2011年9月の図書紹介(2011年8月受け入れ図書)

1.自治体の偽装請負研究会編『自治体の偽装請負』自治体研究所(174頁,A5判)

 官製ワーキングプアや公共サービス業務の劣化等、公務の市場化がもたらす偽装請負等の問題点を分析。弁護士が実態と問題点を論述し、労働組合役員がこの問題に対する各地の取り組み事例を紹介。正規職員⇒非正規職員⇒派遣⇒委託・請負の活用、というコスト削減プロセスや指定管理者制度は、公務の見直しを求めている。

2.横山和子著『国際公務員のキャリアデザイン』白桃書房(ⅷ+225頁,A5判)

 体験談はともかくとして、いわゆる国際公務員のキャリアに関する先行研究は極めて少ない。本書は、国際機関に勤務する日本人職員の満足度等の意識構造を質問紙調査、聴き取り調査に基づき分析。著者自身もFAO等3つの国際機関に9年間勤務経験を持つが、24人の国際機関勤務者のキャリアパスの聴き取り記録も興味深い。

3.大瀧雅之著『貨幣・雇用理論の基礎』勁草書房(ⅹⅰ+151頁,A5判)

 本書は、著者のケインズ経済学研究の集大成であるという。動学的一般均衡理論に基づき貨幣・雇用理論が展開されている。第3章の「非自発的失業の存在証明」では、非自発的失業が社会の安定的基盤を揺るがすことが強調され、企業がだれのものであるかも明確に示されている。第Ⅱ部ではケインズ理論の哲学的背景にも言及。

4.有森美木著『世界の年金改革』第一法規(378頁,A5判)

 将来を嘱望されながらも、2010年7月に若くして死去した教え子の既発表論文を指導教官が編集。110本を超える論文等から23編に絞り込んだという。7部構成の著書だが、大きくは、英・独・中国等の年金制度・年金改革、確定拠出年金、年金の経済学、法的問題、の4つのテーマに分かれる。研究が引き継がれることを期待したい。

5.石井知章著『現代中国政治と労働社会』御茶の水書房(ⅷ+211頁,A5判)

 既発表原稿を編集した本書は、主に、中国建国以来の労働者集団・工会(労働組合)の民主化への参加プロセス、社会主義市場経済体制下での動向を紹介。西側資本主義社会やロシア等とも異なる中華全国総工会を歴史的に追跡。変転極まりない中国社会の中で、「アジア的」価値観を持つとされる労働組合の動きからも目が離せない。

6.大和田敢太著『労働者代表制度と団結権保障』信山社(ⅹⅴ+303頁,A5判)

 政府の研究会に、なぜこの人がと思う人が指名されていることが間々ある。本書は、労働委員会・審議会等の労働側委員の代表性と団結権の問題を、情報公開制度を通じて取得した文書・資料をもとに行ってきた調査研究活動の成果をまとめた著書。選出は、公平性、客観性、公開性を原則にすべきと主張し、代表性認定制度を提案。

7.服部泰宏著『日本企業の心理的契約』白桃書房(ⅶ+223頁,A5判)

 組織と個人の相互期待である「心理的契約」概念を日本企業と従業員関係に適用して検討した著書。心理的契約尺度の開発により、その内容と契約の履行状況を把握し、企業側の契約不履行が従業員の態度・行動に与える影響を分析。評価・処遇制度の変化や雇用形態の多様化等、雇用制度の変化の影響を理論的・実証的に追究。

8.埋橋孝文著『福祉政策の国際動向と日本の選択』法律文化社(ⅶ+218頁,A5判)

 福祉政策に包摂されない層が増加する中で、ワークフェア等福祉政策の新しい国際動向をフォロー。国際比較の視点から、新しい社会保障・福祉政策論を提示すること、欧米の雇用志向の社会政策の経験を検討して日本への示唆を得ること等が目的。副題が示すように、著者はエスピン-アンデルセンの研究の発展を目指している。

9.松本勝明著『ヨーロッパの介護政策』ミネルヴァ書房(ⅹ+275頁,A5判)

