2011年6月の図書紹介(2011年5月受け入れ図書)

1.神野直彦他編『自壊社会からの脱却』岩波書店(ⅹⅹ+224+10頁,B6判)

 経済、社会保障、教育、環境問題等の最前線で活躍する研究者の共同執筆。閉塞感が蔓延し、持続困難な「自壊社会」からの脱却を目指すグランド・デザインを提示。個々の制度の連携強化による、知的で持続可能な包摂型成長社会をヴィジョンとして描いている。全労済協会のプロジェクト「希望のもてる社会づくり」研究の成果。

2.森田園子著『キャリア・パスの壁を破る』八千代出版(218頁,A5判)

 日韓の女性労働者間には多くの類似点がある一方、異質点も見られる。第Ⅰ部では日本との比較に基づき高学歴化・非正規化等の韓国における女性労働の現代的特質を紹介。第Ⅱ部では韓国の秘書職を事例に、女性による女性職の選択の実態を分析。著者は選択の幅を広げること(=「壁を破る」こと)の重要性を主張している。

3.佐藤博樹他著『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』勁草書房(ⅹⅲ+212+ⅱ頁,B6判)

 個々の労働者にとって、ワークとライフのバランスがとれている状態が望ましいのはいうまでもない。著者たちは、WLBの達成には、職場の管理職の時間管理や評価の仕組みがキーポイントであると主張、長時間残業削減等のための具体策を提示。研究者、企業実務家等で構成された東大社研の研究プロジェクトの成果である。

4.菅山真次著『「就社」社会の誕生』名古屋大学出版会(ⅴ+521頁,A5判)

 著者は「就社」社会の成立を歴史的に追究し、第一次産業従事者割合等から日本的雇用慣行が定着する1950年代まで遡るが、終身雇用は戦前の産業化過程に胚胎していたという。本書は、学歴主義、企業と学校の連携等に着目し、間断のない学校から職業への移動を歴史的に追跡することで就社社会・日本の誕生を描き出している。

5.小嶌典明著『労働市場改革のミッション』東洋経済新報社(ⅹ+316頁,A5判)

 政府の総合規制改革会議等に参画してきた著者の既発表論文を編集。現在は、労働市場改革を志す者にとっては雌伏の時代であると著者は嘆いているが、政権の現状を見据え、再起を虎視眈々と狙っているに違いない。本書の刊行が、労働者の雇用安定確保と求職者の雇用創出促進に向けた議論の起爆剤となることを望みたい。

6.重松清他著『そういうものだろ、仕事っていうのは』日本経済新聞出版社(318頁,B6判)

 日経新聞電子版に連載された仕事をめぐる中編小説の紙媒体版。2010年は何度目かの「電子書籍元年」と言われたが、日本ではBL・TL以外、影響力は大きくない。しかし、本書に収録されている作品は、重松・石田等今を時めく小説家の執筆であるだけに、働くことに伴うペーソスや思いが心にしみ渡ってくるものとなっている。

7.西谷敏著『人権としてのディーセント・ワーク』旬報社(351+4頁,B6判)

 本書は、ディーセントワークをキーワードに、雇用と労働のあり方を法的な観点から考察した著作。ディーセントワークを「働きがいのある人間らしい仕事」と読み替え、その条件として①安定的雇用②公正かつ適正な処遇③人間らしい働き方、をあげる。著者は、この働き方を憲法が保障している基本的人権と位置づけている。

8.高井晃他著『闘うユニオン』旬報社(203頁,B6判)

 1979年総評全国一般の傘下組合として誕生した東京ユニオンは、1990年全国一般から独立、個人加盟のコミュニティ・ユニオンとなった。本書は、同ユニオンの30年に及ぶ闘いの記録。京品ホテル、神谷商事等の倒産争議や派遣労働者の闘いが紹介されているが、今後の運動の目標をディーセントワークの実現に狙い定めている。

9.戸村健作著『ドキュメント請負労働180日』岩波書店(208頁,B6判)

 大学院生時代の180日間の電機工場と自動車工場での偽装請負労働者としての体験を考察した成果。間接雇用制度の歴史について説明するとともに、請負労働の雇用条件、労働内容、労働者間ネットワーク等を紹介、求められている支援内容(=「居場所」のある社会の構築)も提案している。既発表論文に加筆・修正した著作。

10.同志社大学社会学部産業関係学科編『"働く"を学ぼう』同志社大学(163頁,A5判)

 同志社大学産業関係(Industrial Relations)学科所属の研究者の原稿と、石田光男教授と学生等との座談会で構成。経営者、従業員双方の視点(雇用関係・労使関係)から非正社員、女性労働、転職等の現状を紹介、働き方をめぐる考え方を学生に提案。経済理論や法律論だけでない、働くことをリアルに見つめる重要性を説く。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年3月-2011年4月に労働図書館受け入れ

