2012年1月の図書紹介(2011年12月受け入れ図書)

1.明石純一編著『移住労働と世界的経済危機』明石書店(249頁,A5判)

 2008年のリーマンショック及び2011年の東日本大震災は、日本人の雇用弱者に加え、外国人労働者にも多大な影響を与えた。本書は移住労働の受入が不可避となっている日本の実態を、韓国、中国等との国際比較も交え、多角的・構造的に分析。経済危機がもたらす移住労働者の脆弱性とともに、柔軟性にも目配りを利かせている。

2.労務行政研究所編『日本人事』労務行政(333頁,A5判)

 国際競争の激化は、財務的視点から社員をコストと考える風潮を促進している。本書は、ヒトを最も大事な経営資源と考える人事関係者15人に取材、当人のキャリア、困難を乗り越えた経験、座右の銘等を聞き出している。創立80周年を記念した労務行政研究所の「日本人事プロジェクト」の成果。ヒト中心の人事は復興されるのか。

3.石田浩他編『階層と移動の構造』東京大学出版会(ⅹⅱ+349頁,A5判)

 「現代の階層社会」シリーズ全3巻の第二巻。格差の固定化、教育機会と社会階層の関連、職業経歴とキャリア、現代日本の階層構造、の4テーマを扱っている。SSM調査の特徴を生かした長期時系列データと韓国、台湾等との国際比較により分析。若手研究者を中心に23人の研究者が関与した階層研究のベンチマークと言える研究。

4.橘木俊詔著『いま、働くということ』ミネルヴァ書房(ⅷ+194+10頁,B6判)

 働きがいを感じられない人が増えているという。本書は、働くことの意味、余暇とは何か、若者・高齢者・女性の労働、働かないこと、など多角的な側面から「働くということ」を考察した、橘木教授の「労働と余暇論」である。同時に、著者が編者を務めた全8巻のシリーズ「叢書・働くということ」をわかりやすく紹介することも本書刊行の目的。

5.水町勇一郎著『労働法入門』岩波書店(ⅹⅹ+226+4頁,新書判)

 労働法の誕生や法源、雇用関係や労働条件等の個別テーマから、「内省」が重要性を増すと著者が予測する労働法の将来まで、労働法の全体的な姿をわかりやすく、歴史的・体系的に解説。労働法も、人の意識や社会のあり方と結びついていることが理解できるのも、専門書とは異なった、本書のような啓蒙書の大きなメリットである。

6.永森秀和著『企業年金再生』日本経済新聞出版社(ⅹ+258頁,B6判)

 超高齢化の進展、日本経済の先行き不安により、公的年金への全面的依存も不可能となり、リタイアメント・プアも現実味を帯びている。これまで影の薄かった企業年金への関心が高まっているが、証券アナリストである著者は、年金制度総体のなかでの企業年金の歴史・現状・問題点を指摘し、企業年金再生の条件を探っている。

7.呉学殊著『労使関係のフロンティア』労働政策研究・研修機構(ⅷ+419頁,A5判)

 2000年以降発表してきた原稿と、書き下ろしの序章=本書の狙い、終章=新たな労使関係、で構成。本文では、パートの組織化、企業グループ・中小企業の労使関係、コミュニティ・ユニオン、地域協議会の動向等を取り上げて分析。労使関係についての調査研究が少ない中で、近年の労使関係の主な動きが把握できる著作である。

8.佐藤厚著『キャリア社会学序説』泉文堂(3+4+242頁,A5判)

 著者が携わったキャリア形成・人材育成に関する研究プロジェクトの成果を編集。組織内キャリア形成とは異なるタイプのキャリア形成を中心に、データに基づき実態を紹介。非正規社員、若者等も分析対象に加えるとともに、ワークライフバランスとの関係も視野におさめている。心理的契約、キャリアアンカー等の概念も援用。

