2011年11月の図書紹介(2011年10月受け入れ図書)

1.大室悦賀他著『ソーシャル・ビジネス』中央経済社(294頁,A5判)

 政府も市場も第三セクターも、社会的ニーズの需給調整機能が完全ではない以上、地域の課題は、機能横断的・総合的に解決策を考えるほかない。本書は、社会性と事業性を兼ね備えた事業を担うと想定されるNPO、ソーシャル・エンタープライズに加え一般企業の事例も分析・検討。地域再興の有力な方途となることが期待される。

2.小野公一著『働く人々のwell-beingと人的資源管理』白桃書房(ⅷ+322頁,A5判)

 職務満足という視点から「人はなぜ働くのか」を探求してきた著者が、働く人々の生きがい・ニーズ(well-being)と人的資源管理の接点を追跡した実験的著作。労働者を設備と同等に見なす経済学的風潮を懸念、意思と要求をもった常に変化する有機体と捉え、QWLや能力開発、女性の雇用、メンタルヘルス等の問題を論述している。

3.太田肇著『承認とモチベーション』同文舘出版(ⅹⅳ+195頁,B6判)

 公益企業とサービス業の正社員、派遣社員、私立及び公立病院の看護師というタイプの異なる組織・従業員を対象に、ほめること、認めること(承認)が労働者のモチベーション、仕事・組織への一体感、評価・処遇に対する満足を高めるかどうかを他の要因を排除して統計学的に解析。承認の効果が裏付けられたと結論づけている。

4.齋藤友里子他編『流動化のなかの社会意識』東京大学出版会(ⅹⅱ+370頁,A5判)

 2005年SSM調査プロジェクトの成果である15巻の報告書を一般読者用に全3巻の「現代の階層社会」シリーズとして刊行。本書はその第三巻。流動性の高まる社会における社会意識の構造と変容を扱っている。階層意識、働き方意識、格差の評価、共同・連帯の階層的構成、の4部で編集。27人の執筆者による24本の論文を所収。

5.三谷直紀編著『労働供給の経済学』ミネルヴァ書房(ⅷ+223頁,A5判)

 「叢書・働くということ」全8巻の第三巻。就業や失業、労働移動も含む広い意味での労働供給に関して経済学的分析を行った論文を収録。労働供給の構造変化、税・社会保障制度と労働供給、労働移動の3部構成。編者は、刊行は遅れたものの、第一線研究者の論稿を得て、本シリーズの掉尾を飾るにふさわしい内容になったと自負。

6.下川裕治編著『アジアでハローワーク』ぱる出版(223頁,A5判)

 特に製造業企業の中国等への進出に伴う日本産業の空洞化が指摘されて久しい。さらに、最近の超円高は、その傾向を一層加速させている。アジア通の著者による本書は、中国・タイ・マレーシア等のアジアでの就活・就労事情を35のストーリーを基に紹介。セイフティ・ネットとしてのアジアでの就労が益々現実味を帯びてきている。

7.木村俊介著『仕事の話』文藝春秋(334頁,B6判)

 仕事に対して一家言をもつスペシャリスト32人にインタビュー。聞き手は黒子に徹し、仕事に対するこだわりやしぶとさを浮き上がらせることに成功。自動車開発者、脳研究者、漫画家等から地に足のついた話を聞き出している。自分探し中の就活生や将来を悩む新入社員は勿論、実態の解明を目指す研究者にもお薦めしたい。

8.守屋貴司編著『日本の外国人留学生・労働者の雇用問題』晃洋書房(ⅹⅰ+257頁,A5判)

 中国人研修・技能実習生や留学生等の雇用問題を、経営学・人事労務の視点から分析するとともに、正規雇用となった外国人留学生等をキャリア開発の観点からも分析。外国人留学生への就職支援の課題、中国帰国留学生の就職難等も紹介。科研費補助研究「外国人労働者のキャリア開発・人事管理に関する研究」の中間報告書。

9.小林美希著『看護崩壊』アスキー・メディアワークス(255頁,新書判)

