2011年7月の図書紹介(2011年6月受け入れ図書)

1.今村健一郎著『労働と所有の哲学』昭和堂(ⅹⅰ+239+ⅷ頁,A5判)

 自明化されてきた所有権を、なぜ今追究しているのか。国民生活の悪化のためである、という。著者は、歴史を遡ってロックの政治哲学に辿りついている。ロックの説く「労働による所有」は、他者の権利への配慮が前提だが、その配慮がおろそかにされた場合に、ワーキング・プアや非正規雇用が発生する、と著者は主張。

2.小﨑敏男他編著『キャリアと労働の経済学』日本評論社(ⅹⅱ+276頁,A5判)

 大学学部生向け労働経済学のテキスト。編者によれば本書の特徴は、内部労働市場に外部労働市場と同等のウェイトを置いている、理論とデータのバランスに配慮している、できるだけ数式を使わない、ことだという。喫緊の重要問題である社会保障や若者の労働市場も網羅している。主に、故水野朝夫先生の門下生が執筆。

3.安里和晃編著『労働鎖国ニッポンの崩壊』ダイヤモンド社(351頁,B6判)

 笹川平和財団が設置した研究チームの活動成果。少子高齢化に伴う人口変動に対処するために、移民・外国人労働者の受入れという選択肢がありうるか、を研究。石弘之代表の下、外国人を含む研究者・NPO関係者等16人が執筆。豊富なデータと事例に基づき、日本が多文化共生に堪えられるかを検証、とるべき方向性も明示。

4.大橋史恵著『現代中国の移住家事労働者』御茶の水書房(ⅹⅲ+304頁,A5判)

 北京で家事労働者として働く農村出身移住女性を詳述。2004~2007年の北京での断続的な出稼女性の参与観察や聞き取り、仲介業者へのインタビュー等による。都市−農村関係、家族関係の変遷、北京市の労働政策、移住労働者自身のライフ・ヒストリー等、重層的に事実を積み重ねて実態に肉薄。学位申請論文に加筆・修正。

5.髙橋基樹著『これからの「労働組合」の話をしよう』ビーケイシー(237頁,B6判)

 組織率の低下に伴い、労働組合の存在意義が問われて久しい。本書は、組合活動家や労働法研究者のものとは一味違った、組織活性化コンサルタントの著作。労働組合の新しいあり方を模索し、職場のコミュニケーション不全解消や人材養成機能等、経営サポート機能を提案。パイの拡大やユニオン・ショップの廃止も検討。

6.橋口昌治著『若者の労働運動』生活書院(307+15頁,B6判)

 著者は、近年結成された労働市場横断的な個人加盟の労働運動を「若者の労働運動」として分析、労働運動を道具的に捉える傾向を指摘。集団との関係では個人の自由を尊重するとともに、今後の運動の方向として社会運動と労働運動の連帯である社会運動ユニオニズムを提示。労働運動の経験豊富な研究者による著作。

7.野田進著『労働紛争解決ファイル』労働開発研究会(ⅹ+332頁,A5判)

 長年に渡る、労働委員会での集団的労働紛争解決、紛争調整委員会での個別的労働紛争解決の経験を持つ著者が、制度の仕組みや課題を明らかにし、改善も提案。中韓台英仏の実情を調査し、理論的分析も行っている。労働審判も含め、多様な制度が用意されたが、実績は不十分との認識を提示。既発表原稿を編集した作品。

8.樋口明彦他編著『若者問題と教育・雇用・社会保障』法政大学出版局(ⅹⅲ+293頁,A5判)

 東アジアとの国際比較の視点から、地方・周縁に位置する若者に焦点を合わせて、日本社会の中で若者が占めている地位を多元的に問い直すことが本書の目的。雇用の不安定化が、教育・社会保障における若者問題にも影響を与えていると認識。若者問題を複合的に捉えることで、福祉国家のあり方まで射程に収めている。

9.岩永理恵著『生活保護は最低生活をどう構想したか』(ⅴ+320+23頁,A5判)