 本書は、EUレベルでの介護政策と各国レベルへのその影響を概観したあと、社会保険中心の社会保障制度を運営するドイツ、オーストリア、スイスの介護制度を比較分析。家族介護支援、介護士と看護師との関係、外国人による介護等を紹介、わが国とも比較。家族介護者に対する現金給付制度は、わが国でも検討に値するであろう。

10.下野惠子他著『看護師の熟練形成』名古屋大学出版会(ⅷ+252頁,A5判)

 病院に勤務する看護師の技術水準が勤続とともに向上しない原因を追究。過剰な病床が看護師の多忙を招来していること、基礎教育と職場研修の連携不全、技術向上インセンティブの欠除を指摘、提言を行っている。労働経済学者と看護技術教育者の長年の共同研究の成果。16時間に及ぶ看護師の長時間労働等の実態も紹介。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年6月-2011年7月に労働図書館受け入れ

  1. 鈴木貞美編『『Japan To-day』研究』国際日本文化研究センター(375頁,B5判)
  2. 岩瀬大輔著『入社1年目の教科書』ダイヤモンド社(236頁,B6判)
  3. 人権問題研究センター編『救済の社会史』世界人権問題研究センター(ⅵ+120頁,A5判)
  4. 木村盛世著『辞めたいと思っているあなたへ』PHP研究所(221頁,B6判)
  5. 楊世英著『現代アジア経済論』昭和堂(ⅷ+251頁,A5判)
  6. 稲葉元吉著『組織論の日本的展開』中央経済社(ⅴ+ⅵ+185頁,A5判)
  7. 宮島英昭編著『日本の企業統治』東洋経済新報社(ⅷ+449頁,A5判)
  8. 中小企業総合研究機構編『社会起業家と自治体等の協働による地域活性化の新たな展開・・・』(255頁,A4判)
  9. 下津浦正則著『「育成型人事制度」のすすめ』東洋経済リサーチセンター(191頁,B6判)
  10. 労務理論学会編『経営労務事典』晃洋書房(ⅷ+285頁,A5判)
  11. 山下徹著『貢献力の経営(マネジメント)』ダイヤモンド社(243頁,B6判)
  12. 伊奈川秀和著『フランス社会保障法の権利構造』信山社(ⅹⅱ+555頁,A5判)
  13. 山口昇編『介護保険施設の運営管理と主要課題』東京法令出版(4+220頁,B5判)
  14. 法政大学大原社会問題研究所編著『日本労働年鑑 第81集』労働旬報社(475頁,A5判)
  15. 総務省統計局編『労働力調査の解説』総務省統計局(181頁,A5判)
  16. 雇用・能力開発機構職業能力開発大学校編『職業訓練基準の分野別見直しに係る基礎研究』(336頁,A4判)
  17. 日本女性学習財団編『女性のキャリア形成支援ハンドブック』日本女性学習財団(79頁,A5判)
  18. 駒田富枝著『働く女性の母性保護』学習の友社(118頁,A5判)
  19. 東京都労働経済局労働部労働組合課編『派遣労働に関する実態調査』東京都労働経済局(212頁,A4判)
  20. 中央労働災害防止協会編『衛生管理者の実務』中央労働災害防止協会(470頁,B5判)
  21. 濱本真男著『「労動」の哲学』河出書房新社(188頁,B6判)
  22. 連合総合生活開発研究所編『困難な時代を生きる人々の仕事と生活の実態』連合総研(296頁,A4判)
  23. 松井彰彦他編著『障害を問い直す』東洋経済新報社(ⅹⅴ+400+13頁,B6判)
  24. 全労済協会編『希望のもてる社会へ』全労済協会(44頁,B5判)
  25. 東京ケアユニオン編『高口光子の「生活の場におけるターミナルケア」』東京ケアユニオン(98頁,A5判)
  26. 大島伸一他編『在宅医療の展望』中央法規出版(ⅹⅹⅲ+464頁,A5判)
  27. 片山壽著『父の背中の地域医療』社会保険研究所(248頁,A5判)
  28. 神代雅晴編『高齢者雇用に役立つエイジマネジメント』労働調査会(ⅶ+327頁,A5判)