  1. 総務省行政管理局編『個人情報保護法関係資料集 平成23年4月』総務省(651頁,A5判)
  2. 国家公務員の労働基本権(争議権)に関する懇談会編『国家公務員の労働基本権(争議権)・・・報告書』(55頁,A4判)
  3. 芦部信喜著『憲法 第5版』岩波書店(ⅹⅹⅹ+400+18頁,A5判)
  4. 全労済協会編『客員研究員報告書』全労済協会(51頁,B5判)
  5. 廣谷章雄他著『消費者紛争』司法研修所(2+120頁,A5判)
  6. 中川辰洋著『ジョン・ローの虚像と実像』日本経済評論社(ⅴ+284頁,A5判)
  7. 久保庭真彰著『ロシア経済の成長と構造』岩波書店(ⅹⅶ+222頁,A5判)
  8. 国立社会保障・人口問題研究所編『現代日本の世帯変動』国立社会保障・人口問題研究所(ⅲ+312頁,A4判)
  9. 中小企業家同友会全国協議会企業環境研究センター編『中小企業の進む道』中小企業家同友会全国協議会(111頁,B5判)
  10. 野田進著『事例判例労働法』弘文堂(ⅹⅲ+425頁,A5判)
  11. 山本敏行著『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』ソフトバンククリエイティブ(230頁,B6判)
  12. 佐藤政人著『2013年、日本型人事は崩壊する!』朝日新聞出版(252頁,B6判)
  13. 職業能力開発総合大学校編『国民的職業能力形成の諸条件』職業能力開発総合大学校(88頁,A4判)
  14. 労務研究所編『福利厚生の今後をどう考えるか』労務研究所(ⅲ+79頁,B5判)
  15. 佐藤隆著『職場のメンタルヘルス実践ガイド』ダイヤモンド社(287頁,B6判)
  16. 青山平八他著『働くときのA・B・C』全国労働基準関係団体連合会(263頁,A5判)
  17. 西岡英毅著『課税の経済分析』大阪府立大学経済学部(ⅴ+166頁,B5判)
  18. 内閣府大臣官房政府広報室編『社会意識に関する世論調査 平成23年1月調査』内閣府(337頁,A4判)
  19. 真実一郎著『サラリーマン漫画の戦後史』洋泉社(189頁,新書判)
  20. 荒木尚志他著『ケースブック労働法 第3版』有斐閣(ⅹⅴ+429頁,B5判)
  21. 大内伸哉著『最新重要判例200労働法 増補版』(ⅹⅲ+235頁,B5判)
  22. 厚生労働省大臣官房統計情報部編『若年者雇用実態調査報告』厚生労働省大臣官房統計情報部(158頁,A4判)
  23. 乾彰夫編『若者の教育とキャリア形成に関する調査』若者の教育とキャリア形成に関する研究会(161頁,A4判)
  24. 全国中小企業団体中央会編『中小企業における障害者雇用事例集』全国中小企業団体中央会(80頁,A4判)
  25. 早稲田大学編『教育訓練サービス分野・・・国際標準化等の動向を踏まえた労働市場インフラ・・・』早稲田大学(45頁,A4判)
  26. 紙パ連合編『2010年度労働条件実態調査』紙パ連合(268頁,A4判)
  27. 古山修他著『委託・請負で働く人のトラブル対処法』東洋経済新報社(147頁,A5判)
  28. 中央労働災害防止協会編『安全衛生法令要覧』中央労働災害防止協会(1277+20頁,B6判)
  29. 出版労連調査部編『出版産業賃金労働条件資料集 2011年度』出版労連(88頁,B5判)
  30. 熊谷金道他著『春闘の歴史と展望』学習の友社(238頁,B6判)
  31. 全労済協会編『勤労者の社会的リスクと生活意識調査結果報告』全労済協会(190頁,A4判)
  32. 連合総研編『「インターネットによる勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート調査」調査報告書』連合総研(44+11頁,A4判)
  33. 総合研究開発機構編『時代の流れを読む』総合研究開発機構(107頁,A4判)
  34. 連合総研編『非正規労働者の「発言」の拡大とキャリアアップ』連合総研(328頁,A4判)
  35. 中村尚史他編『炎の記憶 圧延・設備編』東京大学社会科学研究所(177頁,B5判)
  36. 国立社会保障・人口問題研究所編『現代日本の家族変動 第4回』国立社会保障・人口問題研究所(ⅱ+357頁,A4判)
  37. 中山惠子編著『経済学周辺の確率過程と教育』中京大学経済学部附属経済研究所(ⅵ+133頁,A5判)
  38. 日本看護協会編『潜在看護職員の就業に関する報告書 平成21年度版』日本看護協会中央ナースセンター(250頁,A4判)
  39. 櫨山健介他編『中国・広東省の自動車産業』早稲田大学産業経営研究所(242頁,B5判)
  40. 日通総合研究所編『企業物流短期動向調査(日通総研短観)調査結果 2011年3月調査』日通総合研究所(30頁,A4判)