2011年10月の図書紹介(2011年9月受け入れ図書)

1.小峯敦編著『経済思想のなかの貧困・福祉』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+357頁,A5判)

 10人の経済学者が、日英の近現代の経済思想から、貧困・福祉を析出しているユニークな著書。ハイエク等の反福祉的と見なされている経済学者や、高田保馬等の日本の経済思想家もとりあげられている。イギリス古典派時代、イギリス20世紀、近現代日本、の三部構成で、「良き社会」を構築しようとする苦闘の歴史が描かれている。

2.工藤啓著『NPOで働く』東洋経済新報社(207頁,B6判)

 30代前半であるにもかかわらず著者は、NPO理事長経験7年の実績を持つ、斯界の中での稀有な存在。若者の社会的参加と経済的自立を目指すNPO法人「育て上げネット」で働くひとたちの群像や支援企業等を紹介。著者は、NPOの現場・現実の姿をつぶさに知らせることにより、NPOが若者の職業選択肢の一つになることを願っている。

3.辻勝次著『トヨタ人事方式の戦後史』ミネルヴァ書房(ⅹⅹⅶ+679頁,A5判)

 1940~2000年の60年間に社内報に掲載された6万人分の入社、昇格、表彰、退職等の人事情報と、55人の社員への面接記録にもとづき、トヨタ自動車の経営・労使関係を詳細に追究。数量データ解析と事例分析により、競争・異動・格差が明らかにされている。企業社会の実態を写しだした、序章・終章を含め19章、本文634頁の大著。

4.後藤道夫著『ワーキングプア原論』花伝社(236頁,B6判)

 若者の就業困難と子育て世帯の貧困急増に焦点を合わせて、既発表原稿と講演録を編集。社会・労働運動の弱体化、開発主義的国家体制のもとでの構造改革に対し、企業横断的労働市場の整備、居住保障・失業時保障等の福祉国家型社会制度の重要性を強調する。東日本大震災発生2カ月後の状況も「あとがき」でカバーしている。

5.齋藤純一他編著『社会保障と福祉国家のゆくえ』ナカニシヤ出版(ⅹⅹⅲ+280頁,A5判)

 欧米の経験を参照しつつ、再編期にある社会保障・福祉国家の歴史と現状を確認するとともに、包括的な理念に基づく制度的展望を目的とする、12人の研究者による本質論的著書。福祉国家・社会保障の理念・現状と制度・展望の二部構成。グローバル化、女性の社会進出、家族の動揺の下で、20世紀モデルとは異なる構想力を模索。

6.杣山貴要江著『知的障がい者雇用における経営の福祉性』白地社(187頁,A5判)

 北欧や米国に後れながらも日本でも、特例子会社による障害者雇用がマスコミで紹介されるようになってきた。本書は、知的障害者の雇用について、わが国法制の変遷、海外事例紹介、経営の福祉性の進展(福祉的就労からの発展)の観点から論述。CSR的雇用に加え、差別禁止法制定の側面からも展開。博士学位論文に加筆・修正。

7.木村愛子著『賃金衡平法制論』日本評論社(ⅹⅰ+259頁,A5判)

 50年余にわたり、ILOの女性労働政策・女性労働基準の研究を続けてきた著者による、同一価値労働同一賃金(賃金衡平)原則についての書き下ろし。ILOの活動・政策の紹介、衡平先進国カナダの法制の検討、日本の課題の分析と提言、の三部構成。労基法4条の改正による賃金衡平の実現に向けて、議論の高まりが期待される。

8.河西宏祐著『全契約社員の正社員化』早稲田大学出版部(ⅷ+288頁,A5判)

 本書は、「全契約社員の正社員化」という要求を勝ち取った私鉄中国労働組合広島電鉄支部の1993年からの活動を追跡。1983年から広電支部との交流経験をもつ著者は、社会調査の手法を駆使して、広電支部の路面電車を守る闘い、組合併存の歴史、激変緩和のための創意工夫、等に着目し、分析。既発表論文に序章と終章を追加。

9.鶴光太郎他編著『非正規雇用改革』日本評論社(ⅹⅶ+318頁,A5判)

 『労働市場制度改革』『労働時間改革』に続く、経済産業研究所「労働市場制度改革プロジェクト」の学際的・複眼的研究活動の成果である。「日本の働き方をいかに変えるか」との問題意識の下、多様性に配慮しつつ、非正規雇用問題を経済学的に実証分析。合理性・相当性の視点から非正規雇用改革のあり方を具体的に提言している。

