2011年1月の図書紹介(2010年12月受け入れ図書)

1.小峰隆夫著『人口負荷社会』日本経済新聞出版社(206頁,新書判)

 少子高齢化の進展は人口構造の変化をもたらし、「人口オーナス(人口負荷)」を増大させるが、1990年代以降日本も人口オーナスが増大、社会保障制度の持続可能性等が問題となっている。著者は、人間尊重、市場重視、世代の自立の観点からこの問題の処方箋を提示。中国も10年後は同じ問題に悩むことになるのであろう。

2.溝端佐登史他編著『市場経済の多様化と経営学』ミネルヴァ書房(ⅹⅰ+256頁,A5判)

 「現代社会を読む経営学」全15巻の一巻。本書では企業を、社会・市場との関わりを通して多様な利害関係者が交錯する場ととらえ、市場経済の多様性を分析するとともに、日・米・EU・北欧・中国等の企業システムを紹介。基本用語解説、推薦図書、章毎の設問も掲載、企業社会の動向を解説した学部生向けの教科書である。

3.ピーター・キャペリ著『ジャスト・イン・タイムの人材戦略』日本経済新聞出版社(389頁,B6判)

 『Talent on Demand』と題した2008年刊行の本書は、企業の将来に対する不確実性が増大する中で、ポスト終身雇用時代の人材マネジメントの方向性を追究。需要に供給をマッチさせるという原則に基づき、組織的人材育成にも市場からの調達のみにも偏らない方法を模索、「オンデマンド型人材マネジメント」を提唱している。

4.辻隆久著『雇用調整のマネジメント』創成社(ⅹ+292頁,A5判)

 雇用調整を企業の存続と成長を図るための人材の再配置・活用であると積極的にとらえ、各ステークホルダーの納得の重要性を主張している著者は、大手合繊メーカーに30年余勤務し、そのほとんどの期間を労務に従事したのち、研究者に転出。著者自身が携わった事業撤収事例をもとに、納得性の重要性を見出している。

5.須田敏子著『戦略人事論』日本経済新聞出版社(ⅹⅶ+326頁,B6判)

 本書は、「人材マネジメントに影響を与える同質性・異質性圧力からみた包括的戦略人事フレームワーク」の提案、だという。制度論や組織行動論等も援用し、日本型人材マネジメントともアメリカ流とも異なった競争優位のための他社との差別化・同質化戦略間のバランスを理論的に追求。戦略人事論の効果検証が待たれる。

6.佐藤博樹他著『職場のワーク・ライフ・バランス』日本経済新聞出版社(203頁,新書判)

 家族の育児・介護のみでなく自分の治療や地域活動等、仕事時間に制約のある「時間制約」社員が増加している。仕事以外の生活の充実は、仕事自体にも好影響を与えるため、部下のWLB支援が管理職の人材マネジメントの基本的取組みとなってきた。本書は、職場風土の改善や時間管理等WLB実現の具体策を解説している。

7.堀勝洋著『年金保険法』法律文化社(ⅹⅹ+540頁,A5判)

 年金保険法の基本理念を論ずるとともに、国民年金法及び厚生年金法を解説。二部構成で、第Ⅰ部では公的年金の意義、財政方法、形成過程を解説、第Ⅱ部では個々の制度の趣旨・目的を踏まえ、判例を多用して法を解釈。判例をして語らせ、最新の年金保険法に関する研究書であることを著者は自負。本文540頁の大著。

8.大澤史伸著『農業分野における知的障害者の雇用促進システムの構築と実践』みらい(142頁,A5判)

 知的障害者にとって有効な就労の場となりうる農業分野における就労状況、必要な支援内容を明らかにするとともに、知的障害者の雇用の促進のための課題を提示。農業事業体及び障害者と農家との橋渡し事業への参与観察、聞き取り調査、文献研究等の方法を用いてこの問題を追究。博士学位論文に加筆・修正した著書。

