2012年2月の図書紹介(2012年1月受け入れ図書)

1.宍戸善一編著『「企業法」改革の論理』日本経済新聞出版社(ⅹⅹⅳ+412頁,A5判)

 企業は、株主、債権者、経営者、従業員の四資源拠出者間の動機づけ交渉の場であるとの観点から、企業システムと企業法の捉え直しを行うユニークな書。経済産業研究所「インセンティブ構造としての『企業法』」プロジェクトでの法学者と経済学者の3年半に渡る議論の成果。労働法も企業法の一分野と位置付け、政府の役割も追究。

2.浅井隆著『戦略的な就業規則改定への実務』労働開発研究会(230頁,A5判)

 就業規則は、個々の企業の独自文化と戦略に基づき、労働者を集団的かつ公正に処遇・管理するためのものと規定する著者は、就業規則の制定・変更方法を実践的に指南、特に労働条件の不利益変更問題をクリアするための方法を条項ごとに解説。賃金、退職金、有期労働者については念入りに説明、モデル規程等も資料として掲載。

3.盛山和夫他編著『日本の社会階層とそのメカニズム』白桃書房(ⅹⅲ+297頁,B6判)

 「現代の階層社会」シリーズと相前後して刊行された。まさしく階層社会・格差社会論ブームと言えるが、本書の特徴は、歴史的視点、変化を重視していることである。社会的地位、職業的キャリア、学歴、ジェンダー不平等、所得格差、若年層の政治関与等について分析。ともに階層研究に携わった原純輔教授に本書は捧げられている。

4.多賀太編著『揺らぐサラリーマン生活』ミネルヴァ書房(ⅹⅳ+235+15頁,B6判)

 長期雇用と年功賃金が崩壊、家族のあり方も揺らぐ現在、サラリーマン男性の生活はどのように変化しているのか。実態の把握を目指し、職業生活と家庭生活との相互関連、ジェンダーの視点から55名にヒアリング。ライフコース個人化の下で、類型論的なサラリーマン生活像は描けるだろうか。4人の若き研究者の共同研究の成果である。

5.井手英策編『雇用連帯社会』岩波書店(ⅷ+245頁,B6判)

 ポスト震災復興期の公共事業のあり方、福祉国家の未来を問う本書は、新しい「公共の事業」による雇用保障を通じて社会の連帯の実現を追求する理念の書である。大震災後、一旦崩壊しかかった土建型福祉国家が復活するという状況にあるが、これも奇貨とするとともに、地域雇用創出、緑の雇用等による連帯社会の実現を祈りたい。

6.西澤晃彦編『周縁労働力の移動と編成』大月書店(267頁,B6判)

 本書は、中心的労働市場から地理的・社会的に隔てられた周辺労働力の形成と配置のメカニズムを検討。数多くの周辺労働者タイプの中で、時代を越えて、日系人等外国人労働者、集団就職者、温泉観光地の女性出稼ぎ労働者、寄せ場労働者等に焦点をあて、周辺労働者の実態を描き出している。「労働再審」シリーズ全6巻の第四巻。

7.濱口桂一郎著『日本の雇用と労働法』日本経済新聞出版社(241頁,新書判)

 大学での講義「雇用と法」のテキストであるが、一般の労働法教科書とは一味異なっている。日本の雇用契約の特徴であると著者が主張する「メンバーシップ」的性格から、雇用管理、報酬、労使関係に関する日本の労働法制が説明されている。さらに、これらのシステムから疎外されている女性・非正規の問題や今後の動向も解説。

8.海老原嗣生著『就職、絶望期』扶桑社(279頁,新書判)

 大学進学率の急上昇、国内製造業・第一次産業の弱体化等を根拠に、「若者はかわいそう」論を批判してきた著者が、本書では「新卒一括採用批判」を反批判。返す刀で、厚生労働省の雇用政策も厳しく評価。感情論だけではない、実態・ニーズに基づいた政策形成のための活発な議論が求められている。厚労省政策担当者の反論を期待したい。

