2011年4月の図書紹介(2011年3月受け入れ図書)

1.渋谷望著『ミドルクラスを問いなおす』日本放送出版協会(252頁,新書判)

 独力でプロレタリア化圧力から抜け出す努力をしている人々をミドルクラスと定義、総中流社会から現下の格差社会までを歴史的に渉猟。海外の事例も参照し、ミドルクラス社会の内奥を能力、住宅、文化の面から分析。ミドルクラス社会の困難性からの脱出の希望を「小文字のアナーキスト」の行動スタイルに見い出している。

2.五十嵐泰正編『越境する労働と「移民」』大月書店(313頁,B6判)

 編者による「越境する労働」の見取り図のもと、8つの章・ノートで構成。高度人材、技能実習、特定活動、日系人等を取り上げるとともに、外国人労働者政策についての分析も収録。偏狭なナショナリズムに陥ることなく、生産的なグローバリズムを享受するためには、「移民」国家へのロードマップを描く構想力が必要と主張。

3.厳善平著『中国農民工の調査研究』晃洋書房(ⅳ+280頁,A5判)

 本書は、対照的な労働市場をもつ上海市と珠江デルタ地帯に暮らす農民工(農村出身の出稼ぎ労働者)を対象とした研究書である。胡・温体制による移住規制の緩和、農民工差別改革のもと、人口移動、移動者の労働と暮らしを開発経済学等の枠組みで分析、農民工の労働市場、労働条件、生活内容をつまびらかにしている。

4.森ます美他編『同一価値労働同一賃金原則の実施システム』有斐閣(ⅹⅹⅱ+356頁,A5判)

 社会政策と労働法の研究者で構成されたペイ・エクイティ科研費研究会の成果。ILO・国連の専門委員会等が男女間及び正規・非正規間の賃金格差の是正を勧告しているが、アンケート・インタビューによる実態把握・要因分析に基づき、実施システム構築に焦点を合わせ研究を実施。同一賃金は、理念から実行の段階にある。

5.西谷敏他編『労働契約と法』旬報社(ⅹⅴ+341頁,A5判)

 関西の労働法理論研究会に集う研究者14人の共同研究の成果。労働契約法が施行されて3年弱が経過したが、本書は、制定法と学問的領域としての労働契約法との乖離を埋める努力である、という。解釈論と立法論両面からの分析に加え、法自体には規定されていない労働者派遣、従業員代表制、企業組織再編等論文も所収。

6.チャールズ・ウェザーズ著『アメリカの労働組合運動』昭和堂(ⅶ+235頁,A5判)

 民主主義と競争のバランスの上に成り立つ「アメリカ・モデル経済社会」シリーズ全10巻の第七巻。ビジネス・ユニオニズムから社会運動ユニオニズムへのAFL-CIOの運動転換とその社会への影響を、全体的な歴史の流れと重要事件で解明しようとしている。日本の大学で日本の労働運動を研究するアメリカ人政治学者の著作。

7.前田信彦著『仕事と生活』ミネルヴァ書房(ⅹⅳ+273+25頁,B6判)

 現代労働社会の特徴は個人化と関係性の貧困であり、豊かな労働者生活の実現には、著者がワーク・ライフ・スキルと命名した能力が不可欠である、という。学校・企業教育等での能力涵養には政策的支援も必要であることを強調。大胆な仮説は、著者の関係性の回復に向けた苦闘の成果である。「叢書・現代社会学」の1冊。

8.乾彰夫著『「学校から仕事へ」の変容と若者たち』青木書店(286頁,B6判)

 本書の目的は、学校から仕事への移行過程で、不安定化・孤立化を強める若者に起きていることとその社会的課題を明らかにすることである。戦後日本の歴史的経緯とヨーロッパでの事例、量的・質的調査により、移行過程における個人化の進行、学歴・階層・性別格差の存在、コミュニティの重要性、等を導き出している。

9.小玉徹著『福祉レジームの変容と都市再生』ミネルヴァ書房(ⅷ+276頁,A5判)

 「現代の福祉国家」シリーズの一冊。ポスト工業化に伴う雇用の流動化が、失業とホームレス化も惹起していると分析。職と住まいの同時喪失に対し、欧米との比較研究により新たなセーフティネットを模索。労働・社会政策にも関与を深めつつ雇用と住宅の再構築を目指す、住宅政策研究者による都市再生のための提言の書。

10.大分大学経済学部編『地域ブランド戦略と雇用創出』白桃書房(ⅶ+209頁,A5判)

 雇用の維持・創出、地域の活性化の達成には、農水産物等の地域資源のブランド化は有力な手段である。本書は、経営学的視点からの理論的整理、事例研究、アンテナ・ショップの現状分析、アンケート調査等により、地域ブランドによる雇用創出の実態に迫っている。大分大学経済学部の4人の研究者による共同研究の成果。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2011年1月-2011年2月に労働図書館受け入れ