9.G.ステッドマン・ジョーンズ著『階級という言語』刀水書房(ⅹⅶ+307頁,A5判)

 原著は1983年の刊行だが、本書出版は2010年7月、訳者によれば、ポスト・サッチャリズムの歴史学を論じるには不可欠な著作であり、古典の域のニューレフト史学の記念碑的作品とのこと。刊行後30年を経て再び格差と貧困が拡大、階級という言葉が意味をもつ時代になった、というのはまさしく歴史の皮肉であろうか。

10.塚田典子著『介護現場の外国人労働者』明石書店(239頁,A5判)

 EPAに基づきインドネシア・フィリピンから来日した介護福祉士候補者等の日本での資格取得の行方が注目を集めている。本書は、全国の高齢者福祉施設へのアンケート調査、すでに外国人労働者と共に働いている現場からの報告、介護労働力等導入先進国の経験、等で構成。介護労働力の確保は、焦眉の課題なのである。

(日本十進分類[NDC]順に掲載)

主な受け入れ図書

2010年10月-2010年11月に労働図書館受け入れ

  1. 調査及び立法考査局アジア研究会編『諸外国と中国』国立国会図書館調査及び立法考査局(49頁,A4判)
  2. 政策時報社編『政官要覧』政策時報社(1191頁,17㎝)
  3. 飯塚尚己他述『パネルディスカッション回復は続くのか』統計研究会(51頁,A4判)
  4. ジェトロ編『中国データ・ファイル』日本貿易振興機構(ⅶ+346頁,A4判)
  5. 金津健治著『七つの能力』日本経団連出版(180頁,A5判)
  6. 本キャリア・カウンセリング研究会編『時代を拓くキャリア開発とキャリア・カウンセリング』日本キャリア・カウンセリング研究会(178頁,A5判)
  7. 野本茂他編著『人間キャリア創造論』サンライズ出版(221頁,A5判)
  8. 電機連合編『「電機産業の製造現場におけるアウトソーシングの実態調査」報告』電機連合(266頁,A4判)
  9. 渡辺葉子著『すぐわかる年末調整実務ガイド』労働開発研究会(67+24頁,B5判)
  10. 日本家族社会学会編『第3回家族についての全国調査』日本家族社会学会(232+74頁,A4判)
  11. 中原さとみ他編著『働くこととリカバリー』クリエイツかもがわ(177頁,B5判)
  12. 法政大学大原社研編『個人加盟組合の活動に関するアンケート調査結果報告』法政大学大原社研(39頁,A4判)
  13. 熊本学園大学水俣病研究センター編『新日本窒素労働組合旧蔵資料目録』熊本学園大学(403頁,B5判)
  14. 全労済協会編『デンマークの社会的連帯とワークライフバランス』全労済協会(97頁,B5判)
  15. 全労済協会編『日系人労働者は非正規就労からいかにして脱出できるか』全労済協会(109頁,B5判)
  16. 中央労働災害防止協会編『心の健康』中央労働災害防止協会(313頁,B5判)
  17. 介護労働安定センター編『介護事業所における労働の現状』介護労働安定センター(6+176+63+16頁,A4判)
  18. 介護労働安定センター編『介護労働者の働く意識と実態』介護労働安定センター(5+157+48+15頁,A4判)
  19. 法政大学大原社研編『我が国の盲導犬制度と視覚障害者就労の促進に関するプロジェクト』法政大学大原社研(53頁,A4判)
  20. 全国学童保育連絡協議会編『学童保育情報』全国学童保育連絡協議会(241頁,B5判)
  21. 釼地邦秀著『大学1・2年から始めるキャリアデザイン』日本経済新聞出版社(202頁,A5判)
  22. 連合総研編『医療人材の確保・育成の課題』連合総研(55頁,A4判)
  23. 見ル野栄司著『シブすぎ技術に男泣き!』中経出版(159頁,A5判)
  24. 日通総合研究所編『企業物流短期動向調査(日通総研短観)調査結果』日通総合研究所(30頁,A4判)