 医師不足の陰で見過ごされてきた看護師の労働問題の実態と対策を、看護師、病院、識者へのインタビューに基づき、労働経済ジャーナリストが追究。長時間・過密・夜勤労働の負担から、年間10万人もの看護師が離職している看護崩壊の状況は、実態の一層の追究、課題解決のための政策研究、医療制度の改革をも求めている。

10.金子毅著『「安全第一」の社会史』社会評論社(228頁,A5判)

 東日本大震災・福島原発事故は、安全が最優先の課題であることを世界中の人々に改めて思い起こさせた。本書は、安全研究に長年の経験をもつ著者の「安全第一」理念に関する歴史的・文化論的博士学位論文を大幅改稿。工場における労働災害を対象にした著作だが、安全倫理の考察が必要とされている現在、時宜を得た著作。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年9月に労働図書館受け入れ

  1. 東京市政調査会編『蔵のなか』東京市政調査会(151頁,18㎝)
  2. 森田徳編著『六法を英語で読む』公人社(ⅷ+287頁,B5判)
  3. 最高裁判所事務総局編『裁判の迅速化に係る検証に関する報告書 施策編』最高裁判所(ⅴ+193頁,A4判)
  4. 阿部顕三他編『現代経済学の潮流 2011』東洋経済新報社(ⅷ+250頁,A5判)
  5. 戸堂康之著『日本経済の底力』中央公論新社(ⅶ+179頁,新書判)
  6. 山口健治著『新しい隆盛のための礎石』東京リーガルマインド(上=477頁,下=401頁,A5判)
  7. 長谷川洋三著『ゴーンさんが学んだ日本的経営』日本経済新聞出版社(261頁,文庫判)
  8. 酒井穣著『ご機嫌な職場』東洋経済新報社(213頁,B6判)
  9. 日本在外企業協会海外安全センター編『海外安全・危機管理標準テキスト』日本在外企業協会(72頁,B5判)
  10. 神保紀秀著『愛される社員になる !』ダイヤモンド社(159頁,B6判)
  11. 峰隆之著『最新震災に伴う人事労務管理上の諸問題』労働開発研究会(ⅳ+234頁,B6判)
  12. 福島文二郎著『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』中経出版(207頁,B6判)
  13. 栗野俊太郎他著『28歳の仕事術』日本経済新聞出版社(283頁,文庫判)
  14. ロア・ユナイテッド法律事務所編『労災民事訴訟の実務』ぎょうせい(239頁,B5判)
  15. 中窪裕也他著『労働法の世界 第9版』有斐閣(ⅹⅹⅲ+472頁,A5判)
  16. 浅倉むつ子他著『労働法 第4版』有斐閣(ⅹⅶ+498頁,B6判)
  17. 高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター編『難病のある人の就労支援のために』高齢・障害者雇用支援機構(41頁,A4判)
  18. 日本鳶工業連合会編『とび・土工工事業高齢者雇用推進の手引き』日本鳶工業連合会(45頁,A4判)
  19. 小山信康著『フリーマン』トランスワールドジャパン(189頁,B6判)
  20. 奥村禮司著『フレキシブル・ワーク・アレンジメントによるこれからの労働時間管理』日本法令(435頁,A5判)
  21. 竹中恵美子著『家事労働(アンペイド・ワーク)論』明石書店(302頁,A5判)
  22. 雇用開発センター編『就労と将来の暮らしに関する意識調査<20代学生編>』雇用開発センター(42頁,A4判)
  23. 雇用開発センター編『就労と将来の暮らしに関する意識調査<20代社会人編>』雇用開発センター(91頁,A4判)
  24. 雇用開発センター編『就労と将来の暮らしに関する意識調査<50代編>』雇用開発センター(81頁,A4判)
  25. いよぎん地域経済研究センター編『愛媛のシニアビジネス』いよぎん地域経済研究センター(104頁,A4判)
  26. 生活経済政策研究所編『ポスト3.11の構想』生活経済政策研究所(7+80頁,A5判)
  27. 佐々木紀彦著『米国製エリートは本当にすごいのか?』東洋経済新報社(254頁,B6判)
  28. 三柴丈典著『産業医が法廷に立つ日』労働調査会(157頁,B5判)