 生活保護法が保障する「最低限度の生活」とは何か。本書は、生活保護法の歴史を、法の成立(1946年)から2000年以降の近年まで7つの時期に分け、最低限度の生活がどのように構想されてきたかを検討。低い生活保護世帯の捕捉率、多様な貧困状態の存在が本書の執筆動機である。博士学位論文に加筆・修正している。

10.猿田正機他編著『トヨタの雇用・労働・健康』税務経理協会(310頁,A5判)

 本書は、トヨタの動機づけ管理、労使の時短協議、過労死問題等、統一的な方針によるものではなく、多様なテーマで構成。編者は、長年トヨタを追い続けているトヨタ研究の第一人者。リーディングカンパニーであり続け、大量リコールショックからも立ち直りつつあるトヨタは、研究意欲を喚起し続ける対象なのであろう。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年4月-2011年5月に労働図書館受け入れ

  1. 孝忠延夫他編『「マイノリティ」という視角』関西大学マイノリティ研究センター(上=ⅳ+305頁,下=ⅱ+202頁,A5判)
  2. 山脇泰嗣編著『詳説 入管法の実務』新日本法規出版(20+660頁,A5判)
  3. 大阪府商工労働部編『大阪の経済成長と産業構造』大阪産業経済リサーチセンター(96頁,A4判)
  4. 一橋大学日本企業研究センター編『日本企業研究のフロンティア 7』一橋大学日本企業研究センター(ⅵ+131頁,B5判)
  5. 大阪府商工労働部編『大阪府内中小製造企業の人材戦略』大阪産業経済リサーチセンター(126頁,A4判)
  6. 大阪府商工労働部編『グローバル化に対応する中堅・中小企業』大阪産業経済リサーチセンター(175頁,A4判)
  7. 政府の人的資源管理等に関する検討会編『政府の人的資源管理等に関する研究報告書』(ⅳ+78頁,A5判)
  8. 牧野雅彦著『マックス・ウェーバーの社会学』ミネルヴァ書房(ⅶ+244+7頁,B6判)
  9. 三柴丈典著『裁判所は産業ストレスをどう考えたか』労働調査会(ⅹⅶ+402頁,B5判)
  10. 厚生労働省雇用保険課編『雇用保険関係法令集 2011年版』労務行政研究所(1213頁,A5判)
  11. 阿部修人著『家計消費の経済分析』岩波書店(ⅹⅴ+258頁,A5判)
  12. 厚生労働省大臣官房統計情報部編『若年者雇用実態調査報告』厚生労働省(158頁,A4判)
  13. えひめ地域政策研究センター編『県内雇用・就職状況調査報告書』えひめ地域政策研究センター(416頁,A4判)
  14. 求人欄研究会編著『ザ・求人欄』TOブックス(229頁,15×22㎝)
  15. 早稲田大学人間科学部産業社会学研究室編『先輩の仕事 9』早稲田大学人間科学部(169+9+55頁,A5判)
  16. 早稲田大学人間科学部産業社会学研究室編『人間を歩く 16』早稲田大学人間科学部(290頁,B5判)
  17. 早稲田大学人間科学部産業社会学研究室編『人間を歩く 17』早稲田大学人間科学部(398頁,B5判)
  18. 21世紀職業財団編『わかりやすいセクシュアルハラスメント裁判例集 改訂版』21世紀職業財団(345頁,A5判)
  19. 職業能力開発総合大学校編『諸外国における職業教育訓練を担う教員・指導員の養成に関する研究』(350頁,A4判)
  20. 京都勤労者学園編『職場・仕事の困りごとを相談されたことがありますか?』京都勤労者学園(16頁,A4判)
  21. 宇都宮大学国際学部多文化公共圏センター編『学生とアジア・世界の未来を考える』宇都宮大学国際学部(58頁,B5判)
  22. 大久保俊介著『就活に囚われる大学生』大久保俊介(25頁,B6判)
  23. 大阪府商工労働部編『知識集約型ビジネス支援サービス業(KIBS)に関する研究』大阪産業経済リサーチセンター(89頁,A4判)
  24. 末廣昭他著『中国の対外膨張と大メコン圏(GMS)・CLMV』東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点(ⅷ+273頁,B5判)