10.櫻井宏二郎著『市場の力と日本の労働経済』東京大学出版会(ⅹⅰ+232頁,A5判)

 スキル偏向的技術進歩と貿易の拡大によるグローバル化が、熟練労働者、非熟練労働者それぞれに与える影響(格差の実態)を理論的・実証的に検討。グローバル化と技術進歩の関係分析も含め、海外の豊富な研究動向を紹介するとともに、日本の同種状況を分析することによって、この分野での日本の研究の乏しさをフォローしている。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年7月-2011年8月に労働図書館受け入れ

  1. 労働問題リサーチセンター編『四半世紀のあゆみ』労働問題リサーチセンター(303頁,B5判)
  2. 野村総合研究所他著『社会インフラ次なる転換』東洋経済新報社(283頁,B6判)
  3. 労働問題リサーチセンター編『コーポレート・ガバナンスの変化と労働法の課題』労働問題リサーチセンター(ⅲ+257頁,A4判)
  4. 宮川公男研究代表『地方財政のガバナンスとシステム改革に関する総合的研究』統計研究会(ⅶ+271頁,A4判)
  5. 厚生労働省労働基準局補償課編著『労災保険適用事業細目の解説 平成23年版』労働新聞社(227頁,A5判)
  6. 厚生労働省職業安定局雇用保険課編著『雇用保険の手引 平成22年度版』労務行政研究所(462頁,A5判)
  7. WIPジャパン編『諸外国における高度人材受入制度及びその運用状況に係る調査報告書』WIPジャパン(ⅷ+419頁,A4判)
  8. 職業能力開発総合大学校編『非鉄金属製造業に係る・・・職務分析の推進に関する調査研究』(384頁,A4判)
  9. 職業能力開発総合大学校編『農業に係る・・・職務分析の推進に関する調査研究』(59+270頁,A4判)
  10. 職業能力開発総合大学校編『業種別職業能力開発体系の構築に関する調査研究』(94頁,A4判)
  11. 職業能力開発総合大学校編『求職者に対する訓練コースのコーディネート等に関する調査研究』(44頁,A4判)
  12. 職業能力開発総合大学校編『人材育成サービスの国際標準化動向を踏まえた公共職業訓練の質保証・・・』(268頁,A4判)
  13. 労働問題リサーチセンター編『構造転換期における人材育成のあり方に関する調査研究報告書』(157頁,A4判)
  14. 労働問題リサーチセンター編『今日の労働問題と明日への展望』労働問題リサーチセンター(109頁,B5判)
  15. 長寿社会開発センター編『利用者と介護者の適切なマッチング゙に関する調査研究報告書』(98頁,B5判)
  16. 連合総合生活開発研究所編『国民視点からの生活復興への提言』連合総合生活開発研究所(ⅳ+82頁,B5判)
  17. 全労済協会編『緊急提言集:東日本大震災』全労済協会(103頁,A4判)
  18. 平野雅之著『ゼロ災運動が会社を変えた!』中央労働災害防止協会(248頁,新書判)
  19. 日本経済調査協議会編『ロボット技術(RT)が拓く豊かな日本』日本経済調査協議会(ⅲ+41頁,A4判)
  20. 守屋貴司他著『日本における中山間地域の活性化・・・地域マネジメント研究』全国勤労者福祉・共済振興協会(107頁,A4判)
  21. 地域活性学会編『地域再生への道:3.11大震災後の地域づくり』地域活性学会(233頁,A4判)
  22. 法政大学大原社会問題研究所編『持続可能な地域における社会政策策定にむけての事例研究』(156頁,A4判)
  23. 参議院共生社会・地域活性化に関する調査会編『共生社会・地域活性化に関する調査報告』(49+3頁,A4判)
  24. 今後の日本郵政グループの事業戦略とビジネスモデル・・・研究会編『新たなビジネスモデルの確立に向けて』(2+108頁,A4判)
  25. 日本経済調査協議会編『「未来を創る木材産業イノベーション研究会」報告』日本経済調査協議会(91頁,A4判)
  26. 日本経済調査協議会編『緊急提言 東日本大震災を新たな水産業の創造と新生に』日本経済調査協議会(ⅴ+35頁,A4判)