9.大村賢三著『回想・育児休業法』早稲田出版(上=300頁,下=283頁,B6判)

 本書はもう一つの育児休業法、「国家公務員の育児休業に関する法律」の誕生と成長の記録(2巻本、前編=こうして法律は生まれた、後編=こうして法律は成長した)である。法律の企画、原案作成、法令審査、国会での審議等、法律制定の内情と同時に、権利の拡大、実効性の確保をめざした法律改正の事情をも知ることができる回想録。

10.升田嘉夫著『戦後史のなかの国鉄労使』明石書店(491頁,B6判)

 国鉄及びJR関連会社に半世紀弱勤務した著者が、労使でもなく、第三者でもない「国鉄職員」の立場から国鉄労使関係の主な出来事を詳述。マル生運動、スト権スト、国鉄末期の労組の対立抗争・分裂等を、関係者からのヒアリングではなく資料に基づき描出。労働運動が社会の中で確固とした地位を占めていた時代の証言録である。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年11月-2011年12月に労働図書館受け入れ

  1. 朝日崇著『実践アーカイブ・マネジメント』出版文化社(227頁,B6判)
  2. タイラー・コーエン著『大停滞』NTT出版(166頁,B6判)
  3. ロナルド・ドーア著『金融が乗っ取る世界経済』中央公論新社(ⅲ+242頁,新書判)
  4. 吉田敬一他編著『地域振興と中小企業』ミネルヴァ書房(ⅷ+273頁,A5判)
  5. 伊藤健市他編著『アメリカの経営・日本の経営』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+270頁,A5判)
  6. 馬越恵美子著『ダイバーシティ・マネジメントと異文化経営』新評論(232頁,B6判)
  7. OECD編著『社会的企業の主流化』明石書店(320頁,A5判)
  8. 池田信夫著『イノベーションとは何か』東洋経済新報社(238頁,A5判)
  9. 伊丹敬之編著『いまこそ出番日本型技術経営』日本経済新聞出版社(ⅹⅳ+295頁,B6判)
  10. 國領二郎他編著『創発経営のプラットフォーム』日本経済新聞出版社(ⅶ+282頁,A5判)
  11. 長野恭彦著『経営チーム革命』日本経済新聞出版社(280頁,B6判)
  12. 下井隆史他編『企業のための労働契約の法律相談』青林書院(ⅹⅹⅲ+733頁,A5判)
  13. 渡井康祐著『社長、「給与体系」で儲かる会社を作りなさい!』幻冬舎メディアコンサルティング(175頁,B6判)
  14. 総務省統計局編『抽出速報集計結果(平成22年国勢調査)』総務省統計局(745頁,B5判)
  15. 松岡洋子著『エイジング・イン・プレイス(地域居住)と高齢者住宅』新評論(358頁,A5判)
  16. 総務省統計局編『品目編(全国消費実態調査報告)』総務省統計局(789頁,B5判)
  17. 総務省統計局編『購入先・購入地域編』総務省統計局(523頁,B5判)
  18. 連合総合生活開発研究所編『日本の職業訓練及び職業教育事業のあり方に関する調査研究報告書』(182頁,A4判)
  19. 岡田康子他著『パワーハラスメント』日本経済新聞出版社(207頁,新書判)
  20. 宮田信一郎著『企業年金マネジメント』東洋経済新報社(212頁,A5判)
  21. 電機連合総合研究センター編『電機連合2020年のワーク・ライフ・バランスの実現研究会報告』電機連合(144頁,A4判)
  22. 中部産業・労働政策研究会編『定年後もイキイキと暮らすための働き方とライフスタイルのあり方』中部産政研(157頁,B5判)
  23. 番場博之著『職業教育と商業高校』大月書店(238頁,B6判)
  24. 高端正幸他著『保育サービスを中心とする子育て支援政策の国際比較行財政論』全国勤労者福祉・共済振興会(76頁,A4判)