『平成不況の本質』岩波書店(ⅳ+185+3頁,新書判)

 プラザ合意以降をバブル期、失われた10年、構造改革期に分け、失業率の年次データ等をもとに、平成不況の本質(著者は、デフレではなくディスインフレ説を主張)を理論的に追究。公正な所得分配と反グローバリゼーションの観点から、失業率の継続的上昇と対外直接投資の拡大を問題視。日銀の独立性、建設業の軽視等も警告。

2.アクセンチュア経営コンサルティング本部人材・組織マネジメントグループ著『グローバル組織・人材マネジメント』東洋経済新報社(214頁,A5判)

 先行き不透明感を増している世界経済の浮沈は、新興国の業績如何にかかっているといっても過言ではない。本書は、新興国での採用・育成・戦力化・カルチャー統合のための、世界的経営コンサルティング企業アクセンチュアが開発したツールを紹介。客観化されたマニュアルに基づき事業進出及び定着方法が詳述されている。

3.雇用のあり方研究会他編著『ディーセント・ワークと新福祉国家構想』旬報社(229頁,A5判)

 全労連の委嘱を受けて、2010−11年開催の「雇用の安定を軸とする『セーフティネット』のあり方研究会」の成果。働きがいのある、人間らしい労働と、住宅・教育・医療保障の新福祉国家的施策の実現方法を13人のメンバーが、研究会方式により学際的に検討。労働政策と生活保障の連携、内需中心の循環型経済を提言している。

4.大内伸哉著『君は雇用社会を生き延びられるか』明石書店(307頁,B6判)

 刺激的なタイトルであるが、グローバル競争がもたらす過労社会の中で、労働人生を心身とも健康に生き通すことは経験上難しい。過労や人間関係に起因する労働災害への対処方法を労災補償保険法等労働法を踏まえ物語的に説明。専門的でなじみにくいと敬遠ぎみの職場の安全衛生を理解しやすくする工夫が施されている。

5.大嶋寧子著『不安家族』日本経済新聞出版社(399頁,B6判)

 雇用機会の縮小や賃金・雇用の不安定化から、正社員であっても家族の生活基盤に不安をもつものが増えている。著者は先行研究を渉猟するとともに、EU諸国の政策も参考に、不安を抱える家族を分析。内需活性化政策による安定雇用の確保や能力開発制度の見直し、多様な正社員の推進等、現役世代の社会保障の強化を提言。

6.松井亮輔他編著『障害者の福祉的就労の現状と展望』中央法規出版(356頁,A5判)

 「福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会」の報告書『国際的な動向を踏まえた福祉と雇用の積極的融合』に最新の文献、資料、データを追加した著書。欧米諸国の現状紹介と日本の障害者就労問題の現状と課題分析の二部構成。障害者総合福祉法が検討されているが、就労状況の改善も、本法の重要課題の一つである。

7.森岡孝二著『就職とは何か』岩波書店(ⅹⅱ+217+4頁,新書判)

 教職歴40年を越す著者は、現在が最も就職環境が悪化しているという。本書は、学生の就職活動の状況と雇用現場の実情を紹介、就職とは何か、どのように働くべきかも考察。まともな働き方のためには、賃金、労働時間、雇用、社会保障の4つもまともであることが必要と主張。ワークシェアリングを解決の糸口として提案している。

8.第一東京弁護士会労働法制委員会編『個人請負の労働者性の問題』労働調査会(341頁,A5判)

 製造業派遣の全面禁止を盛り込んだ派遣法改正案の影響もあり、アウトソーシングの方法が派遣から請負・委託にシフトしているが、昨4月の最高裁二判決は、個人自営業者とみなされていた就業者を労組法上の労働者と認定。夏季合宿研修の成果である本書はこの判決を含む4つの事件を分析、企業側の対応策を検討している。

9.仁平典宏他編『ケア・協働・アンペイドワーク』大月書店(283頁,B6判)

 雇用と自営の区分けが不分明化するとともに、賃労働と無償労働の境界も曖昧化。本書は、家事労働、ケア労働等の再生産労働を俎上にのせ、無償・有償の輪郭が融解しつつある現状を描出。無償労働が賃労働化し、賃労働であるべきものが搾取の対象となるなど、労働の現場も変転目まぐるしい。「労働再審」シリーズ第五巻である。

10.林陽子編著『女性差別撤廃条約と私たち』信山社(181頁,B6判)

 4人の女性弁護士による性差別に関する啓蒙書。日々の弁護士実務の中で直面している、育児休業、DV、性と生殖、性暴力などの事象を、女性差別撤廃条約の観点から紹介。開発・平和の視点を取りこむとともに、性別役割分業思想が法律や制度に秘かに侵入していることを指摘。ジェンダー・センシティブの重要性を説いている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2012年1月に労働図書館受け入れ

  1. 太田肇著『公務員革命』筑摩書房(200頁,新書判)
  2. 仲尾宏著『朝鮮通信使と京都』世界人権問題研究センター(ⅴ+319頁,A5判)
  3. 大串博行著『日本社会の外国人』パレード(118頁,A5判)
  4. 御立尚資著『変化の時代、変わる力』日本経済新聞出版社(291頁,B6判)
  5. 加藤茂夫他著『良い経営者 できる管理職 育つ社員』白桃書房(127頁,A5判)
  6. 藤徹著『ソーシャルシフト』日本経済新聞出版社(359頁,B6判)
  7. 日本経済新聞社編『企業・生存の条件』日本経済新聞出版社(251頁,B6判)
  8. 中小企業研究センター編『中小企業の海外展開』中小企業研究センター(132頁,A4判)
  9. リチャード・N.ラングロワ著『消えゆく手』慶應義塾大学出版会(ⅹⅲ+192頁,A5判)
  10. 藤本篤志著『社畜のススメ』新潮社(191頁,新書判)
  11. ジェフリー・フェーファー著『人材を活かす企業』翔泳社(ⅹⅷ+288頁,B6判)
  12. 浅井隆著『問題社員・余剰人員への法的実務対応』日本法令(220頁,A5判)
  13. 沢村凜著『ディーセント・ワーク・ガーディアン』双葉社(364頁,B6判)
  14. 連合総合生活開発研究所編『パート労働法改正の効果と影響に関する調査研究報告書』連合総研(153頁,A4判)
  15. 連合総合生活開発研究所編『第二のセーフティーネットの活用実態と利用者の声』連合総研(ⅷ+192頁,B5判)
  16. OECD編著『世界の若者と雇用』明石書店(246頁,A5判)
  17. 国際労働機関編著『1つの危機から次の危機へ?』一灯舎(ⅷ+159頁,B6判)
  18. 労働総研中小企業問題研究部会編著『中小企業の未来を拓く』学習の友社(141頁,A5判)
  19. 岡野孝信編著『なかまと共に』本の泉社(287頁,A5判)
  20. 石嵜信憲編著『個別労働紛争解決の法律実務』中央経済社(540頁,A5判)
  21. 山口毅著『あなたは労働者か事業者か』労働調査会(239頁,A5判)
  22. 石田秀輝他著『未来の働き方をデザインしよう』日刊工業新聞社(215頁,B6判)
  23. 辻村みよ子他編『男女共同参画のために』東北大学出版会(553頁,A5判)
  24. 全労済協会編『地域福祉を支える寄付の仕組みに関する研究』全労済協会(83頁,A4判)
  25. 田宮寛之著『就活は3年生からでは遅すぎる!』東洋経済新報社(215頁,B6判)
  26. 高木俊之編著『エレベータ産業と中小企業』下田出版(110頁,B6判)