2011年2月の図書紹介(2011年1月受け入れ図書)

1.奥野信宏他著『新しい公共を担う人びと』岩波書店(ⅹⅳ+192頁,B6判)

 血縁・地縁・社縁の希薄化、生産年齢人口の減少、超高齢化等の下で、自助が困難になった人々の生活現場のニーズに対応するため、「新しい公共」への関心が高まっている。本書は各地の事例の分析により、NPO、地域コミュニティ、企業の社会貢献活動等、自発的連携活動の担い手、資金面等の全体像と将来像を提示している。

2.湯元健治他著『スウェーデン・パラドックス』日本経済新聞出版社(286頁,B6判)

 高福祉・高負担にもかかわらず、高い国際競争力を享受するスウェーデン・パラドックスはいかにして生み出されたのか。著者たちは、戦略的研究開発や協調的労使関係等に着目。女性の高い労働参加率、就労を促進する社会保障制度等のスウェーデン・モデルも分析。国際競争力の低下に悩む日本への提言も行っている。

3.岡本英嗣著『組織的管理から自律的管理へ』白桃書房(ⅷ+234頁,A5判)

 グローバル化等がもたらす厳しい競争社会の出現は、企業の人的資源開発のあり方にも変更を迫っている。2部構成の本書は、1部で伝統的なアメリカ経営学の系譜を振り返りつつ、2部で個人の自発的な意思決定による自律的管理の可能性を模索している。組織的管理の傾向が強い日本でも、自律的管理は可能なのであろうか。

4.高崎経済大学附属地域政策研究センター編『社会的排除と格差問題』勁草書房(ⅲ+206頁,A5判)

 自助や自己責任を強調する新自由主義的改革により、政府からも市場からも見放された社会的排除が生み出されている。本書は、社会的排除と格差の問題構造を分野別に明らかにするとともに、各地における問題解決のための実践例を紹介、社会への再統合に向け、市民セクター等の地域社会の活動に望みが託されている。

5.太田聰一著『若年者就業の経済学』日本経済新聞出版社(ⅹⅶ+300頁,B6判)

 本書執筆の目的は、若年雇用問題に関して、経済学者である著者の見解を概説的・一般的に提示することであるという。若年雇用の「問題性」の解説から、若年失業の時系列分析、世代効果、需要分析、地域労働市場、関連政策等の広範囲の内容を含んでいる。労働経済学の第一線で活躍する研究者による書き下ろし作品。

6.坂本光司他著『"弱者"にやさしい会社の話』近代セールス(287頁,B6判)

 坂本教授による弱者の就労実態等についての解説に続き、社会人大学院生等が、障害者・高齢者の雇用に尽力する会社、彼らの生活を支援する商品やサービスを提供する会社を紹介している。一生懸命生きたいと助けを求めている誠実な人が弱者との定義に著者たちの倫理観が感じられるが、実務上納得できるものである。

7.樋口恵子著『女、一生の働き方』海竜社(238頁,B6判)

 働く高齢女性の代表である著者は、現在の高齢女性が相対的に貧乏であることに危機感をもち、生きることが楽しくなる社会を目指して本書を出版。若年者に比して豊かであるのは高齢男性であろうが、女性も生涯を通して働ける「老働力」であることを力説、元気に志をもって働く社会の実現を著者は望んでいるのである。

8.青木秀男編著『ホームレス・スタディーズ』ミネルヴァ書房(ⅹⅳ+294+22頁,B6判)

 関西の若手研究者と編者で構成されるホームレス研究会のフィールドワークと議論の成果。ホームレス問題の諸相を排除と包摂をキーワードに分析。歴史的・地域的状況、飯場労働・日雇労働市場の実態、家族関係やジェンダー分析、支援者・被支援者関係等、多様な内容で構成。ホームレス研究も発展・多様化している。

9.本田良一著『ルポ 生活保護』中央公論新社(ⅷ+244頁,新書判)

 生活保護受給者は増加の一途をたどり、全国平均では80人に1人の割合に達したという。ジャーナリストである著者は、生活保護は社会の負担ではなく投資である、と主張。自立プログラムの先進地釧路の事例をルポ、生活保護を貧困から抜け出すステップとする動きを紹介、根本的な自立、貧困撲滅の方法を探っている。

10.北村小夜述『「共に学ぶ」教育のいくさ場』現代書館(178頁,A5判)

 日本教職員組合の教育研究全国集会で、長く障害児教育に携わってきた北村小夜氏へのインタビューの記録。障害があってもなくても「共に学ぶ」ことを目指した半世紀に及ぶ活動を追跡している。資料として、初期の教研集会の記念講演の錚々たる講師リストが掲載されているが、当時の日教組の運動に開放性が感じられる。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年11月-2010年12月に労働図書館受け入れ

  1. 神野直彦他編著『脱成長の地域再生』NTT出版(ⅳ+262頁,B6判)
  2. 内閣府大臣官房政府広報室編『外交に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(216頁,A4判)
  3. 宮城まり子他著『職場のメンタルヘルス』駿河台出版社(215頁,A5判)
  4. 全国労働基準関係団体連合会編『よみがえる福利厚生』全国労働基準関係団体連合会(147頁,A5判)
  5. 和田一夫著『ものづくりの寓話』名古屋大学出版会(ⅶ+610+7頁,A5判)
  6. 全国社会保険労務士会連合会著『社会保険労務ハンドブック 平成23年版』中央経済社(776頁,新書判)
  7. 加藤寛監修『表とグラフでみる日本人の生活と意識の変化』ぎょうせい(183頁,A5判)
  8. 家計経済研究所編『家族と家計』家計経済研究所(187頁,A4判)
  9. 伊藤朋子他編著『しごとの仕方の新時代』北樹出版(156頁,B6判)
  10. 大内伸哉著『雇用社会の25の疑問 第2版』弘文堂(ⅹⅴ+334頁,A5判)
  11. 渡邉幸義著『社員みんながやさしくなった』かんき出版(255頁,B6判)
  12. 高嶋健夫著『障害者が輝く組織』日本経済新聞出版社(302頁,B6判)
  13. 日本生産性本部就職力センター編『採活・就活最前線 2012年』労働調査会(204頁,A5判)
  14. 砂山拡三郎著『仕事のできるあなたが、なぜリストラされるのか』ダイヤモンド・ビジネス企画(261頁,B6判)
  15. 丸尾拓養他著『労働契約の視点から考える労働法と企業実務』日本法令(199頁,A5判)
  16. 北島滋他編著『中小企業研究入門』文化書房博文社(269頁,B6判)
  17. 東京大学高齢社会総合研究機構編『2030年超高齢未来』東洋経済新報社(213頁,B6判)
  18. 内閣府大臣官房政府広報室編『介護保険制度に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(246頁,A4判)
  19. 内閣府大臣官房政府広報室編『高齢者医療制度に関する世論調査』内閣府大臣官房政府広報室(174頁,A4判)
  20. ジョン・スウェイン他編著『イギリス障害学の理論と経験』明石書店(523頁,A5判)
  21. 水月昭道著『ホームレス博士』光文社(214頁,新書判)
  22. 日本看護協会編『看護白書』日本看護協会出版会(ⅶ+222頁,A4判)
  23. 日通総合研究所編『経済と貨物輸送の見通し』(29頁,A4判)
  24. 一橋いしぶみの会編『一橋人と昭和の戦争』一橋いしぶみの会(ⅱ+188頁,B5判)