9.辻村みよ子著『ポジティブ・アクション』岩波書店(ⅹ+210+12頁,新書判)

 天の半分を支えている女性に、政治・経済・学術等の分野でも半分支えてもらわなければ、日本の将来は危ういが、男女共同参画社会の実現度は、国際的に後れをとっている。積極的格差是正措置が必須であるが、本書は、「法の下の平等」を超えて「法による平等」を模索するとともに、クオータ制の合憲性クリア方法も検討している。

10.石岡学著『「教育」としての職業指導の成立』勁草書房(ⅹ+233+ⅹⅴ頁,A5判)

 日本では学校から職業への移行に関して、間断なき移行と移行に対する学校の関与という2つの暗黙の前提があるという。本書は、教育としての職業指導という枠組みの成立を戦前期の小学校における職業指導に遡って分析。博士学位取得論文に加筆・修正した著作だが、学校と社会との関係性を考える材料をも提供している。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年10月-2011年11月に労働図書館受け入れ

  1. 安藤仁介著『アイヌ・台湾・国際人権』世界人権問題研究センター(ⅶ+145頁,A5判)
  2. 大阪府立産業開発研究所編『なにわの経済データ 2011年度』大阪府立産業開発研究所(99頁,B6判)
  3. 連合総合生活開発研究所編『職場・地域からの『絆』の再生を』連合総合生活開発研究所(183頁,B5判)
  4. アジア法文化研究班著『アジアの法文化の諸相 第2巻』関西大学法学研究所(188頁,A5判)
  5. ジェトロ編『中国データ・ファイル 2011年版』ジェトロ(ⅶ+351頁,A4判)
  6. 宮里邦雄他著『活動前に読む』旬報社(159頁,新書判)
  7. 『ものづくり基盤技術の振興施策 平成22年度』(ⅹⅳ+342頁,A4判)
  8. スコット・A・シェーン著『「起業」という幻想』白水社(234+42頁,B6判)
  9. 労働者福祉中央協議会編『協同組合の新たな展開』労働者福祉中央協議会(ⅳ+155頁,A4判)
  10. 遠山曉編著『組織能力形成のダイナミックス』中央経済社(4+ⅳ+219頁,A5判)
  11. 延岡健太郎著『価値づくり経営の論理』日本経済新聞出版社(288頁,B6判)
  12. 丸の内総合法律事務所編『災害時の労務管理ハンドブック』産労総合研究所出版部経営書院(94頁,A5判)
  13. 伊藤邦雄著『危機を超える経営』日本経済新聞出版社(ⅲ+339頁,B6判)
  14. 中西尚孝著『やさしい為替変動リスク対策』ジェトロ(101頁,A4判)
  15. 家計経済研究所編『女性・家族・仕事』家計経済研究所(227頁,A4判)
  16. 西谷敏他編『労働組合法 (別冊法学セミナー)』日本評論社(ⅹ+397頁,B5判)
  17. 連合総合生活開発研究所編『日本の職業訓練及び職業教育事業・・・報告書』連合総研(182頁,A4判)
  18. 日本政策金融公庫総合研究所編『女性が輝く小企業』同友館(247頁,A5判)
  19. 竹中恵美子著『社会政策とジェンダー』明石書店(406頁,A5判)
  20. 企業年金連絡協議会資産運用研究会編『チャレンジする年金運用』日本経済新聞出版社(ⅹ+255頁,A5判)
  21. 介護労働安定センター編『介護事業所における労働の現状』介護労働安定センター(6+182+60+16頁,B6判)
  22. 介護労働安定センター編『介護労働者の働く意識と実態』介護労働安定センター(6+156+91+15頁,A4判)
  23. 中島隆信著『障害者の経済学 増補改訂版』東洋経済新報社(ⅹⅱ+248頁,B6判)
  24. 大沢真理他編『「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポジウム』東京大学社会科学研究所(ⅵ+76+204+11頁,B5判)