  1. 串夏身他著『インターネット時代のレファレンス』日外アソシエーツ(ⅹⅱ+216頁,A5判)
  2. 中西五洲著『友愛の社会を求めて』同時代社(201頁,B6判)
  3. 土田とも子編『全所的共同研究の40年 インタビュー記録編』東京大学社会科学研究所(436頁,B5判)
  4. 法政大学大原社会問題研究所編『社会労働大事典』旬報社(ⅶ+1246頁,A5判)
  5. 畠中信夫著『法令読解ノート』全国労働基準関係団体連合会(166頁,A5判)
  6. 晴山一穂他著『欧米諸国の「公務員の政治活動の自由」』日本評論社(ⅶ+237頁,A5判)
  7. 藻谷浩介著『デフレの正体』角川書店(270頁,新書判)
  8. 松谷明彦著『人口減少時代の大都市経済』東洋経済新報社(293頁,B6判)
  9. 佐々木利廣他著『組織間コラボレーション』ナカニシヤ出版(ⅷ+213頁,A5判)
  10. 野中郁次郎監修『組織は人なり』ナカニシヤ出版(265頁,B6判)
  11. 国土交通省他編『The Telework Guidebook』国土交通省(ⅳ+118頁,A4判)
  12. 吉田実著『「新・ぶら下がり社員」症候群』東洋経済新報社(205頁,B6判)
  13. 全国勤労者福祉・共済振興協会編『国際保険監督および国際会計基準…研究』全労済協会(64頁,B5判)
  14. 原克著『サラリーマン誕生物語』講談社(334頁,B6判)
  15. 労働法令協会他編『労働基準法解釈総覧 改訂14版』労働法令協会(836+14頁,B6判)
  16. 経営法曹会議編『最高裁労働判例 第2期第5巻』日本経団連出版(375頁,A5判)
  17. 原みどり著『若年労働力の構造と雇用問題』創成社(ⅹ+196頁,A5判)
  18. バーバラ・ポーコック著『親の仕事と子どものホンネ』岩波書店(ⅷ+254頁,B6判)
  19. 雇用・能力開発機構編『全国民的職業能力形成を目指して』職業能力開発総合大学校(38頁,A4判)
  20. スティーブン・R・コヴィー他著『グレート・キャリア』キングベアー出版(ⅷ+250頁,B6判)
  21. 成澤廣修著『なんちゃって育児休暇でパパ修行』主婦の友社(191頁,B6判)
  22. 労働法令協会編『わかりやすい改正育児・介護休業法の解説』労働法令(246頁,A5判)
  23. 福地保馬著『ディーセント・ワークの実現を』学習の友社(118頁,A5判)
  24. ミレイユ・ジュリアーノ著『フランス女性の働き方』日本経済新聞出版社(241頁,B6判)
  25. 平井京之介著『村から工場へ』NTT出版(ⅲ+257頁,B6判)
  26. 佐藤昭夫編著『早稲田大学企業年金裁判』悠々社(456頁,A5判)
  27. 高知聡著『高揚した日本労働運動の軌跡』現代思潮新社(342頁,B6判)
  28. 森口朗著『日教組』新潮社(239頁,新書判)
  29. 『労働史・史料研究会オーラル・ヒストリーⅡ』平成22年度日本学術振興会科学研究費補助金研究成果報告書(190頁,A4判)
  30. 『和田正オーラル・ヒストリー』平成22年度日本学術振興会科学研究費補助金研究成果報告書(133頁,A4判)
  31. 中間真一他著『仕事と子育て』幻冬舎(205頁,新書判)
  32. 渥美由喜著『イクメンで行こう!』日本経済新聞出版社(327頁,B6判)
  33. 中村尚史他編『炎の記憶』東京大学社会科学研究所(182頁,B5判)
  34. 山口美和著『日本企業における「和」の機能』大阪大学出版会(ⅳ+177頁,B6判)
  35. 新井紀子著『コンピュータが仕事を奪う』日本経済新聞出版社(221頁,B6判)
  36. 牧野義博著『人間の尊厳と労働』丸善プラネット(ⅹⅰ+345頁,B6判)
  37. ルース・シュウォーツ・コーワン著『お母さんは忙しくなるばかり』法政大学出版局(ⅹⅹⅱ+246+56頁,B6判)
  38. 渡辺純子著『産業発展・衰退の経済史』有斐閣(ⅴ+359頁,A5判)
  39. 清成忠男著『地域創生への挑戦』有斐閣(ⅷ+262頁,A5判)
  40. 日通総合研究所編『企業物流短期動向調査 2010年12月調査』日通総合研究所(30頁,A4判)